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第1部   時代を拓く科学技術
第2章  1980年代科学技術発展の展望
第2節  期待される科学技術の進展
3.  ライフサイエンス


ライフサイエンスについては種々の見解があるが,「生命科学」などと言われているように生命現象や生物のもつ諸機能の解明とともにそれらの成果の応用に至るまでの総合的な科学技術分野をさすものであり,1977年(昭和52年)科学技術会議の第6号答申で次のように説明するとともにその振興の重要性を提示している。「ライフサイエンスはさまざまな生物が営む生命現象全般をその基礎から総合的立場でとらえ,生物に特有の自己防御・調節機構,遺伝,エネルギー代謝など生命現象にみられる複雑かつ精緻なメカニズムを解明し,人間生活にかかわる諸問題の解決に役立てようとするものである。」

第1-2-5図 ライフサイエンスの進展が今後期待される分野

ライフサイエンスの応用面についてみてみると,医療分野では,医薬品開発,成人病の早期診断,難病(ベーチェット病,進行性筋萎縮病等の総称)の原因究明及びその治療研究等,農業分野では家畜・作物の品種改良や生物農薬の開発による食糧生産技術等,環境保全分野では生態系における物質循環機構の究明等による人間をめぐる自然環境の維持と改善,工業分野では省エネルギー,省資源あるいは未利用資源有効利用等の観点からそれぞれの研究が行われており,今後大いに期待されている。

ちなみに,1977年(昭和52年)の科学技術庁が行った技術予測から期待される課題についての比率をみると, 第1-2-5図 のとおりライフサイエンスの進展は,保健医療,農業,環境保全等の諸分野に全く新しい技術の可能性をもたらすものと期待されていることがわかる。

ここでは,ライフサイエンスのうち80年代の進展によりその成果が特に期待されている医療分野の課題を中心にその見通しを述べる。

我が国における死亡原因についてみると,肺炎,胃腸炎などの各種細菌感染による疾患の死亡率は,予防対策の進展,衛生思想の向上,化学療法を中心とする治療法の進歩,栄養改善等の国民生活の向上などによって著しく減少しているが,一方,現在の医療分野の技術進歩にもかかわらず,脳血管疾患(脳卒中),心疾患(心臓病)及び悪性新生物(がん)のいわゆる成人病の国民の死因に占める割合が増加の傾向にあり,その予防・治療対策が国民保健上特に重視すべき問題となっている。


(早期診断)

成人病対策の一側面として早期診断・治療が挙げられるが,特に「がん」の場合にはその有効性が大きいことからより重要視されている。

これまで,生体内での化学反応(酵素反応)を生体外で利用して極微量のサンプルから正確,迅速に生体成分を定量する各種検査装置,胃ファイバスコープ,超音波診断装置やCT(ComputerTomography:電子計算機断層撮影)装置の開発など光学・電子工業のうち,特に医用工学分野の発展により,より重要な早期診断・治療のための技術開発が進められてきて,確率の高い診断が可能になってきている。


(人工臓器)

交通事故や腎不全などの各疾病による臓器障害によって臓器の機能が低下し又は機能しえなくなった患者のために,臓器移植のほか人工臓器による補助又は全代替の方法についても研究開発が進められている。

臓器移植については,供給側と受入れ側の組織適合性即ち移植抗原による拒絶反応がネックになっており,免疫抑制剤の使用,HLA(IIuman Leuko-cyte Antigen:白血球などの抗原系)のタイピング等によってその克服が図られつつある。

人工臓器においては,臓器が本来有する機能を人工的に代替することを中心として開発が進められているが,さらに,小型で,耐久性のすぐれた装置の研究開発についても併せて行われている。例えば人工腎臓についてみると,既に大がかりな体外透析装置が利用されているが,小型で携帯可能な体外装置や埋め込み装置を取り付けた動物による透析・再吸収実験の検討等が行われており,生体の臓器により近づけるための大きな努力が払われている。このほか人工感覚器や人工義肢などの開発も進められている。

これらの技術を可能にするのは生体適合性新材料(ファインセラミックスや複合材料),精密工学等の領域での開発や電子計算機による制御技術の発展であり,半永久的に生体の状況に応じて緩急自在に働くという人工臓器の開発が待たれるところである。


(組換えDNA操作による医薬品の製造)

医薬品の製造は従来から自然物からの抽出法,発酵法,化学合成法及び固定化酵素による方法等各種の方法で実施されてきたが,新しい製造法として組換えDNA操作による方法が注目されている。ここではこの組換えDNA操作による製造方法について述べる。

異種の生物由来のDNA(デオキシリボ核酸:生物の遺伝子の本体である化学物質)を制限酵素といわれる酵素を用いて切断し,組み合わせることによって新しいDNAの組み合わせをもつ細胞をつくる 第1-2-6図 のような技術を組換えDNA技術という。

第1-2-6図 組換えDNA技術の模式図

この技術を使用して医薬品を製造するとすれば,例えば,大腸菌のプラスミド(核外遺伝子)のDNAにヒトのインシュリンの遺伝子DNAを組み込むことによってその大腸菌にヒトのインシュリン産生能を付与させ,大腸菌の増殖に伴って大量のヒトのインシュリンを製造することができる。

このほか現在需要が多いにもかかわらず供給が少ない成長ホルモン等の大量生産並びに抗ウイルス性や抗がん性が期待され,ヒト白血球などを用いた大量生産の研究開発等その実用化のための努力が続けられているインターフェロン(ウイルスの増殖抑制作用などをもつ物質)の生産にもこの組換えDNA技術が期待されている。

なお組換えDNA技術においてはその安全確保のため,国は,「組換えDNA実験指針」を定めており,現在,この指針のもとにその研究が進められているところである。( 第3部第2章4(6)ライフサイエンスの振興 を参照)

以上のように現在,医療分野においては活発に研究開発が進められており,80年代においても引き続き,これらの問題解決のための一層の努力が行われ,その成果があらわれることが期待されている。


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