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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第2章  社会・生活と科学技術
2  生活の場における変化
(3)  衣装生活


食品,家電製品と並んで繊維・ファッション等衣料,装飾の分野の技術の変化も大きい。

まず,衣用素材についてみれば,昭和20年代には,レーヨン(昭和2年開発),スフ(昭和13年開発),ナイロン(昭和16年開発)等,産業史上全体を通じても画期的な技術革新といわれる合繊技術を導入し,繊維産業の蘇生を果たした。昭和30年代に入ってからもポリエステル(昭和29年),アクリル(昭和32年),テトロン(昭和33年)等と次々と新繊維素材が開発,導入された。この時代には,またPNC法によるナイロン原料カプロラクタムの新製法,ソハイオ法によるアクリロニトリルの新製法,ポリエステル繊維原料生産法等汎用合繊の低価格化を目指した新原料プロセスが著しく進歩した。これらの技術の進歩によって,天然繊維の機能を物的に代替する安くて丈夫な合繊が大きく普及した。その後,昭和40年代に入り,難染性,帯電性等の克服が図られ,異形・中空等の特殊タイプファイバーをはじめ,より高機能化を目指した素材開発や繊維の多様化が進んだ。また,天然素材を単に物的に代替するだけでなく,ナチュラル感が追求されるようになり,コスト,強度等合繊のもつ有利性と天然素材のもつ触感,光沢感を併有する素材製造法(人工皮革,人工絹)等の開発が進められた。

昭和50年代には,スポーツ衣料,作業性衣料等複合機能材料が急進し,用途による細分化,先鋭化が進むとともに,スポーツウェア・作業衣そのものがファッション化し,感性にアピールできるような素材が重視されるようになってきた。

さらに,現在では衣料のもつ本来の性能の高度化とそのより良い使用法の実現に向けて,人間一衣服一使用条件を関係的,総合的に掌握し,人間の生理,心理との調和を目指した新素材の開発や繊維加工法の開発が進められるようになってきている。そのため,研究手法もこれまでの研究室モデルのものから現実の実在モデルでの研究へ,さらには,天然繊維の持っ感覚を超えた好感覚のものへと高度化し,繊維素材の開発も感性を重視した素材の開発と天然繊維を超えた高機能素材の開発への二極化が進み始めている。

他方,紡績・染織技術の面でも,まず,昭和20年代から30年代にかけて混打綿単一工程化,自動ラップ揚装置,梳綿メタリック化,高速化,自動ワインダー等各工程の改善や自動化,さらにはそれらの連続工程化が進められた。

その後,昭和40年代には,トップアーム精紡,電子ヤーン・クリーナ等による品質向上,コーマーラップ自動揚装置等による高速化,自動化の一層の進展が図られ,生産性の向上が進んだ。

昭和50年代には,エレク・トロニクス等の導入により,縫製工程のコンピュータ化,NCミシン等縫製工程や染織工程の自動化が進み,例えば,芸術家が描いた絵をコンピュータで読み取り,それをデザイナーがディスプレー上でデザイン化し,あるいは,コンピュータグラフィックスによって完成品の使用状況をシミュレートしながら歩き,あるいは座っている状態でもっとも美しい装いとなるように電子的に型紙化し,そのフロッピーをもとに織機が一着ごとに自動的に織り分けるという状態になってきている。

このように,アパレル部門では,芸術家の感覚を導入したり,着用者の感性を考慮したデザインを行う等,色柄,デザイン,素材の一層の差別化に向け,あるいは個人の価値感やファッションの短サイクル化等にあわせた同時多品種生産システムの一層の高度化に向けて技術が進みはじめており,さらには,使用者の要求や感覚がそのまま素材段階にまで直結して反映されるような素材―布帛―縫製―着用の一体化時代に向けた技術開発が進められている。

このように繊維,ファッションの分野でも戦後一貫して衣用品供給の技術は着々と進展し,人々の衣生活の豊かさを実現してきており,これからは素材面の豊かさを用意するだけでなく,これを使用する立場に立って,人々の選択や着こなしの面での高度化をも支えうるような形での発展が可能になりつつある。

第1-2-19図 戦後繊維技術の発展

また,近時,技術の変化の目覚ましい領域として化粧品も挙げられる。自己の外観の強調は,歴史,風土を問わず人間生来の願望の発露とみられ,化粧品は古くからメイキャップを中心に発展し,永らく仕上系統の化粧品の形で進展してきた。昭和40年代でも,化粧品は外観を美しく見せるメイキャップを主体に進み,研究開発の中心は化粧品の皮膚に対する化学的安全性であった。

しかし,生活水準の向上に伴い,国民がより品質の良い物を要求するようになってくるという一般的動向の中で,化粧品も徐々に皮膚の健康性維持をx重視してスキンケアー系統のものが拡がってきた( 第1-2-20図 )。特に昭和50年頃からは,皮膚に対する効果が研究開発の上でも重視されるようになり,昭和50年代後半には細胞培養技術を利用した色素製造等のバイオテクノロジーの利用,紫外線防止のための被覆力や感触性を出すための超微粒子化,化粧くずれ防止や,快適性保持のための皮脂,汗の吸収,発散機能の向上に向けた皮膚医学やファインケミカル技術の応用等,いわゆる高度技術を導入して,より稠密で心理や生理との調和の実現に向けた技術開発が行われるようになっている。

第1-2-20図 化粧品出荷額推移

また,香り,色をはじめとする化粧品の心理的効果等の研究も深められている。

その結果,この領域への微粒子工学,精神神経学,心理学等理工系文化系両面にわたる先端の科学技術知識の導入が進み,細胞老化制御等による若さの維持,メラニン色素を損耗させない色白の実現,脱毛症やシワの克服といったかっては究極的ないし永遠のテーマともいわれていた諸課題の実現も単なる夢ではなくなりつつある。


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