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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第3章  今後の方向と課題
2  人間的な豊かさに向けた科学技術を推進するに当たっての諸課題
(1)  人間の健常性を求める研究開発の深化


第1-1-6図でみたように,国民が,現在,科学技術のマイナス面を感じる局面として,生活の便利さと引換えに生ずる人間の運動能力や生活能力の低下をあげる者が最も多い。

例えば,自動車,地下鉄,エスカレータ等の輸送技術,電気洗濯機等の家電製品等をはじめとして,人々が歩き,行動する際の補助手段が大きく発達し,例えば,平日の歩く時間が平均15〜30分の者が最も多いというように人々の歩く時間はかなり減少してきている( 第1-3-5図 )。

こうした,便利さの向上が体を動かす機会を減らし,運動不足と思っている人が79.1%というように全般的に運動不足の状況が進行している。

この便利さの向上は,本来,日常的な体力の負担を減らし,他方ではスポーツ,レジャー等人々の主体的な活動を促進すべきものであったはずであるが,現実には「健康とは,自分で進んでつくっていくものである」という意識は82%とかなり高率であるものの普段,運動やスポーツをしている人はわずか26.8%にすぎないというように,技術の使用によってあけられた時間は体力の維持,増進には使われておらず,むしろ,逆に運動能力等の低下を嘆く方向に進んでいるとみられる。

第1-3-5図 健康づくりに関する意識

また,NHKの世論調査でみると,子供の生活時間のうち,家事手伝いが,昭和35年から昭和55年の20年間に半分以下に減少しているが,こうした家事手伝いの減少や外での遊びの減少は,全体的に筋力,持久力等の総合的体力の低下した子やりんごの皮がむけない等の生活の基本技能のできない子を増やしているといわれている。

さらには近年,子供のあごの発達が弱くなり,歯並びが悪くなる,物がかめない等が指摘され,軟かい食品の摂取の増大等食生活のあり方や,食習慣の変化による影響が少なからず考えられている等人間の生存のための機能が劣化すると指摘されるケースも増えている。

また,これまで総合的に調査研究されたものはないが,子供の知的体験についても肉体の場合と同様,種々の変化の影響があるものとみられる。

このような肉体的あるいは知的な原体験あるいは模擬体験の機会の減少は,運動能力等の人間の基本的機能や人間的,文化的な厚みの劣化につながるとみられ,これからの発展にとって,これらの補償が重要な国民的課題となってきている。この問題は,前述の運動不足と思うが特段スポーツもしない人が多いというように基本的には人々の日常生活のあり方に依存する問題であり,直接科学技術が寄与できる部分は少ない。しかしながら,科学技術は,人々の生活における心身の健全性に対する科学的知識を供給し,また,人々にとってより良い生活環境や手段を提供することによって,こうした課題の解決の端緒を開いたり,人々の活動環境の整備を図っていくことはできるといえよう。

こうした意味で,この問題は,あらためてこれからの科学技術のあり方に対してもこれを見直す機会を与え,特にこれを利用する人々のまわりで多くの新たな研究課題を提示するようになっている。

このような領域として,まず,低残留性農薬の開発,冷暖房が発達して増え,アレルギー性疾患等の拡大につながっているとみられる家ダニ,かび等の除去技術の高度化というように,生活の安全確保や円滑化を阻害する条件の排除の領域があげられる。

次に,近時の近代文明の発展に伴って精神的なストレスの問題も多くなっており,精神的な安定性,健常性に向けた研究やより適正な栄養,運動といった生理的な健常性を目指した研究も重要化してきている。

また,人口の高齢化の進展には著しいものがあり,生体の老化制御技術や高齢者用機器等の開発,痴呆性老人対策技術の確立を通じての高齢者が生き甲斐と活力をもちうる技術,心理製品,育毛剤等人間の生理,心理両面にわたる活力の増進につながる技術も重要な領域となっている。

さらには,情報の片寄りや欠陥があってもより的確な判断を可能にするような生活情報システム,より快適な地域生活を実現していくための都市計画や地域施設整備を考えていくコミュニティエンジニアリング,より健康的な家庭生活を築く一助となり,あるいはより快適な療養生活を実現する一助となる在宅診療システムの確立等社会生活環境の改善による人間生活の健常性を推進する技術領域も重要化してきている。

このように,これまでの近代技術の適用の中で,人々が享受してきた便益と引き換えに,新たな問題を発生させ,特に,個人の生活から地域生活,職場にわたる広汎な領域で人間生活の健常性の確保に向けた数々の技術課題を浮上させてきている。このため,これからの科学技術は,単に先端を追求するだけでなく,先端的技術を駆使してこうした身の回りの諸事象の解決にも力を注いでいくことが重要な政策課題となっているといえよう。


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