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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第2章  自主技術開発への展開
第3節  先導的・基盤的科学技術分野における自主技術開発の展開
3.  海洋開発


海洋は古くから主として漁業及び交通の場として利用されてきたが,これらは海洋の多面的な開発利用の可能性から見れば極めて限られたものであった。しかし,近年におけるエレクトロニクス,材料等の科学技術の急速な進歩は陸上とは大幅に異なる海洋の過酷な自然条件に対応し,海洋鉱物資源,生物資源,海洋エネルギー,海洋空間等の開発利用の可能性を著しく高めつつある。

一方,海洋に対する国際認識も近年著しく高まり,排他的経済水域の設定,深海底資源の国際管理等海洋の管轄権の拡大等を基調とする新しい秩序が形成されつつある中で,これまで公海自由の原則の下で,世界の海で活動していた我が国は,自国管理水域の環境の保護・保全及び有効利用の促進を中心とした海洋開発を目指すべき立場となっている。すなわち,資源の少ない狭小な国土に高密度の経済活動を営む我が国にとって,将来の社会・経済活動を支える有力な基盤として, 第1-2-30表 に示すような世界で6番目とも言われる広大な200海里水域を海洋環境の保護及び保全に留意しつつ活用すべく,海洋開発に期待するところが極めて大きいと言える。

海洋は陸上とは異なり潮流,海流等により流動性の大きい環境下にあり,また,光や電磁波が透過しにくいことや海水による腐食や高水圧等の制約を受けるため,これらに対応する技術を開発しなければならない。海洋科学技術は,このような多様な自然条件に対応するための特殊な素材や構造といった要素技術を含み,それらを有機的に結合した統合的なシステム技術であるという特徴がある。

ここでは,このような海洋科学技術の代表として,多分野にわたる海洋開発の共通的基盤技術である有人潜水技術及び深海潜水調査船開発技術を例にとり,それぞれの現状を述べるとともに我が国の技術水準について概観してみる。

第1-2-30表 各国の200海里水域面積(試算)


有人潜水技術

初期における潜水は,漁獲あるいは遊泳を目的としたものであり,深度も20〜30m程度であったが,人間の知識が拡大し,海の可能性をより深く認識するようになってくると,得られた知識を基に科学的に海を調査し,更に海を利用しようとする動きが出てくる。その典型的な例としては,大陸棚を中心とした海底の石油資源開発や人工魚礁設置による水産資源開発などが挙げられるが,これらに必要な海中構造物の建設・保守には人間が潜水して作業を行うことが不可欠である。

しかし,海中では深度10m当たり1気圧という大きな圧力がかかるため,人間に対する物理的・生理的障害は大きく,「素もぐり」では慣れた人でも水深は30〜40mで時間にして2〜3分程度と活動が大幅に制限される。潜水が一般化したのは1943年にフランス人のクストーが潜水具「アクアラング」の実験,開発に成功しこれが普及してからで,これによりフランスは海洋開発の先進国になったと言われている。しかし,この「アクアラング」には当初圧縮空気が用いられており,このため60m以上の水深に潜水すると,呼吸用の空気中の窒素が体内に溶け込んで中枢神経がマヒする窒素酔いが生じ危険な状態になる。1940年代の後半には,この窒素酔いの防止と減圧時間の短縮のため空気中の窒素をヘリウムガスに置き換えたヘリウム-酸素潜水が行われ,圧縮空気による潜水の限界を超えた水深の潜水が可能となった。さらに1960年代には飽和潜水技術が開発された。これは,ヘリウム・酸素混合ガスの体内への溶け込みがその環境圧で限界(飽和)に達した後でも,同混合ガスによる生理的障害が発生せず,安全に長時間の作業が可能になるというものである。

飽和潜水技術の開発には医学,生理学をはじめとして多分野にわたる高度な科学技術の開発が必要であるが,その進歩により人間の潜水深度は飛躍的に向上し, 第1-2-31図 に示すように先進国においては実海域実験で約500m,高圧タンク内のシミュレーション実験では約700mまで成功している。

これら潜水技術では,早くから研究開発に着手していたフランスが一歩リードした形となっていたが,その後,石油開発や軍用目的で米国やイギリスも本格的な研究開発を行っている。一方,我が国では資源エネルギーに乏しいことから,早くから大陸棚資源の開発の重要性が指摘され,潜水作業技術の確立が叫ばれていたが,研究開発が諸外国に比べかなり遅れて始められたこともあって,世界的な水準から大きく遅れており,昭和43〜50年度のシートピア計画で水深100mの実海域における潜水技術を確立し,その成果を基に研究開発を進め昭和54年には300m相当のシミュレーション実験潜水に成功した段階である。このシートピア計画は,長時間の海中作業を安全かつ効率的に行う潜水作業システムの開発を目的として,飽和潜水の原理を用いて水深100mの海底で滞在する海中実験として海洋科学技術センターにおいて実施されたもので,海中作業システムとして船上減圧室(DDC),水中エレベーター(PTC),海中作業基地(ハビタット)及び支援ブイ,その関連施設等についても建造研究を行った。

第1-2-31図 主な飽和潜水実験の発展

今後は,これらの成果を踏まえて深度300mの実海域潜水実験を行い,潜水技術の確立を図るとともに,シートピア計画等で開発された水深100mまでの潜水技術を実用的なものに発展させ,潜水作業システムとして効率を向上させることを目的として,各種潜水機器,作業機器の開発改良,システムの安全性に関する研究等を進めていくことが必要である。


深海潜水調査船開発技術

深海の状況を人間の目で直接確かめながら調査するためには,有人潜水調査船が必要であり,これによりマンガン団塊等の深海底鉱物資源の調査,深海生物資源の調査,地震予知のための海底地質構造調査等,大水深の海中の精密調査が可能となる。

しかし,深海は高圧と暗黒,低温の極めて厳しい環境にあるため,これら深海潜水調査船を建造するためには,極めて高い圧力に耐えるための材料開発を含めた耐圧殼工作法の確立,機動性を増すため船体の小型・軽量化に必要な軽比重浮力材の開発,潜水や浮上に際して海水を出し入れするのに必要な高圧ポンプの開発,海上の母船との通信に必要な超音波技術等,高度な深海特有の技術開発が要求されている。 第1-2-32図 は,これまでに開発された,あるいは開発中の主な潜水調査船の潜航深度である。これより米国とフランスが積極的な研究開発を進め世界をリードしていると言えよう。

第1-2-32図 世界の潜水調査船の開発状況

最近は,機動性に乏しいバチスカーフ型に代わり小型で機動性に富みより広範囲の調査を目的とした潜水調査船の開発が進められており,その代表的なものは,深度4,000mまで潜水可能な米国の「アルビン」,深度3,000mまで潜水可能なフランスの「シアナ」である。両国とも潜水調査船の建造においては世界の最先端の技術を有しており,さらに現在,両国では6,000mの潜水が可能な調査船を建造中で,1984年には完成が予定されている。我が国は昭和35年の「くろしお」,昭和43年の「しんかい」等の潜水調査船により,海底探査の研究等が行われていたが,昭和53〜56年度の「しんかい2000」の開発により,深海調査船の研究開発が本格化し,米国,ソ連,フランス,カナダ等の先進国集団に参入した。

この「しんかい2000」は,ほとんどが我が国の自主技術開発によるもので他の国の2,000m級潜水調査船に比べ,耐圧殻内径が2.2mと大きく,このため広い居住空間を有している。また,船内の電源として重量効率,容積効率の高い銀-亜鉛電池を使っているなど進んだシステムを取り入れている。しかし,2,000m級の潜水調査船では,世界の海底の16%,我が国の200海里水域の30%程度しか調査できず,さらに深海域の潜水調査船等の研究開発が期待されている。

今後は海域における資源として各国で大きな注目を集めている水深4,000〜6,000mの海底に大量に存在するマンガン団塊の探査,最近太平洋を中心として世界各地の深海底で発見され,マンガン団塊と同等以上の価値があるとも言われている金属硫化物資源の探査,地震国の我が国にとっては重要な課題である地震予知のための海底断層,微細地形等の精密調査等広範囲にわたる深海域の調査を実施する必要がある。

このためには,米国,フランスと同様,今後は「しんかい2000」の開発成果を更に発展させ,世界のほとんどの海底が調査可能な6,000m級の潜水調査船の建造を推進していく必要がある。


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