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第1部   時代を拓く科学技術
第1章  戦後から現在までの科学技術発展の軌跡
第3節  1970年代
1.  安全のための科学技術


1960年代の経済の高度成長は,人口,工業等の高密度な集積による大都市を中心とした都市地域の防災性の低下や,大気汚染,騒音,自然環境の悪化等の環境問題を引き起こした。1970年代はこれらに対応して,国民生活の安全を守るための防災科学技術,環境保全技術などの研究開発が進められた。防災科学技術のなかでは,1965年(昭和40年)に地震予知研究計画への国家支出が開始され,地震予知技術の研究が進められる一方,各種観測網の整備が行われた。また,1976年(昭和51年)東海地域に大地震発生の可能性が指摘されたのを契機として,地震予知の推進について総合的,計画的な施策を推進するため地震予知推進本部が内閣に設置されたのをはじめ,地震予知に伴う地震防災体制の整備を図るための「大規模地震対策特別措置法」が1978年(昭和53年)に成立した。一方,環境保全技術においては,工場等からの汚染物質,有害物質の排出などによる環境悪化により発生した水俣病,イタイイタイ病,呼吸器系疾患などの公害病に関する裁判が,1960年代末以降相ついで行われ,これら公害病の原因となった汚染物質を中心として,工場等からの排水による水質汚濁,工場からのばい煙や自動車の排出ガスによる大気汚染,騒音等,大きく問題視された公害の対策がクローズアップされた結果,活発な公害対策技術の開発が行われるようになり,公害の発生源である工場,事業所等に公害防止装置が設置されるようになった。

ここでは,1970年代に活発な研究開発,実用化が行われ,大きな効果をあげている環境保全技術に関してみてみることにする。


環境保全

高度経済成長により,1960年代に表面化した公害問題には,工場等のばい煙や自動車の排出ガス等による大気汚染に関するもの,工場等からの排液による水質汚濁に関するもの,自動車の交通量の増大や高速道路,新幹線等の普及による騒音,振動に関するものなどがあった。

1970年代には,このような公害問題に対して,その原因やメカニズムを解明し,その予防や自然の回復を図るための技術の開発に努力が向けられた。

1971年(昭和46年)には環境庁が設置され,公害に関する法体系の整備,それに基づく公害規制の強化が進んだ。また,複雑な公害問題に対処するため,関連分野との有機的連係をもたせつつ公害に関する研究を行う中心的機関として,国立公害研究所が1974年に設立され, 第1-1-30図 に示すように,公害防止のための研究開発費も1970年代に大幅に伸びるなど,環境汚染に対する研究活動が活発に行われるようになった。


1) 大気汚染

1960年代の経済活動の活発化に伴うエネルギー消費量の増大,重化学工業を中心とした急速な工業化,モータリゼーションの進展等によって我が国では,硫黄酸化物,窒素酸化物,一酸化炭素等が大量に大気中に放出され,これらによる大気汚染の国民生活への影響が問題とされた。 このため,1970年代には大気汚染防止法等の法的規制が行われるとともに,大気汚染を防止するための様々な技術が研究開発された。

硫黄酸化物の低減については,排煙脱硫装置や重油の脱硫装置が開発された。排煙脱硫は,1960年代に各国で研究・実験がなされたが,中でもイギリスの湿式石灰法,アメリカのウェルマンロード法が知られている。基本的には,石灰又はか性ソーダ等に排ガスを通し,SOxを吸収させる湿式法が主であり,我が国でも,石灰にマグネシウムを加えてSOxの吸収率を高めるマグネシウム石こう法など独自の開発が進められ実用化されている。ほかに通商産業省の大型プロジェクト等によって活性炭法等の乾式法の研究開発もなされ,しだいに実用化の段階に入りつつある。これらの排煙脱硫装置の普及により 第1-1-31図 に示すように大気中の硫黄酸化物は低減しつつある。


注)1.( )内は大学の研究費で内数。昭和48年度以前の数値は大学の研究費は含まれない。


注)2.「環境保護」は,従来の「公害防除」を昭和50年度分から改称したものである。


資料:総理府統計局科学技術研究調査報告

また,窒素酸化物の低減については排煙脱硝技術や低NOx燃焼技術等の開発が進められた。排煙脱硝技術については,LNG等のSOxやダストをほとんど含まないクリーン排ガスの排煙脱硝技術が1975年(昭和50年)時点で実用化されていたが,重油燃焼排ガス程度のSOxやダストを含むダーティ排ガスについても1977年になってアンモニア接触還元法が開発され実用化の段階に入った。さらに焼結炉排ガス等のよりダーティな排ガスについては,触媒方式によるパイロットプラント等の試験研究の成果が蓄積され,技術的に向上しつつある。

なお,自動車については,排出ガス中の窒素酸化物を低減するため,触媒装置等の後処理方式及び排気ガス再循環(EGR)システム,成層給気燃焼方式等の技術開発が行われた。

このほか,浮遊粒子状物質,降下ばいじん等の問題に対しては電気集じん機,バッグフィルター等の防除設備が設置され,さらに改良されつつある。

第1-1-30図 環境保護の研究費の推移

第1-1-31図 二酸化硫黄年平均値の単純平均値の推移


2) 水質等の汚濁

1960年代の高度成長期においては,産業活動の拡大等に伴い排水量もぼう大となり,その中に含まれる汚染物質による水質汚濁が深刻な社会問題となった。水の中に含まれる汚染物質の量が増えるとともに,一方,従来の汚染物質に加えて,それまでの自然には存在しなかった人体に有害な化学物質等の汚染物質の種類も増えた。工場から排出された水銀は水俣病を引き起こし,イタイイタイ病の原因とされているカドミウムは,鉱山周辺等の河川,土壌等を汚染し,紙・パルプ等の工業の特定地域への集中はヘドロ公害を誘発した。また,PCB,BHC等の残留性化学物質は,河川,海,土壌などを汚染し,農水産物,畜産物及び人体から検出された。

このほかに家庭排水の中にもし尿,合成洗剤等の有機物,栄養塩類等が含まれており,都市化の進展に伴ってこれらが河川,湖等に集中的に大量に放出され,公共用水域への影響が問題とされるようになった。

このような水質汚濁に対して,1970年代には水質汚濁防止法等法的規制が行われるとともに,技術的にも公共用水域の水質の常時監視体制の強化のため,水質自動監視測定機器の開発・実用化が図られている。

また,船舶の廃油,産業廃棄物の海域への漏えい・拡散に対しても,油分警報装置及び高性能舶用油水分離器の研究開発が進められるとともに,油流出事故に対する高性能オイルフェンス及び油回収装置,海洋の浄化技術としての水理模型実験及び汚泥しゅんせつ技術の開発等が行われた。河川,海域の水質汚濁は, 第1-1-32図 に示すとおり改善されつつある。

第1-1-32図 水質汚濁の経年変化


3) 騒音,振動

1960年代には自動車の交通量が増大し,また,新たに高速道路,空港,新幹線等が,相ついで建設されることによって,各地において騒音,振動等の被害が地域住民にもたらされた。

自動車の騒音はエンジン,吸排気管などから発生する音から形成されるが,自動車構造の改善によって騒音の大きさそのものを減らすため,自動車騒音低減技術の開発,評価検討が進められている。

また,1960年代の航空輸送の発展には目ざましいものがあり,輸送量の増加のほか,ジェット機を中心とする航空機の大型化,高速化によって空港周辺住民への障害も増えている。1975年(昭和50年)には航空法の改正によってジェット機の騒音が規制され,在来型ジェット機のエンジンに低騒音化装置を適用したり,新型の低騒音大型機を導入したりしている。

新幹線の騒音,振動に関しては,音源解析,車両及び軌道の改良等の発生源対策が進められるとともに,防音壁の設置,鉄桁防音工等の伝播経路対策も行われ,総合的計画的な技術開発が行われている。


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