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第1部   創造性豊かな科学技術を求めて
第1章  科学技術の成果とその特徴
第1節  技術革新の進展
1.  技術革新の進展とその成果


技術革新が社会・経済の発展に大きく寄与してきたことは疑いのないところである。例えば,我々の生活に密接なかかわりをもつ食糧生産及び医療において,技術革新がどのように貢献してきたかを見てみよう。

我が国の食糧生産を担う農業においては,優良品種の育成,肥料,農薬,農業機械の開発及び栽培管理技術の向上などが積極的に行われて,生産を高めてきた。例えば,水稲について見ると,良質多収品種の育成に加えて,果温折衷苗代,合理的な施肥技術,外国で生まれその後国産化されたDDT,BHC等の農薬を用いた病害虫の防除技術等一連の研究開発及びその成果の普及によって生産性は大きく向上してきた。また,終戦直後に米国から輸入され,昭和25年に国産化に成功した2-4Dに始まる除草剤の普及による除草時間の大幅な短縮及び耕うん機,田植機,収穫機等の農業機械の開発・普及によって省力化が大幅に進んだ。これらの結果,10アール当たりの水稲の収穫量は,昭和20年代から今日までに,300〜350kg水準から470〜480kg水準に増加し,一方,労働時間は同じ期間に約3分の1に短縮しており,農業技術の革新による効果がよく現れている。

医療においては,疾病の予防,早期発見及び早期治療がその大きな目標である。終戦直後に爆発的に流行した発疹チフス,痘そう等の伝染病は,予防接種の実施や伝染病を媒介するしらみ等の駆除に著しい効果をあげたDDTの国産化などにより,昭和20年代の後半にほぼ鎮静化した。また,抗生物質は治療上大きな効果をあげた。イギリスで生まれたペニシリンや米国で生まれたストレプトマイシンは,昭和20年代の後半に入って本格的な国内生産が開始され,また,我が国においても抗生物質に関する研究開発が活発化し,カナマイシンなど国際的にも優秀性が認められたものを自主開発するまでになった。この結果,診断技術の進歩及び衛生思想の普及とあいまって,戦前から終戦直後にかけて我が国の三大疾患であった「全結核」,「肺炎及び気管支炎」及び「胃腸炎」の死亡率が急激に低下し,老衰の死亡率を下回るまでになっている。近年では,X線を用いたCT(断層像撮影装置)に代表される医療用電子技術が急速に発達し,がん,心臓病等の早期発見などに威力を発揮している。これらの医療技術の進歩により,長い間我々を苦しませてきた疾病のいくつかを克服しつつある。

このように,技術革新は様々な分野で我々の生活に直接影響を及ぼしているが,以下においては,特に工業生産技術を例にとって見ることにする。

まず,技術進歩が製造業の生産の伸びにどの程度寄与するものかを定量的に見た一つの事例を 第1-1-1図 に示す。これによれば,昭和30年から54年

の間に製造業の生産は12倍弱に増加しており,この伸びに占める技術進歩の寄与度は約30%とかなり高い役割を果たしている。特に加工組立型産業の典型である機械工業において,技術進歩の寄与度が極めて高いことが分かる。

それではこうした技術の進歩はどのように経済面の成果として現れているのであろうか。近年の我が国経済の発展の様子を製造品出荷額の業種別構成比の推移で見ると ,第1-1-2図 に示すとおり昭和40年代に産業の重化学工業化が推進され,とりわけ加工組立型産業の相対的地位が高まっている。

第1-1-1図 生産に対する技術進歩の寄与度

この傾向は,我が国の輸出構造を見るとより明白である。我が国の輸出額の業種別構成の推移を表した 第1-1-3図 によれば,昭和30年代後半から40年代末にかけて重化学工業比率の著しい伸びが明らかであり,この主たる原因は加工組立型産業の伸びにあると言えよう。

第1-1-2図 製造品出荷額の業種別構成比の推移

第1-1-3図 我が国の輸出構造の変化(金額ベース)

このように我が国では,生産面でも輸出面でも,製品の高付加価値化が図りやすいと言われる加工組立型産業の相対的な比重が高まっており,技術進歩の成果が着実に経済面に結びつき,我が国の経済の発展と国際競争力の強化に貢献してきたと考えられる。

ところで,我が国の国際競争力が強くなった要因としては種々考えられるが,そのうちで最大のものとして欧米諸国をしのぐ急激な生産性の向上を挙げることができる。

例えば,製造業の生産性上昇率について日本,米国及び西ドイツを比較してみると, 第1-1-4表 に示すように我が国の生産性の上昇率が際立って高いことが明らかである。また,日米両国の製造業の生産性水準を比較してみても, 第1-1-5図 に示すとおり急速に格差を縮め,1980年には製造業全体での生産性水準が米国の約7割に達している。また,我が国の競争力が強いと言われている鉄鋼,自動車及び電気機械においては,既に米国の水準と同等あるいはそれを上回るようになっている。

第1-1-4表 製造業の生産性上昇率の比較

第1-1-5図 日米製造業の生産性水準の比較(人・時当たりの米国の水準を100とした時の日本の水準指数)

この生産性の向上は,積極的な設備投資が可能であったこと等様々な要因によりもたらされたものと考えられるが,大きな要因として生産技術水準自体の向上が挙げられよう。我が国において高い生産技術水準を達成し得たのは,基盤的な技術を外国からの技術導入に依り,これを応用,改良して製品の生産をいかに効率よく低コストで行うかに研究開発努力を集中したためと言われている。

すなわち,技術面から見れば,我が国においては生産工程の合理化等によって量産型産業の生産性の向上を図り,国際競争力を強化してきたと言えるだろう。

次に,こうした技術の進歩が生産性の向上に結びつき,競争力の強化に貢献してきている具体的な様子を,特にその効果が強く現れている鉄鋼業,自動車工業及び半導体工業の三つの産業を取り上げて見ることにする。


(1) 鉄鋼業

我が国の鉄鋼業は,現在では設備,製造コスト,品質,技術力等で世界の最高水準にあり国際競争力でも抜きんでていると言われている。

この鉄鋼業の急成長の様子を生産面及び貿易面から見てみよう。 第1-1-6図 は主要国の粗鋼生産量の推移を示したものであるが,我が国の生産量の伸びは著しく,高度経済成長を支える大きな要因であった。主要国と比べても,1964年には西ドイツを追い越し,1980年には米国をしのぐほどの粗鋼生産高を上げている。

第1-1-6図 主要国の粗鋼生産量の推移

また, 第1-1-7図 は,我が国の鉄鋼輸出の推移を金額及び量で示したものである。昭和40年代に輸出額及び輸出量とも急速に増加しているが,石油危機による停滞の後は,輸出量が減少しているのに反し輸出額はかなり急速に増加している。これは,輸出額の伸びが石油危機以前は安価な量産製品の量的な伸びに依存していたが,近年では製品の多様化,高付加価値化等の質的な向上の比重が高まってきたためと考えられる。

このような我が国における鉄鋼業の急成長を支えてきた要因には種々あろうが,その中でも鉄鋼技術の水準の向上を大きな要因として挙げることができる。

第1-1-7図 我が国の鉄鋼輸出の推移

我が国の民間企業に対する調査(経済企画庁「企業活動に関するアンケート調査(昭和57年1月実施)」)によれば,鉄鋼業の技術水準について7割以上が日本企業は欧米企業より進んでいると回答しており,我が国の技術水準の高さを表している。しかし,新技術,新製品を生み出す潜在力である技術開発力水準については,日本企業はほぼ欧米並みとの結果になっている。

それでは我が国の鉄鋼業が技術水準を高め,発展してきた様子を見ることとする。

我が国の鉄鋼業が終戦時の壊滅的な状態から復興のきっかけをつかんだのは,石油・石炭等のエネルギー源の優先割当て,資金の重点融資等の「傾斜生産方式」によるところが大であったが,米国の技術指導をはじめ昭和20年代後半から次々と導入された欧米の先進技術によるところも大きかったと言えよう。

昭和26年には圧延設備の近代化を主な内容とした第1次合理化計画が始まり,鋼塊から長い帯状の鋼板を製造するストリップミル方式の技術が同年に米国から導入されたのをはじめ,最先端の設備,技術が積極的に導入された。これにより圧延部門の生産性は大幅に向上した。ストリップミルの技術はその後国産化が進み,高品質の鋼板を生み出すことにより自動車,家庭電気製品等の品質向上に大きく寄与している。

昭和31年には,製銑工程から圧延工程までの一貫設備を新設し生産能力の拡大を図る第2次合理化計画が始まったが,この時期に注目されるのは,LD転炉(酸素上吹転炉)製鋼技術の導入である。

LD転炉製鋼法は,転炉において純酸素を上から吹き付けて鋼を精錬する技術であり,1953年にオーストリアで工業化され,1957年に我が国に導入された。LD転炉の特徴は,従来の平炉に比べ燃料消費が少ない等省エネルギー効果が大きいことである。加えて鉄くずの使用量が少なく,大量処理が可能である等の優れた性能を有している。このため,導入技術に改良が加えられながら 第1-1-8図 に示すように昭和30年代後半に積極的に製鋼工程に取り入れられ,我が国鉄鋼業の生産効率の上昇に大きく貢献してきた。昭和37年には,LD転炉の一酸化炭素を主成分とする廃ガスを回収し,環境汚染を防止するとともに気体燃料又は合成化学原料として使用することができる転炉廃ガス回収装置(OG法)が我が国で開発された。このOG法は欧米先進国からも注目され,米国,イギリス等に技術輸出されている。

第1-1-8図 我が国の製鋼法別生産構成の推移

昭和30年代の後半には,大規模かつ高性能の新立地一貫製鉄所の建設が進み,鉄鋼の生産量は飛躍的に伸びた。また,この間に,海外依存度の高い鉄鉱石,原料炭等の有効利用及び高炉の高能率操業を図るため,鉱石の事前処理,高圧操業,重油,タールなどの燃料吹込み,酸素富化,高温・調湿送風等が次々と進められた。この結果, 第1-1-9図 に示すとおり,出銑比(高炉内容積1m3 当たりの1日の出銑量)が増加し,逆に燃料比(銑鉄1トンの生産に要する燃料消費量)は低下した。近年では,この出銑比,燃料比ともに我が国は世界最高水準になっている。

鉄鋼技術の上で,連続鋳造法の導入は大きな位置を占めている。連続鋳造法は,転炉等で製錬された溶鋼から直接連続的に鋼片を作る技術であり,昭和30年には我が国に技術導入されていたが,生産性,品質,設備費等の解決すべき点があり,普及は遅かった。しかし,この技術は最終鋼材生産量と所要鋼塊量との比率である鋼材歩留りの向上,作業の機械化,省力化が図れる上,省エネルギーであるという特長を有していた。このため,上述の問題点を解決するための研究開発が行われ, 第1-1-10図 に示すように昭和40年代後半から急速に普及し,昭和47年には世界に先駆けて全連続鋳造法による一貫製鉄所が我が国に建設された。我が国の連続鋳造比率は,1981年には約60%になり,米国の約20%,イギリスの約27%,フランスの約41%,西ドイツの約45%等主要先進国に比べて高い水準にあり,我が国の鉄鋼業の国際競争力が強い要因の一つになっている。

第1-1-9図 高炉の生産性の推移

第1-1-10図 連続鋳造比率と鋼材歩留り

以上のように我が国の鉄鋼業は,終戦直後の壊滅的状態からストリップミル,LD転炉に代表される技術を欧米から導入し,生産性を向上させるとともに独自の技術を培い,さらに石油危機を契機として省エネルギー化に努め,今日では世界最高水準に位置するまでになっており,技術集約化した高い品質の製品群により強い競争力を維持している。


(2) 自動車工業

我が国の自動車工業は戦後急速な発展を遂げ,今や小型車の分野では世界の最先端の技術水準と競争力を有していると言われている。自動車工業の成長の様子を生産面及び貿易面から見てみると,まず自動車の生産台数は, 第1-1-11図 に示すように,1960年代半ばに欧州諸国を上回り,1980年には米国を上回るようになっている。また,自動車の輸出台数について見ると, 第1-1-12図 に示すように1970年代半ばから世界第1位になっている。

第1-1-11図 主要国自動車生産台数

それでは,我が国の自動車工業の技術水準はどの程度であろうか。前出の我が国民間企業に対する調査によれば,自動車工業の技術水準について,約4割が日本企業の方が欧米企業よりややまさっていると回答しており,欧米企業並みとの回答と合わせると約9割にもなっている。しかし技術開発力水準については欧米企業より遅れているとの回答が約4割もある。すなわち,我が国の自動車工業が,導入技術を中心に研究開発に努めた結果,欧米企業を上回るほどの技術水準となったが,自主技術開発面から見ると依然として問題が残されていることを反映した結果と言えよう。

第1-1-12図 主要国の自動車輸出台数

次に,我が国の自動車工業が技術水準を高め,発展してきた様子を見ることとする。

自動車の基本的技術や大量生産技術は,我が国に自動車工業が誕生する以前から欧米において確立していたため,我が国の自動車技術のほとんどはその基本を外国からの導入技術によっており,それを応用,改良してきたものと言えよう。特に戦後の外国企業との技術提携や最新鋭外国設備の導入により我が国の技術水準は大幅に向上したと考えられる。

しかし,自動車技術は多くの個別技術を集大成した総合技術であるため,我が国の国情や市場ニーズに対応した独自の技術開発も数多く行われ,この成果が現在の日本車の競争力の強さの一つの背景となっていると言えよう。

生産技術の面では,我が国の自動車工業は内外の市場で激しい競争下に置かれてきたため,積極的な技術開発,新技術に対する惜しみない設備投資,生産方式の改善等により生産性の向上が図られた。

また,我が国はエネルギーの海外依存度が高くエネルギーコストが割高なため,石油危機後は重点的に生産工程における省エネルギー対策が積み重ねられてきている。具体的には各工程において 第1-1-13表 に示すような対策が講じられており,こうした努力の結果,我が国の自動車生産工場が使用するエネルギーは, 第1-1-14図 に示すように徐々に低減されている。

さらに,生産工程の自動化も進められてきているが,特に近年は急速なエレクトロニクス技術の発達を背景とした生産技術の進歩が生産工程に生かされている。例えば,コンピュータによる設計はより合理的で信頼性の高い車体やエンジンの生産を可能とし,また,エレクトロニクス機器による製造工程の自動化は生産性の向上に大きく寄与しており,我が国自動車工業の競争力の強さの大きな要因として世界中から注目されている。特に,産業用ロボットは内外の産業の中で我が国の自動車工業において最も積極的に導入されており,溶接,塗装,組立工程等に大幅に用いられている。

第1-1-13表 自動車製造段階での省エネルギー対策例

第1-1-14図 自動車製造工程における省エネルギー(自動車生産工場におけるエネルギーの原単位の推移)

一方,製品の品質,性能にかかわる製品技術の面では,近年,低燃費化及び低公害化への要請に対応する技術が重視されるようになってきた。

石油危機を契機として省エネルギー対策の重要性が高まり,自動車の小型化とともに自動車自体の燃費性能の向上が要求されるようになってきた。自動車の小型化技術は,単にサイズを縮める技術ではない。大型車と同等の機能,性能を小型の車体で実現するためには,極力無駄を省く合理的な設計技術や製造技術が必要であり,また,コスト低減も大型車とは比較にならないくらい厳密に追求しなければならない。我が国では,エネルギー事情,道路事情などにより早くから小型で燃費の良い自動車の開発に力を入れており,この技術的蓄積により我が国の自動車小型化技術は高い水準にあり,近年の世界的な小型車指向の中で優位に立つことができたものと言えよう。

自動車自体の燃費の向上には,大きく分けてエンジンの効率の向上,車体の軽量化及び走行抵抗の低減の三つの方向がある。このうちエンジンについては,排出ガス規制等に対応した研究開発が進むなかで大幅な省エネルギー化が図られている。また軽量化については,ヨーロッパで普及している自動車のFF(前置エンジン,前輪駆動)化とともに軽量材料の利用が図られている。例えば,高張力鋼板,アルミニウム,プラスチックス等の加工技術の向上,特性の向上が推進され,さらに米国で航空機の設計用に開発されたコンピュータ利用による合理的な設計技術が車体設計に応用されている。さらに走行抵抗の低減には,空気抵抗の小さいデザインへの変更やタイヤの改良によるころがり摩擦の減少等の技術開発が推進されている。

こうした燃費向上のための積極的な研究開発の結果,日本車の燃費は 第1-1-15図 のように向上してきており,最近の米国環境保護局の1982年モデルに対する燃費テストの結果によれば, 第1-1-16図 に示すように,2,000cc以下の小型車においては日本車の燃費が群を抜いている。

低公害化に関しては,1960年代後半から本格的な自動車排出ガス規制が行われるようになり,その規制値も年々強化され,特に近年の我が国の排出ガス規制値は,世界的にも極めて厳しいものになっている。我が国の自動車工業では,こうした厳しい規制に対応するため,世界に先例のない様々な研究開発が実施され,規制値の達成に成功した。

自動車へのエレクトロニクス技術の導入は,低公害化への対応を契機として行われ,エンジンの制御系へ各種のセンサ,マイクロコンピュータ等の適用が図られた。例えば,燃料と空気の混合比をセンサ等を用いて自動調整する電子式燃料噴射装置の西ドイツからの導入等が行われた。

さらに,マイクロコンピュータ等の半導体技術の発達とより高度で多様化した性能を求める社会ニ-の増大を背景に,走行性能の向上,燃費の改善,排出ガスの浄化,安全性の確保,快適性の向上等の様々な要求を満たす有力な手段としてエレクトロニクス技術の自動車への導入が急速に進んできている。

第1-1-15図 日本車の燃費推移

第1-1-16図 米国環境保護局(EPA)燃費テスト結果(′82年モデル)

こうしたエレクトロニクス化は,自動車工業の歴史が古く,エレクトロニクス技術の水準が高く,そして排出ガス規制が早期に導入され,これに対応する必要があった米国が先導する形で進展してきた。しかし,先にも述べたような我が国の厳しい排出ガス規制への対応や我が国自動車工業及び電子工業の積極的な研究開発の結果,我が国の自動車エレクトロニクス技術は急速に進歩し,現在では世界の最高水準に達していると言えよう。

以上述べてきたように,我が国の自動車工業は,基本的な技術を外国からの導入によったものの,我が国の国情や市場ニーズに対応した独自の技術を開発し,産業用ロボットの生産工程への導入などによる生産性の向上とあいまって,世界最高水準の競争力を有するまでになったと言えよう。


(3) 半導体工業

半導体工業は,1948年のトランジスタの発明によって生まれた新しい産業であるが,その発展は目覚ましく,あらゆる産業の中で技術革新が最も著しいものの一つである。また,半導体製品は,今日まで電子機器の分野のみならず,産業用ロボット,工作機械,自動車,時計,カメラ等広い範囲に利用されるようになり,これによって従来の機械技術の限界を超えた変革がもたらされている。

この半導体産業がどのように成長してきたかを生産面及び貿易面から見ることにする。 第1-1-17図 は,近年の我が国の半導体素子の生産推移を示したものである。昭和50年代に入ってトランジスタに代わってIC(集積回路)が半導体工業の主体になり,ICの生産の拡大に伴って総生産額が急速に伸びている。また,我が国のIC輸出は, 第1-1-18図 に示すとおりやはり昭和50年代に入って急速に増加し,54年には対世界貿易,55年には対米貿易でそれぞれ収支が黒字に転じている。このように我が国の半導体工業は急速に成長してきているが,世界のIC市場のシェアで見ると,55年において米国系企業が68%を占めているのに対し,日本は26%となっており,米国が依然として大幅な優位に立っている。

第1-1-17図 半導体素子の生産推移

第1-1-18図 IC(集積回路)貿易の推移

ICはいくつかの種類に分類され,それぞれ 第1-1-19表 のような特徴を有している。このうち半導体ICについて日米の生産構造を比較してみると 第1-1-20図 のとおりになる。我が国では,MOS(金属酸化被膜半導体)型が生産構成比で50%以上と主流になっている。MOS型は,動作速度はやや遅いものの,消費電力が少なく,構造的に高集積化が容易で量産に適しているため,民生用の需要に適合している。我が国はMOS型について早くから積極的に研究開発を行った結果,量産化に適したメモリICや各種民生用ICでは国際競争力をつけ,昭和55年には我が国で生産されたMOSメモリの50%が輸出され,世界市場におけるシェアも20%に達している。また,ステレオをはじめとする民生用機器に用いられるバイポーラ・リニア型も比較的高い構成比を占めている。このように我が国では,民生用に適した生産性の良いICが主体になっている。

第1-1-19表 ICの主な用途と特徴

第1-1-20図 日本及び米国の半導体IC生産の内訳

一方,米国の生産構成比を見ると,やはりMOS型の構成比が高いが,我が国に比べてバイポーラ・デジタル型の比率が非常に高い。バイポーラ型は歴史的にはMOS型よりも古くから開発され,動作速度が速いという利点を有しているため,軍需,宇宙用あるいは産業用の需要に支えられて盛んに研究開発が行われた結果,米国が優位に立っている。また,米国は大量生産に向かない論理IC,マイクロコンピュータや高度なシステム設計を要するカスタムIC(特別仕様IC)といった分野で強い競争力を有している。

半導体素子における発明や開発のほとんどは米国で行われた。すなわち,半導体素子の歴史に先鞭をつけたのは米国における1948年のトランジスタの発明であり,その後1950年代末にはICが同国で開発された。また,1960年にはMOS型トランジスタが開発され,これがICに応用されてICは高集積化への道を歩み始めた。この後の実用化研究は同国の国防計画,宇宙開発計画に支えられて強力に推進され,1971年にはマイクロコンピュータが開発されて,コンピュータの小型化,普及等に大きな貢献をしてきた。

我が国では,半導体の歴史は昭和26年に米国からトランジスタについての技術を導入したときから始まった。当初は,半導体技術のほとんどを米国から技術導入し,その消化吸収に努めるとともに世界に先駆けて行われたトランジスタラジオの製品化をはじめ,半導体技術の民生用機器への応用技術を中心に研究開発が積極的に行われた。また,これと並行してトンネルダイオードや静電誘導トランジスタ(SIT)などの特筆すべき自主技術開発が行われ,さらに昭和51年から55年にかけて実施された超LSI技術研究組合による研究開発により微細加工技術をはじめとする超LSIの基盤技術を確立し,超LSI分野の技術水準は米国に匹敵するところまでになっている。

以上のように,我が国は半導体技術の水準を高めつつ半導体素子の生産を拡大してきているが,我が国の半導体工業が強い競争力をもつようになった背景について見ることとする。

まず,ICの製造に必要な要素技術の水準の日米比較をすると 第1-1-21表 のようになる。我が国は製品の企画や設計,IC製造装置,シリコンウェハーの製造等の分野では米国に遅れているが,組立,品質管理,検査等の生産技術面で強みを発揮している。特に組立の自動化では米国を凌いでいると言われ,量産型ICで強い競争力を有する要因となっている。さらに,設備投資についても, 第1-1-22図 に示すように,我が国は,米国と比較して高い水準にあり,これによって設備の近代化を図り,生産性を向上させてきた。

第1-1-21表 IC技術力の日米比較

第1-1-22図 日本及び米国のIC設備投資比率の比較

このように我が国の半導体工業は,その基本技術の多くを米国に依存したものの,民生用に適したICを中心に生産性を向上させ,優秀な品質管理とあわせて国際的にも高い評価を受けるようになってきている。


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