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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第2章  自主技術開発への展開
第3節  先導的・基盤的科学技術分野における自主技術開発の展開
1.  核融合


エネルギーは社会・経済活動に不可欠であり,安定したエネルギー源の確保は我々にとって最大の課題の一つである。

核融合反応の利用は,その主体となる燃料が海水中から取得でき,実用化された時点には半永久的なエネルギー供給が可能となるため,人類の未来を担う究極のエネルギー源として実用化が期待されている。しかし,後述するように,その実現のためには,技術的に克服しなければならない困難な課題が多く,世界の最先端の科学技術を結集する必要がある。また,研究開発の段階から,装置の規模も大きく,莫大な資金を要するため,国際的な共同研究開発が必要であり,既に我が国を含め大がかりな共同プロジェクトが実施されている。一方,核融合研究開発の過程で得られた高度な科学技術上の成果が,他の分野の新たな発展をもたらすという副次的な効果も期待されている。


(核融合研究開発の概要)

核融合反応は,水素,重水素,三重水素,ヘリウム等をはじめとする比較的原子量の小さい,つまり軽い原子核同志が互いに融合し,より原子量の大きい原子核に変わり,同時にエネルギーを放出する反応である。例えば,同数の重水素と三重水素を混合した燃料1gが核融合反応によって発生するエネルギーは,約8klの石油を燃焼して得られるエネルギーにほぼ等しく,約5gのウランの核分裂反応によって発生するエネルギーにほぼ等しい。

核融合反応によってエネルギーが放出されている最も身近な例は太陽である。太陽の中心部では,約2,000万度の高温,約150g/cm3 の高密度の下で,水素やヘリウムの原子核が絶えず反応してエネルギーを放出している。地上で核融合反応を利用する場合にも,燃料物質を一定の空間に閉じ込めておく必要があるが,このとき温度及び密度が高く,閉じ込め時間が長いほど核融合反応によって得られるエネルギーの量が大きくなる。そして,理論的に必要とされる温度は約1億度から数億度であり,このような超高温においては,物質はプラズマ状態となって金属等の通常の容器に閉じ込めることは全く不可能となる。そこで後で述べるように,磁場のエネルギー等によって閉じ込める方法が研究されている。将来,核融合をエネルギー源として実用化するためには,プラズマの閉じ込めや加熱のための入力エネルギーに比べて,反応によって発生する出力エネルギーの方が大きい,という条件を満たす必要がある。そして,当面の目標として, 第1-2-12図 に示すように必要とされる温度が比較的低く,したがって上記入力エネルギーが比較的小さい重水素(D)と三重水素(T)との間の核融合反応,すなわちD-T反応の実現を目指した研究開発が行われている。

核融合炉の実現に必要な技術は,炉心技術と炉工学技術の二つに大別することができる。炉心技術とは,燃料物質を安定に閉じ込め,核融合反応を起こす技術である。一方,炉工学技術とは,材料や装置の耐久性・経済性の向上,燃料の製造・補給,発生したエネルギーの取り出し等に必要な技術である。

第1-2-12図 燃料物質の組合せと核融合反応の生じやすさ

これまでの我が国の核融合研究は,主に炉心技術に重点を置いて進められてきた。すなわち,昭和30年代の大学を中心とするプラズマの物理現象の解明に重点を置いた諸研究に端を発し,昭和43年には日本原子力研究所が中心となって核融合研究の総合的推進を図るため,原子力委員会によって「核融合研究開発基本計画」が策定された。同計画に基づいて昭和44年から49年にかけて実施された研究開発が我が国の核融合研究開発の第一段階である。この段階の目標であった数百万度台のプラズマの安定な閉じ込めは,日本原子力研究所のJFT-2トカマク装置により達成され,国際的にも評価される成果をあげることができた。現在は昭和50年に策定された「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づく研究開発の途上にある。

この基本計画は,1)核融合実現の前提となる臨界プラズマ条件(後述)の達成を目指したトカマク型の臨界プラズマ試験装置の開発を主目標とすると同時に,2)プラズマ閉じ込めの効率化を目指す非円形断面トーラス磁場装置や高ベータプラズマに関する研究開発,さらには3)核融合炉の開発等に必要な超電導技術,三重水素取扱い技術,材料技術等の炉工学技術について研究開発を行い,第三段階以降の研究開発に反映させることを目標としており,同計画に沿って日本原子力研究所,国立試験研究機関等において研究開発が実施されている。また,同計画との整合性を図りつつ,ミラー,ステラレータ,ヘリオトロン,レーザ等の新しい可能性を求める閉じ込め方式に関する基礎研究が大学等で実施されている。

炉工学技術についての研究開発は,臨界プラズマ条件の見通しが得られるのに伴い,研究開発に長期間を要する課題から順次着手されつつある。

以下では炉心技術と炉工学技術の現状と今後の方向について我が国の状況を中心に見てみよう。


炉心技術

現在研究開発の対象となっているプラズマ閉じ込め方式は 第1-2-13表 のとおりである。ここでは,磁場閉じ込め方式及び慣性閉じ込め方式の両方式について,概要と主な研究成果について述べる。

第1-2-13表 現在研究されているプラズマ閉じ込めの各方式

この方式は,プラズマを構成する原子核及び電子と外部から与えた強力な磁場との間に働く電磁気力により,プラズマを限られた空間に閉じ込める方式である。磁場閉じ込め方式は,装置の形状,細部の原理等により, 第1-2-13表 に示すとおり多くの形式に分類できるが,それぞれ長所短所を有している。

ここでは,これらの中から,世界的に見て最も大規模な研究開発計画が進行し,核融合炉の実現に最も近い成果をあげつつあるトカマク型を中心として,研究開発の現状について述べる。

トカマク型は,ソ連の研究者によって提案された 第1-2-14図 に示すような方式で,他の磁場閉じ込め方式に比べ,構造が比較的簡単で,小型装置による基礎段階の実験が容易なため,これまで磁場閉じ込め方式の主力として研究が進められてきた。

第1-2-14図 トカマク型の概念


第1-2-15表 トカマク型装置による主な成果と我が国炉心技術の水準

我が国は,これまでにTNT-A,JFT-2,JFT-2a,さらにエネルギー研究開発に関する日米協定(昭和54年5月締結)に基づく米国のダブレットーIII装置による共同研究等により世界でも有数の成果を得,世界のトカマク研究の発展に貢献してきている。

主な成果を 第1-2-15表 に示す。同表に掲げるデータのうち,β値はプラズマ閉じ込めの効率を示す指標であり,β値が高ければ,同じ強さの磁場でより多くのプラズマを閉じ込めることができ,装置の小型化や建設費の低減に貢献することになる。β値を上昇させるためには,高度なプラズマ制御が不可欠である。この意味で昭和57年8月に,日米協力によるダブレットーIII研究において我が国研究チームが達成したβ値4.6%は,トカマク型として従来の3.5%を大幅に上回る世界的なデータであり,トカマク型が閉じ込め原理の実証の段階から次の段階へ移りつつあることを示すものとして特筆に値しよう。また同表から分かるように,プラズマ中心温度では世界の水準に及ばないものの,プラズマ平均密度では世界の最高水準にある等,ここ数年の間にトカマク型による我が国の炉心技術は急速に進歩し,全体として世界的水準に達している。

トカマク以外の方式では,ステラレータ方式やヘリオトロン方式における無電流プラズマの安定な閉じ込め,タンデムミラー方式における静電ポテンシャルの形成,ピンチ方式による高βプラズマの実現等の成果をあげ,閉じ込め原理の実証,炉心技術の発展に貢献している。


(慣性閉じ込め方式)

この方式では,磁場閉じ込め方式に比べて,極めて高いプラズマの密度が要求される。これを達成するためには, 第1-2-16図 に示すように,レーザ等の駆動装置を用いて,燃料物質を封入した微小な球体にエネルギーを集中させ,圧縮・加熱をする必要がある。この時,高圧・高温となったプラズマは,その圧力によって拡大を始めるが,慣性のために,拡大を始めるまでにわずかの時間を要する。この極めて短い時間を利用して核融合反応を達成しようというわけである。

我が国では,大阪大学を中心に,駆動装置である大出力ガラスレーザ,ガスレーザ,イオンビーム,電子ビーム等の研究が進められている。臨界条件(後述)を達成するために必要とされる駆動装置の出力は約100キロジュール(kJ)であるが,現在のところ,我が国では20kJ級レーザの建設が進められており,既に100kJ級レーザの建設を行っている米国にはやや遅れをとっている。

第1-2-16図 慣性核融合の概念


(炉心技術の今後の方向)

現在,我が国核融合研究は臨界プラズマ条件の達成を目指すJT-60トカマク試験装置建設の最終段階に入っている。臨界プラズマ条件は,炉心におけるプラズマの加熱のための入力エネルギーと,核融合反応による出力エネルギーとが等しいようなプラズマ条件を言う。具体的にはD-T反応の場合,プラズマ温度は約1億度(約10keV),密度は約1020 個/m3 ,閉じ込め時間は約1秒という条件である。上記出力エネルギーと入カエネルギーとの比をエネルギー増倍率と呼ぶが, 第1-2-17図 はトカマク型による炉心技術の進歩を,エネルギー増倍率の観点からとらえたものである。これによれば,臨界プラズマ条件,すなわちエネルギー増倍率=1は,将来の核融合炉条件,つまり約2億度,約1020 個/m3 ,約2秒の達成までに必ず超えなければならない値であり,トカマク型によって核融合炉が実現できるという見通しを示すデータであることが分かる。

第1-2-17図 トカマク装置によるエネルギー増倍率の推移

JT-60装置の運転開始予定は,現段階では昭和60年となっているが,その後2〜3年のうちに臨界プラズマ条件を達成する見通しであり,同じく1980年代半ば以降の臨界プラズマ条件達成を目指す三つの装置,つまり米国のTFTR,欧州共同体(EC)のJET及びソ連のT-15と並んで世界の4大トカマクと呼ばれている。JT-60が臨界プラズマ条件を達成することにより,我が国炉心技術が世界の最先端に達すると言えよう。

我が国では,JT-60装置に続く次段階の装置について,昭和57年6月の原子力委員会「原子力開発利用長期計画」の中で具体的な目標を掲げている。これによれば,「実験炉」と仮称される次段階装置は,昭和70年代初頭を目標として,D-T反応の核融合炉条件を達成するとともに,基本的な炉工学技術の確立を図ることとしている。また,実験炉の形式としては,現段階ではトカマク型を想定するのが妥当であること,及びトカマク以外の方式については研究を促進し,それらが臨界プラズマ条件達成の見通しを示し,炉として構想できると判断されるようになった段階でトカマクとの比較検討を行うこととしている。


炉工学技術

先進各国は,数年前から炉工学技術の本格的な研究開発を開始し,近年の炉心技術の進展を反映して精力的に推進している。炉工学技術の主な要素は 第1-2-18表 に示すとおりである。

まず,超電導磁石を用いた磁場発生技術は,核融合炉のエネルギー効率の向上に欠くことのできない技術であるが,我が国はこの分野で,実質的に世界の水準に近いところまで達している。また,この技術に関しては,近く国際エネルギー機関(IEA)の共同研究の課題の一つとして大型コイル試験が開始される。これについては,我が国も参加国の一つとして1個のコイルの製作を分担している。

次にプラズマ加熱技術は,磁場内に閉じ込めたプラズマを,核融合反応に必要な温度まで追加的に加熱する技術である。 第1-2-18表 に示すとおり我が国は世界で最も高い水準にある。

一方,炉構造材料は,核融合反応によって発生する高エネルギーの中性子にさらされても強度が劣化しないような材料でなければならない。この分野で我が国は,材料自体の研究開発については世界的水準にあるものの,中性子照射下の研究は欧米先進国に立ち遅れている。また,この分野については,現在,エネルギー研究開発に関する日米協定の下で協力が行われている。

第1-2-18表 炉工学技術の現状

また,三重水素技術は実際の核融合炉を運転する際の燃料を確保するために欠かせない技術であるが,我が国は技術的蓄積が少なく,これから組織的な研究を進めようとしている段階であり,欧米先進国に比べて最も立ち遅れている分野である。

そのほか,炉設計技術も重要な炉工学技術の一つである。これを定量的に水準比較することは困難であるが,一般に我が国の水準は高いと考えられている。

我が国の炉工学技術は,一部世界的水準に達している分野もあるものの,総合的には欧米先進国にやや立ち遅れており,核融合炉実現までには一層の努力を積み重ねる必要があると言えよう。

我が国の核融合研究は,炉心技術については欧米先進国と比肩できる水準に達しているが,炉工学技術については立ち遅れている面が強い。JT-60装置による臨界プラズマ条件の達成が核融合炉実現までの重要な里程標となることを考えても,これからは炉工学技術の一層の展開が期待される。原子力委員会の長期計画においても,実験炉による核融合条件の達成に伴う基本的な炉工学技術の確立に加え,材料技術,三重水素生産・取扱い技術,遠隔保守技術及び安全性・信頼性・耐久性・安定性の向上のための研究開発が不可欠であることが強調されている。

以上述べたとおり,核融合の実現までには,解決しなければならない技術的課題も多く,長い年月を必要とする。我が国が今後世界の科学技術分野での先進国の一員として核融合研究を展開していくに当たっては,鍵となる最も基本的な技術については自主開発を原則としなければならないが,そのほかの技術については,1)各国で得た知見を収集,検討,評価し,相互に利用することによって研究基盤を拡充・強化できる,2)開発資金の低減化と,開発に伴うリスクの分散が可能となる,3)国際社会における我が国の責任を果たすといった観点から,今後とも国際協力を積極的に進めていく必要がある。


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