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第1部   研究開発の新展開と連携の時代
第2章  新しい技術を求めて動き出した研究開発活動
2.  科学技術における構造的変化
(1)  進む科学技術の緻密化,ソフト化,まだこれからの人間化


このような社会的なニーズを反映しながら,科学技術の面でも全体的には大きな変化が進みつつある。

科学技術会議第11号諮問「新たな情勢変化に対応し,長期的展望に立った科学技術振興の総合的基本方策について」に示されているように,近時の科学技術について特に特徴的な傾向として,「科学技術の緻密化の進展」,「ソフトの比重の高まり」,「人間との関わりの深化」の三つが挙げられ,これらが相互に影響を及ぼしながら科学技術の新たな局面が開かれつつある。

まず第一の緻密化の進展については,人工の絹・皮革製品の開発の例に見られるように高度に制御された材料開発や極微小等の超精密な計測や加工方法を実現して既存の科学技術を洗練化し,より繊細かつ稠密にした人々の望む品質態様のものの開発がほぼ全分野ともいえる程広汎な領域で進行している。

これらは代表的には,1) 先に挙げた人工の絹の例に見るように最先端ないし,他分野の技術を導入して既存技術の高度な練り上げの方向で,2) 超高圧,極低温その他の極限状態等技術の実現状況を変え,生物農薬等のように使用素材を置換し,あるいは電子ビーム,イオンビーム,レーザービームを利用した極精密な計測・加工方法を開発導入して,材料そのものを分子,原子レベルで設計,修飾する等要素技術の精緻化の方向で,3) 材料複合等最先端の他分野の知識経験を導入して技術の複合した新たなものを開発する方向でというように,総合化された技術体系の下に,より精緻な技術の構築によって実現されつつあるが,同時に,4) 原理,現象等の基礎にも立ち返って飛躍的な展開を目指す動きも見られ始めている。

このように,バイオテクノロジー,新材料の領域を始めとする科学技術の緻密化は,基礎的領域や他分野にと広く総合的なアプローチを不可欠としてきており,また,これらの新技術の発展により,人間の感性にも感応しうるような繊細かつ高度な技術の構築を可能にしつつある。

第二のソフトの比重の高まりについては,まず生産技術の面で,メカトロニクスによる産業機械の高機能化,FA化,OA化等による生産システムの高度化が図られつつあるとともに,更に将来に向けて知能機械の開発や生物の機能にも学ぶソフトな生産システムの構築も指向されるようになってきている。

また,製品技術の面でも時計,カメラ,家電製品,自動車等様々なものにマイクロコンピュータが組み込まれて製品のコンパクト化,高機能化等が進み,満艦飾製品ともいわれる過剰機能製品まで現われるようになっている。

さらに,無人店舗販売,搬送省力化等のサービス部門の技術革新,VAN等の情報・通信システムの高度化,医療,教育や公共福祉サービスシステムの高度化等情報科学技術の応用は広汎な領域で進み始めている。

しかし,このような各分野の技術への知的機能の付与は,単にハードウェアの機能の拡大のみならず,例えばFA化は企業の難作業部門の合理化によって頭脳労働部門のウェイトを拡大させ,ビデオ等の製品分野ではビデオソフト等文化的なものを含むソフトのウェイトを拡大させる等全体としてソフトのウェイトを拡大させ,しかも物の処理のためのソフトから生物の機能に学び,あるいは人間の精神や文化的要素を織り込んだ高次のソフトへとその高度化を促進し始めている。

しかしながら,我が国は伝統的に高品質のハードウェアの製造に優れたものを有してきたため,逆にソフトウェアが弱く,ソフトに係る基礎的理論,手法等ソフトサイエンスの研究を活発化させ,あるいはソフトウェアの生産性の向上を図る等欧米諸国以上にこの面での大きな努力が必要であり,また,人文社会科学を含めた異領域の科学技術との接近協力を図っていく必要がある。

以上の二つの動きに対して,第三の人間との関係の深化については,これに対する認識は高まりつつあるもののその具体化はまだこれからという状況である。

例えば工学でいえば,まず人間の肉体的機能の一部を道具や機械で代行させ,あるいは補助させる機械化に始まり,その効率性の上昇のための自動化,システム化が図られ,現在では知的機能の付与による機械の知能化が進みつつあるが,これらは更に知識を保有し,ある程度の常識的判断を行って人間の知的機能を補助するシステムへの転換が試みられようとしている。

しかし,この最後の段階は,これまでの科学技術の土台を築いてきた分析的ないし2値理論的な考え方では対応できず総合性,あいまい性等を同時に処理しうる新たな発想への転換が必要であるが,人間そのものを総合的に理解するための科学,生物や人間の行動判断等に学ぶ科学技術は未熟であり,これからの大きな課題になり始めている。

また,保健医療等の領域でも近時,生命維持装置や体外受精技術の登場によって人間の尊厳あるいは倫理との関係に新たな問題の投げ掛けが行われるとともに,生活の利便性の向上が原体験の機会を減少させ,人間の基本的機能への影響をもたらすなどこれまでと異ったより深い人間と科学技術の関係が問題となりつつある。しかし,これらについてはようやく問題性が認識されるようになったものの,これらへの対処方法はまだ未熟なままになっており,今後の科学技術の進展における大きな課題となってきている。

科学技術のあり方は,それを使う人によって大きく左右するが,一般的にはこれまであまりにも長期にわたって物質文明になれ親んできたため,まだその感覚から十分には抜けきれず,人間の精神や文化的なものを含めた新たな展開は,科学技術の開発側,利用側双方にとって将来の課題となっている。


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