ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第2章  自主技術開発への展開
第3節  先導的・基盤的科学技術分野における自主技術開発の展開
5.  極限科学技術


近年,宇宙開発,原子力開発等の著しい進展や社会・経済の発展に伴い,新しい材料の開発や高度なシステムの開発などの必要性が認識されてきており,今後科学技術が一段と高度化,広域化していくものと見られる。これに伴い,極低温や超高圧などの極限状況を現出させそれを利用する極限科学技術は,超電導現象の応用や新材料の合成等大きな可能性をもっており,未利用技術の開拓と既存技術の高度化を推進するという点で一層重要性が増している。

このような極限科学技術としては,極低温科学技術,超高圧科学技術,超高温科学技術,超高真空科学技術があるが,ここでは極低温科学技術,超高圧科学技術の研究開発動向について見ることとする。


極低温科学技術

極低温科学技術は,一般的に,液化天然ガス(LNG)の温度(約-160°C)以下の温度領域を対象としていると考えられ,その中心は絶対温度零度(約-273°C)の近くで電気抵抗が零になる超電導の現象の利用にある。その利用が期待される領域としては 第1-2-38図 に示すように多方面にわたっており,省エネルギーや新エネルギーの開発等その波及効果は計り知れないものがある。

第1-2-38図 超電導技術の利用分野


(超電導材料)

超電導材料の研究開発は超電導技術の基盤となるものであり,超電導現象は 第1-2-39図 に示すように,超電導材料ごとに異なる温度(T),電流密度(J),磁界(H)のある一定の値(臨界値)で定められた領域内で発生し,したがって,それぞれの臨界値が大きい程有用な超電導材料とみなされる。

このような超電導材料にも実用化に当たっては,大きな阻害要因がある。

それは,超電導材料が局部的にしろ臨界温度以上になり,超電導状態が失われ,これが急速に全域に伝播し超電導を破壊してしまうことである。

このような阻害要因を克服し,超電導材料を実用化するためには,次のような方法がとられている。

一つは,電気的にも熱的にも良伝導体である銅やアルミニウム等を多量に用いて超電導材料を被覆する方法であり,もう一つは,超電導線材をできるだけ細く分割する,より本質的な対策である。現在は,これら二つの方法を併用して 第1-2-40図 に示すように,銅のような良導体をマトリックス状に埋め込んだ細い超電導線材を用いた方法で材料が実用化されており,このような極細多心線の製造技術が超電導材料の実用化に当たっては重要な技術と言える。

第1-2-39図 超電導状態のT-H-J臨界面

第1-2-41図 に主な超電導材料の臨界温度と絶対温度4.2Kにおける上部臨界磁界特性を示した。同図に示した黒丸は上に述べた極細多心線化の製造技術により実用化された材料であり,白丸は高い特性を示す材料であるが,その製造技術が確立していないため,まだ実用化されていない材料である。

超電導材料として当初は鉛(Pb),ニオブ(Nb)等の単体金属が対象とされていたが, 第1-2-41図 に示すように上部臨界磁界が低く実用性に乏しかった。このため研究開発はしばらく停滞していたが,1950年代に米国でニオブージルコン(Nb-Zr),ニオブーチタン(Nb-Ti)等の超電導材料として有用な合金が発見され,実用化に向けての研究開発が促進されるようになった結果,主に欧米において銅複合による安定化法,極細多心線化法等の各種実用化技術の開発が行われ,現在では機械的に安定した加工が容易な材料として最も広く使われている。

また,更に高い特性を示すニオブ3 ・スズ(Nb3 Sn)等の金属化合物超電導材料は,一般的に機械的性質が著しくもろいため実用化する際の線材化が困難であったが,これを可能にするためニオブ3 ・スズ拡散反応を利用した表面拡散法が米国で初めて開発された。

我が国は,より特性の高いニオブ3 ・スズ及びバナジウム3 ・ガリウム(V3 Ga)の実用化を目指し,銅の拡散促進効果を利用したより優れた製造法の開発に成功し,続いて,この方法を更に進めて銅合金を使った複合加工法により安定したニオブ3 ・スズ,バナジウム3 ・ガリウム等の極細多心線の製造法を開発した。更に複合加工法を進展させ,より高性能を示す材料の製造が可能なsitu法という製造法が開発されつつある。このInsitu法により得られる超電導線は,複合加工法による極細多心線材を上回った特性を示しており,曲げや引張りなどの応力に対しても強い線材となっている。

第1-2-40図 銅マトリックスに埋め込まれた55×19心 ニオブチタン極細多心線

第1-2-41図 各種超電導材料の臨界温度と上部臨界磁界(4.2K)

以上見てきたように,超電導材料の研究開発は当初米国を中心として発展してきたと言えよう。特に米国においては,ニオブーチタン線材の開発により超電導材料の研究を大幅に前進させたし,A15型化合物と言われるニオブ3・スズ等の極めて有効な材料群に代表される新しい材料の開発も米国が世界をリードする形で進めてきた。

一方我が国では,ニオブーチタン合金材料にある種の金属を添加し,材料の性能を高める研究開発をはじめとして,各種加工法など材料の品質を高める研究開発,高効率で安定化した化合物超電導線材の製造技術開発等で大きな成果をあげており,現在では欧米先進国と肩を並べる状態にあると言えよう。

今後は,さらに, 第1-2-41図 に示した高い特性値を示す材料をいかに実用化するかという新しい製造技術の開発,既に実用化されている材料の性能向上のための研究,全く新しい高性能超電導材料の開発等多くの研究開発課題を解決していかなければならない可能性の大きい分野と言えよう。


(超電導マグネット)

超電導材料を使用したマグネットの開発は,超電導技術の実用化を図る上で極めて重要な課題である。このマグネットについては,それぞれの目的に応じた材料や形状にするとともに,いかに安定した大きな磁界を発生させるかということが課題である。

第1-2-42表 に代表的な合金系材料を使用した超電導マグネットの, 第1-2-43表 に代表的な化合物系材料を使用した超電導マグネットの内径と中心磁界を示した。合金系材料のマグネットは機械的に安定しているため磁界は低いものの大型の装置が製作可能であり,化合物系材料のマグネットは磁界特性が優れているため小型で高い磁界が出せる特徴がある。

米国等は,合金系材料のマグネットで大規模装置の研究開発に先鞭をつけたが,我が国は化合物系材料を中心としてマグネットの研究開発を進めており,バナジウム3 ・ガリウムを材料とした高磁界のマグネット製作に成功し,世界のトップレベルとなっている。

第1-2-42表 合金系の代表的大型超電導マグネット

第1-2-43表 化学系の代表的超電導マグネット

超電導技術を実用化していくためには,超電導材料,極低温用構造材料,冷凍・冷却技術等多くの関連技術が必要である。このような超電導技術を利用した各種プロジェクトはどのような状況にあるのか,核融合炉用の超電導マグネット,超電導発電機,超電導磁気浮上式鉄道について,我が国を中心として見てみる。


(核融合炉用超電導マグネット)

究極のエネルギー源として注目される核融合炉のトカマク方式では,磁場を用いてプラズマを閉じ込める方式をとっているが,強力な磁場を必要とするため超電導マグネットが最も有用であると考えられている。しかも,このようなマグネットは大型なもので複雑な形状をもち,大規模な冷凍・冷却システムを必要とするもので,他の目的の超電導マグネット技術とは性質を異にしている。

現在トカマク型炉については,米国,EC,スイス,日本の多国間国際協力により,プラズマを安定に保持するための超電導トロイダルマグネット(設計仕様磁界8テスラ(T) 注) ,130メガジュール(MJ))の研究開発が行われている。我が国では日本原子力研究所で開発したマグネットにより,1982年にその性能試験を行った結果,世界に先駆けて定格通りの性能を実証することに成功している。米国では同じ性能のマグネットを1983年頃に,EC,スイスは1983年末頃に完成する予定である。また,プラズマ加熱や制御のためにパルス的に強磁界を発生させる超電導ポロイダルマグネットが必要であり,米国では3.3MJのものが製作されているが,我が国でも同規模のマグネット(3MJ)のが電子技術総合研究所で開発されつつある。

我が国の核融合炉の研究開発は欧米と同じ時期にスタートしており,炉心技術については現在の研究開発においてもほぼ欧米と肩を並べる状況にあると言えるが,核融合が経済的に成立するためには,大規模なマグネットが必要とされており,より安定した発生磁界の高い材料の開発を含め,大型,特殊構造のマグネットを製造するための研究開発が今後も引き続き重要である。


(超電導発電機)

超電導発電機の原理的構造は,従来の発電機とほとんど同じであるが,回転子の界磁コイルに超電導を適用したものであり,従来の発電方式に比べ損失を2分の1から3分の1に削減でき,高効率,軽量化が可能である。

超電導発電機は, 第1-2-44図 に示すように1970年代の初め米国で実験用規模の小さな発電機が作られ,その後年々大規模化の方向で研究開発が各国で進められている。我が国では,省エネルギーを最大の目的として民間企業において3万kW及び5万kWの発電機が開発中で,1982年中には世界最大規模の発電機が完成する予定である。


注)テスラ(T)=10,000ガウス(G),1ガウスは地球表面上での磁場の強さの約5倍。

また海外では,米国,フランス,西ドイツ,ソ連等で開発中であるが,米国,ソ連では現在我が国で試作中のものより一けた大きい実用規模の発電機開発が進められることとなっており,1990年頃には実際の発電所に使用される予定である。

第1-2-44図 世界における超電導発電機の試作状況

以上のとおり,超電導発電機は実用化へ向けて大きく前進しており,我が国は欧米と同程度の水準にあると言えるが,米国,ソ連においてはより大規模な計画が進められており,我が国も実用化に向け総合的な研究開発の推進が期待されている。


(超電導磁気浮上式鉄道)

超電導マグネットを車両に搭載し,磁力により浮上して走行する「超電導磁気浮上列車」は省エネルギー面での効果が大きく,また接触面がないため騒音や振動が極端に少ない等の利点があり,時速500hを上回る超高速走行が可能である。

超電導磁気浮上方式の鉄道は,我が国のほか米国,西ドイツ等で研究が行われているが,我が国では,日本国有鉄道が昭和37年より研究を開始し,昭和51年に重さ10トンの実験車両「ML500」を製作し,昭和54年の試験走行では10cm浮上させ世界記録である最高時速517KMを記録した。さらに昭和57年9月に 第1-2-45図 に示すような「MLU001」により世界で初の有人走行試験に成功し,最高時速262KMを記録している。

第1-2-45図 実用を目指したMLU001の断面図

超電導磁気浮上列車については,コンパクトで高信頼の冷凍・冷却システムが必要であり,その研究開発も進められつつあるが,実用化するためにはその他のシステム技術も含めて多くの段階的研究開発を行わなければならない。

以上,超電導技術の材料,マグネット等の実用化へ向けての研究開発状況を見てきたが,超電導技術を本格的に実用化するためには,高性能の超電導材料の開発をはじめ,高い信頼性をもつ冷凍システム,マグネットの構造材料や各種計測制御技術等,今後多くの研究開発すべき課題がある。

このため政府においても,昭和57年度の科学技術振興調整費を活用し「超電導・極低温基盤技術の開発に関する研究」を重要課題として位置付け,1)超電導材料の性能を大幅に向上させる材料合成技術及び加工技術の開発,2)極低温下における材料特性の評価法の開発及びデータの取得・解析,3)超流動ヘリウム冷却システムの開発,効率の良い小型冷凍装置の開発,4)超電導利用技術の展望,ヘリウム資源の確保等に関する調査,を積極的に行うこととしている。また,省エネルギー技術研究開発制度(ムーンライト計画)の一環である「先導的・基盤的省エネルギー技術開発」として,1)電気エネルギー変換輸送に関する研究,2)極低温技術に関する研究,を推進している。


超高圧科学技術

超高圧科学技術は,数百から数kbar(1bar≒1気圧)の圧力下でアンモニアやメタノール,ポリエチレン等の工業生産上極めて重要な物質を合成したり,10kbar以上の圧力下で切削加工用材料として有用な人エダイヤモンド等の材料を合成する科学技術である。この他超高圧を利用した無機物質等の物性の研究,金属材料の高速塑性加工,異種金属の圧接等が考えられており,我が国のように天然資源に乏しい工業国において今後重要性が高い科学技術と言える。

超高圧が近代的科学技術として確立したのは,20世紀の初め米国のブリッジマンによって10kbar以上の圧力が人工的に作られた時と言える。その後,超高圧発生の研究や超高圧下の材料の特性研究等の基礎的研究が行われていたが,1955年に米国の企業が人工ダイヤモンドの合成に成功し,超高圧力技術を工業的に利用することが可能になった。

第1-2-46図 は,10kbar以上の圧力を扱った研究論文数の年度別推移を示したもので,年々研究開発が活発となってきたことが分かる。

一方,我が国の超高圧に関する研究開発は他の先進国よりかなり遅れて開始された。1960年米国で「超高圧力研究の進歩」と題するシンポジウムが開かれたが,我が国からの報告は皆無で,1960年代前半に各国で20kbar以上の研究が盛んに行われていた時期にも我が国ではほとんどなされなかった。

しかし,1960年代半ばから研究活動が活発化し,1974年には我が国で高圧国際会議が開催されるなど国際的にも積極的な活動が見られる。

超高圧科学技術を応用するに当たって圧力制御技術,測定技術等が重要であるが,基本的なものとして超高圧発生技術が最も重要である。超高圧発生技術は,ピストンシリンダ方式等により高圧を発生させる静的発生法と爆薬等を使用して極めて短時間であるが,静的発生法を上回る高圧を発生させる動的発生法とがある。この両方式について我が国を中心としてその動向を見ることとする。

第1-2-46図 超高圧研究(10kbar以上)論文数の年度別推移


(静的超高圧発生技術)

静的圧力発生法は,適当な体積をもつ空間を,硬度の高い耐圧部材を通じて周囲より次第に圧力を高めて圧縮する方式で,圧縮される空間はそこから圧力が逃げないように,また効率よく圧力が伝わるように空間の形状や耐圧部材等の工夫が必要である。 第1-2-47図 は静的超高圧発生装置の模式図を示したものである。

超高圧による材料合成や加工を行うためには,できるだけ加圧部の容積を大容量に保ちかつ達成圧力も高いことが望まれるが,一般的にはより高い圧力を発生させるために加圧部の容積を減少せざるを得ない面がある。したがって,応用に当たってはいかに大きい容積でかつ圧力を高めるかが研究開発の重点となる。

第1-2-48図 は静的加圧方法による容積と到達圧力を示したものである。1981年ソ連は世界最高値の静的超高圧発生装置を開発している。我が国においては同年に無機材質研究所の装置(FB75)で我が国最高の値を達成しており,更にソ連を上回る装置の開発が計画されている。これを見ても分かるように,近年,我が国の静的圧力発生に関する研究開発の進歩は目覚ましいものがあると言えよう。

第1-2-47図 静的超高圧発生装置の模式図


(動的超高圧発生技術)

物体と物体を超高速で衝突させると衝撃波が発生し,この波が通りぬけるまでの間,極めて短時間であるが強い圧縮状態が得られる。このような超高速度で物体を衝突させ,超高圧力を得ようとするのが動的超高圧の発生方法である。このためには,制御された衝撃波発生技術の確立や高速現象の観測のための高度な研究開発が必要であるが,静的発生方法に比べて容易に超高圧,超高温状態が得られる特徴がある。

第1-2-48図 150kbarまでの静的加圧法の圧縮空間容積と 到達圧力の各国比較

平面衝撃波発生装置として最初に開発されたのは 第1-2-49図 に示す爆薬レンズで,これを用いた動的超高圧力研究は米国とソ連で開始され,続いて欧州各国で実施された。その後,更に精密な衝撃実験を行うことを目的として大型のガス加速装置が開発され,中でも 第1-2-50図 に示す二段式軽ガス加速装置が著しい成功を収めた。この装置は1948年米国で最初に開発されたものであり,1966年には衝撃超高圧実験に使用され始め,現在では数Mbarの圧力を発生することが可能となっている。

我が国では,1970年代に入ってから国立の研究機関や大学等でガス加速装置等により実験が開始されたもので,1980年には二段式軽ガス発射装置により3.6Mbarの圧力を発生させることに成功している。

このような研究開発の結果,動的圧力発生についても 第1-2-51表 に示すように米国,ソ連,日本において各種の方法や成果が得られつつある。以上のように,我が国は動的圧力発生法では,まだ米国,ソ連に及ばないが,二段式軽ガス発射装置等を含め種々の方法について,発生圧や計測方法等の研究開発が進められている。

第1-2-49図 爆薬レンズ

第1-2-50図 二段式軽ガス加速装置の原理

第1-2-51表 米国,ソ連,日本における動的発生圧力の現状

超高圧科学技術は,新しい材料の合成等極めて応用分野が広いものの,本格的な研究が開始されてから年月も浅く,まだ基礎的な研究開発の段階にある。今後超高圧科学技術の応用化を図っていくためには,静的超高圧発生技術では,低圧で触媒を用いたダイヤモンド合成法を更に進めて100kbar領域での無添加ダイヤモンド焼結体合成を第1段階として,将来は数Mbar領域での超電導物質の開発,動的超高圧発生技術では,20Mbar以上の領域における発生法の確立を土台に新しい材料科学技術へのインパクトを与えること等が当面の主な目的である。

このような要請を受けて,政府では昭和57年度の科学技術振興調整費において「大型超高圧力発生システムに関する研究」として,1)10,000kbar級の動的超高圧を発生する実用的な大型装置の開発,2)容積1,000cm3 ,圧力100kbarの静的超高圧を発生する大容量装置の開発,3)これらの装置と超高温発生・新材料合成技術を結びつけた実用的な材料合成技術の研究,を積極的に行うこととしている。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ