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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第3章  今後の方向と課題
1  科学技術の現状と方向
(1)  科学技術の全般的動向


第1章でみたように,科学技術が国民生活や経済活動に果たす役割は年々大きくなり,研究開発投資の国民所得に対する比率は,昭和30年度の0.84%から昭和59年度の2.99%に増え,また,製造業等における研究関係従事者の従業者総数に対する比率は,昭和35年の3.8%から昭和60年4月の6.4%に増えるというように研究開発活動が我が国の経済社会活動に占めるウエイトは着実に拡大を続けてきた。

こうした研究開発活動全体の充実の中で,研究人材は昭和20年代からの食料,資源部門の充実,昭和30年代中期からの理工系部門の充実,昭和40年代末からの医療保健系人材の充実等ほぼ全分野にわたって層の厚みをつけ,また,技術内容も導入技術や海外の知見を土台にして欧米へのキャッチアップを図ったものから,自らの手による改良技術の進展,さらには公害防止,省エネルギー等をはじめとする自主技術の拡大へと進み,広汎な分野で厚みをつけながら,応用技術の領域では欧米との競争力を持つようになっている。

他方,この間,我が国の物的資源に対する海外依存度は拡大して,その経済社会の維持のためには人的資源の活用とりわけ科学技術による付加価値の向上の重要性が増大し,今では,科学技術の面でこれまで蓄積した知的ストックを用い,かつ,基礎的研究や研究基盤を強化して世界的にも最先端の途を開き,国際的社会への積極的かつ主体的な貢献を図っていくことが必要になってきている。

こうした状況の中で,次の時代においてもその発展を支えるべき科学技術は,科学技術会議の第11号答申でも述べられているように,特に,「緻密化,高機能化の進展」,「ハード中心の科学技術から知能化,総合化等ソフトの比重の増大」,「人間との関わりあいの増大」という3つの傾向を深めながら大きく動き始めている。

まず,第1の傾向である「緻密化,高機能化の進展」については,例えば物質の取扱い方をみれば,19世紀までの新物質発見,20世紀前半の日常的物理環境下での,物性を利用した技術に対し,戦後は高温高圧,低温低圧等の非日常的物理環境下での物性利用技術が進み,さらに今では極低温,超高真空等の極限環境下での現象解明とその発生・利用技術が追求されるようになっている。また,計測制御技術の発展等によって物質の処理加工のあり方も混合物・集合体としての制御から,完全結晶やアモルファスにみられるような分子レベルでの制御へと進み,これに続いて原子単位での表面界面処理,格子欠陥制御のように原子レベルでの制御や材料・蛋白質設計のように有用物質そのものの人工的設計へと進みはじめている。現在ではさらに放射光利用のように素粒子レベルの計測が研究されるようになっている等現代技術の最先端部分は,ミクロ化,極限化方向に進み,いわば理論的壁や工学的壁に極限まで挑戦する活動が一層の進展をみせている。

また,第2の傾向である「知能化,総合化等の進展」については,例えば,昭和53年の宮城県沖地震によって縦横の二次元の実験データを基にした建築基準だけでは実際のねじれ運動には必ずしも十分ではないことが判明し,三次元,四次元の実際により近い実験データが求められるようになり,あるいは,繊維やガス機器等についても単に実験室だけでなく実際の使用フィールドを再現,変化させながら,よりよい新しい技術への挑戦が試みられるようになっている。このように,システム全体あるいはシステムの置かれた環境との対応関係を実在レベルで把え発展させようとするというように実際に存在し,あるいは使われる状態を想定して総合的に処理する方向への発展が進みはじめている。同様に,医学もこれまでの専門ごとの深化に対して人間を総体として把え,また,生きているが故の現象をおさえていく総合医学へ,家政学も衣料素材,染色,縫製等のこれまでの専門深化の方向に対して総合的生活科学へというように科学技術そのものもより総合的なものとなり,また,異常な状態を修復する医学から健常性を追求する健康科学へというように科学技術はよりダイナミックなものになろうとしている。

さらに,第3の方向である「人間と科学技術との関係の深化」については,生命維持装置等にみられるような医療技術,ホームショッピング等にみられるような情報処理・通信技術等多くの分野で,科学技術は,人間の存在あるいは家庭生活への接点を拡大するとともにバイオエレクトロニクスのように人間や生物に直接学ぶ科学技術も大きく進展してきている。こうした中で,近時,特に注目される点としては,生化学,細胞工学,遺伝子工学等の進展,脳,免疫,行動科学等ヒトや生物に関する知識が大きく増大し,これらの知識を物質材料技術,電子技術,生産技術等広汎な領域に応用できる可能性が開けつつあり,いわば「生物や人間に学ぶ新たな技術」への展望が次々と開けつつあることがあげられる。

例えば光合成等生物体内で行われるプロセスを人工的に実現した炭水化物や蛋白質の製造の途が追求され,あるいは歯の成長や生体内反応等の仕組みを模擬して省資源省エネルギーで,しかも極めて微妙な制御が可能な新素材製造法技術が期待される等資源,生産両面にわたって世界の人々の将来に大きなインパクトを与える技術の登場も決して単なる夢ではなくなっていくとみられる。

このように,研究開発の最先端部分では,より極限的なものに,より総合的でダイナミックなものに,生物的なものにという傾向を強めながら,研究者,技術者が次々とそれまでの科学技術の限界に挑戦し,新たな科学技術の発展の基礎を築いている。昭和50年代にエレクトロニクスが広汎な分野の科学技術をより人間に近づけたように,こうした科学技術の進展は,今後の科学技術に対しても,人々のより高度で繊細な要求にも応え,また,社会の抱える様々な課題を解決して,我々にとってより人間らしい生活と行動の可能性を大きく拡大していくものとみられる。


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