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第1部   世界の中で
第3章  重要研究開発の国際比較
第2節  エレクトロニクス技術及び情報関連技術


高度経済成長の時代が終わり,資源やエネルギーが有限であることが認識されだした近年,エレクトロニクス技術は省資源,省エネルギー型の先端的技術として再認識されつつあり,また「IC 注) は産業のコメ」と言われるようにエレクトロニクス技術は社会経済の広範な分野に大きく影響することから,各国ともエレクトロニクス技術の研究開発に力を注ぎ始めている。


注)ICとは,集積回路(Integrated Circuit)の略で,非常に小さな基板上に複雑な電子回路を組み込んだ電子素子(電子回路を構成する基本単位となる電子部品)をいう。ただし,一般には1千個程度までのトランジスタ等からなる回路に相当するものをICと呼び,1千〜数万個程度に相当するものをLSI(Large Scale Integration),さらにそれ以上のものを超LSIと呼んでいる。

そこでここではまず,産業面から各国のエレクトロニクス技術を概観して我が国のエレクトロニクス技術の特徴を明らかにし,次に,こうしたエレクトロニクス技術の成果が大きく反映する代表的分野であり,複雑化する産業,社会,生活の各面にわたる情報化を支えている情報関連技術を取り上げ,先進各国の中で我が国がどの程度の水準にあるかを探ってみることとする。

主要先進各国のエレクトロニクス分野における研究開発の状況を,電気機械工業における研究費及び研究者数で比較してみると, 第1-3-6図 のとおりである。これによれば,各国とも電気機械工業に相当な割合の研究費及び研究者を投入している。我が国は,電気機械工業の研究費では米国の約3分の1で西ドイツとほぼ同水準であり,また,研究者数では米国の約2分の1となっており,電気機械工業の研究費,研究者数の全体に占める割合では米国より大きいものの,絶対値では我が国と米国の差は大きい。

次に研究費の対売上高比率について比較してみると, 第1-3-7図 に示すように,各国とも電気機械工業における対売上高比率が全産業または製造業の平均値の倍以上と非常に高い水準になっている。我が国の比率は他の3ヵ国に比べ相当小さいが,これは企業負担分のみの比率については我が国の方が米国よりも大きいことから明らかなように,我が国において政府負担分等が著しく少ないためである。

このように各国ともエレクトロニクス分野の研究開発に力を入れており,競争は激化しているが,その研究開発の成果はどうであろうか。

この成果の一局面を表わすと考えられる電子工業生産額について日本,米国及びヨーロッパを比較してみると, 第1-3-8図 のとおりである。我が国の電子工業生産額は米国に次いで世界第2位であり,ヨーロッパ諸国を大きく引き離している。しかし,その構造をみてみると,米国及びコーロッパは産業用電子機器が大きな比重を占めているのに対し,我が国は民生用電子機器,産業用電子機器及び電子部品がほぼ3分の1ずつを占め,大きく異なっている。

第1-3-6図 電気機械工業における研究費及び研究者数

第1-3-7図 電気機械工業における研究費の対売上高比率

第1-3-8図 主要国の電子工業生産額

これは貿易構造をみるとより明らかで,1978年において我が国の輸出では民生用機器が5割以上を占めているのに対し,米国の輸出では産業用機器が6割以上を占めている。

このように我が国の電子工業は,民生用技術において世界をリードしているが,産業用技術において米国に遅れていると考えられる。これは,米国においては,巨大な軍事需要や宇宙関連需要に支えられてリスクの大きな先端的技術が発展し,この波及効果により産業用技術の水準が高くなったと考えられるのに対し,我が国においては,技術的には後発国であることから,企業はリスクの大きな先端分野の技術開発よりは既にある外国技術を導入し,その応用技術の開発や製品競争力の確保に必要な合理化,省力化,品質管理等の技術の充実に重点を置いたため,民生用技術の水準が高くなり,民生用機器の国際競争力がついたものと考えられる。

以上のように我が国のエレクトロニクス技術のうち特に優位に立っているのは民生用技術であるが, 第1-3-3表 に示すように,近年,アジアの中進国の民生用機器を中心とする電子工業の発展は目覚ましく,かって後発の我が国がこの分野で欧米先進国に追いつき追い越したのと同様に今や我が国を追い上げている。

この傾向を我が国製品の主要市場である米国についてみると, 第1-3-9図 に示すように,米国の電気・電子製品輸入における我が国のシェアは低落傾向にあり,逆にアジアの各中進国のシェアは拡大の一途をたどっている。これらの製品の中味としては,かつて我が国が一世を風びしたラジオ,テレビにおいて中進国の伸びが著しい。

第1-3-3表 各国電子工業の概要(1975年)

第1-3-9図 米国の電気・電子製品輸入における我が国等のシェア

このように民生用電子機器の分野は中進国から追い上げられやすい分野であるため,今後とも品質向上を図って競争力をつけていくとともに,VTRにみられたような画期的な技術開発により新製品を生み出していく必要があり,さらに我が国も欧米先進国のように産業用エレトロニクス技術で力をつけることが望ましく,そのためには大きなリスクを伴う先端的技術開発が必要であると考えられる。

次に,今や産業分野だけでなく個人の家庭生活にまで大きな影響を及ぼすようになった情報関連技術について,コンピュータのハードウェア技術,ソフトウェア技術 注) ,利用技術及び基礎となる半導体技術といった面から,欧米先進国特に我が国より進んでいると考えられる米国との比較を行って,我が国の特徴を明らかにしてみよう。


注) コンピュータシステムを構成する有形の装置,機器を総称してハードウェア(金物)という。これに対して,コンピュータを動かすプログラムやコンピュータ利用に必要な技術体系などを総称してソフトウェアという。

コンピュータ技術については,戦後コンピュータが開発されて以来,米国の特にIBM社の一人舞台であったといっても過言ではない。

現在でもこの分野における米国の力は圧倒的で,1978年末現在,全世界のコンピュータ設置シェア(金額ベース)の8割近くを米国メーカーが占め,IBM社1社だけでも全世界の6割近くを占めている。また研究費についても1979年において,IBM社1社で我が国電気機械工業の研究費全体の半分に近い約3,000億円を支出しており,我が国コンピュータメーカーとの差は大きい。

このような状況下ながら,我が国のコンピュータ技術は政府の施策等にも支えられて急速に発展し,汎用コンピュータ等のハードウェアの技術では,米国にそれ程の遅れをとらずに対応できるようになってきていると考えられる。

しかし,科学技術の最先端分野で使用される超高速コンピュータの分野では,我が国は米国から大きく遅れており,世界最高速といわれる米国製超高速コンピュータと我が国の最高速コンピュータとでは処理速度が1桁程度違っている。この超高速コンピュータは,核融合炉のシミュレーション,人工衛星から送られる画像の処理,気象解析のような従来のコンピュータでは計算に時間がかかりすぎる処理に使用され,現在は宇宙や軍事分野の巨大なニーズに支えられた米国の独壇場であるが,我が国でも昭和56年度から通商産業省の大型プロジェクト「科学技術用高速計算システム」により,先に述べた米国製超高速コンピュータ夕の100倍程度高速なコンピュータの開発が始められることとなっている。

こうしたハードウェアを有効に働かせるソフトウェアの技術では,日米の格差は大きいと言われており,日米の主要情報処理企業を比較すると, 第1-3-4表 に示すように我が国の情報処理企業の経営基盤はぜい弱であり,技術開発のための研究開発投資の負担に耐えられない企業がほとんどである。またソフトウェアの生産体系は,ハードウェアの技術の発達が日進月歩であるのに対し,未だ確立されておらず,人間の頭脳労働に頼っているのが現状である。

第1-3-4表 日米の情報処理企業比較(1979年)

そこでソフトウェアの生産性と品質の向上を図ることを目的として,昭和51年度から政府の指導と助成の下に「ソフトウェア生産技術開発計画」が推進されており,また昭和56年度より増大するソフトウェアの保守コストの低減を目指して,ソフトウェア保守作業の合理化,自動化を目的とする「ソフトウェア保守技術開発計画」が推進されることとなっている。

また昭和56年度より研究機関等において開発された先進的情報処理技術の研究成果を具体的分野に応用するため,情報処理振興事業協会の中に「ソフトウェア技術センター」が設置される予定である。

コンピュータの利用技術という観点から,コンピュータのオンライン化率の日米比較を行うと, 第1-3-10図 に示すように我が国のオンライン化水準は米国の2分の1程度であり,この背景と しては種々の要因が考えられるが,その一つとしてオンライン技術の遅れといった面も挙げられる。

次にこうしたコンピュータ技術をはじめエレクトロニクス技術の基礎となる半導体技術についてみてみよう。

半導体の歴史を示した 第1-3-11図 によれば,画期的な特許の主なものは,そのほとんどが外国人の手によるものであり,我が国は主として外国からの技術導入によって半導体技術の水準の向上に努めてきた。その結果,近年になって欧米先進国との技術格差は急速に縮まり,超LSI開発においては, 第1-3-5表 に示すように,我が国は欧州先進各国に先んじてその研究開発を実施し相当の成果を挙げている。

第1-3-10図 日米のオンライン化水準の比較

一方,米国は従来から確立された技術基盤をもとに各企業で超LSI開発を実施しているほか,我が国の政府の援助による超LSI開発に刺激され,同表に示すように国防省の国家プロジェクトであるVHSI(Very High Speed Integration)計画をスタートさせ,超高速ICの開発を進める等,半導体技術開発の最先端をいっている。

しかし超LSIの第1世代といわれる64キロビットメモリー素子 注) においては,日米企業の出荷時期がほぼ同じ線上に並んでおり,日米の技術格差は縮小しつつあるといえよう。

また, 第1-3-12図 に示すように,論文の採択審査が極めて厳しく高度の技術,独創性を要求される国際固体回路会議において,我が国の論文の採択が急増していることから明らかなように,我が国の研究水準の質的向上は著しく,国際的な貢献度も上がっている。


注)コンピュータの取り扱うデータ量を最小単位であるビット(2進の1桁を表わす。)で表わした時,210=1,024ビットを1キロビットと呼ぶ。そしてこの64倍の量のデータを記憶する機能を有するICが64キロビットメモリー素子である。

第1-3-5表 海外の超LSI計画


さらに米国系の半導体企業は,1978年において世界のICマーケットシェアの7割近くを占め,我が国の2割強,ヨーロッパ各国の1割弱に比べて圧倒的優位に立ち,しかもその研究開発力は軍やNASA(米国航空宇宙局)の強力な支援のもと群を抜いているにもかかわらず,近年の米国市場において日本製ICの競争力が強まっているのに対し非常な危機感を持ちつつある。この競争力の強さは,我が国のICの品質の良さによるところが大きく,我が国の半導体技術は,組立技術や品質管理等の一部の技術で米国に対し優位に立ったということができよう。以上のように,我が国はコンピュータのハードウェア技術及び半導体技術において最先端の米国に迫っており,新しい世代のコンピュータやジョセフソン素子 注1) ,新機能素子 注2) 等の新技術開発ではしのぎをけずっている。しかしこうした新技術はいずれも開発に非常なリスクが伴うため,一企業が単独で研究開発を行うことがますます困難となっており,各国とも国家的規模での研究開発に力を入れ始めている。

第1-3-11図 半導体特許の主な歴史

第1-3-12図 国際固体回路会議採択論文の国別比率の推移


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