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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第3章  今後の方向と課題
2  人間的な豊かさに向けた科学技術を推進するに当たっての諸課題
(3)  安全性,安定性の確保


近時の技術の進歩に伴って,ここしばらくの間,大量の死傷者が出るような自然災害や事故があまりみられなくなり,人々はこの面ではある程度安心感を持つようになってきた。しかし,ここ1〜2年の間に,社会の注目をあびるような事件が連続し,人々に改めて安全性の問題を提起している。

ここで,近時,社会的に問題になったいくつかの事例をみてみよう。

まず,昭和57年に羽田沖で,昭和60年8月に御巣鷹山で日航機事故が発生した。航空機については,まだヘリコプター事故等が後を絶たないこと等もあって事故件数総数そのものにはこの20年間ほぼ横ばいであるが,その間の運航キロ数の伸びは大きく,運航回数当たりの事故率は減少し,また,死者数も大きな流れとしては減少してきている( 第1-3-8図 )。しかし,一度事故が発生すると,特に旅客機の場合には一度に200人以上の死傷者を出し,しかも今では職場活動の中で通常の移動手段として定着化していることもあって社会の中堅として働いている多くの人命を奪い,その与えるインパクトはより大きなものとなってきている。

最近の航空機事故は,国際線におけるテロ活動や日航機羽田沖事件等の操縦ミスのような運航時における人為的な原因によるものの比重が高くなってきていたが,昨年の日航機事故は事故原因がまだ特定されていないものの操縦者の能力を超えた地上における整備と構造上の問題が絡んでいる可能性も強く,設備面でも大きな衝撃を与えた。

第1-3-8図航空事故の推移

また,本年1月にはスペースシャトルが初飛行以来25回目で,打上げ中に爆発し,搭乗者7人が全員死亡した。昭和55年までのシャトルの前の有人飛行80回中人の死傷事故が3回あったのに対して,初飛行以来こうした大きな事故もなくようやく人々の信頼を得はじめていたスペースシャトルであっただけに,人々に大きな衝撃を与えるものとなった。

ここでも,機体構造,整備両面にわたって安全管理体制の重要性が改めて見直されることとなった。

さらに,本年4月にはソ連のチェルノブイル原子力発電所において事故が発生し,大量の放射性物質が周辺環境に放出される事態を生じた。

我が国においても原子力安全委員会で調査検討が行われ,その第1次報告書では,この事故は,安全設計上の問題を背景として,安全性を無視した実験計画と常識を超えた規則違反が引き金となって引き起こされたものであり,すくなくとも我が国では考え難い事故であるとされている。

また,国際的にも,国際原子力機関(IAEA)等において,ソ連からの報告書を基にした各国専門家による分析評価が行われ,今回の事故の経緯に鑑み,安全確保のための国際協力の必要性が強く認識され,事故後5か月という国際機関の活動としては異例ともいえる早さで原子力事故の早期通報に関する条約及び援助に関する条約の二条約の採択が行われた。

こうした事件やこれまでにみた科学技術の進展の中で,これを受益する立場の人間からみれば,まず,電力,ガス,上下水道,輸送,通信等の様々な社会技術や自動車等の生活技術が生活の中に大きく取り込まれ,今では,これらの技術システムが安定的に作動している場合にのみ,その生活も安定的に遂行できるものとなっており,国民が精神的にもゆとりをもって安心で安全な生活をしていくためにはその前提条件としてこうした技術システムの安全性,安定性の確保を不可欠のものにしてきている。

また,こうした技術は,近時,通信システム,輸送システムをはじめ,システムとしての規模も大きなものが増え,昭和59年の電々ケープル火災,昭和60年の国鉄ケーブル切断事件等これが破断した場合の影響は一層大きなものになってきている。

さらに,自動車等の技術の普及が進み,それを利用する場面の量的な拡大にともなって事故が発生する機会も増大してきている。

他方,技術の進歩に対応して,例えぱ,医療技術でいえば,初めはともかく病気を治せば傷跡が残ってもよかったものから,傷跡の残らない手術へ,さらには人間らしく扱う医療へというように,人々の要求水準は順次高度化してきている。

こうした,技術の普及,影響範囲の拡大,受益者の要求水準の高度化等の動きは,様々な技術に対してより高水準の安全性と安定性を要求するものとなり,技術を供給する側が常により高い水準を目指して努力することが必要不可欠となってきている。

これまでにも,特に航空宇宙等の大型技術,食品,薬品等の生活関連技術を代表に,安全性,信頼性の向上に向けて研究開発や対策措置を積み重ねてきており,様々の分野で安全性等の確保等は順次高度化してきている,その結果,「第14回国民生活動向調査結果報告書(昭和59年3月国民生活センター)」でみても,自動車,医薬品等多くの分野でクレームは少なくなってきているものの,例えば食料品についてはなお11%の人が不満を持っており,その不満の内容としては,70%(多枝選択可)が衛生面について苦情を述べている。今後とも食料品等。衛生問題について一層の配慮が必要であろう。

また,こうした安全面での努力もどちらかといえば装置,品質等のハードウェア的な安全性の向上の面ではかなり進み,逆に近時では,羽田沖日航機事故にみられるように,こうしあ技術を操作する人間の側の安全性確保が特に問題視されるようになり,ここでも科学技術と人間の関わり合い芳がひとつの大きな社会的課題となってきているといえよう。

このため,こうした技術を供給する側にあっても便利さ過剰が人間を怠惰にするとの批判もあるものの新しい技術の開発供給に当たっては,多少の操作ミスがあってもなお安全であるようにさらに工夫を重ねて,いくとともに,技術への過信を戒め,あるいは,航空宇宙等それぞれの専門の基幹技術だけでなく,広く生理,心理学等の周辺科学技術の成果を取り入れて,こうした面への配慮を強化していかなければならなくなっている。

また,こうした技術を使う側にあっても,それ自体としては技術の問題を離れるものの,自己の操作技術への過信を押さえ,あるいは操作者の健常性確保をしていけるよう教育訓練や管理システムの充実を図っていくことが重要になってきているといえよう。

また,安心で安全な生活の確保の面から問題となるのが,コンピュータソフトウェア等消費者が内容を理解出来ない技術が増え,あるいは消費者が知らないうちに知られたくない事項や誤った情報の流通が行われる等「分からないこと」への恐怖である。

こうした科学技術の適用面での不分明さが科学技術に対する不安感や不信感を持たせる場合も少なくないので,今後は,人々の科学技術に対する理解や知識を深め,あるいは人々が主体的選択をしていくために必要な各種情報システムの整備やその内容等のチェックシステムの確立を図って,人間が安心して生活できるようにしていくことも重要になってきている。


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