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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第2章  自主技術開発への展開
第3節  先導的・基盤的科学技術分野における自主技術開発の展開
2.  宇宙開発


世界で初めての人工衛星スプートニク1号が1957年に打ち上げられて以来,この25年間に宇宙開発は急速な進展を遂げており,米国及びソ連を中心としてこれまでに約2,800個の人工衛星が打ち上げられるまでになっている。今日では,宇宙空間の利用は, 第1-2-19図 に示すような分野に広がろうとしている。これまでに打ち上げられた人工衛星の約8割は科学観測衛星及び技術開発衛星であり,これによって,地球自体を含む宇宙に関する多くの新しい知識がもたらされるなど,大きな成果があげられている。また,近年では,衛星通信や気象観測をはじめとして宇宙空間の実利用が活発になってきている。

宇宙開発を遂行するためには,温度,放射線,振動,衝撃等の厳しい条件の下で安定に働く信頼性の高いシステムをあらかじめ定められた重量,電力,スケジュール等に合わせて構築する必要がある。したがって宇宙開発を通じて培われたハードウェア技術及びシステム管理等のソフトウェア技術は,医療,エレクトロニクス,エネルギー等広い分野にわたって大きな波及効果を及ぼしている。

第1-2-19図 宇宙開発の利用分野

第1-2-20図 我が国における人工衛星打上げの実績及び計画


我が国においては,宇宙の開発に関する国の施策の総合的かつ計画的な推進を図るために設置された宇宙開発委員会の下に,1)社会的必要性及び国力との調和,2)自主性の確保,3)国際活動との調和,を基本方針として宇宙開発を推進している。実際の開発は,実利用の分野については宇宙開発事業団が,科学研究の分野については国立大学の共同利用機関である宇宙科学研究所が担当しており,さらに国立試験研究機関等において,ロケット,人工衛星及びその利用技術の研究が行われている。

我が国の宇宙開発は,東京大学による科学観測ロケットの開発を端緒として開始されたが,米国及びソ連に大きく立ち遅れた出発であった。しかし,昭和40年代に入って人工衛星の打上げに関する研究開発が活発化し,昭和45年に我が国初の人工衛星「おおすみ」が誕生し,ソ連,米国及びフランスに次いで世界で4番目の人工衛星打上げ国になって以来,今日までに24個の人工衛星が打ち上げられている。打上げ数では我が国は世界第3位になっているが,ソ連及び米国の両国で全世界の人工衛星の打上げ数の約96%を占めており,我が国との差はいまだに大きい。しかしながら,我が国においても,今後 第1-2-20図 に示すとおり,多くの人工衛星が打ち上げられる計画になっており,いよいよ宇宙開発の本格的な実用化時代を迎えようとしている。

これまでの我が国の宇宙開発関連技術について,その特色を概括的に把握するために,宇宙関連の輸出入を見ると, 第1-2-21図 から明らかなように,輸出ではほとんど全部を地上施設が占めているのに反して輸入の大部分をロケット,人工衛星等の飛翔体が占めている。世界で106か国が加盟しているインテルサット(国際電気通信衛星機構)用地球局設備の約3分の1が我が国で生産されたものであることによっても示されるように,衛星通信用地球局に代表される地上施設関連技術では,我が国の技術は世界最高水準に達しているが,飛翔体では,技術的蓄積がまだ十分であるとは言えない。

第1-2-21図 宇宙関連輸出入額の推移


ロケット技術

ロケットは,推進力を得るための方法によって分類されるが,現在人工衛星の打上げには,固体ロケット又は液体ロケットが用いられており,それぞれの特徴は 第1-2-22表 に示すとおりである。人工衛星の打上げに用いるロケットは,人工衛星をその目的に応じた軌道に高い精度で投入することが要求され,大型の人工衛星や静止衛星の打上げには,推進力が大きく,軌道投入精度の高い液体ロケットが主として用いられている。

我が国では,東京大学(現在は宇宙科学研究所)が,昭和30年のペンシルロケットの実験に始まる固体ロケットの研究開発を積み重ねており,我が国初の人工衛星「おおすみ」の打上げ以来これまでに12個の科学研究分野の衛星を鹿児島宇宙空間観測所から固体ロケットを用いて打ち上げている。また,昭和35年から科学技術庁は,人工衛星打上げ用ロケットの研究開発に固体ロケット及び液体ロケットの双方を対象として着手した。この研究開発の成果は,昭和44年に発足した宇宙開発事業団に引き継がれ,同事業団では,米国から技術導入を図りつつ,液体ロケットを中心とした研究開発を進めた。この結果開発されたN-Iロケット及びN-IIロケットにより我が国初の静止衛星ETS-II「きく2号」を含めて,これまでに9個の人工衛星が種子島宇宙センターから打ち上げられている。また,同事業団は,さらにロケットの高性能化を図るため,昭和56年度にH-Iロケットの開発を開始した。同ロケットは,第2段及び第3段推進系,誘導制御装置等大幅に我が国の自主技術を採用して開発されるものである。

第1-2-22表 固体ロケット及び液体ロケットの特徴

第1-2-23図 及び 第1-2-24表 は,世界の主な人工衛星打上げ用ロケットを示したものである。打上げ能力は,ロケットの総合的な性能を表す指標と考えられるが,世界的水準と比較すると我が国のロケットの打上げ能力は十分とは言えない。しかし,昭和60年度に試験飛行を行う予定のH-Iロケットは,重量約550kgの人工衛星を静止軌道に打ち上げることが可能であり,その成果が期待されている。

ロケットは,エンジン技術,誘導制御技術,構体技術等多くの要素技術に基づく総合的なシステムであるが,ここでは,我が国におけるエンジン技術及び誘導制御技術の動向を見ることにする。

まず,エンジンには固体ロケットエンジン及び液体ロケットエンジンがあり,我が国では現在のところ,科学研究の分野の衛星の打上げには前者が,実利用の分野の衛星の打上げには後者が用いられているが,ここでは液体ロケットエンジンを見ることにしよう。

昭和50年のETS-I「きく」の打上げ以来これまでに7個の人工衛星の打上げに用いられてきたN-Iロケットは,重量約130kgの人工衛星を静止軌道に打ち上げる能力を有している。このN-Iロケットの第2段推進系は,それまでの科学技術庁及び宇宙開発事業団の研究開発の成果を反映させて,自主技術によって開発された。N-Iロケット第2段推進系に用いられているエンジンは,LE-3エンジンと呼ばれ,真空中における推力及び比推力それぞれ5.44トン及び約290秒を達成した。比推力はロケットエンジンの性能を示す最も重要な指標で,数値が大きいほど性能が高い。 第1-2-25図 に各種の液体エンジンの比推力を示す。

液体酸素を酸化剤とし,液体水素を燃料として用いるエンジン(液酸液水エンジン)は, 第1-2-25図 からも明らかなような比推力が高いという利点を有しており,大型ロケット用の液体エンジンとして有望であると考えられており,スペースシャトルの主エンジンにも採用されている。このため,我が国においても,科学技術庁航空宇宙技術研究所及び宇宙開発事業団において昭和40年代後半から共同で研究が始められ,また,宇宙科学研究所(当時は東京大学宇宙航空研究所)においても液酸液水エンジンの研究が進められた。これらの研究開発の成果は,昭和60年代の大型衛星の打上げに対処するために宇宙開発事業団によって開発が進められているH-Iロケットの第2段推進系に用いるLE-5エンジンに反映されている。昭和55年度及び56年度には,LE-5エンジンの原型エンジン(機能確認を行うことを目的とした試験用エンジン)の燃焼試験が行われ,所要の性能が確認されており,57年度には実機型エンジン(実際のロケットに使用するものと同等の試験用エンジン)の燃焼試験が開始されている。この液酸液水エンジンについては,燃焼圧を高めエンジンの高性能化を図るための要素技術の研究が科学技術庁航空宇宙技術研究所において行われており,この研究は将来必要とされるロケットの性能向上に資するものと考えられている。

第1-2-23図 各国の主な人工衛星打上げ用ロケットの外観

第1-2-24表 世界の主な人工衛星打上げ用ロケット

第1-2-25図 各種液体ロケットエンジンの比推力

次に,ロケットの誘導制御に関しては,ロケットの姿勢を安定に保ち,進行方向及び速度を制御して人工衛星を所定の軌道に投入することがその目的である。このため,誘導制御システムは,次の機能を有している。

1) ロケットの位置と速度を求める。
2) 得られた情報を基に目標の位置,速度に達するために必要な飛行方向,所要速度を計算する。
3) 2)の結果に従ってロケットエンジンの噴射方向及び燃焼時間を変える。

以上の1)及び2)を誘導,3)を制御と呼び,誘導方式は,電波誘導方式と慣性誘導方式に大別できる。

N-Iロケットに採用されている電波誘導方式の場合, 第1-2-26図 に示すように前述の誘導が地上で行われるため,ロケットに搭載する装置は比較的単純になるが,ロケットが地上局から電波の届く範囲(可視範囲)内にある間しか制御が行えず,それ以後は内蔵のプログラム誘導装置によって制御されるため軌道の精度があまり高くない。このため,N-IIロケット及びH-Iロケットには慣性誘導方式が採用されている。

第1-2-26図 電波誘導方式の概念

慣性誘導方式は,ロケットに搭載した加速度計及びジャイロによって加速度及び姿勢角の変化を検出し,搭載コンピュータによってロケットの方位及び速度の修正量を計算する方式であって,地上からの制御を必要としない。

しかし,搭載する装置には電波誘導方式における搭載誘導装置と比べてはるかに高い機能・性能が要求され,かつ,ロケットの飛行環境に耐える必要がある。N-IIロケットには米国のデルタロケット用に開発された慣性誘導装置を用いているが,H-Iロケット用の慣性誘導装置は現在宇宙開発事業団の手において自主技術による開発が行われている。


人工衛星技術

人工衛星は, 第1-2-27表 に示すとおりいくつかのサブシステムから構成されるが,大きくは,個々の目的を達成するためのミッション機器及びミッション機器を安定に動作させたり外部環境から保護したりするためのバス機器に分けることができる。人工衛星は,通信,気象観測,地球観測,科学観測等個々の目的に応じた機能をもち,厳しい宇宙環境下で定められた期間安定に動作する必要があり,人工衛星の開発に当たっては,上に述べたサブシステムに高度な先端的技術を必要とするのに加えて,設計,組立,試験といった総合的な技術力が要求される。

我が国は,本格的な実利用分野の人工衛星の開発を米国,ソ連及びヨーロッパより遅れて開始したため,初期においては,米国から技術を導入し,その技術を消化吸収するとともに技術的蓄積を図り,自主技術の育成に努めてきた。この結果,最近我が国の人工衛星の国産化率は高まっている。例えば,昭和52年に打ち上げられたCS(実験用中容量静止通信衛星「さくら」)と現在開発中で昭和58年に打上げ予定のCS-2(通信衛星2号)は,ほぼ同規模同性能の人工衛星であり,CSは実験用として大幅に米国から技術導入を行って開発されたが,この技術的蓄積を背景にCS-2では6割以上国産化され,国内でも組立,試験を行えるまでになっている。このように,我が国は,着実に実績を積み重ね,自主技術を進展させてきており, 一部の技術については,インテルサットの国際通信用の人工衛星に採用されるようになっている。

第1-2-27表 人工衛星の構成要素

次に,広範な人工衛星技術の中で,あらゆる人工衛星に共通でかつ基盤的な姿勢制御技術を取り上げて,我が国の人工衛星技術の動向を見ることにしよう。

軌道上の人工衛星は,太陽風,地球の重力,地磁気等の影響にって姿勢がたえず変動する。この姿勢変動は次のような障害を起こす。

1) 人工衛星に搭載されている各種の観測機器及びアンテナの指向方向が所定の方向から外れる。
2) 衛星各部に電力を供給する太陽電池表面が効率良く太陽に照らされなくなる。
3) 衛星の軌道修正が困難になる。
4) 衛星の内部温度の変化が大きくなる。

したがって,何らかの手段により,人工衛星の姿勢の制御を行う必要がある。この方法には,大きく分けて 第1-2-28表 に示すとおりスピン安定方式及び三軸制御方式の2種類がある。 第1-2-29図に スピン安定方式及び三軸制御方式を用いた人工衛星の外観の例を示す。

第1-2-28表 姿勢制御方式の比較

第1-2-29図 スピン安定方式及び三軸制御方式の人工衛星の外観

スピン安定方式は,原理が簡単なところから内外の多くの人工衛星に採用されてきた姿勢制御方式である。

三軸制御方式は,1974年に打ち上げられた米国のATS-6(応用技術衛星6号)で初めて静止衛星に適用された比較的新しい技術であり,我が国における実績はいまだに少ないが,大電力が得られ,複雑なアンテナシステムを搭載できるなどの利点から,国際的には近年各種の人工衛星に取り入れられるようになり,特にヨーロッパにおいては最近の人工衛星の主流になっている。

我が国においては,昭和53年に打ち上げられ,約3年半にわたって静止軌道上で運用されて大きな成果をあげたBS「ゆり」,昭和57年9月に打ち上げられたETS-III「きく4号」,現在開発が進められているBS-2(放送衛星2号)及びMOS-1(海洋観測衛星1号)に三軸制御方式が採用されている。三軸姿勢制御技術は極めて高度な技術であり,これらの人工衛星の開発を通して導入技術の消化吸収が図られるとともに将来の大型の人工衛星に必要となる三軸制御方式における自主技術の確立に向けてジャイロ,ホイール等の要素技術に関する研究,大型の太陽電池パネル等を備えた人工衛星の姿勢制御に関する研究等が科学技術庁航空宇宙技術研究所及び宇宙開発事業団において進められている。

以上のように,欧米先進国に遅れて宇宙開発に着手した我が国も,ロケット技術,人工衛星技術のそれぞれにおいて成果をあげつつあるが,いまだに外国からの導入技術によるところも多い。宇宙開発は,自然科学の発展に大きな効果を及ぼすとともに,通信,放送,気象観測,地球観測など生活環境の改善や文化の向上,あるいは産業経済の発展に画期的な利益をもたらすものである。我が国は,今後も自主技術の開発を目指して研究開発を積極的に進めるとともに,ますます活発化すると見られる宇宙開発分野における国際協力に積極的に参画していく必要がある。


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