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第1部  柔軟性のある研究体制への指向
第2章  多様化する要請への対応
第2節  柔軟性のある研究体制への指向
3  開発研究組織からみた基礎・応用研究組織の研究活動



(1) 民間企業の研究活動展開方向

第1章第2節において,基礎・応用段階の研究投資の減退及び停滞が続く民間企業について述べたが,ここでは石油危機以降の経済の低迷やそれに続く低成長に対応し,民間企業が研究開発をどのように変化させ,また,基礎研究の状況をどのように考えているのかについてみることとする。まず,石油危機以降の経済の低迷やそれに続く低成長に対応して研究開発に関する状況の変化についてであるが,科学技術庁計画局が昭和53年度に実施した「民間企業の研究活動に関する調査」によると,「研究開発部門と他部門(製造部門,営業部門等)の連携が強くなった」とした企業が626社中331社と最も多く,これは前節の事例調査における研究開発を進める上での改善点のなかで最も多かった「プロジェクトチームなどの社内の連携強化」とも符合する。次いで,「研究開発目標の設定法を変えた」となっているが,「研究開発組織を拡充した」又は「縮小した」が,それぞれ162社,65社となっており,石油危機以降の民間企業の研究開発に対する変化の一つの特徴となっている。

第1-2-22図 は,「研究開発組織を拡充した」又は「縮小した」と回答した企業において,どのような部門が拡充されたか,或は,縮小されたかを示したものである。拡充した企業162社中,「主に開発研究部門を拡充」と答えた企業が99社と多く,「基礎研究部門を拡充」と答えた企業は8社に過ぎない。一方,縮小した企業65社では,「基礎研究は行ってなかったので,開発研究部門を縮小」と答えた企業が23社であり,また,「基礎研究部門を縮小」と答えた企業が15社となっている。

第1-2-22図 経済低迷期における民間企業の研究開発組織の変化

他組織への依存が少なく自力で開発を行ってきた民間企業は,このように,経済の低迷やそれに続く低成長に対処し,直接企業利益への還元がむずかしい基礎研究投資を減退させるだけではなく,基礎部門の組織を縮小し,即効的な成果,投資の早期回収など,短期間に成果を挙げるため,開発研究部門の拡充を指向している。この場合,技術的シーズの蓄積のもととなる基礎研究活動を民間企業はどのように考えているのであろうか。「民間企業の研究活動に関する調査(昭和53年度)」のアンケート調査によると,626社中258社(41%)が「基礎研究は自社内だけでは十分でないので,外部の研究動向に非常に注目している」と答えている。第1-2-23図は,民間企業における基礎研究関係情報源としてどこに注目しているかをアンケート調査した結果であるが,最も多いのが国内の大学で28%,国・公立試験研究機関20%,他企業15%となっており,民間企業の基礎・応用研究組織に対する期待は大きいものとなっている。一方,海外に注目した場合は企業が最も多く,次いで国・公立試験研究機関,大学の順になっており,国内とは逆になっているのが特徴的である。海外の他企業の動向に注目している企業が多いのは,競争企業の動向のは握とともに,類似技術の導入など欧米追従型シーズ指向がまだ強いためと思われる。

第1-2-23図 民間企業における基礎研究関係情報注目組織


(2) 開発研究組織からみた基礎・応用研究組織の研究活動

前項で,研究費の面から開発研究は民間企業が中心であるのに対して,大学等及び国・公営研究機関は,技術開発の源泉といえる基礎研究,応用研究において相当大きな役割を果たしていることを指摘した。ここでは更に,研究内容の面から研究開発を担当する各組織の基本的な役割分担をみると,科学技術会議が諮問第6号「長期的展望に立った総合的科学技術政策の基本について(昭和52年5月)」に対する答申において,おおむね次のように述べられており,各組織とも基礎研究,応用研究,開発研究を行っているものの,大学,国・公立研究機関は基礎・応用研究,民間企業は開発研究に力点が置かれていると言える。

1) 国立試験研究機関(特殊法人の研究機関を含む)は,主としてリスクが大きく,その開発に長い研究開発期間を要する等,民間の研究開発にまつことができないもの,及び事柄の性質上国が行うべきもの(定常的観測,検定,品種改良等の業務)の研究開発を担当する。
2) 公立試験研究機関は,主として地域の特性に根ざしたものの研究開発を担当する。
3) 大学は,主として,基礎科学の研究を行い,研究者の自由な発想に基づく独創的,先駆的研究を推進することを基調とする。
4) 民間企業は,主として,社会目標の達成に寄与し,生産その他経済的価値のある実用的開発研究を担当する。

このように,民間企業は多様化する要請に対して,経済活動を通じて研究の成果を広く国民に具現化する部門の大部分を担っているが,実用的開発研究を推進するためには基礎・応用研究成果の蓄積が不可欠であり,そのため基礎・応用研究段階の充実を図ることが重要である。また,それとともに基礎・応用研究組織の研究成果が開発研究組織である民間企業にとって活用されることが望ましい。最近における民間企業の基礎・応用段階への研究投資の減退及び停滞或いは基礎研究部門の縮小に伴い,基礎・応用研究組織の役割は増大してきており,それらの組織が本来担うべき基本的な役割分担は尊重されなければならないが,我が国全体としては,研究活動の効率化の見地からすれば,大学や国・公立試験研究機関において蓄積された知識,経験を有効に活用した開発研究を一層展開することが望ましい。特に,短期的には成果は得られないが,長期的には大きな革新の芽となる可能性を有する分野の研究を一層推進する必要があること及び民間企業による基礎・応用研究投資が減退及び停滞傾向にあることを考え合わせると,基礎・応用研究組織の役割は以前にも増して高まっていると言えよう。

前項で,開発研究組織である民間企業は基礎研究関係の情報源として,大学や国・公立試験研究機関を注目していることを指摘したが, 第1-2-24図 は大学及び国・公立試験研究機関における研究について,民間企業が自社の研究開発を進める観点から,どのように評価しているかをアンケート調査したものである。この結果では,「独創的で活用できる」とした企業が,大学,国・公立試験研究機関共に20%台となっており,「独創的でなく全く活用できない」及び「独創的でなく余り活用できない」とした企業は,大学,国・公立試験研究機関共に10%近くなっている。また,「活用できる」か「活用できない」かに区分した場合,大学の研究を活用できるとした企業が30%弱,活用できないとした企業が60%強,国・公立試験研究機関の研究では,活用できるとした企業が30%強,活用できないとした企業が50%弱となっている。大学や国・公立試験研究機関は,それぞれの目的に応じた研究を行っており,必ずしも民間企業の活用に直接に結びつかない研究も少なくないが,このように民間企業からみて活用できないとする評価が多くなっている。反面,すでに見たとおり「独創的で活用できる」とした評価が大学及び国・公立試験研究機関共に4分の1あり,その評価はまちまちである。

第1-2-24図 民間企業の基礎・応用研究組織に対する研究の評価

第1-2-25図 は,民間企業における大学,国・公立試験研究機関の活用内容についてのアンケート結果であるが,大学については「教官の個人的能力を活用」が最も多く,国立試験研究機関については「情報源として利用」が最も多くなっている。「委託先として活用」,「共同研究」はこれらに比べ比較的少なく,このことは,民間企業が現在大学や国・公立試験研究機関を組織としてよりも,教員,研究員等の個人的能力や情報源のーつとして活用しているとみられる。これは前節の事例調査にみられるように,国・公立試験研究機関との連携が少なく,連携のある場合でも特殊な限られた分野であることと符合する。

第1-2-25図 民間企業における大学及び国・公立試験研究機関の活用内容

第1-2-24図 でみたように,民間企業の評価として大学及び国・公立試験研究機関の研究は活用できないとする評価が多いが,それでは民間企業は大学及び国・公立試験研究機関の研究に対し,どのような要望を持っているかについてみてみると,「技術開発において企業がかかえる諸問題(総合研究開発機構,昭和53年8月)」のなかで,民間企業が大学への要望として,「新技術の芽を発掘するような基礎研究を重視すべきである」が最も多く,「純学問的立場から質の高い基礎研究を重視すべきである」は比較的少なくなっている。一方,資料は異なるが,国・公立試験研究機関に対しては 第1-2-26図 に示す通り,「目的基礎研究を強化すべきである」が圧倒的に多い。

このように,民間企業は大学及び国・公立試験研究機関双方の研究に対して,目的基礎研究強化を要望していることがわかる。

第1-2-26図 民間企業からみた国・公立試験研究機関基礎研究の方向

更に,「産業技術の基礎,応用研究に関する調査研究(機械振興協会経済研究所,日本科学技術振興財団)」によると,「目的基礎研究には,実際の問題解決を主目的とする問題解決型目的基礎研究(ニーズ対応型基礎研究)と可能性を期待する可能性期待型目的基礎研究(シーズ期待型基礎研究)の2通りが考えられるが,国・公立試験研究機関は後者を指向すべきだとする民間企業の意見が大部分である。」としている。

また,同調査によれば,研究推進体制についても 第1-2-27図 に示す通り,大学の基礎研究推進体制は,「個人間競争にまかせるべきである」が多いのに比べ,国・公立試験研究機関の基礎研究推進体制は,大部分が「機関が組織的に推進すべきである」としている。これは国・公立試験研究機関の研究が,研究所単位のみならず国全体としても,組織的に行われる場合により大きな成果があるであろうとの期待を持っているためと考えられる。

第1-2-27図 民間企業からみた大学及び国・公立試験研究機関の基礎研究推進体制

次に,基礎・応用研究組織での研究成果が開発研究組織で活用されるためには,科学技術情報の円滑な流通がますます重要になっているが, 第1-2-28図 は民間企業の基礎研究関係科学技術情報の入手手段を示したものである。大学や国・公立試験研究機関の刊行物,公開セミナーなどからの入手は非常に少なく,学会誌,科学技術抄録誌,文献速報や学会,セミナー,講演会が圧倒的に多くなっている。

第1-2-28図 民間企業における科学技術情報の入手手段(基礎研究)

したがって,基礎・応用研究組織としては,その成果が広く流通するよう努力するとともに,開発研究組織側としても限定された範囲から情報を入手するだけでなく,情報源を広く求める努力が必要であろう。

また,円滑な情報の流通には,情報の入手手段として学会誌,科学技術抄録誌などの印刷物を媒体とすることが多いことから,今後の科学技術情報の増大に対処し,機械的情報検索利用の活発化が示唆され,日本科学技術情報センターを始めとする情報サービス機関等の一層の充実と活用が望まれる。


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