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第1部   我が国科学技術の国際化に向けて
第2章  世界の科学技術を巡る新しい潮流
2.  国際社会の中で重要性を高めつつある科学技術
(3)  競争と協調を基調とした世界の科学技術の展開


これまでみてきたように,世界の科学技術は米国の圧倒的優位の時代から,欧州における産業技術力向上への努力,日本の産業技術の急速な進展等を背景に,依然として米国の巨大な科学技術力を中心としながら,多極化の傾向を示しつつある。このような状況の変化に伴い,日米欧が同じ問題に対し共同で取り組もうという動きが出てきている半面,利害関係の衝突によるあつれきが出てきている。

このような日・米・欧を中心とした多極化構造の下で,各国及び企業は個々の利益の追及を背景としてハイテク分野の研究開発を中心に熾烈な競争を繰り広げており,一方では,研究開発の効率化やリスク分散の観点から,さらには一国では成し得ない巨大プロジェクトに対する共通の問題意識から共同研究を行う等の協調的な取り組みの姿がうかがわれる。また,国の壁を越え,地球全体としての問題意識で取り組むべき世界的な疾病対策や地球環境問題に対しては,協調的取組みの中で相互依存という側面もみられる。

このように最近の科学技術は,米国一国に依存していた時代から多極化の傾向を示しつつある中で,競争と協調との2つの側面が複雑に交りあった様相を呈しつつ相互依存性を高めてきており,このような背景の中で,各々の独自性を主張した政策や企業戦略が展開されている。

ここでは,最近の代表的な科学技術分野を取りあげ,その特徴を分析する。


〈超電導〉

最近の科学技術の中で際立って大きな動きを見せているのが超電導である。

超電導については,20世紀最後のイノベーションとか第3の産業革命と称される中,センセーショナルな話題を日々提供しており,エネルギー,輸送,医療,エレクトロニクス等幅広い分野に非常に大きな波及効果を及ぼすものと期待されている。

特に新超電導体に関する研究開発は,大学,国立試験研究機関等を中心とした基礎的・先導的研究としての取り組みに加え,実用化をにらんで民間企業の参入が活発になっており,これらを背景として,現在,各国で臨界温度の向上,臨界電流の増大等を目指して活発な研究活動が繰りひろげられている ( 第1-2-6図 )。

各国の対応を見ると,米国においては「1987年超電導競争法案」等の議会への提出や「超電導開発構想」の発表が行われ,産・学・官の協力体制のもとに強力な研究開発の推進が指向されている。これらの法案において超電導技術は21世紀の戦略技術と位置付けられ,科学的成果の民間企業への移転促進,知的所有権保護の強化,超電導研究センターの設置,戦略作りのための賢人会議の設置,国防総省の研究開発投資の拡大,国際協力等,種々の方策が盛り込まれている。また,イギリスでは, SERC(科学工学研究会議)等で超電導の研究センターを既存大学内に設置する計画を検討している。

これに対して我が国においても,各国と協力しつつ研究開発を強力に推進していくための各種計画が検討されているとともに,科学技術会議においても基本的推進方策の検討が行われている。

これら最近の超電導研究開発の急展開の背景としては,超電導が実用化した場合に社会・経済に及ぼすインパクトの大きさが挙げられよう。超電導現象自体は,1911年のオランダの物理学者による絶対温度4Kでの発見にまでさかのぼる。その後,1986年までの75年間に発見された物質のうち最も高い臨界温度は1973年に発見された化合物の23Kであり,それ以後臨界温度の上昇はみられなかったが,この状況にブレークスルーをもたらしたのが今回の30K台の臨界温度を有する酸化物系の新超電導物質の発見であり,その後,急速な研究開発の進展をみている。この超電導研究開発の新展開を生み出すきっかけとなった新物質を発見した欧州の2人の物理学者に,昭和62年度のノーベル物理学賞が授与されたが,成果発表後2年足らずでの受賞はめずらしく,超電導技術に対する極めて高い評価の一端をうかがうことができる。

第1-2-6図 超電導臨界温度の歴史的変遷 Progress in the history of critical temperatures for superconductivity


〈宇宙開発〉

宇宙は人類に新しい知識と活動の空間をもたらすものであり,欧米の科学技術先進国は人類共通のフロンティアの開拓とそこでの産業分野の創出を目指して,宇宙での有人活動計画を重要な国家プロジェクトとして位置付け意欲的に推進している。

宇宙開発は,人類の活動領域を拡げ新たなフロンティアを切り開いていくための巨大プロジェクトであり,一国のみで開発を進めるのは負担が大きすぎるため,国際協力による推進が積極的に図られている。

国際協力の代表的なものは,日米欧加の国際協力により進められている宇宙ステーション計画であり,1984年1月のレーガン米国大統領による一般教書演説に端を発し,同年のロンドン・サミットでの各国への参加要請等国際政治の舞台で着々と国際協力の枠組みが形成されてきている。

我が国は,材料実験やライフサイエンス実験等を行う独自の実験モジュール(JEM)をもって参加しているが,欧州ではESAが実験モジュール,極軌道プラットフォーム及び有人支援型フリーフライヤによって,また,カナダは宇宙ステーション本体の移動型サービス施設によって協力活動を続けている。また,地球観測の分野においては,1987年2月に打ち上げられた海洋観測衛星「もも1号」のデータ直接受信及びデータ利用研究に関するアセアン諸国との協力が行われている。さらに,宇宙科学の分野においても,日本,欧州,ソ連,米国の国際協力事業として実施されたハレー彗星探査(昭和61年3月)や,イギリス及び米国からの協力要請を受け入れ,我が国の観測装置に加えそれぞれの観測装置を搭載して昭和62年2月に打ち上げられた科学衛星「ぎんが」によるX線天文観測事業が行われるなど,様々な分野において活発な国際協力が行われている。

一方,宇宙産業の分野では,通信衛星などの実利用衛星の開発について,米欧の衛星メーカーがしのぎをけずっており,また,デルタ,アトラス,タイタン(米国),アリアン(ESA),長征(中国),プロトン(ソ連)等のロケットによる人工衛星打上げ受託についても,今後とも国際競争が活発に行われるものと思われる。また,宇宙ステーション時代の到来に備えての宇宙との往復手段の開発については,より安全で容易な宇宙との輸送手段の開発を目指して,米欧においてはニューオリエントエクスプレス(米国),HER MES (ESA)などの具体的な検討が進められており,我が国でもスペースプレーンに関する基礎的な研究に着手したところである。


〈核融合〉

核融合研究開発は巨額の研究開発資金と長期の研究期間を要する大型プロジェクトであり,国際協力にふさわしい。また,我が国としては,これまでの研究開発の結果,欧米と対等以上の立場で協力できる分野の1つであり,日本の独自性を発揮しつつ世界に寄与することができる。この観点から,核融合開発は,自主技術開発と国際協力とのバランスの上に,その推進を図っていくことが必要な領域としてとらえることができる。核融合の国際協力には,各国間協力として,サミットにおける「核融合技術作業部会」,OECD-IEAにおける「核融合調整委員会」,IAEAにおける「国際核融合研究協議会」がある。また,ソ連から米国への提案に基づく「国際熱核融合実験炉(ITER)」については,米,ソ,日,ECの参加による技術作業部会での専門家レベルの検討を経て,1987年10月には政策レベルの検討により,1988年4月からの概念設計協力の開飴が基本的に合意された。一方,2国間の協力としては「日米核融合調整委員会」があるほか,近く,日,EC核融合研究協力協定の締結を予定している。

世界の核融合研究における三大トカマク装置のうち,JT-60(日本)は,原子力委員会が1975年に策定した臨界プラズマ条件の目標領域に,1987年9月に到達した。一方,JET(EC)は,1986年11月までの実験結果として,JT-60のプラズマ性能を上回る値を発表した。また,TFTR(米国)もJT-60に近いプラズマ性能を得ており,それぞれ,さらに高いプラズマ性能の達成を目指して実験を進めている。また,ヘリオトロン,レーザー,ミラー,逆磁場ピンチ等,トカマク以外の諸方式についても,世界各国でプラズマ性能向上を目指し,実験が行われている。


〈海洋開発〉

海洋は宇宙と同様,人類の活動領域を拡大するために必要な人類共通のフロンティアであり,200海里水域の概念を含む新たな国際海洋秩序のもと,各国とも強い関心をもって取り組んでいる領域であり,国際協力による科学的調査等が積極的に展開されている。

我が国は2000m級潜水調査船を有し,さらに6000m級を建造中の段階であり,この領域で最も進んでいる米国,フランス等との共同研究を中心に,積極的な国際共同研究を展開している。

日米間では,天然資源の開発利用に関する日米会議(UJNR)の下で双方の研究者が互いに相手国の深海潜水調査船に乗船する協力等を行っている。フランスとの間では日仏科学技術協力協定の下で日仏海溝共同調査(K AIKO計画)により,フランスの6000m級潜水調査船「ノチール」を用いて日本海溝のプレート沈み込みの観測等を行い,また,南太平洋の海洋プレート形成域(リフト系)の総合調査を行うSTARMER計画を開始している。

海洋の領域では,地球の科学的解明に関し多国間協力で取り組む例も多く,世界各地の深海底を掘削する国際深海掘削計画(ODP)や,西太平洋海域の科学的共同調査を目的とした西太平洋海域共同調査(WESTPAC)が各国共同の下に行われている。

また,中国との間では,水産,気象等に大きな影響を与えている黒潮の特性等を把握し,その開発利用を図るための日中共同黒潮調査が行われている。


〈高エネルギー加速器〉

素粒子論の進歩に欠かせない加速器は大型化が進んでおり,国際競争下にある反面,国際協力も極めて盛んである。

現在,ICFA(将来の加速器のための国際委員会)で大型加速器の国際的共同利用のガイドライン制定等が行われており,そのガイドラインによれば,実験の採択に際して,グループの国籍,所属機関等に影響されるべきでないこととなっている。文部省高エネルギー物理学研究所,米国のフェルミ国立加速器研究所,欧州のCERN等の世界の大型加速器が国際的に開放されており,高エネルギー物理学研究所の世界最高の電子・陽電子衝突型加速器「トリスタン」においては,米国,中国,韓国,日本の研究者による国際共同研究が行われている。一方,我が国の大学の研究者も米国,CERN,西ドイツ等の大型加速器を用いる共同研究に参加している。


〈地球科学〉

地球科学は,その成果が防災・環境問題への対応等,人類共通の利益に通じるものであり,また,観測・研究の対象が広範囲にわたること,多くの分野にわたる学際的な対応が必要なこと等から,国際的取組みを必要とするものである。

研究のための国際的な枠組みについては,これまで多数の共同プロジェクトが行われ,また,現在進行中であるが,代表的な例を2〜3あげると「気候変動国際協同研究計画(WCRP)」,「国際リソスフェア探査開発計画(D ELP)」,「国際水文学計画(IHP)」等があり,いずれも多数の国や国際機関の協力の下に研究が進められている。我が国としては,太平洋の西縁に位置していることもあり,主として地理的に比較的近い西部太平洋域において,各種の二国間,多国間協力による調査研究を実施している。


〈ライフサイエンス〉

ライフサイエンスは医療,エネルギー等の分野で人類の直面する諸問題の解決に大きく寄与し,人類の福祉の向上に貢献するものと考えられており,各国で激しい研究競争が行われている一方,国際協力も幅広く行われている。

この分野における今後の国際協力の課題については,科学技術庁が行った技術予測調査の結果によると,「ヒトの全タンパク質データライブラリーの完成」,「がん化機構の解明」等を国際共同開発することが望ましいとする回答が多数を占めた。

ライフサイエンス分野で,最近特に注目を集めているものにエイズがある。

WHOの報告によると,1987年6月時点で患者は119ケ国53,121人,1年半前の約2.6倍という激増ぶりであり,今後さらに全地球的にひろがっていく可能性がある。

このような状況において,各国は,自国のエイズ対策を推進する一方,WHOを中心に,共同してエイズ問題に対処しようとしている。なお,ベネチア・サミットにおいては,エイズ問題の重要性に鑑み,エイズに関する議長声明が出されており,この中で,WHOを中心とした国際的努力の結集,予防・治療及び情報交換に関する基礎的及び臨床的研究のための協力が一層促進されるべきこと等が表明されている。


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