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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第1章  科学技術の成果とその特徴
第4節  我が国科学技術の特徴とそれをもたらした背景


我が国の科学技術の特徴について,これまでは科学技術活動の実態に即した諸指標を用いて分析したが,ここでは,民間の技術開発関係者に対する意識調査結果に基づいて検討してみよう。 第1-1-38図 は,我が国が現在の技術水準に到達できた理由について,製品の品質・性能にかかわる製品技術,生産工程にかかわる生産技術に分けて民間企業の専門家がどのように考えているかを示したものである。これによれば,原型が欧米にあったものも含めて,何らかの形で海外に技術を依存している度合が大きく,我が国の技術水準の向上には海外からの導入技術がかなり大きな比重を占めていることが分かる。

次に,我が国における技術革新の性格を民間企業はどのように考えているのであろうか。昭和50年代前半における技術革新の我が国の産業への寄与を,生産工程の革新(プロセス・イノベーション),製品の品質・性能上の革新(プロダクト・イノベーション)及び経営管理上の革新(マネジメントイノベーション)に分けて見ると, 第1-1-39図 に見られるとおり,総合的には,既存技術・製品の改良,生産工程の改善によるプロセス・イノベーションによるところが大きく,技術革新の核をなすと言われるプロダクト・イノベーションの比重が小さかったことが分かる。このことは, 第1-1-38図 に見られるように,生産技術よりも製品技術において海外の技術に依存する度合が大きいこととも関連するものであろう。

第1-1-38図 現在の我が国の技術水準に到達できた理由

さらに,画期的・独創的研究の水準について,民間の技術開発担当経営者に対するアンケート調査(新技術開発事業団委託調査「独創的技術開発のための基礎研究のあり方に関するアンケート調査(昭和55年7月実施)」)で見ると,アンケート対象者全体の約4分の3は欧米先進国に比べて立ち遅れていると考えている。

以上のように,民間の技術開発関係者の意識においても,前節までに述べたような我が国の科学技術の特徴が明らかに現れている。

第1-1-39図 昭和50年代前半における技術革新(イノベーション) の企業経営への寄与

それでは,我が国のこのような特徴をもたらした背景,特に創造的自主技術開発の点で劣っている原因は何であったのかを見ることとする。

第1-1-40図 は,前述の民間企業の技術開発担当経営者が,我が国が欧米先進国と比べて画期的・独創的研究で劣ると考えている理由を挙げたものである。

この中で最も割合の大きいのが,「すでに海外に導入可能な技術が多く,とくに創造的研究を行う必要がなかった」という理由である。このことは,我が国が欧米先進国に追いつくことを目標に技術輸入を活発に行い,この導入技術を基本に技術開発を進めてきたことを明瞭に表している。このような技術導入を基本にした発展が可能であった結果,特に創造的研究を行う必要がなかったことになったと考えられる。

また,企業自体に関することとして,「画期的・独創的研究の核となる基礎研究に力を注がなかった」ことが大きな理由として挙げられている。画期的・独創的研究に基づく新しい原理による独創的な技術革新により次々と新製品を生み出していけば,市場での優位性が保てることは明らかであるが,このような結果をもたらすためには,幅広い地道な基礎研究を長期にわたって積み重ねていくことが必要である。ところが,我が国においては,短期的な効率性を追及し,前記の理由に結びついてこのような基礎研究に重点がおかれなかったものと考えられる。このことは,「独創性を適切に評価する姿勢がなかった」という理由や「長期的視野に欠けていた」という理由とも関連するものである。

第1-1-40図 我が国が画期的・独創的研究において劣る理由

さらに,「我が国の文化・風土が独創性の発揮に適していなかった」ことが挙げられている。創造性そのものについてはこのような風土論・人種論的な観点からの議論がよく行われている。これを我が国の科学技術の発展の経緯から解釈すれば,短期的効率性を重視する余り,技術をその芽の段階から育てることよりも技術導入を選択し,個人の独創的なアイデアを尊重しこれを育てあげていくよりも,目標の定まったものを組織力・集団力によって達成するというパターンをとり,結果的に独創性・個性を軽視する,あるいは,地道な基礎研究をなおざりにする風潮を生んだと言うことができよう。

このほかの大きな理由として,「政府の科学技術政策がこの種の研究を支援しなかった」ことが挙げられている。政府は従来から大学,国立研究機関等において基礎研究や先導的・基盤的科学技術等政府自らが推進しなければならない分野の研究開発を実施してきているが,ここに挙げられている理由の趣旨は,革新技術をその芽の段階から育てるため民間企業の創造的な研究開発能力を引き出すような政策的支援を民間が求めているということであろう。

以上,本章では,我が国の科学技術活動の実態に即した科学技術成果を示す諸指標及び若干の意識調査結果を用いて分析してきたが,それをまとめると次のようになろう。

すなわち,我が国の科学技術は,欧米先進国に追いつくことを目標に,基本的な技術を外国から導入するという導入技術依存型の形態をとりつつも,これを基盤に生産面で多彩な能力を発揮することによって,技術水準を向上させてきたが,創造的な自主技術開発という点では遅れていると言うことができよう。また,このような我が国の科学技術の特徴をもたらした背景は,基本的には海外から導入可能な基本的な技術が豊富に存在し,かつ比較的容易にこれらを導入することができたことであり,このことが結局は創造的自主技術開発の面で我が国が欧米先進国に劣っている原因につながっていると言うことができよう。

しかし,我が国の科学技術を取り巻く環境は,後で述べるように,変化しつつあり,また,今後は,従来の優れた特徴を生かしつつも創造性豊かな科学技術の展開を図る必要があることを考えるとき,上述のような画期的・独創的研究の推進を阻害している種々の原因に十分配慮することが必要となってくる。


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