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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第2章  社会・生活と科学技術
2  生活の場における変化
(5)  交通輸送の領域


戦後からの技術の流れからみれば,交通輸送技術の進展も大きい。しかし,この領域では,経済の高度成長の下で速度の向上と輸送力の拡大に向けて技術が進んできたが,その後の経済の安定成長への移行に伴って,この面での技術の進展は停滞傾向にあり,変わって安全性,安定性の一層の向上,居住性の向上等に重点が移ってきている。もちろん,人々の交通輸送への要求内容の高度化には根強いものがあり,そのための研究が進んでいるところから,全体としては次の飛躍に向けての雌伏期にあるといえよう。

第1-2-24図 タンカー大型化の推移

まず最も古い歴史を持つ海上輸送については,国民との接点である旅客船よりも貨物輸送を軸とした技術の進歩が大きく,戦後の経済発展,とりわけ石油消費の拡大に伴って,タンカーを代表に造船コストや搬送コストの単価引き下げを目指した大型化,経済性向上が進められた。その結果,タンカーの大型化の推移をみても1955年に造られたシンクレアペトロロア5.5万tから25年後のシーワイズジャイアント56.5万tとほぼ10倍強の大型船技術に発展し( 第1-2-24図 ),また,運航要員も50人乗りから16人乗りになる等操船システムの効率化も大きく進んだ。

しかし,石油利用もほぼ一巡し,需要も量的拡大が鈍化してきたことによってこの大型化も止まり,シーワイズジャイアントが発注された1972年以降大型化計画はみられず,タンカー技術のこの面での大きな進展はなくなり,現在では,運航の安定性の向上,さらに一層の省エネルギー化等に研究の重点が移っている。これに対して,旅客部門では,ホバークラフト,ジェットホイル技術の導入により,近距離輸送の高速化(例えば新潟-佐渡間では4時間を1時間に短縮化)が進んだが,現在では,カーフェリー等の運航の安全性や居住性能の充実に向けて努力が行われるようになっている。

次に,陸上では,戦後自動車製造の進展に目覚ましいものがあるが,この分野では,昭和10年代のフォードT型製造でほぼ現在の大衆車製造技術の基本型ができ上がり,その後一貫して,改良を中心として展開を続けてきた。

ここ20年間における主な動きをみても,昭和40年代からの排出ガス規制の動きに対して,昭和45年の48億円から昭和50年の700億円というように排出ガス研究が大きく強化され,CO,HC,NOx等の排出量の大幅な低減が図られる等まず,環境公害対策が大きく進歩した。

次に,重量部品の軽量化のための設計,プラスチック等軽量化素材の導入,エンジンの改良等による燃費の向上をはじめ,省資源省エネルギー技術が進み,昭和50年代には,メカトロニクスの導入等によって生産システムの革新が進むとともに,オートクラッチ,燃料噴射点火制御等種々の領域にIC等の電子素子の導入が進んだ。

これに伴って,運転者の負担が軽減され,あるいは,車内騒音の低下,ステレオ,エアコン等車内環境の向上が図られ,人々は快適なドライプを楽しむようになり,自動車の一層の普及が進んだ。また,スタイリングや内装材の向上等人々の感性への対応の面でも向上が図られつつある。

また,鉄道についても北海道から南九州まで幹線陸上輸送力としてほぼ全国を網羅している。

こうした鉄道網の整備と並行して進められてきた速度向上への努力も,昭和39年に新幹線が完成され,昭和33年に実現した特急電車「こだま」の東京-大阪間6時間50分を4時間に短縮し,翌年に3時間10分に,更に60年3月に3時間8分にした。この間スピードアップに対する技術開発を進めてきた結果,60年3月上野開業から東北新幹線が最高速度240キロメートル毎時の営業運転となり,これを更に向上させるべく技術開発が進められている。在来線についても,走行性能,集電性能,ブレーキ性能等の向上を図り,急曲線等の軌道条件による制約等を克服して営業列車の最高速度を向上するための技術開発が進められている。また,より一層の速度向上への要求に応えるため,全く新しい鉄道方式である磁気浮上方式鉄道の開発研究が進められている( 第1-2-25図 )。

第1-2-25図 鉄道速度の変遷

一方このような速度向上のための技術開発と並んで,近年は利便性や居住性の向上といった輸送の質の向上,楽しみながら旅行するといったサービス内容の充実等のための技術開発にも力を入れており,航空機,自動車,船舶を含めた多様な交通機関との競争力向上,共存性の確保のためにも,これらの技術開発が重要な位置付けをされるようになってきている。

また,旅客機についてみても,まず航続距離については,地球周囲約4万Kmに対して1万Km以上をノンストップで飛行することが可能となっており,速度についても昭和20年代にジェット機が登場して以来急速にスピードアップしてきたが,昭和33年のB 707で当時の技術を総合して最も経済的かつ安定的とみられるマッハ0.85を確保した後,昭和50年にコンコルドの出現によりマッハ2を達成して以来進展はみられない。

ここでも,高速化への要求には,まだ,根強いものがあり,米国では高々度の大気圏内を飛行し,東京-ワシントン間を2時間で結ぶ新オリエント急行のようにさらに高速化を目指した研究を行おうとしているが,耐熱性の向上,人の乗り心地や安全性の確保,環境保全等のために解決すべき技術的課題も多く,また,新型旅客機の開発には兆円台の費用が必要となること等もあって,旅客機はおそらく今世紀中はほぼマッハ0.9前後のまま推移するとみられる。また,輸送コストの低減化を目指した旅客機の大型化は,距離や速度に関する技術に比べて比較的最近まで伸びてきたものの,昭和40年代にB747SR-100(550人乗)が開発されて以来,昭和61年のB747SR-100SUD(563人乗)の就航まで最大乗客数の伸びは緩やかになってきている( 第1-2-26図 )。こうした動きの中で,旅客機の開発は,今では,省エネルギー性,低公害性,飛行安全性の向上や客室改善等の居住性能の向上あるいは短距離離着陸のような機動性の向上等に向けて進んでいる。このように交通輸送技術の領域においては,人間的なゆとりの向上や心理的豊かさの向上等輸送サービスの質の向上に向けた努力が重要になってきている。

第1-2-26図 航空機のサイズと出現時期


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