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第1部   21世紀の新たな技術の創出を目指して
第1章  新しい技術の創出をもたらす基礎的研究
(2)  基礎的研究と技術開発との関係


技術は,多くの場合,経験と創意工夫の積み重ねを基礎に創られてきている。技術は,実用に供し得るものでなくてはならないという厳しい制約がある反面,その方法を用いれば,具体的に同じ物が作れ,同じ効果が得られれば良い(再現性)という面を持つ。

例えば,金属の精錬法,アーチなどの建築法,暦,東洋医学などの多くの技術がそれら技術の背景にある自然の仕組みの十分な原理的解明を基に生み出されてきたというよりは,長期間の試行錯誤的な経験に基いて練り上げられてきたと言えよう。

また,蒸気機関を研究することから生み出されたカルノーの熱力学の諸法則があり,これは後の物理学や化学の基礎とな,った。製鉄炉での熔鉄の発光色と温度の変化を研究することから生み出されたウィーン変位則もまた後の量子力学へ発展していった。これらは,技術開発過程で遭遇した自然の未知の部分が人間の自然原理探求への好奇心を刺激した例であり,このように技術は,研究手段の向上をもたらす面のみでなく,基礎的研究に研究テーマを与え,その推進の役割も果している。

一方,基礎的研究の成果は,自然事象に関する新しい知識となり,その研究に応用目的があるかどうかにかかわらず,新技術創出の出発点である新しい発想を与え,技術の発展の基礎を培ってきた。すなわち,19世紀初頭の「物質は原子の組合わせから成る」という自然の仕組みについての新しい理論が,化学反応や化合物の理解を深め,後の化学合成技術の開発と化学工業の発展へと結びつき,電気と磁気との関係に関する原理等の解明から電気モーターや電話が,さらには,その基礎的研究の発展の延長線上における電磁波理論から無線通信技術といういずれも全く新しい技術が創出されている。

しかしながら,これらの事例のいずれを見ても,基礎的研究だけで新技術が創出されたわけではない。新技術として実用に供されるためには,自然事象に関する様々な知識を利用して,人々の生活に役立つ技術を確立するまでの努力,すなわち過去の経験や蓄積された技術に基づいて新しい技術としての実現性を確認し,さらにそれを市場に迎えられる実用技術として仕上げていくための研究が必要である。このように新技術となるまでには,なお多くの研究開発努力が必要であるが,基礎的研究は,自然事象のより深い認識を通して,新技術創出への道を明らかにしてくれる。

また,基礎的研究は,その性質上成果の見通しを当初から得ることは難かしく,偶然の発見の例も多い。それだけに優れた着眼,大胆かつ緻密な論理展開,創意あふれる研究方法というような独創的研究態度が極めて必要であり,優れた頭脳によるところが大きいと考えられる。さらに基礎的研究は,論理的,系統的な思考方法や研究の進め方を発展させてきた。これらの思考方法や研究の進め方は,経験の蓄積と創意工夫を基礎としてきた従来の技術開発の進め方をより合理的なものにする上で刺激を与えてきたと考えられる。特に,,基礎的方向へ指向する場合,このことは重要である。現実に物ができればよく,従来必らずしも論理的説明は重視されなかった技術の研究開発においても,特に先端技術分野の場合,理論を重要視する必要性が高まるものと考えられる。例えば,仮説(理論)に基づき実験テーマを選定し,結果がうまく行かなければ別の仮説を立て,新しいテーマを選んでいく研究方法が必要になってくるものと考えられる。


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