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第1部   世界の中で
第3章  重要研究開発の国際比較
第3節  材料技術
2.  材料開発のパターン


材料は,あらゆる産業の基礎となるものであり,種類,用途とも広範にわたり,しかも,これらが複雑にからみあっている。

このように広範多岐にわたる科学技術分野の国際比較を行う場合,何らかの整理をして論ずる必要があるが,ここでは試みに開発パターンで分けて見てみることにする。

材料の機能高度化をもたらした主な発達要因を分析すると,1)宇宙,航空,軍事等の主導的な産業が存在した。2)エネルギー,公害対策等,国が個別課題で技術開発を要請した。3)永年にわたる技術開発の歴史又は類似技術の隆盛等技術的な連続性が存在した。4)研究開発課題の選定,着眼点がよかった。5)コンピュータに代表されるように材料からシステムに至る総合研究体制が存在した,というように5パターンに分類できる。

なお,1),2)については,ニーズ 注1) が先行する型の材料開発,3),4)については,シーズ 注2) が先行する型の材料開発,5)についてはニーズ,シーズの総合を必要とする型の材料開発とも言えよう。


(1) 主導的な産業の存在

宇宙,航空,軍事等の主導的な産業の存在は,材料開発を含む多くの関連技術を引張っている。これは,その多くが国家プロジェクトで進められているため,1)研究開発のリスクが国により負担された。2)ある程度の大きさの需要が現出した。3)冷凍,真空,高温等の周辺技術が育った。4)徹底した信頼性試験ないしはある程度のリスクをおかしながら信頼性の確認が行われた,という利点があったからである。例えば,高級な耐熱性絶縁材料が初めに使用されるのは,ある程度高価でも過酷な使用環境に耐えることが要求される軍用航空機である。そしてこの分野での需要がある程度広がり,その結果,安価な工業的生産体制が成立し,その後にこの材料は一般の広い需要分野に広がって行った。同様なことは炭素繊維 注3) を使用した複合材料にも言える。米国において,1960年代後半に軍用航空機F-4に最初に使用された複合材料(炭素繊維強化樹脂)は,徐々にその使用割合を増して行き,今や欧米においては高度な技術を要する宇宙,航空用に多量に使用されるに至っている。


注1)需要側からの該当技術に対する開発要請。


注2)該当技術が潜在的に有している発展可能性。


注3)結晶状の炭素からできた繊維のことで,強度,弾性率が高く,プラスチック等の材料と組合わせ,複合材料として使われる。

更に,チタン合金についてもその需要はほとんどが宇宙,航空機産業用である。従ってこのような,主導的な産業の未発達な我が国ではこの種の材料開発も遅れ気味であり,更にこの影響は,システムの形成にまで及んでいる。例えば,我が国の超電導材料の材料開発は,太刀川メソッドとして世界的に知られており,1980年から超電導送電等の極低温利用機器材料の研究開発が始められたとはいうものの,それをマグネットに組みかつ使用条件である絶対零度に近づける冷凍技術において,アポロ計画等で液体燃料のような極低温物体の取り扱いに習熟した米国には及ばないため,よいシステムが組めないという弊害も生じている。

第1-3-6表 炭素繊維(ハイグレード)の需要推定


(2) 個別課題毎の技術開発要請

代替エネルギー,省エネルギー,公害対策等,国が個別課題毎に研究開発を要請した結果として材料開発も促進されている。

例えば,自動車の熱効率向上のためのセラミックガスタービン 注) の研究開発は,イギリスでは1960年代に行われており,米国では1971年から,西ドイツでは1973年から現在に至るまで行われており,その中で構造用セラミック材料の開発も進められている。我が国では1960年代後半からセラミックスの基礎的研究が開始されているが,構造用セラミックスの研究開発は1978年から通商産業省の高効率ガスタービンの大型省エネルギー研究開発プロジェクトで開始されたにすぎない。


注)金属のかわりに窒化珪素等の人工のセラミックス(従来は粘土焼成物を言う)により作られたガスタービン。熱効率の飛躍的向上と軽量化が図られる。

第1-3-7表 超電導材料の国際比較

また,電力用トランスの低鉄損化を目的としたアモルファス金属の開発は,米国では1973年にアライドケミカル社が大量生産に成功したように早くから研究開発が行われており,更に1978年から4年間で6百万ドル(13億円)の予算で大がかりな委託研究が開始されている。

また,高速増殖炉の開発では,フランスは,「ラプソディ」(Rapsodie)が1967年から,「フェニックス」(Phenix)が1973年から運転を開始し,今や最も使用環境の厳しい炉心管用の耐熱材料の開発においても世界のトップ水準にあると言われているのに対し,我が国の「常陽」の運転開始は1977年からであり,本格的な材料試験は1982年からと言われている。

また,海水淡水化の方法は,現在の主流である蒸発法よりも将来は省エネルギー的な逆浸透法の方が有望ではないかと言われているが,蒸発法では我が国は世界シェアの半分を占めているものの,逆浸透法でのシェアは未だ10%に満たなく,残りはほとんどが米国である。米国では,1952年の塩水法の施行以来,内務省塩水局で幅広い塩水淡水化の研究を行ない最近でも水処理局のプロジェクトにおける逆浸透法の開発等,永年にわたる研究開発実績があるのに対して,我が国では昭和44年(1969年)から通商産業省の大型工業技術研究開発プロジェクトが蒸発法で始まり,それに遅れること5年,ようやく昭和49年(1974年)から逆浸透法の研究開発が始まっている。

このような技術開発要請と,それに使用される材料との接点は,研究開発の時間=経験の蓄積にある。材料が開発され,それが使用されるためには,実際の過酷な環境で長時間試験を行うことが必要であり,更に試験を行わないことには,材料の性能は本当にはわからないし改良もできないと言われている。

したがって,上記の材料では我が国は遅れをとっていると言えるが,我が国におけるこの逆の例としては,先年終了した通商産業省の原子力製鉄大型研究開発プロジェクト 注) で行われた熱交換器用の超耐熱合金の開発,及び公害規制強化の結果として研究開発が促進された自動車用の排ガスセンサーの開発,食塩水電解用のイオン交換膜の開発が上げられる。

第1-3-8表 各種海水淡水化方式のエネルギー消費量

第1-3-9表 世界の海水淡水化プラント設置状況

なお,上述の主導的な産業の存在及び個別課題毎の技術開発要請のように,いわゆるニーズが先行する型の材料開発には次のような欠点も指摘されている。ニーズが先行する材料開発の場合,ニーズが強く先行するあまり,システムの完成が中心課題となり,材料開発に人材,資金,時間が充分に投入できない恐れがある。つまり,より潜在的可能性のある材料開発よりも既存の材料の比較的小さな改良で,又は,研究室レベルで良い材料が開発されても,それを実用化レベルに移すまで研究開発が進み得ないでシステム開発が終ってしまうことがある。例えば,米国のセラミックガスタービンの開発計画においては,研究開発スケジュールもガスタービンの仕様も決まっているにもかかわらず,材料開発はスケジュール通りには進んでいないと言われているが,この原因はシステムが先行しすぎたあまり,材料の強度理論の充分な解明及び研究室レベルの材料を実用化レベルに引き上げる際の複雑形状化,大型化,高信頼性化に必要な高温高圧装置,精密加工装置,信頼性試験装置等の開発がついて行けなかったからであるとも言われている。


注)原子炉で得られる高温を一酸化炭素・水素などのガスに伝え,このガスにより鉄鉱石を還元して鉄を得る方法。

つまり,社会経済の発展に将来大きく寄与すると期待されている材料にあっては,先行的,組織的に研究者,資金を投入し,シーズを育成する必要がある。


(3) 技術の連続性

新技術は無から生まれないし,成長もしない。特にそれが新材料の場合には,研究開発の歴史及び類似技術の存在といった技術の連続性が必要である。


1) 研究開発の歴史

我が国の永久磁石は,技術的にも,そして規模的にも現在世界のトップにある。これほ,1917年に本多光太郎博士が発明したKS磁石が「本多鋼」として世界に誇るべき大発明であり,その後の磁性材料の発明の歴史がほとんど日本人により占められている事実により裏付けられる。

このような歴史的な蓄積から我が国の磁性材料としてのアモルファス金属の開発は米国に遅れることなく進められている。

また,現在,高強度繊維として世界市場を独占している米国デュポン社のケブラーの開発は,世界的な発明としてのナイロン開発の流れをひくものである。しかもこの研究開発は,繊維の強度理論の研究から始まり,素材の立体構造及び配向性を有する紡糸手法にまで行きついている。

また,ダイヤモンドの合成は,1955年に米国のゼネラルエレクトリック社によって超高圧法による人造ダイヤモンドパウダー(研削,研磨材料)として発表され,工業生産の時代に入ってているが,1977年にその基本特許が切れたにもかかわらず,その間に蓄積された研究開発ノウハウ及び市場のは握力は強く,現在でも容易に他社が参入できない状況になっている。更に,この技術力を生かしたダイヤモンド類似の立方晶窒化ホウ素の開発,販売にも圧倒的な力を有している。このような裏付けから,超高圧の技術において,米国は世界の一歩先を進んでいる。

第1-3-13図 磁石材料の発展過程


2) 類似技術からの派生

磁気バブルメモリー 注1) ,半導体センサー等の材料技術は素材の性質及び単結晶の引上げ,研剤,研磨,それにフォトレジスト 注2) 等を用いた微細加工技術といった製造加工方法は,ほぼシリコンICの技術と同じものである。例えば,磁気バブルメモリー材料,センサー材料であるガドリウムガリウムガーネット(G.G.G),ガリウムヒ素,ガリウムリン等の単結晶の直径拡大のテンポは,シリコン単結晶の直径拡大のテンポにほぼ追随している。更にコンピュータの高性能化,需要の増大に伴い,これらの材料を用いて記憶容量の増大及び反応時間の短縮並びに熱,力,光,音等の物理量の電気への変換に対処することは,コンピュータの発展のためにもどうしても必要な技術である。したがって,現在IC技術が進んでいる国では,磁気バブルメモリー,センサー等の材料開発は,シーズ・ニーズ両面から引っ張られる結果,開発が進むことになる。


注1)  ガーネット(ざくろ石)などの薄膜に適当な仕掛けを施し磁界をかけると,薄膜上にその周囲と磁化方向の異なる微粒点が発生する。この微粒点を磁気バブル(水泡)という。高密度かつ電源を切っても記憶が消滅しない記憶器として利用できる。


注2)  うすい膜にしておいて光をあてると化学変化をおこして,1)耐薬品性の強い不溶性の硬質膜にかわったり,2)逆に薬品に非常に溶けやすい膜に変化したりする性質をもつ感光性材料のこと。現在の工CやLSIは薄い単結晶シリコンの基板上にこのフォトレジストを塗り,光をあてて回路パターンも焼きつけ,現像後に腐食液で処理して回路を形成して行く方法で作られている。

工業用炉の燃焼改善に画期的な役割を果たすと期待されている酸素富化膜(空気中の酸素を選択的に透過させる気体分離膜)については,米国ではヘリウムガスを天然ガスから分離精製する技術として永年続けられて来たヘリウム分離膜の研究開発を基礎として先行している。我が国も繊維・化学系企業を中心に研究開発が行われているが,欧米との技術格差は大きい。

今後更に気体や液体を自在に分離できる膜技術を開発していくためには,包括的な基礎研究のもとに創造的な技術を確立していかなければならない。


3) 強すぎる競合材料の影響

我が国の製鋼技術は,たゆみない技術革新及び好適な立地条件にめぐまれ,特殊な機能を有する鋼材以外のものでは世界のトップレベルにある。このことは,我が国の鉄鋼製品は,他の国の鉄鋼製品に比して鉄鋼以外の材料,例えば自動車用複合材料等の鉄鋼競合材料になると目される材料に対して競争力が強いことになる。

第1-3-10表 各種の磁気バブルメモリー

第1-3-14図 高炉燃料比の推移

第1-3-15図 高温用鋼の強さの国際比較

つまりそれだけ鉄鋼に競合する新規材料の開発が我が国では遅れることになる。


(4) 研究開発課題の着眼点

近年,世界的に物質特許の取得競争が激しく,金属材料,セラミックスの創製が活発化しており,我が国においてもそのための研究開発が行われている。しかし材料開発と言えども,じゅうたん爆撃的研究開発だけでなく,経済性の観点等から特定の方法に研究開発課題を絞ることは重要なことである。この観点から見て,我が国の研究開発で成功したと見られるのは,炭素繊維の開発と太陽電池用のアモルファスシリコンの開発である。炭素繊維の製造法において,原料をレーヨンからポリアクリロニトリルにいち早く転換した我が国は,今や炭素繊維の品質,量ともに世界のトップにある。

また,アモルファスシリコン太陽電池 注) の開発においては,我が国ではa-Si:H(膜材料),グロー放電(製膜方法),PIN(接合構造)に力を注ぐことにより,効率において米国とほぼ肩を並べる成果を上げている。しかし研究開発課題を特定のものに絞ることは危険性の高い方法でもある。膜材料,製膜方法,接合構造のどれをとっても 第1-3-11表 のように多くの可能性があり,米国を始めとして,各国で幅広くこれらの研究が行われている。

従って,これらの研究開発をおろそかにすると,将来この方法が画期的な成功をおさめた場合,他国から大きく立ち遅れることが考えられる。

このため,我が国でもこれらの研究がより積極化されたが,今後とも幅広い研究をおこたらない必要がある。


注)グロー放電法などによりガラス等基板上に,シリコンの非晶質の膜を形成したもので,コストは従来の単結晶シリコン太陽電池の100分の1以下に切り下げられる可能性があり,未だ光電変換効率は単結晶シリコン太陽電池より低いものの,将来性は十分であるといわれている。

第1-3-16図 炭素繊維(ハイグレード)の生産能力(1980年初)

第1-3-11表 アモルファス半導体太陽電池素子の研究開発課題



(5) 総合研究体制

研究開発目標が高度化し,この研究開発課題が多元化,細分化した技術開発,特にエレクトロニクス関連技術の開発にあたっては,ニーズとシーズの直結及びサブシステムの統合能力が研究開発実施主体に求められている。これを材料面から見れば,特殊な機能を極限まで高度化することが求められる結果,最適のシステムに組み込まれないかぎり材料の機能も発揮されない状態になる。つまり,この種の材料開発は,多くの機能を組み込んだシステムの開発と相互にフィードバックをしながら同時進行的に研究開発が行われる総合研究体制が必要である。

IC技術に関しては,その開発・生産に早期に着手した米国の小規模専業メーカーが有利な立場を維持して来たが,今後我が国のICメーカーがIC技術の向上を図るためには,生産技術から新製品開発技術に至る総合研究体制を進めて行く必要があろう。

この状況は光ファイバーの開発において現われている。

10年程前は米国コーニング社(ガラス会社)の研究が優位を持ち,基本的な特許を抑えていたが,現在では我が国における日本電信電話公社,総合電気メーカー,電線メーカーのスクラムによる総合研究体制に軍配が上がっており,日本電信電話公社では世界で初めて,56年度末には近距離間の都市間電話の中継に,58年度には遠距離通信に光ファイバーを実用化するところまで達している。

第1-3-17図 石英ガラス光ファイバーの伝送損失

なお,研究開発が総合化することは,材料メーカーにとっては,材料の供給だけでは成り立ち得ない状況になりつつあることも意味している。例えば,高級化するほど,少量化して行くIC関係のフォトレジスト材料,耐熱絶縁材料等にあっては,直径3インチのシリコンウェハーに塗布するフォトレジスト材料は1回わずか5cc程度であるように材料だけでは量的に商売にならないし,更には目的とする機能だけでなく,その材料を使用する機械装置のシステムに材料が適合することが求められる等益々高度化,細分化する要求に応えねばならないからである。


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