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第1部   世界の中で
第2章  主要先進国の科学技術振興施策
第1節  米国


米国の科学技術は,第2次世界大戦直前から研究開発費が急激に増加するなど急速な進歩を遂げ,レーダー,ジェット機,原子力,コンピューター等の大型技術を開発するとともに,米国の威信をかけて1962年から推進された宇宙開発のアポロ計画を達成するなど,世界の科学技術開発の先駆的役割をはたした。しかし,1970年前後に起きた公害問題,都市問題などに起因して科学技術に対する不信が起こるなど米国の技術開発が停滞しはじめた。この結果,近年,今までの科学技術産業部門での世界的優位が崩れはじめ,一部産業部門で不況をきたし社会経済問題に発展している。

米国の研究開発予算について見ると,名目価格では大幅に増加しているが, 第1-2-1図 に示すように実質価格では,近年,全体として増加傾向を保っているものの,連邦政府資金の減少を産業資金の増加で補なっている。また,これを対GNP比で見ると,1965年の2.91%から1980年の2.18%(推定値)へと減少しており,米国の研究開発が停滞傾向にあることがうかがえる。

米国には研究開発および技術革新に関する長期的政策が定まっていないようで“Atoms for Peace″やアポロ計画にみられるごとく科学技術政策は,大統領等の政治的リーダーシップのもとに形成されており,また,ニクソン大統領時代に廃止された科学技術局などに見られるように政権交代によって政策機構の改革が行われる特徴がある。

第1-2-1図 米国の研究費の動向(1972年価格)

現在の米国科学技術行政は,各省がそれぞれの所管に基づき分担して行っているが,同国の科学技術問題全般に関し大統領に助言する組織として大統領府に科学技術政策局が置かれている。同局は,1)連邦政府の科学技術活動に関し評価し,適切な措置を勧告すること,2)研究開発予算に関し大統領,行政管理予算局に助言を行うなど科学技術問題全般にわたって大統領に助言を行っている。

連邦政府の分野別研究割合は, 第1-2-2図 に示すように,1980年で見ると国防,宇宙とも減少しているにもかかわらず両者で約2/3を占め,近年増加した保健,エネルギーを加えると85%となる。このあとに一般科学,資源,環境,輸送,農業とつづいている。

第1-2-2図 主な計画領域による連邦研究開発関連費分配の推移

現在の連邦政府の研究開発は,1)国防,宇宙探査,航空管制,規制基準の設定のような分野の連邦政府が直接の需要にこたえるものは連邦政府が全責任を負う,2)基礎研究,医学,環境保全,地震予知,農業のような分野の経済及び国民福祉一般の需要にこたえるものは民間に十分な投資を期待するだけのインセンティブに欠けるため連邦政府が主たる責任を負う,3)新エネルギー技術,技術的に進んだ将来の民間・軍用航空機の構成要素のようにその他の国益に合致するか又は将来国の技術選択の幅を広げるものは連邦政府の責任を分担し,費用分担を通して民間部門の努力を加速増大させる,の基本方針に基づいて進められている。

企業に対する連邦政府の支援について見ると,連邦政府から企業へ直接融資する制度はなく,企業の研究開発に対する支援の主流は,調達方式である。この特徴は,連邦政府の必要とする研究開発成果を企業から調達するときに一定割合の研究開発費等が見こまれることである。この制度を通じて,企業は,連邦政府の責任のもとで行う国防及び宇宙等の非民生部門の研究開発から長年にわたり民生部門にスピンオフおよび技術移転の形で恩恵を受けてきた。たとえば,航空・宇宙産業は,この制度で得た技術開発により,長年にわたり国際市場において絶対的優位を保っていた。また,企業に対する補助は,基礎研究に対して行われ,原則的には100%補助である。この成果は,原則としては国に帰属するが,しばしばある一定条件下で企業に与えられる。

また,連邦政府が研究開発より得た成果の民間への移転は,各省庁独自の方針のもとに行われている。特に航空宇宙局(NASA)は,活動目的を,1)プロジェクトで得られた知識の普及による国家的投資への収益の環元,2)新知識の市場での使用の促進,3)新知識の産業・理論・地域の境界を越えた普及,4)新知識の実用化までの移転手段である,と定義して積極的に技術移転を実施している。

最近の科学技術政策は,米国の国際市場における革新的技術産業の絶対的優位の低下及び産業界の深刻な不況等による社会経済問題への対応に重点が置かれている。カーター前大統領は,米国の生産性の低下と技術革新の凋落,産業基盤への投資の減退,並びに世界市場における競争の激化に対し,生産性の向上,技術革新及び産業発展を刺激するために,1979年10月に米国産業技術革新政策に関する大統領教書を発表した。これは,1)技術情報の移転の推進,2)技術情報の増大,3)特許制度の改善,4)独禁政策の明確化,5)小規模技術革新型技術の発展の助成,8)連邦の調達方法の改善,7)連邦規制制度の改善,8)技術革新に対する労使調整の促進,9)技術革新支援体制の維持,に関して具体的な決定を行ってきた。

米国は,国際的な科学技術協力については,1)米国自体の科学技術に関する目的を推進するための新しい国際的計画の追求,2)米国と他の国々との間の政治的,イデオロギー的,そして文化的な差異を埋めるための科学面での交換の実施及び強化,3)開発途上国が科学技術を有益に使用することができるようにするため,所要の計画及び制度的な関係を設定する,4)全世界的な影響力を持つ技術を他の国々と協力して管理運営する,のテーマのもとで,世界各国と国際科学技術交流を行ってきた。

1981年1月にレーガン新政権が誕生したが,まだ科学技術政策の直接の作成にあたる科学技術顧問の地位や人事もいまだに決っておらず,従ってカーター前政権の政策をどこまで踏襲するのか,どの程度の新しい政策が発表されるのか,判然としていない。しかしながら今までになんらかの形で発表された内容では,1)政府の役割は最小限に抑え,民間主導型でなしうるものは民間に任せるという考えで民間の活力を利用する,2)政府は基礎研究と軍事研究開発に主力を置く,3)大型プロジェクト等の整理,ということで政策全般がみなおされている中で一般科学技術関係の予算についても見直しが行われた。NSFの科学技術教育部門,行動科学・社会経済科学部門の大幅削減,その他エネルギー省(DOE)関係の一般科学部門,ライフサイエンス,高エネルギー物理等の計画の縮少が行われた。

国際協力に関しては,カーター前政権と比べかなり消極的な政策がとられる動きがある。


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