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第1部  柔軟性のある研究体制への指向
第2章  多様化する要請への対応
第1節  多様な要請にこたえる研究開発
1  多様な要請と新しい技術への期待


社会経済の新しい要請を受けて,研究開発を行うに際し,まず,従来からの製品や製法にどのような問題点があるかが分析され,これらの問題点をどのような技術的ポイントに分解又は集約できるかが検討される。そして,その技術的問題点を解決するための研究開発が,実施されることになる。ここでは,新しい要請に基づく研究開発がどのような技術的問題点の解決を必要とするかについて,多獲性赤身魚のたん白利用技術及びイオン交換膜法食塩電解技術を事例として検討することとする。


(1) 事例研究

(多獲性赤身魚のたん白利用技術-I)

今日,日本人の食生活は内容的にも栄養的にも豊かになり,たん白質摂取量も年々増加している。昭和35年度の1人1日当たりたん白質供給量は69.5gであったが,50年度には79.1gと15年間に約10g増加した(農林水産省食料需給表による。)。この増加は畜産物,水産物等動物性たん白質の増加によるものであり,植物性たん白質は逆に減少している。四面海に囲まれた島国である我が国では,古くから動物性たん白源を海に依存しており,現在でも全たん白質供給量の4分の1は魚介類に依存しているのが実情である。

このような我が国の魚介類に対する根強い需要にこたえ,漁獲量は昭和35年の619万tから50年の1,055万tへと436万t増加したが,増加の大部分はスケトウダラ,イワシ類,サバ類等の多獲性魚と言われている魚種で,その他の魚種の漁獲量は300〜400万t台でほとんど増加していない。

多獲性魚の中で最も漁獲量が増加したのはスケトウダラで,昭和35年は38万tであったが,47年には300万tを超え,全漁獲量の3割を占め,単一魚種としては最も多いものとなっている。

このようなスケトウダラの増加要因としては,昭和30年代後半に北海道立水産試験場(現北海道立中央水産試験場)において開発された,冷凍すり身(ねり製品原料素材)の生産技術が基盤となっている。この技術の開発によって冷凍変性の最も激しいスケトウダラの品質を約12か月間保持し,実用上のカマボコ形成能を消失しない冷凍すり身製品を得ることが可能となった。この結果,未利用・低利用水産資源の利用底辺の拡大が図られ,水産動物たん白質確保に多大な貢献が果たされた。 第1-2-1図 は,カマボコ類向きの主な原料魚の漁獲高推移であるが,スケトウダラの利用により,昭和50年には35年の2.2倍となり,魚種別でも8割をスケトウダラが占めるようになった。

第1-2-1図 カマボコ類向き主な原料魚の漁獲高

冷凍すり身化技術の確立により,それまでほとんど利用されていなかったベーリング海,オホーツク海等における外国200海里水域内での漁獲が積極的に進められ,昭和47年にはスケトウダラ漁獲量の9割近くが外国200海里水域内で漁獲されるようになった。しかし,昭和52年を境として,主要国が相次いで200海里の漁業水域ないし経済水域を設定したことにより,我が国漁業は国際的に厳しい環境下におかれることとなり,なかでも漁獲量の多くを外国200海里水域内に依存するスケトウダラについては,従来のような漁獲量確保が困難になりつつある。 第1-2-1表 は,ソ連,アメリカ200海里水域設定後の我が国に対するスケトウダラ漁獲割当量である。

第1-2-1表 ソ連及びアメリカ水域内の我が国に対するスケトウダラ割当量

このような事態に対処するため,種々打開策が講じられてきているが,その中の一つに多獲性赤身魚の高度利用がある。多獲性赤身魚であるイワシ類,サバ類はスケトウダラに次いで漁獲量の多い魚種で,ほとんどが我が国200海里水域内で獲れる。

しかしながら,これらの魚種は飼餌(じ)料として利用されているのが約半分で,食用向けとしては加工向けを含めても約半分が利用されているに過ぎない。しかも,これらの食用向けの割合は,頭,内臓等の非可食部分を含んだものであり,これらを除いた純食料としてみれば,更にこの約半分程度となり,国内消費仕向量からみれば,イワシ類の場合1〜2割,サバ類の場合で2〜3割程度である。このため原料事情の悪化が見込まれるスケトウダラに替わり,利用度の低い赤身魚から冷凍すり身や食品配合素材等を得るという多獲性赤身魚の高度利用技術の開発が要請されることになった。

多獲性赤身魚の冷凍すり身化技術は,スケトウダラ冷凍すり身化技術がその基盤的技術となっているが,スケトウダラなど白身魚とイワシ,サバなどの赤身魚には第1-2-2表に示すとおり著しい魚肉特性の違いがある。このため赤身魚からスケトウダラと同じ工程でねり製品を製造すると,

1) 死後の魚肉たん白質,特に塩溶性たん白質の変性が非常に速く進行するため,製品の“あし(カマボコ特有の弾力)”が非常に弱くなる。
2) 血合肉,脂質の混入によって色,臭いが悪くなる。
3) 魚体がスケトウダラに比べ小さく,魚体処理に手数がかかる。

などの問題点があるため,従来はねり製品原料としてほとんど使用されていなかった。

第1-2-2表 赤身魚と白身魚の主な魚肉特性比較

このほかにも,無害添加物利用などによる変性の防止,食品化利用部分の増加すなわち低利用部分(排水中の有価物を含む)の利用向上,無公害廃棄方法の確立など短期間に多分野にわたる技術的解決を図ることが必要となっていた。

(イオン交換膜法食塩電解技術-I)

か性ソーダと塩素は国民の生活に欠かせない基礎化学品であり,両者は食塩を電気分解(以下電解という)することにより同時に生産される。食塩電解技術においては,電解生成物が再反応しないよう分離しなければならない。

このため,塩素ガスとか性ソーダを分離する技術として隔膜法と水銀法が19世紀末に開発され,現在世界のか性ソーダの大宗はこの二法によっている。

我が国においては,戦後,経済的,品質的に有利な水銀法による設備が次々に増設され,48年までは,水銀法が日本の食塩電解法の中心を占めていた。

しかしながら,昭和48年に,いわゆる「第3水俣病問題」が起こり,政府は水銀法から隔膜法への転換を決定し,現在,隔膜法への転換が進められつつある。

水銀法は, 第1-2-2図 (ア)に示すとおり,電極として陽極に金属電極又は炭素電極,陰極に水銀を用いており,高濃度食塩水の電解によって陽極に塩素ガス,陰極に水銀とナトリウムの合金であるナトリウムアマルガムが出来る。このナトリウムアマルガムに解こう塔で水を加え,か性ソーダを製造している。水銀法は,高品質のか性ソーダが得られるが,水銀が排水,塩水マッド等を経由して,系外へ漏出する可能性を有する問題がある。

隔膜法は 第1-2-2図 (イ)に示すとおり,電極として陽極は主に金属電極,陰極には鉄を用いており,陽極と陰極とは石綿の隔膜によって二室に分けられている。陽極室に食塩水を供給しつつ電解すると,陰極室にか性ソーダ,陽極室に塩素ガスが発生する。陰極室にできたか性ソーダは低濃度で,食塩等の不純物を多量に含んでいるため,蒸発缶で濃縮しつつ塩分を分離除去する工程が必要となる。しかし,それでもなお隔膜法によるか性ソーダは不純物が多く品質が悪い。また,水銀法に比べ電力原単位は小さいが,濃縮分離を行うため熱エネルギーを大量に消費するという欠点がある。このため,水銀法,隔膜法に替わって無公害かつ省エネルギーの製造工程で高品質か性ソーダを製造する技術の確立が必要となりこの解決のためイオン交換膜法が期待されている。

イオン交換膜法は, 第1-2-2図 (ウ)に示すとおり,電極は隔膜法と同じく陽極に金属電極,陰極に鉄を用いており,陽極と陰極とは陽イオンのみを通す陽イオン交換膜で二室に分けられている。電解は陽極室に食塩水を供給しつつ行うが,陽イオン交換膜はNa+ イオンのみを陽極室から陰極室に通し,食塩を通さず,また,OH- イオンが陽極室に混入することも防いでいるので,陰極室からは非常に純度の高いか性ソーダが得られる。

第1-2-2図 か性ソーダ各製法の概念図

イオン交換膜法と既存の製法とを比較してみると消費エネルギーについては,イオン交換膜法では電解電力は隔膜法に近い原単位となっており,濃縮用の蒸気についても,食塩の分離が不要で陰極室からのか性ソーダ濃度も高いため多くは要しない。このため,通常出荷されている50%か性ソーダで比較したエネルギー原単位は小さくなっている。

製品であるか性ソーダ,塩素の品質に関しては,それぞれ不純物として食塩,酸素の混入が問題になるが,イオン交換膜法によるか性ソーダは,水銀法とほぼ同等の純度を持っており,塩素中の酸素は,陽極室に塩酸を入れることにより,その発生を減少させること又は精製工程で分離することにより容易に取り除くことができる。また,水銀,石綿による環境汚染,労働衛生上の問題が起きる可能性がない。

新食塩電解法は水銀を使用せずかつ水銀法と同等以上の製品品質と,エネルギー原単位が求められる新技術であるが,基礎化学品の消費者への供給をとめることなく,短期間にこの技術を完成させなくてはならないという要請があった。この技術の完成には食塩電解に適したイオン交換膜及び電解条件の開発が必要となっていた。

第1-2-3表 電解法の性能比較


(2) 事例調査

前述の事例からわかるように,複数の要請に対応するためには,複数の解決すべき技術的問題点があり,その内容も複雑にからみあっている。複数の要請について,その内容を事例調査によってみると, 第1-2-3図 のようになる。同図には,全課題数に占める各要請項目の出現数の割合及び要請の強さを示してある。この中で,出現割合について見ると,「品質・性能の向上」が78%と最も多く,次いで「省力化」,「環境保全」が続いているが,要請の強さを見ると,「品質・性能の向上」が1位,2位が「環境保全」,3位が「省力化」,4位が「省資源」となり,出現割合では7位の「省資源」に対する要請の強さが特に目立っている。また,出現割合では,4位,5位である「量産化」及び「便利性・快適性」が,要請の強さで見ると同率で8位となっている。

第1-2-3図 要請項目別の出現割合及び要請の強さ

このように,課題に対する要請を項目別にまとめると,要請の出現割合による順位と,要請の強さによる順位が大幅に異なるものがあることがわかる。

複数の要請に同時に対応するためには,どのくらいの技術的問題点を解決しなければならないかを事例調査によってみると, 第1-2-4表 のようになる。同表に見るとおり,複数の要請に対応するためには,一つの技術的問題点の解決で可能な場合もあるが,一般には複数の技術的問題点の解決が必要である。また,課題1件当たりの要請の数の平均は4.2であり,第1章第1節で述べた最近5か年間の技術目標の平均数2.3に比べて大きいが,これは対象課題を,要請の数が多いものに注目して選定したためである。

第1-2-4表 要請の数に対する技術的問題点の数

なお,上記の対象課題の中には,第1章第1節で述べた自動車排出ガス低減技術の場合のように技術的にみて二律背反するような要請の解決を迫られたものもある。


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