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第1部   人間性豊かな生活環境に向けて
第1章  科学技術の進展と研究開発機能の比重の拡大
1  総合的な科学技術政策の流れ


科学技術庁が創設されてから30年になるが,この間,我が国の科学技術をめぐる諸情勢は大きく変遷してきている。

これまでの科学技術白書を基に国全体の科学技術の流れをみると,我が国の研究開発は当初より一貫して自主技術力の強化に向けて進められてきた。しかし, 第1-1-1表 にみるようにその内容は時代とともに変化している。

まず,昭和30年代には,欧米との技術格差を解消し,外国からの借り物でない自前の技術を持つことが求められ,これに続く昭和40年代前半まででは国際経済的な競争に耐えうるだけの技術力の確保が求められた。この間,外国で先行した革新的技術の主なものはほぼ消化吸収し,それを基礎にした,改良発展能力さえ持つようになってきた。

その後,公害や安全の問題(昭和46年参照),食料やエネルギー問題(昭和48年参照),福祉等の社会開発の重視(昭和50年),社会的ニーズの多様化(昭和53年参照)というように,様々に変化する社会的諸条件や社会的要求に合わせて自主技術により問題を解決していく能力も培われ,応用面では国際的にも高水準の技術力を持つようになってきた。

これに対して,かつてはある程度基本的なモデルや知識が見え)成功見通しが高くなったところから取り組むことの多かった我が国の研究開発のあり方が問題視されるようになり,昭和50年代後半からはより基礎的なところからの取組みが求められるようになってきている。

このような科学技術全体の流れの中で,国全体の科学技術政策の方向を定める科学技術会議も, 第1-1-2表 にみるように,それぞれの時代状況に応じた政策展開に努め,関係する各省庁,各機関の施策を通じ,我が国の科学技術の進展に大きな成果をあげてきた。

これまでの科学技術行政の流れを,人間にとっての科学技術という面に重点を置いてみれば,昭和30年代から40年代前半にかけては,所得倍増計画を代表に経済を成長させ,国民の所得を拡大させていくことが,人々の幸せの途であり,科学技術も所得拡大の手段としての発展に力が入れられ(昭和35年第1号答申の欧米先進諸国との技術格差解消と国民所得倍増計画を支える科学技術水準の向上,昭和41年意見書の開放経済移行後での十分な技術力確保等),昭和40年代には物資を豊かにする面では一応国際的にも先端的水準のものを構築できるようになってきた。

しかし,馬車が鉄道にというように,技術はそれが社会に適用される時点では周辺の社会的状況に対して跛行的に変化をもたらすものであり,特に経済の高度成長期にあっては,生産力の拡大とその環境条件との間に大きなズレを生じ,公害等のマイナス面も発生させてきた。このため,昭和40年代には,ライフサイエンスをはじめ次代を切り拓いていくための新領域の研究の積極的推進を図る等経済社会発展の基礎を固める政策を進めると同時に,科学技術の社会への適用に当たっての事前評価の充実や,公害防止技術等のマイナス面の克服を図っていくことが人々の幸福にとって不可欠とされるようになり,この面での技術力の強化が進められた(昭和46年第5号答申等)。その後,石油危機により新エネルギー技術や省エネルギー技術の開発等豊かな生活そのものを脅かすような危機,変化への対処能力の強化が重視され,また,成長から福祉へ,量から質へ,多様化へと国民の関心が変化する中で,福祉関連技術,多様化対応技術等人々の身の回りの質をよくする方向で科学技術の発展が図られた(昭和52年第6号答申等)。

こうした過程を経て,我が国の技術は,製造技術の面では,自動車,エレクトロニクスの分野等で国際的水準での開発能力を持ちうるようになり,また,公害対策技術,省エネルギー技術等社会的問題解決能力の面でも世界の先端を拓いていくものが増え,経済の安定的な成長,国民所得の拡大といった方向での国民要求は一応満足させうる水準を実現させてきた。他方,経済力の進展に伴って我が国の国際的地位は大きく向上し,国際社会の中での我が国のあり方が問い直されるようになり,科学技術の面でも国際社会における役割を果たし,その発展に貢献していくことが重視されるようになってきた。

この,ため,技術的見通しがあり,研究開発の後段にあって成功確率の高いものだけでなく,基礎的研究を強化して基礎的知識や技術のシーズを産出し,研究開発の初期段階から人類社会の発展に貢献する形でこれを進めていくことが重要になってきた。また,国内的にも昭和58年8月の閣議決定「1980年代経済社会の展望と指針」に示されたように今後の創造的安定社会の構築に向けて,技術革新や産業構造変革等の面で自ら独自の途を切り拓いていくとともに,国民生活の面でも文化的価値等の重視,自主的,個性的,創造的な生き方をしていくことが求められるようになっており,科学技術もこうした側面を重視する必要が大きくなってきた。

こうして,昭和59年11月には科学技術会議第11号答申が出され,我が国の科学技術政策は,基礎の段階から自ら創造的な知識,技術を開拓し,発展させる等,科学技術発展の原点(「基礎的研究の強化」,「国際性の重視」)に立ち戻りながら,また,生産技術を中心とした20世紀から人間を中心とした21世紀に向けて科学技術を人間にとってより豊かなものにしていく方向(「人間性と調和ある科学技術の発展」)に大きく前進を図ろうとしはじめている。

こうしたここ30年ばかりの科学技術政策の展開を通じて,研究開発機能そのものの社会構造の中での比重が高,まり,また,人間や生活との接点も大きく拡大,して,今ではこれを使用する人々との関係のあり方が科学技術のあり方,進み方に大きな影響を与える時代になってきている。

このため,本年の白書では,特にこれらの諸点についてみてみることにする。

第1-1-1表 白書にみる科学技術全体の変遷

第1-1-2表 科学技術会議の基本政策の流れ


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