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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第2章  自主技術開発への展開
第3節  先導的・基盤的科学技術分野における自主技術開発の展開
6.  材料科学技術


材料は我々の身の回りのあらゆるものの根源であり,それらの機能,性能を大きく左右することから,時代を画するような技術革新において新しい材料の果たした役割は極めて大きいものであり,古くは青銅器文明や鉄器文明に見られるように人類の文明さえも変えてきた。近年の社会・経済に大きな影響を及ぼしているエレクトロニクス技術の進歩も半導体材料の革新によるところが大きいと言えよう。

最近になって新材料に対する関心が特に高まってきた。これは宇宙開発,原子力開発をはじめとする様々な高度先端技術の開発において技術的突破口が新材料に求められるとともに石油危機を契機とした省エネルギー化の要請に対する新材料の効用が注目を浴びるようになってきたためで,新材料に関する研究開発が国際的に活発化しており,我が国においても国立試験研究機関,大学及び企業において,活発に進められている。

これらの新材料には,1)広い範囲での応用が考えられるファインセラミックス(ニューセラミックスとも呼ばれる。),2)高機能分離膜,導電性樹脂等の機能性高分子を含む新高分子材料,3)形状記憶合金,アモルファス(非晶質)合金などの新金属材料,4)炭素繊維強化樹脂(CFRP)に代表される複合材料,等がある。新材料は,構造材料としてのみならず様々な特性を有する機能材料として,工業,エレクトロニクス,医療等の広い範囲において様々な利用形態が考えられている。

新材料はまさに技術革新をリードする存在であり,今後我が国が欧米諸国に伍して独自の創造的な科学技術を育んで行く上でその研究開発が必要不可欠のものとなっている。このため,科学技術振興調整費において,材料科学技術が昭和57年度の特別強化分野の一つとして取り上げられており,材料科学技術分野の基盤技術の研究として「高性能材料開発のための表面・界面の制御技術に関する研究」が積極的に行われているほか,近年米国のスペースシャトルの登場により無重力という新しい環境条件を活用した新材料の創製の可能性が現実のものとなったことから,その基盤技術の研究として「無重力環境を利用した新材料の創製に関する研究」が開始されている。また,創造科学技術推進制度及び次世代産業基盤技術研究開発制度において,新材料に関する研究開発が中心的課題とされており,積極的な研究開発が進められている。


ファインセラミックス

ガラス,耐火煉瓦,陶磁器のように非金属無機原料を高温処理した製品群を広くセラミックスと呼ぶが,このような従来のセラミックスに対してセラミックスが本来もっている優れた特性を極限まで引き出すため,高度に精選された原料粉末を用いて,精密に調整された化学組成とよく制御された成形,焼結法によって合成したものをファインセラミックス又はニューセラミックスと呼んでいる。

第1-2-52図 ファインセラミックスの適用領域

ファインセラミックスは,用いる原料及び製造法によって,耐熱性,耐摩耗性等の機械的機能や電磁気機能,光学機能等の様々な特性を示し,それに応じて 第1-2-52図 に示すような広い範囲の材料として適用できるものである。特に,宇宙・航空,海洋,原子力等の分野において,高温,高応力,放射線などの厳しい条件に耐える材料として期待されている。また,原材料が資源的に豊富であるのに対して付加価値が高く,我が国の工業材料として極めて有望なものと見られている。

このように多種多様なファインセラミックスの中で,電磁気機能を応用した分野は最も実用化が進んでおり,IC(集積回路)の基板やパッケージ,各種のセンサなどに広く用いられている。この分野では,我が国のセラミックス製ICパッケージが世界の需要の多数を占めていると言われていることに代表されるように我が国の技術水準は高い。また,ファインセラミックス製の人工骨,人工歯なども実用段階に達している。

近年,ファインセラミックスが耐熱性に優れ,これを用いることによって熱機関の高効率化を図ることができるため,エンジンやガスタービンの材料として国際的に注目されており,1970年代前半から米国及び西ドイツを中心に積極的な研究開発が進められている。我が国を含めた研究開発状況は 第1-2-53表 のとおりであり,我が国は欧米諸国に遅れて本格的な研究開発に着手したが,高温における曲げ強度が世界最高水準の材料の開発やセラミックス製ディーゼルエンジン搭載車の走行試験を世界で初めて行うなど,我が国のファインセラミックスに関する研究開発の水準が向上している。

このような用途のファインセラミックスとしては窒化ケイ素又は炭化ケイ素を材料とするものが適しているものと見られており,研究開発対象の中心になっている。窒化ケイ素,炭化ケイ素を原材料とするファインセラミックスは,高温強度,耐摩耗性,耐食性に優れている反面,焼結が難しく脆性を有する等の短所があり,セラミックスを材料としたエンジンやガスタービンの実用化までには国際的にも未解決の課題が多い。すなわち,高純度の微細な原料粉体の製造技術,精度高く均質緻密なセラミックスを得るための成型,焼結技術,セラミックスに適した特性評価技術,強度を大幅に低下させる微小な欠陥を発見するための試験技術等である。省エネルギー技術研究開発制度(ムーンライト計画)では,昭和53年度から高効率ガスタービンの研究開発において,基本的な開発目標の一つとして取り上げられており,次世代産業基盤技術研究開発制度においても,昭和56年度からこれらの基盤的な技術の研究開発が始められたところである。


新高分子材料

プラスチックスに代表される高分子材料に1970年代に入ってから新しい技術革新の動きが出始めている。その一つは,従来の高分子材料が有している金属に比べて軽く,腐食に強く,加工しやすいという特色を維持し,かつ,耐熱性,強度を格段に向上させて金属の代替を目指す方向である。近年の活発な研究開発の結果,エンジニアリングプラスチックスと呼ばれる新しい高分子材料群が生まれ出しており,自動車,カメラ等の構造材料の一部が金属から高分子材料に代替され始めている。

第1-2-53表 内外のファインセラミックスの研究開発状況


また,もう一つの方向は,材料に固有の性質をうまく利用し,従来の高分子材料にはない生体機能等の新しい機能をもたせた機能性高分子材料の研究開発である。ここでは,高分子材料が新材料としての特徴を最も良く発揮できると考えられる機能性高分子材料に関する研究開発の動向を見ることにする。

機能性高分子材料は,高分子物質の分子構造そのものがもつ各種の機能を利用するものであり,その主な機能と用途は 第1-2-54表 に示すとおりである。

このうちでその将来性が高く評価されているものの一つに,混合液体又は混合気体の成分を分離するものが挙げられる。高分子材料による物質の分離には分子量の小さな低分子をろ過する限外ろ過,溶液から溶媒を抽出する逆浸透,溶質を抽出する透析,イオン交換等の方法があり,逆浸透膜による海水の淡水化,透析膜による人工腎臓,イオン交換膜を用いた苛性ソーダ製造法等が既に実用化されている。海水の淡水化については,早くから逆浸透法の研究開発を進めていた米国が世界をリードしているが,最近我が国でも脱塩率,コストとも世界最高水準の海水淡水化用逆浸透膜の開発に成功するなどの成果を得ており,また,人工腎臓の研究開発では世界の最高水準にある。

第1-2-54表 機能性高分子材料の機能と用途

高分子材料を用いた物質の分離は,従来の方法よりはるかに所要エネルギ-が少なく,また,従来は困難であった沸点の近い物質あるいは同じ物質の分離等が可能になる。このため,これまでより高度な分離ができる高分子材料の研究開発が活発に行われている。

例えば,空気中の酸素を選択的に透過させる酸素富化膜が実用化されようとしている。酸素富化膜によって酸素濃度を40%程度にすることができれば,呼吸器系疾患の患者に有効であり,また,エンジンをはじめとする燃焼システムに適用することによって効率を上昇させ省エネルギー効果を発揮するものと期待されている。酸素富化膜については,米国が先行しており,我が国がこれを追う形になっている。

また,高分子材料を用いた海水からのウラン回収技術も注目される。海水中には膨大な量のウランが存在すると見られているが,その濃度は極めて低い。海水からウランを回収する試みは種々なされてきたが,現在では吸着法が最適であると言われている。1960年代にイギリスで行われた実験により,無機物質である含水酸化チタンがこの吸着物質として最適であると見られていたが,最近ウランを選択的に吸着するキレート樹脂と呼ばれる高分子材料も有望視されている。キレート樹脂そのものは,工場廃液から水銀などの重金属を回収し,水質保全を図る目的で既に実用化されているが,海水からのウラン回収に適用したのは我が国が初めてであり,工業技術院四国工業技術試験所が東京大学及び民間企業と共同で研究開発を進めているのをはじめ,大学等において研究開発が行われている。諸外国では含水酸化チタンを吸着剤とする研究開発が中心であるが,最近は米国及び西ドイツでも高分子材料に関する研究開発が始められている。我が国で用いられているキレート樹脂の一種であるアミドキシム型吸着剤は 第1-2-55図 に示すとおり,吸着容量,吸着速度ともに優れた特性を示しているが,今後は,さらに容積当たりの吸着速度の向上,吸着剤の耐久性の向上等を図るための研究開発を推進する必要がある。

第1-2-55図 天然海水からのウラン吸着特性

新高分子材料は,省エネルギー,省資源の視点から在来の材料の代替,新しい機能に着目した工業,医療,公害防止などの新たな利用等その将来性が豊かであり,欧米各国において研究開発が活発に進められており,我が国においても創造科学技術推進制度において将来の革新技術の源泉となるべき芽としての「ファインポリマー」が,また,次世代産業基盤技術研究開発制度において高機能性高分子材料として「高効率高分子分離膜材料」,「導電性高分子材料」及び「高結晶性高分子材料」が取り上げられ,積極的な研究開発が進められている。


新金属材料

金属の最大の用途は構造材料としてであり,現在の工業化社会の発展も各種金属材料に負うところが大きい。近年には,金属材料に対するニーズも多様化し,これまでにない新しい機能も求められるようになっている。このため,既存の金属材料の高性能化に加えて二つの研究開発の方向が生まれてきている。

その一つは,新しい機能を有する新金属や新合金の研究開発であり,形状記憶合金や水素吸蔵合金がその代表的なものである。

通常の金属は,0.5%程度の弾性限界を超える変形が加わると元の形状には復さない。ところがある主の合金は,高温で設定した形状を記憶し,常温又は低温で変形を加えても加温することによって元の形状に復する。これを形状記憶効果と呼び,1960年代の初めに米国でニッケルとチタンを成分とする形状記憶合金が発明された。形状記憶合金は,この特性を利用して各種継ぎ手,温室窓の自動開閉器等に利用されてきたが,最近では,医療,宇宙用アンテナ,熱エンジン等幅広い応用が考えられている。特に形状記憶合金を利用した熱エンジンは,効率は高くないものの温度差があまり大きくなくても動作するため,太陽熱や工場廃熱からのエネルギー回収に有効であると見られている。我が国では,ニッケル・チタン合金を1960年代の初めに耐摩耗性,耐食性に優れた合金として開発したが,近年になって形状記憶合金としての研究開発にも力を注ぎ,今日では米国と並んで世界最高の技術水準に達している。また,銅系の合金も形状記憶効果を有し,特性はニッケル・チタン合金に及ばないものの安価であるため,ヨーロッパを中心に研究開発が盛んになっている。

金属が水素を吸蔵することは古くから知られていたが,金属水素化物をエネルギー貯蔵材料として利用しようとする研究開発が近年活発化している。水素の輸送や貯蔵には通常高圧ガスボンベが用いられているが,水素吸蔵合金を用いれば安全性が向上し,また, 第1-2-56表 に見られるように容積や重量の上からも有利である。水素吸蔵合金の研究開発は,オランダ及び米国が先行しており,1970年には常温で吸蔵した水素を放出するランタンとニッケルを成分にする水素吸蔵合金が発表されている。我が国においては,1974年に開始されたサンシャイン計画における「水素エネルギー技術」の一貫として,水素吸蔵合金を利用した水素の輸送・貯蔵技術の研究開発が行われている。また,科学技術振興調整費による「風力-熱エネルギー利用技術に関する研究」の一環として,水素吸蔵合金を熱エネルギーの貯蔵手段とする研究開発が進められている。

研究開発のもう一つの方向は,金属自体を超微粒子化したり,その結晶状態を制御したり,あるいは非晶質の状態にすることにより新しい機能をもたせようとするものである。

金属を直径10〜2,000Å(1Å(オングストローム)は1億分の1cm)の超微粒子にすると, 第1-2-57表 に示す特異な物性を示すようになる。超微粒子が特異な性質を示すという理論は昭和37年に我が国で初めて発表され,それ以降我が国独自の革新技術の芽を形成しており,その製造技術も我が国で開発されるなど,超微粒子の研究開発では我が国が世界をリードしている。一方,欧米諸国においても超微粒子の示す特異な性質に着目して応用分野を中心に研究開発が活発化しており,例えば,フランス及び米国の極低温研究機関では,我が国で製造された銀の超微粒子を用いた熱交換器による極低温稀釈冷凍機を試作し,極低温到達温度を0.02Kから0.002Kに一挙に一けた下げる記録を作るなどの成果を得ている。超微粒子については,未解明な部分が多い反面広い応用が考えられる先端的材料であり,我が国においても創造科学技術推進制度において物性の解明,応用,加工法等に関する総合的な研究開発が進められている。

第1-2-56表 水素輸送法の比較

また,金属の結晶状態の制御については,金属を単結晶化したり,結晶の微細化を図ったりすることにより,その耐熱性や強靭性を増すことが可能であり,ガスタービンエンジン等への応用が期待されている。これに関する研究開発は,次世代産業基盤技術研究開発制度における「高性能結晶制御合金」などで開始されている。

第1-2-57表 超微粒子の示す特異な物性

次に金属の非晶質(アモルファス)化については,通常規則正しく並んだ結晶構造をしている金属が非晶質状態になることによって示す,耐食性や軟磁性をはじめとする普通の金属とは異なる様々な性質を利用するものである。アモルファス金属は,溶けた金属を非常に急速に冷却することにより液体構造のまま固体化したものであり,1960年に米国で金とケイ素を材料としたものが得られたのを契機として今日まで非晶質化できる多数の合金が見つかっている。

さらに,1970年頃に液体合金から連続的に線または板状のアモルファス金属を作る液体急冷法が考案されて以降,急速に応用研究が活発化してきており,例えばアモルファス金属の有する様々な機能を利用して 第1-2-58表 のような応用例が発表されている。

第1-2-58表 アモルファス金属の機能と用途

米国における研究開発は,大手企業の研究所を中心とし,その他多くの大学が参加して進められている。また,1978年からは,エネルギー省を中心として約600万ドルをかけて省エネルギーのためのアモルファス磁性材料の開発が推進されている。

一方,我が国においては,当初東北大学金属材料研究所で続けられていた研究が拡大し,昭和52年度にはアモルファス金属の製造及びその特性を生かした応用技術がテーマとして新技術開発事業団の委託開発プロジェクトに取り上げられ,約3年半にわたる研究開発の結果,企業化へのめどがついている。この間,各大学,研究機関,企業等における研究開発も盛んになってきており,創造科学技術推進制度における「特殊構造物質」でもアモルファス金属が研究対象の一つとなっている。

アモルファス金属は,以上に述べた様々な特色に加えてその製造工程が非常に単純で省エネルギー効果が高く,近年その研究開発が世界的に活発化しているが,ほぼ同時期に本格的な研究開発を始めた我が国と米国がその中心になっていると見られている。


複合材料

複合材料は異種の材料を組み合わせてそれぞれの長所を生かし,単独で得られないような高度な特性をもたせ,さらに単体の材料と異なり,任意の特性分布をもたせることが可能な材料である。複合材料には素材の組合せにより様々なものがあるが,樹脂系複合材料(FRP)及び金属系複合材料(FRM)が研究開発の中心になっている。

FRPのうち炭素繊維強化樹脂(CFRP)は,プラスチックスの軽さ,成型の容易さに加え金属並みの強度と弾性を実現した優れた材料であり,宇宙・航空分野から釣りざおやゴルフのシャフトに至るまで広い範囲で用いられている。例えば,軽量化による省エネルギー効果の著しい航空機については,最新型のボーイング767型機には,CFRP等の複合材料が全機体重量の約1.9%に当たる約1.5トン用いられており,次のボーイング757型機ではこの割合が約2.6%に達するものと見られている。

CFRPに用いられる炭素繊維は,ピッチ系及びポリアクリロニトリル(PAN)系が主流になっており,後者は,コストが前者の10倍程度と高いが,強度,弾性等の性能面ではPAN系が優れており高機能の複合材料に用いられている。PAN系炭素繊維は,昭和34年に工業技術院大阪工業技術試験所で開発されたもので,近年複合材料用素材として需要が急増し, 第1-2-59図 に示す昭和55年の世界総需要約815トンに対し我が国が約70%を供給している。

このようにCFRP素材としての炭素繊維に関しては,我が国が世界最高水準の技術を有しており,欧米にも技術供与を行っているが,複合材料としての加工技術に関しては,宇宙・航空分野で技術的な蓄積を図っている欧米が日本を上回っている。

第1-2-59図 昭和55年における世界の炭素繊維(PAN系)需要内訳 (かっこ内は全需要に対する比(%))

FRMについては,近年宇宙・航空分野を中心にCFRPの限界を超える耐熱性,強度等を達成できる材料として期待されている。FRMは1970年代になってから本格的な研究開発が始められた新しい複合材料であり,母材金属と繊維の適合性など解決すべき問題点も多いが,次世代の複合材料として世界的に研究開発が活発化している。

我が国は, 第1-2-59図 における炭素繊維の用途に代表されるように宇宙・航空用の需要が欧米と比較すると極めて小さい。したがって,世界最先端の素材技術を有するものの,厳しい要求条件を満す必要のある複合化及びFRMのような最先端の技術については,欧米に遅れをとっているのが現状である。複合材料については素材から成型加工,設計,評価に至る総合的な研究開発が必要であり,その波及効果も大きいことから,次世代産業基盤技術研究開発制度において取り上げられ,幅広い研究開発が進められている。


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