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第1部   時代を拓く科学技術
第1章  戦後から現在までの科学技術発展の軌跡
第3節  1970年代
4.  科学技術振興策の推進・強化


1970年代の科学技術振興政策の中心となったのは,1971年(昭和46年)に科学技術会議が答申を行った「1970年代における総合的科学技術政策の基本について」(第5号答申)である。この答申は,科学技術の急速な発展と社会・経済の高度化,国際環境の変化などによって,1960年代とは異なった新たに生じた問題に対処する必要があるという観点から策定されたもので,目標としては,社会・経済などのニーズ(人間の資質の向上,国民生活の向上,社会・経済基盤の整備と環境の保全,経済の効率的発展,国際的責務の遂行)に科学技術面でこたえ,その実現に寄与すること,科学技術のシーズ(新しい科学技術の芽,共通的・基盤的科学技術)を培養すること,基礎科学を振興することが挙げられた。また,第5号答申では,我が国の研究投資は,国民所得の3%を目指して,第1号答申に対する意見に述べられている2.5%を,1970年代のできる限り早い時期に達成するよう努力すべきであるとした。この中で,環境科学技術,ソフトサイエンス,ライフサイエンスなどの新しい科学技術分野の重要性が指摘された。環境問題については,1971年(昭和46年)に環境庁が設置され,行政面での強化とともに,各種の環境保全技術の開発の推進等が図られることとなった。ソフトサイエンスでは,その研究開発及び利用の促進が進められ,ライフサイエンスに関しては,答申以後,推進方策の検討,組換えDNA実験指針の設定などが行われたほか,研究開発も活発化された。また,この答申で新しく取り上げられたものにテクノロジー・アセスメント(TA)がある。TAは,新しい技術開発が人間,社会,環境に及ぼす影響を予測,評価して,技術のもたらす悪影響を最小限に押える方法であり,科学技術政策にも重要な影響を与えるものである。この答申以降,科学技術庁や通商産業省が中心となって農薬,原子力利用製鉄を始めとして数十課題の事例についてTAを実施し,方法論の開発,一般への普及に努めた。民間においても団体が中心となってその啓蒙普及を図り,現在では大部分の企業がTAに対する認識をもつようになり,何らかの形で実施している企業も半数以上に達している。

しかし,第5号答申以降,エネルギー,食糧などの資源問題,深刻化,複雑化する環境・安全問題,経済成長の鈍化などの経済問題などから,新たな科学技術政策の見直しが必要となり,このため1977年(昭和52年)に科学技術会議は「長期的展望に立った総合的科学技術政策の基本について」(第6号答申)を答申した。この答申は,大筋では第5号答申を受け継いでいるが,我が国の社会経済を取り巻く厳しい制約を克服して,将来の我が国の基盤を確立することを強調しており,この答申の主旨に沿って新エネルギーの研究開発などが進められた。また第6号答申では,我が国の研究開発投資の水準として,対国民所得比2.5%を当面の目標とし,長期的には3%を目指すという,第5号答申に示された見解を引き続き堅持した。また,エネルギー研究開発に関して,科学技術会議は今後おおむね10年間に政府が中心となって推進するエネルギーの基本計画として「エネルギー研究開発基本計画について」(第7号答申)の答申を1978年(昭和53年)に行っている。

一方,原子力開発,宇宙開発,海洋開発等の巨大科学技術も順調に発達を遂げた。原子力開発は,1956年(昭和31年)に設置された原子力委員会の決定する方針のもとに進められ,原子力発電所の運転は1970年代に軌道に乗り実用段階に入った。また,核燃料サイクル確立のための使用済燃料の再処理施設の建設が行われ,1977年(昭和52年)にホット試験が開始されたのをはじめ,自主技術によるウラン濃縮パイロットプラントが建設され,1979年に部分運転が始まった。軽水炉の次の世代の動力炉の開発については,高速増殖炉実験炉「常陽」が1977年に臨界を達成し,また新型転換炉については,原型炉「ふげん」が1978年に臨界を達した後それぞれ順調に運転を続けている。また,軽水炉の安全性の研究,核融合の研究開発が進められた。一方,原子力第1船開発基本計画のもとに開発が進められた原子力第1船「むつ」は,原子炉の艤装工事を1972年(昭和47年)に終了したが,出力上昇試験中に放射線漏れを起こし,研究開発の大幅な遅れをもたらしている。この「むつ」の放射線漏れ等を契機として,原子力安全行政体制の改革,強化の観点から1978年(昭和53年)に原子力の安全確保に関する事項を所掌する原子力安全委員会の新設と安全規制行政の一貫化が行われた。

宇宙開発は,1968年(昭和43年)に設置された宇宙開発委員会がほぼ毎年宇宙開発計画を策定し,その計画に沿って研究開発が進められ,1970年(昭和45年)に日本初の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功し,科学観測への人工衛星の利用が本格的となった。また,実利用分野の研究開発も発展し,N-Iロケットにより1975年(昭和50年)には技術試験衛星I型「きく」,1977年には日本初の静止衛星である技術試験衛星II型「きく2号」の打上げに成功し,また米国の協力を得て気象衛星,通信衛星,放送衛星も打ち上げられた。さらに衛星を使っての地球表面の調査を行うリモートセンシングの研究などが活発に行われるようになった。

海洋開発に関しては,1971年(昭和46年)に設置された海洋開発審議会が海洋開発に関する長期方策の策定を行ったほか,200海里経済水域の時代を迎え,海洋資源の有効利用,海洋エネルギーの利用,海洋空間の有効利用等が重要な課題として認識されるようになり,このため潜水作業技術,深海潜水調査船システム,波力発電システム等の研究開発が本格的に行われるようになった。1971年には,これらの研究開発の中核的推進機関として海洋科学技術センターが設立された。


〔戦後から1970年代までの研究開発の総括〕

以上,本章では戦後から現在に至る我が国の科学技術の進展をたどって来たが,ここで研究費,研究者数,技術の目的等が各年代を通してどのように変化してきたかをみてみよう。

第1-1-41図 に示すように国全体の研究費は,1953年(昭和28年)から1978年(昭和53年)までの25年間に名目で約77倍(実質約20倍:推定)に増加している。各年代ごとの年平均伸び率は次のとおりで,1950年代,60年代に比べて70年代は伸びが鈍化している。

年代別年平均伸び率1950年代      1960年代      1970年代(53〜60年)      (60〜70年)      (70〜78年)研究費(名目)       21.7%       20.6%       14.7%(実質:推定)     (17.9%)       (14.8%)       (6.3%)技術導入額  31.6%   16.4%   6.7%

一方,我が国の技術水準の向上に大きく貢献した技術導入の額も大きな伸びを見せているが,研究費の伸びに比べれば低い。試みに各年ごとの技術導入額と研究費の比率をとってみると,第1-1-41図に示すように,1950年代後半と60年代が高く,例えば1960年(昭和35年)には研究費の2割近くに相当する額が技術導入に支払われているが,1960年代終り頃からこの率は下りはじめ,1973年には1割を下回っている。すなわち,金額で見る限り,国内の研究に対し技術導入の比重は低下しており,その分自主技術の比重が高まっていると言えよう。

第1-1-41図 研究費に対する技術導入額の比率の推移

研究費は,GNPや国民所得の伸びをほぼ上回って増加しており,研究費の国民所得に対する割合も 第1-1-42図 に示すように,1950年代前半は1%以下であったが,1957年(昭和32年)に1%を,1960年に1.5%を,1971年には2%を超えた。しかし1970年代後半は伸び悩みとなっている。

第1-1-42図 科学技術関係予算の一般会計予算に対する比率及び研 究費の国民所得に対する比率の推移

国の科学技術関係予算も年々増加しているが,その一般会計に対する比率は 第1-1-42図 のように,1953年には2%以下だったものが1956年には3%に近づき,1960年代後半は3.3〜3.4%となったが,1970年代には3.1〜3.2%となり,更に最近では3%を割ることになった。

国全体の研究者や研究関係従事者も 第1-1-43図 に示すように各年代を通して増加しており,1953年(昭和28年)から1979年(昭和54年)までの26年間に研究者は10倍以上,研究関係従事者は5倍以上になった。しかし,1970年代後半は伸び悩みとなっている。一方,研究者1人当たりの補助者等の数は減少を続け,1953年には2.5人であったものが,1973年には1人を割り,最近では0.7人となっている。

第1-1-43図 研究者1人当たり研究補助者等数

次に,民間企業調査から技術の目標の推移を年代ごとに見てみよう。 第1-1-44図 に示すように,企業の1950年代の目標は,主として品質・性能の向上,量産化,便利性・快適性におかれており,この傾向は1960年代も受け継がれているが,環境保全等の目標も多くなる。1970年代になると,環境保全,省資源,省エネルギーが増加した反面,量産化,品質・性能向上が大幅に減少しており,この時代の特徴を表している。

なお,1980年代に開発されると企業が予測している技術の目標を見ると,品質・性能向上,量産化が引続き減少し,便利性・快適性,省力化,環境保全,安全性も減少し,反面,省資源,省エネルギーが大きく増加しているのが特徴的である。

第1-1-44図 技術の目標の推移


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