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第1部   時代を拓く科学技術
第2章  1980年代科学技術発展の展望
第2節  期待される科学技術の進展
2.  エレクトロニクス技術


1980年代も70年代に引き続きエレクトロニクス分野の技術は進展し,特に電子計算機の基礎技術の発展が著しいものと予想される。そしてより小型化,高性能化した電子計算機は,種々の応用分野が考えられ社会へ大きく影響を及ぼすこととなろう。一方,通信の分野でも技術革新は著しく,国民生活に密着した各種の新サービスが誕生することとなろう。以下にこれらを中心に80年代のエレクトロニクス技術について概観する。

1970年代後半から始まった電子計算機などのための超LSI研究開発は,微細加工技術,デバイス・回路技術,半導体結晶技術などのこれまでの成果を基礎として大きく進歩した。これまで使用されてきた電子計算機用の記憶素子は容量が16キロビットのものが最も多く,1979年(昭和54年)末に64キロビットのものがやっと使用されるようになっているが,新しく開発された超LSI技術により4倍の256キロビットの大容量記憶素子の実用化の基礎が作られた。集積技術の進歩の傾向は 第1-2-1図 のとおりであり,1980年代には素子数100万個を超える超LSIが次々に実用化され,第4世代の電子計算機をはじめ各種分野へ普及することとなろう。

また,電子計算機本体に関係ある技術として,超電導を利用したジョセフソン素子による超高速論理回路や記憶回路の研究開発及び高密度記憶素子を実現する磁気バブルの研究開発がある。これらは,半導体を使用した超LSIに比べ高速であるとか,高密度であるという特長を持っているが,未踏的な分野であるため,実現はなかなか難しい。しかし,将来のエレクトロニクス技術の一層の重要性にかんがみ,この分野での研究開発の推進が強く望まれてくるであろう。

第1-2-1図 集積技術の進歩

このように超LSIなどの開発が進めば,従来は大きな体積や電力を必要とした電子計算機が小型,省電力のものとなり,現在でもカメラやエアコンなどに組み込まれているものが,多くの分野に拡大され,様々な効用を我々に提供してくれるであろう。例えば,家庭電気製品の分野では,電子計算機を組み込むことにより,1)新機能や操作性が得られること,2)省資源,省エネルギーが達成できること,3)小型化,軽量化が図れること,4)安全性,信頼性が向上すること,5)微妙で高度な制御が可能であること,6)故障発見プログラムを組み込むことによりサービス性が向上すること,7)システム化が容易であることなどの長所が生じる。特に,7番目のシステム化は,電気器具を集中的に制御,管理したり,住宅システムと共に総合的に使用する場合に役立つし,通信回線を使用して住宅内の電気器具をリモートコントロールすることも可能となる。このように効率化されたシステムなどにより,家庭生活は非常に便利なものになると同時に,健康,余暇,教育文化などに対する創造的欲求も高まるであろう。これらの要求に対しても,電子計算機を内蔵した家庭用健康診断器,人工臓器制御システム,コンピュータゲーム,職業教育シミュレータ,コンピュータアートなど様々なものが提供され,それらが通信回線でデータバンクなどと結ばれて,より効率的に,多様化,個性化,高級化した要求にこたえられることになるであろう。

また,電子計算機の様々な機器への組込みで重要となるのが,各種の状況の変化をとらえ,的確に電子計算機へ入力するセンサの存在である。センサは,温度,ガス,光,圧力,音などをその変化に応じて電気信号に変換し,あらかじめ定めておいた処理を電子計算機に行わせ,その出力電気信号で機械の操作を行ったり,人に状況を知らせたりするためのものである。例えば,家庭用の電子レンジに内蔵されたガスセンサや熱センサは,料理の出来具合を水蒸気や燃焼ガスの発生及び材料の表面温度で感知し,電子計算機にその情報を伝える。電子計算機は,材料の違いによる情報の相違を前もって記憶しておき,その材料の料理終了を感知して電子レンジの電源を切る。

このように,各種のセンサが供給されるようになれば,電子計算機と結合して我々のまわりにあるものは,省力,省エネルギーを主体として効率の良い動作が可能となる。

しかし,以上のような技術の発展により電子計算機が社会のあらゆる分野へ導入されることに伴う影響も無視できない。この影響としては,まずきめ細かい情報サービスが可能となるためプライバシーの侵害が生じ易くなることである。よってこれからの情報サービスの発展においては,プライバシーの保護対策が急務であり,そのために必要な技術開発も進むであろう。次に電子計算機が生産などの分野に深く関与してくるため,雇用に対しても影響を及ぼす可能性がでてくることである。これについては,欧米各国で特に熱心に議論されており,労働者の職務内容の変化,再訓練,新しい仕事の創出,失業問題などについて調査検討がなされている。これは我が国でも無関心ではいられない問題であり,新たな技術開発と並行して技術者などの養成や教育訓練が重要となるであろう。

一方,通信分野での技術革新について展望してみると,まず情報の伝送方式として,1980年代に特に注目されるのは光ファイバケーブル伝送方式であろう。現在,日本電信電話公社を主体に損失が0.5 dB/km(波長1.3μm)を下回る極低損失多モードファイバや0.2dB/km(波長1.55μm)を下回る単一モードファイバが試作されており,光源である各種レーザ,発光ダイオードや光IC,各種受光体などの研究開発が進められている。また,通商産業省の大型プロジェクトの委託を受け,民間主体による光技術の大規模技術開発も進められようとしている。この光ファイバケーブルは,従来の同軸ケーブルに比べ,非常に細いケーブルで大容量の情報を伝送することができる。また,低損失であるため中継器を入れる間隔を広げることができること,隣接ケーブルからの漏話がないこと,軽量で可とう性に優れていること,電力線や電気鉄道等からの外部誘導を受けないこと,原料が地球上に無尽蔵にある珪素であり限りある銅資源を使用することがないことなど多くの特長を有しており,大容量基幹伝送路としてばかりでなく一般の加入者までのケープルとしてまで,広範囲な適用が可能となろう。光IC(光集積回路)とは,レーザ光線などの増幅,分割,結合などを直接行う集積回路で,従来のICで扱う電気信号が光に代わったものとして各種の動作を行うことが期待されているものである。最終的には,電気信号の介在なしに入力から出力まですべて光で行う系を考えることができる。

また,情報の伝達の入出力形態としては,文字,図形,物体(動態を含む),音声(物音を含む)などが考えられるが,これらを認識し,電気信号に変換するための研究開発は重要である。例えば,手書き文字を光学的に正確に読み取ったり,音声の発声人物をその音声の特徴から識別するなど様々な研究開発要素が存在する。これらの研究開発が進めば,通信分野だけでなく書類などの情報検索の自動化,点字への自動翻訳システム,音声タイプライタ,個人識別システムなど多方面の用途が開けてくる。出力形態についても従来のものに加えて,高精細カラー表示,大型平板カラー表示,小型超低消費電力表示などのための素子や装置に関する研究開発が進むであろう。

情報革新が進むにつれ,情報の伝達は記録,加工といった分野と密接な関係を持つようになってきている。この情報革新の形態を図示すると 第1-2-2図 のようになる。

同図では情報革新の段階を5段階に分けて,それぞれの段階の特徴を示している。現在においてすでに第5段階は存在し,認識形態や伝播は通信に分担され,記録や加工は電子計算機によって分担されている。

このような関係において,第5段階の情報が増加すれば,第4段階の情報もこの影響を受けることになる。特に伝播の面ではデジタル伝送路網が整備されるに従って,電話,ラジオ,ファクシミリ,テレビなどの伝送もデジタル方式で行われることになり,このためそれらの信号の蓄積や処理に電子計算機が使用されることとなる。このように加速度的に電子計算機と通信の結びつきが広がり,かつ有機的なものになるであろう。1980年代にはこの第4段階及び第5段階のサービスが飛躍的に増加するものと予想され,以下に述べるような新しい通信サービスが普及することとなろう。

第1-2-2図 情報革新の段階

第1-2-3図 テレビ多重放送の種類

まず一般家庭へのよりきめ細い情報の伝達手段としては,テレビ多重放送,文字図形情報システムなどが考えられる。テレビ多重放送は 第1-2-3図 に示す各種の形態があるが,このうちの音声多重放送は既に1970年代末に実用化している。その他の形態についても,郵政大臣の諮問機関である電波技術審議会で,その技術的内容や方式について詳細な検討を行っている。また,文字図形情報システムとしては,郵政省と日本電信電話公社が開発し,1979年(昭和54年)に実験が開始された「キャプテンシステム」がある。これは利用者が,随意に希望データをリクエストし,データセンターから送られてきた信号をテレビに映して見るものであり,信号の送受は電話回線を使用して行われる。このようにこのシステムは,個人の選択が反映される新しい通信メディアであり, 第1-2-4図 に示す情報メディア・エリアマップの空白地帯を部分的に埋めるものである。

電話サービスの充実としては,自動車電話,コードレス電話,ホームファクシミリ,スーパーベルなどが考えられる。自動車電話は,1979年(昭和54年)から東京でサービスを開始しており,今後はポケットベルと同じく順次他の主要都市に導入されていくことであろう。またポケットベルをより便利にしたものとしてスーパーベルの開発が行われている。これは,呼び出しに応じてそのスーパーベルの持ち主が身近の公衆電話などであらかじめ定められた電話番号をまわすと,直接呼び出し主と電話がつながるというものである。その他,家庭,事務所内に設置された親機から一定の範囲内ならどこに電話を移動しても電話線なしで使用できるコードレス電話やファクシミリを一般家庭用に小型で廉価にしたホームファクシミリなどが開発中であり,近いうちに実用化するであろう。

第1-2-4図 情報メディア・エリアマップ

人工衛星を利用した新しい通信サービスとしては,国内における衛星放送や衛星通信などが考えられる。放送衛星及び通信衛星は,1970年代後半に実験用のものが打ち上げられ,現在実験中であるが,1980年代にはそれぞれ実用衛星が打ち上げられ,これによりテレビ放送の難視聴の解消,離島への通信回線の設定,災害時の緊急通信の設定などが可能となるであろう。このほか洋上における船舶や航空機との通信に利用される移動通信衛星の開発も進み,船舶や航空機の航行の安全等に大きく貢献するであろう。


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