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第1部   時代を拓く科学技術
第2章  1980年代科学技術発展の展望
第2節  期待される科学技術の進展
5.  交通技術


交通機関に対する要求は,経済発展に伴い種々の質的向上へと向いつつある。この中で,特に高速性,快適性が強く求められるようになった。旅客輸送機関の高速化の発展をみると,鉄道は蒸気機関車→電気機関車,電車→新幹線電車,振子電車へと,自動車は2輪車→軽乗用車→小型乗用車へと,旅客船は一般旅客船→高速旅客船→水中翼船,ホーバークラフトへと,航空はプロペラ機→ジェット機へと技術開発が進められてきた。

これら輸送機関の研究開発は,近年問題化している騒音,振動,排出ガス及びエネルギー対策に重点がおかれているが,鉄道におけるリニアモーターカーや,航空における短距離離着陸機(STOL)などの大型プロジェクトも推進されている。ここでは,磁気浮上式鉄道の研究開発についてみることにする。

現在の鉄道は,車輪とレールとの摩擦力を利用して推進するので,300〜350 km/h以上になると車輪とレールとの間の摩擦力が車輪の走行抵抗より小さくなって車輪が空転する。そのため,より高速な鉄道を求めて,各国は,車両をガイドウェイに対して非接触で支持し,案内し,推進する浮上式鉄道の研究開発を進めてきた。この開発には,車両の浮上方式として,空気圧による空気浮上及び磁気の吸引又は反発による磁気浮上が,車両の推進方式として,ジェットエンジンによるジェット推進及びリニアモーターによるリニアモーター推進などが行われてきた。

現在,西ドイツ,カナダ,米国,ソ連など世界各国でも開発が進められており,我が国でも各種の方式の基礎研究が行われてきた。

現在,技術開発の主流となっている磁気浮上式鉄道についてみてみよう。

これは,磁石の力で車両を浮かせて支え,推進には直接電磁力を用いたリニアモーターを利用する鉄道である。このように鉄と鉄との接触がないので騒音や振動が小さく,また摩擦力を使用しないので高速走行が可能である。

我が国での磁気浮上式鉄道の研究開発は,超電導誘導反発方式とリニアシンクロナスモーター(LSM)の組合せの国鉄と,常電導吸引方式とリニアインダクションモーター(LIM)の組合せの運輸省及び日本航空の3者が中心となってそれぞれ独自に進めている。

ここで,世界の浮上式鉄道の開発をリードしている国鉄の超電導磁気浮上式鉄道の開発についてみることにする。

国鉄は,1962年(昭和37年)にリニアモーターの調査研究にとりかかり,その後,浮上方式や案内方式について,空気力を利用する方法や各種の磁気力を利用する方式についての基礎研究を行った。これらの成果に基づいて1972年に研究所構内で超電導磁気浮上・LSM推進車と超電導磁気浮上・LIM推進車の両実験車を50〜60km/hで走行させた。この走行実験とともに,超電導磁石,電力供給設備,車両制御装置,ブレーキ装置などの構成要素について研究が続けられた結果,国鉄が目標とする都市間高速旅客輸送用として超電導磁気浮上・LSM推進方式が最もふさわしい方式として選定された。

次の段階として宮崎県に実験線を建設し,走行実験を1977年(昭和52年)から行ってきた。この実験での主なものは,非接触・高速走行の確認実験とともに,1979年1月〜2月に行われたトンネルによる空気抗力,車両運動などの諸特性をは握するための模擬トンネル走行実験,同年5月〜6月に行われた超電導磁石を冷してガス化したヘリウムを車上で再液化する車載冷凍液化装置の冷凍性能確認走行実験及びその後の曲線通過走行実験である。

また,スピード記録は,逐次更新され同年12月に世界記録517km/hを達成した。なお,宮崎実験線での1979年末までの延走行距離は約11,000 kmに達している。

この走行実験を通じて,磁気浮上の安定性,浮上用地上コイルに誘導される電流値及びその波形, LSMの推進力の値, LSMに電力を供給するサイクロコンバータなどの諸設備の性能及びブレーキ装置の性能も良好で計画通りであることが確認された。この結果から,超電導磁気浮上・LSM推進方式鉄道が有望であることが一層明らかにされてきた。

これまでの開発過程で多くの新技術が開発されたが,その主なものは,1)車体重量を軽減する軽量・小形の超電導磁石及び超電導磁石の冷却ヘリウムの車載冷凍装置の技術,2)車両の高速化及び加減速を行える大容量・可変周波数・可変電圧の電力供給技術,3)車両の速度制御に必要なLSM制御技術,4)ガイドウェイの建設技術である。

このような技術開発を行ってきた国鉄は,昭和60年代の実用化に向けて研究開発を推進している。

今後の計画は,実用化に向けての実験を行うために,現在の逆T形ガイドウェイをU形に改造し,車両としては, 第1-2-9図 に示すように車体の高さも重心位置も低く,空気抵抗が小さくて,浮上して走行する時の横揺れ安定性が高く,人が乗れる構造の箱形車両をまず1両作製し,最終的には3両作製して連結走行実験を行う予定である。

今後の技術開発の主なものについては,車両とう載機器の小形軽量化を図るための高性能超電導磁石,車両の進路を変更させる分岐装置,及び複数列車を対象とした列車制御方式及び電力供給方式などの開発が考えられている。

また,この超電導浮上式鉄道の実用化のために開発される技術の波及効果は,発電効率の高い電磁流体発電や核エネルギーを発電に利用する核融合炉への超電導磁石の応用,がん組織の破壊など医学分野での極低温の応用など多数の分野にわたる。

このように,磁気浮上式鉄道は高速性とともに低公害に優れた特性を有しており,技術的にも多大な波及効果が見込まれている。

第1-2-9図 リニアモーターカー実験用試作車完成予想図


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