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第1部   時代を拓く科学技術
第2章  1980年代科学技術発展の展望
第2節  期待される科学技術の進展
8.  防災科学技術


我が国は,地球の中緯度地帯に属し,四面を海に囲まれ,かつ,環太平洋火山帯に位置することから台風,地震,火山噴火をはじめとする各種の自然災害を被りやすい地理的・気象的条件にある。さらに,近年における経済・社会の発展に伴い,都市の過密化,産業のコンビナート化等が進み,火災,爆発等の人為災害の原因が増加するとともに,自然災害に対しても脆弱な社会構造となってきている。防災科学技術の推進は,これら災害から国民の生命や財産を守る上で,1980年代における重要な研究開発課題である。このような観点から,防災に関する研究開発の着実かつ効率的な推進を図るため,1979年(昭和54年)12月,政府は,科学技術会議に対し防災研究開発の体系化,目標の設定等を行い,総合的な基本計画としてまとめるよう諮問したところであり,現在,答申作業が進められている。今後は,本基本計画に基づき,官学民相互の緊密な連携のもとに,研究開発を積極的に推進し,その成果を防災対策に反映していく必要がある。以下においては,広範な防災科学技術の中から,地震予知及び地震防災の分野を中心に述べる。

我が国に被害をもたらす大地震の多くは,太平洋沿いの海底で発生しているが,最近の地殻造構論(プレートテクトニクス)によれば,日本列島がのっている地殻が東側からもぐり込む海洋性の地殻に引きずり込まれてひずみを生じ,これが一定の限界を超えると破壊し,はねあがる際に起こる現象であると考えられている。このような海溝型地震は,その震源が海域にあるにもかかわらず,その観測研究は陸域に片寄っており,海洋開発技術の応用による海域での新しい観測技術の開発及びこれらによる観測網の展開が待たれているところである。さらに,地表面の上下変動や水平変動の観測についても,宇宙技術,電子技術の応用により,広域の上下,水平変動を観測することができる新しい技術開発が求められている。すなわち,海底地殻中に地震計や傾斜計を埋設する技術が実現すれば,直接地震の震源域に観測の手を伸ばすことができ,また,電波星,人工衛星の電波を利用した超長基線電波干渉計方式により長距離間を精密に観測するシステム等が開発されれば,数10kmから数100km離れた地点間の変動を数cmの精度で観測することが可能となる。

一方,地震予知と併せ,地震が発生した場合における被害を最小限にくいとめるための地震防災も1980年代の重要な研究開発課題である。我が国においては,1923年(大正12年)の関東大地震以来,耐震構造に関する研究が盛んに行われ,この成果及びその後の大地震の教訓は建築基準や構造物の設計法に取り入れられてきた。しかし,最近の経済・社会の発展とともに被害の形態は変化してきており,例えば1978年(昭和53年)の宮城県沖地震において,ブロック塀の倒壊や,電気,ガス,水道等のライフラインの切断など新しい都市型地震災害が問題となった。1980年代においては,時代に即応した安全な都市造りのための耐震構造の研究が一層望まれるとともに,エレクトロニクス技術等を応用した新しい地震防災システムの開発,例えば,地震の発生を海底においていち早くつかみ,地震波と電磁波の伝播速度の差を利用し,地震波の到来を直前に重要施設に知らせる早期警報システム等が開発,実用化されることが期待される。

地震以外の自然災害としては,暴風,豪雨,豪雪,洪水,高潮,火山噴火等が挙げられる。これら自然災害に対する社会の抵抗力は,防災科学技術の進展とともに,一面では強まってきているが,居住域,生活様式の変化,生活環境施設の発展とともに災害の形態は変化し,次々と新しい弱さを露呈している。これらに的確に対応するためには,既存の技術の一層の展開とともに,他分野の科学技術を広く応用し,新しい技術,手法を開発することが重要である。例えば,リモートセンシング技術の防災分野への応用が,大きな課題であると考えられる。リモートセンシング技術は,既に台風の観測をはじめ,積雪調査,火山活動調査等に利用されているが,現象を迅速かつ広域的にとらえることができるという利点を生かし,今後は,地形,地殻変動調査,台風による高潮,津波,洪水の予測等,広い災害分野に応用されることが期待される。


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