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第1部  柔軟性のある研究体制への指向
第1章  我が国の研究活動の特徴
第3節  民間企業の研究活動の特徴
1  民間企業における研究活動の役割


本項においては,我が国の産業構造が知識集約化の方向に進むに当たり,民間企業において研究活動がどのような役割を果たしているかについて分析を行うこととする。


(1) 戦後の産業構造の転換と研究活動

戦後の日本経済の高度成長は,産業構造の急激な変化を伴って達成されてきた。すなわち, 第1-1-15図 , 第1-1-16図 に示すとおり,就業構造,生産構造等のなかで第一次産業の比重は低下し,これに替わって第二次産業,第三次産業の比重が高まった。

第1-1-15図 就業人口の産業別構成比の推移

第1-1-16図 (ア)我が国国内生産の産業別構造(産業連関表ベース,昭和45年価格)の推移


特に製造業部門は,その比重の増大とともに,製造業部門内部における産業構造の変化が急激に進行してきた。

以下,本項では製造業部門における産業構造の変化を民間企業等の技術開発の面から概観する。

戦後,資源の乏しい我が国が再出発するに当たっては,多くの人口を抱え雇用を確保し,国際収支の不均衡を克服しなければならない,などといった制約条件があった。これらの制約条件の下で経済成長がなされたため,まず,雇用の確保の面から,雇用誘発効果の大きな労働集約型軽工業部門が発展し,昭和35年においても, 第1-1-16図 (イ)でみるように輸出の4割強を占めていた。

一方,戦後立ち遅れていた研究活動に関しては,昭和25年制定の外資法の管理のもとに,また,一部外為法の適用も受け外国からの技術導入が行われることとなり,外国技術の消化,改良等を通じて我が国の研究活動が促進された。 第1-1-17図 は,我が国の研究活動の発展に大きな役割を果たしてきた技術導入のうち契約期間又は支払期間が1年を超える甲種技術導入の件数を技術分野別にみたものである。 第1-1-18図 は民間企業等における研究活動について,主要な指標である研究費の使用状況を業種別にみたものである。 第1-1-19図 は研究活動の成果の一つである特許の出願状況を部門別にみたものである。

第1-1-17図 甲種技術導入件数の技術分野別比率の推移

ただし,特許の場合は必ずしも部門による分類と産業の業種分類とは整合しない。

これらの図から次のことが言えよう。まず,昭和25〜27年度,30〜32年度当時は,化学,一般機械,電気機械,鉄鋼・非鉄金属に関する技術が技術導入件数の約7割を占めており,30〜32年度当時の研究費の支出に関してもこれら4業種が7割弱を占めていた。そして研究活動の中心を担っていたこれらの産業は, 第1-1-16図 でみるとおり,昭和30年代から40年代前半にかけて生産構造においては15.6%から18.3%へ,輸出構造では24.3%から38.6%へと大きく比重を増し,高度成長を達成するためのけん引車の役割を果たしてきた。

昭和40年代に入って,輸送用機械工業,電気機械工業,一般機械工業が研究費からみた研究活動での比重を高めた。そして,研究費からみた研究活動の比重を高めた輸送用機械工業,電気機械工業,一般機械工業に精密機械工業を加えた機械工業は, 第1-1-16図 でみられるように,昭和40年代後半には生産及び輸出において中心的地位を占めるに至った。一方,化学工業,鉄鋼業は,研究費及び特許の面からみた研究活動,技術導入については絶対額,件数ともに伸びてはいるものの,全体に対する比重は低下した。また,海外からの技術導入では,40年代後半から「繊維及び繊維製品」の技術が,主にフランスなどからの服飾・デザイン技術の導入の増加により著増している。また,玩具,スポーツ用品等の「その他の技術分野」も増加している。特許の面では,弱電,運輸機器・建設部門が比重を高めた。


(2) 石油危機後の研究活動の変化

次に,我が国産業に大きな影響を与えた石油危機への対応を中心に,昭和50〜52年度における民間企業等の研究活動の特色を検討することとする。まず,技術導入に関しては,40年代後半から引き続いて「繊維及び繊維製品」,「その他」の技術分野が増加している。これらの技術分野は,ファッション産業,レジャー産業に関する技術であり,技術導入面においては重化学工業化から第三次産業化への動きがみられる。

第1-1-18図 業種別使用研究費支出割合の推移

第1-1-19図 特許出願件数の部門別比率の推移

研究費からみた研究活動の状況を,石油危機前後の昭和45〜47年度平均と50〜 52年度平均の変化について注目すると第1-1-18図でみるとおり輸送用機械工業(3.0ポイント増),鉄鋼業(0.9ポイント増)の増加,電気機械工業(2.Oポイント減),化学工業(1.9ポイント減)の減少が特徴的である。これらの4業種は,使用研究費の65%を占めており,民間企業等の研究活動の中心をなす業種であると同時に,輸出の約50%を占める重要産業である。以下これら主要4業種を中心として民間企業の研究活動の石油危機後における変化を研究費( 第1-1-18図 ),技術導入( 第1-1-17図 ),特許( 第1-1-19図 ),研究対象となる製品の分野( 第1-1-20図 ),特定の研究目的( 第1-1-21図 ),研究活動の重点をおく分野( 第1-1-22図 ),技術革新の見通し( 第1-1-23図 )の面から具体的に分析することとする。

第1-1-20図 は,民間企業の使用研究費がどのような製品分野の研究に支出されたかを,石油危機前後の昭和45〜47年度と50〜52年度の間についてみたものである。

同図の上部は民間企業全体の製品分野別支出状況,下部は主要4業種の本来の製品分野及び密接に関連する製品分野への支出状況を表わしたものである。これによれば民間企業の全体では,自動車,建築・土木,鉄鋼,一般機械器具,その他の工業製品に対する研究費の支出割合が増大し,化学肥料・無機・有機工業製品,家庭電気製品,通信・電子・電気計測器,化学繊維に対する支出割合は減少している。

第1-1-20図 使用研究費の製品分野別支出割合(資本金1億円以上の会社等)

第1-1-21図 特定目的に関する研究費の支出割合

(資本金1億円以上の会社等)

第1-1-22図 従来及び今後研究開発の重点をおく分野


第1-1-23図 今後研究開発を行う分野での技術革新の見通し

また,宇宙開発,海洋開発,情報処理,環境の保護,原子力開発という目的に関する研究費の支出状況を最近3か年についてみたものが第1-1-21図である。これによれば民間企業全体では,公害規制に対する対応が昭和50年度までに一応の水準に達したこともあり,環境の保護に関する研究費の支出割合が減少している。一方,情報処理,原子力開発は着実に伸びている。

更に,科学技術庁が研究開発を実施している民間企業626社を対象に行ったアンケート調査のうち,今後の研究活動の重点をおく分野及び技術革新の見通しに関する結果を 第1-1-22図 及び 第1-1-23図 に示す。 第1-1-22図 によれば,従来は研究活動の重点を「現在と同業種の分野で,ニーズ指向の新製品の開発,製品の改良」においていたが,今後は「現在と同業種の分野で,シーズに基づく画期的新製品,新技術の開発」に重点をおく企業が増加している。しかしながら, 第1-1-23図 のとおり,「画期的な技術革新は期待できないが,改良的な技術革新なら約5年以内に期待できる。」と考えている企業が約7割と多いのに対し,画期的な技術革新が期待できるとしている企業は1割強となっており,シーズ指向の研究開発の困難性があらわれている。また,省資源技術の開発,省エネルギー技術の開発に重点をおく企業が減少しているが,今後も,省資源,省エネルギーに関する技術開発の重要性は増すと考えられるので,民間企業の研究活動がこれらの分野の技術開発にも向かうことが必要であろう。

以下,化学工業,鉄鋼業,電気機械工業,輸送用機械工業の順に,その最近の研究活動の特色を分析する。


(A) 化学工業

化学工業は,昭和40〜42年度には研究費の使用割合では全体の約4分の1を占め,最も研究費を使用していた業種であったが,以降漸減傾向が続き,50〜52年度には全体の5分の1を割り,輸送用機械工業と肩を並べている。また,技術導入も減少傾向が続いており,特許も 第1-1-1表 でみるとおり化学工業の比重は低下している。なお,この表は化学工業に属する89社に関する特許出願件数であるため,技術分野別区分である 第1-1-19図 と構成比は必ずしも一致しないが,同図でも化学分野の比重の低下が明らかである。

第1-1-1表 製造業における最近の特許出願状況

製品分野別に研究費の支出状況をみると,物量依存型の化学肥料・無機・有機工業製品,化学繊維に関する研究が激減し,ファインケミカルに属する医薬品,「その他の化学製品」に関する研究が急増している。また,重点をおく研究分野に関しては「現在と同業種の分野で,シーズに基づく画期的新製品,新技術の開発」及び「関連業種(川下部門)の分野」に,今後重点を移す企業が多いことが特色である。また,このような分野での技術革新の見通しについては,画期的な技術革新が期待できるとする企業が多い。これらのことは,化学工業が石油危機を契機に従来の資源多消費型体質から高付加価値,機能追求型体質に転換しようとしていることの現われであり,その実現の可能性が高いことを示唆している。


(B) 鉄鋼業

鉄鋼業は,昭和35〜37年度以降,研究費の使用割合は漸減傾向であったが,50〜52年度には45〜47年度に比べ0.9ポイント上昇し,回復傾向が現われている。また,技術導入は減少しているが,特許に関しては出願件数の伸びが目立っており,自主技術開発の方向が現われている。製品分野別に研究費の支出状況をみると,主要製品である鉄鋼に対する割合が増加しているほかは,建築・土木で微増しているにすぎない。今後重点をおく研究分野としては他の業種が比率を下げている「現在と同業種の分野で,製品の高付加価値化,差別化」及び「全く異業種の分野」の比率が高くなっていることなどが特色である。しかしながら,鉄鋼業の研究分野では画期的な技術革新が期待できると考えている企業は全産業平均に比べて少ない。


(C) 電気機械工業

電気機械工業は,昭和45〜47年度には,研究費の使用割合で26.6%を占め,最も研究費を使用する業種となり,50〜52年度も,使用割合が減少したとはいえ,最も研究費を使用する業種である。したがって,電気機械工業の本来の製品である家庭電気製品,通信・電子・電気計測器,その他の電気機械器具に対する研究費の支出比率は全業種の全製品の中でも高く,とりわけ通信・電子・電気計測器の製品分野に対しては,全製品中最大の研究費が支出されている。しかしながら,45〜47年度と50〜52年度を比べた場合,電気機械工業が,これらの電気機械器具製品分野に対して支出する研究費の比率は減少しており,自動車(昭和45〜47年度の比率1.5%,昭和50〜52年度の比率2.9%),精密工業製品(同0.8%,1.2%),一般機械器具(同4.4%,4.8%)などの製品に対する研究が増加している。このことは,これらの製品分野において近年電子化が急速に進行していることと深い関係があるものと思われる。また,研究目的の中でも,今後の産業構造転換の中心をなすと考えられている情報処理に関する研究が大きな比重を占めており,また,着実に増加している。以上のことから,電気機械工業は製品面での幅広い展開を図りつつ,情報処理等に研究目的を絞っていることがわかる。更に,技術導入,特許出願の面でも研究活動は活発化している。

また,重点をおく研究分野としては「現在と同業種の分野で,シーズに基づく画期的新製品,新技術の開発」が際立って増加しており,「現在と同業種の分野で,ニーズ指向の新製品の開発,改良」にほぼ並んでいる。更に,「現在と同業種の分野で,省力化,自動化技術の開発」にも重点をおいており,この分野での技術開発の余地があることを示している。技術革新の見通しに関しては画期的な技術革新に関する期待は全産業平均に比べて大きくはないものの改良的な技術革新が約5年以内に期待できると考えている企業は多く,この業種の技術革新の速さと技術開発競争の激しさが現わている。


(D) 輸送用機械工業

輸送用機械工業は,着実に研究費の使用割合を高めており,昭和50〜52年度には,化学工業とほぼ肩を並べるようになっている。また,技術導入は減少しているが,特許は製造業平均並みの伸びとなっている。しかしながら,輸送用機械工業には構造的に好・不況が対照的な業種である自動車工業及び造船を中心とする自動車以外の輸送用機械工業が含まれているため,以下では自動車工業と「その他の輸送用機械工業」とを分けて検討することとする。まず,自動車工業は 第1-1-24図 にみられるとおり,製品分野別では自動車に関する研究が9割を占めており,50〜52年度も45〜47年度とほとんど変化はない。しかしながら,研究目的では第1節で述べたように乗用車の排出ガス規制に対する対応がほぼ完了したこともあり,環境の保護が急速に低下している。また,重点をおく分野としては燃費改善等の「省エネルギー技術」(自動車工業のみでは33.3%の企業が,今後重点をおくとしている。)の増加が著しい。

造船業等の「その他の輸送用機械工業」は研究費の支出割合が伸びていることも特色であるが,製品分野別では船舶,航空機の減少,一般機械の激増が目立っている。また,研究目的でも原子力開発が増加しており,52年度には研究費のうち2割強を原子力開発に使用している。これらのことは,その他の輸送用機械工業は,海・空の分野から陸上(特に原子力)分野に研究開発の重点を移していることを現わしている。

石油危機以降の民間企業の研究活動について以上の4業種等の研究活動の変化等からみて,次のことがいえる。

石油危機を契機として,化学工業は資源多消費型から高付加価値,機能追求型へ,鉄鋼業は製品の高付加価値化,差別化へ,電気機械工業は情報処理を中心にしてシーズ指向型へ,自動車工業は乗用車の排出ガス対策等から燃費改善等へ,その他の輸送用機械工業が海・空から陸上部門へと研究活動の重点を移している。このことは,民間企業が石油危機後の経済の高度成長から安定成長への移行という新たな状況に柔軟に対応するように研究活動の面からの対応を行いつつあることを示している。しかしながら,前節で指摘したとおり民間企業の基礎・応用研究段階への研究投資は減退及び停滞傾向がみられ, 第1-1-23図 にみたとおり画期的な技術革新の可能性に対する期待は小さく,「現在と同業種の分野で,シーズに基づく画期的新製品,新技術の開発」の困難性が予想される。このため,今後はシーズを育てるため,基礎・応用研究段階への適切な研究資源の配分,基礎・応用研究組織との連携の強化など,より効率的な研究体制をとることが必要となっている。

第1-1-24図



(3) 産業構造の転換に対する企業の研究開発面における対応

次に,石油危機以降,構造不況に落ち入っている産業が産業構造の転換という課題に対し,研究開発面でどのような対応をとってきたかについて,合成繊維工業を例にとって検討する。合成繊維工業は,戦後,ナイロン,ポリエステル等の画期的革新技術を導入し,発展させることにより急成長した産業であるが,近年新興工業国における生産体制の拡充,先進国の設備過剰といった問題を抱えており,構造不況業種の一つに数えられている。しかしながら,合成繊維工業は,昭和42年度には,資本金10億円以上の製造業のうち,研究費で8.2%,研究関係者で7.1%のシェアを占めていたことにみられるように,研究開発力のある産業であるため,研究開発によって自らの産業の体質を転換しようとしてきている。本項では,その研究開発の内容と方向を検討することにより産業構造転換という課題に対する企業の研究開発の役割を分析することとする。

ここでとりあげる合成繊維会社は主要6社(合成繊維生産量に占める6社のシェアは約7割)で,通商産業省の「企業情報システム」及び「技術情報システム」(通商産業大臣官房政策システム室)のデータを使用して分析する。合成繊維主要6社のうち,昭和51,52年度の売上高が最も大きいA社をIグループ,次のB,C社を2グループ,残りのD,E,F社を3グループとして分類する。 第1-1-25図 (ア)は,I,2,3グループの売上高の平均( 第1-1-25図 ,(ア)〜(オ)は,全て各グループ平均値を表わしている。)をみたものであり, 第1-1-25図 (イ)は売上高営業利益率の推移をみたものである。これによれば48年度まではIグループと2グループとの間には,売上高,営業利益率ともに大きな差はないが,49年度以降Iグループの2グループに対する優位が明確となりつつある。

第1-1-25図




Iグループと2,3グループの間に,このような差が生じた理由として次のことが指摘できる。 第1-1-25図 (ウ)にみるように,2,3グループは売上高に占める非繊維部門の割合は3割弱であり,不況業種である繊維の売上げに7割強依存していたため,売上高の伸びが低下し,営業利益率も低下した。これに対し,Iグループは非繊維部門(ウ)売上高中の非繊維化率の推移の売上げが伸びており,49年度以降,非繊維化率が4割を超え,52年度には5割を超えるに至った。すなわち,非繊維部門の売上げの伸び,不採算部門である繊維部門の比率の低下によって,Iグループは売上高,営業利益率ともに2グループを上回ることになった。なお,3グループも50年度以降繊維部門の売上高の減少,繊維部門の一部分離により非繊維化率が高まっている。

Iグループの製品中の非繊維化率が高い背景として,研究開発がどのような役割を果たしているかについてを,研究開発の具体的成果の一つである特許の出願状況から検討してみる。 第1-1-25図 (エ)は,昭和42年から45年までの出願に係るもので公告されたもの及び46年以降の出願で公開されたものの推移を示している。特許公告及び公開の件数からみれば,Iグループと2グループの間では,研究開発力には大きな差はなく,むしろ,2グループの方が優位であると考えられる。しかしながら,Iグループは研究開発の重点を早くから非繊維部門においており,43年以降,特許のうち7割強は非繊維部門であり,49年以降は8割が非繊維部門となっている。これに対し2グループは非繊維部門での特許は6割前後であり,Iグループに比べて繊維部門に重点をおいていることがわかる。また,3グループはI,2グループに比べて研究開発力は遅れているが,非繊維部門の比率は近年高まっている。

以上のことから,合成繊維工業の研究活動に関してまとめると次のことがいえる。

1) 早くから,非繊維部門に研究開発の重点をおいていたIグループは,46年のニクソンショック,48年の石油危機以降急速に製品の非繊維化を図り,52年度には非繊維部門の売上げが繊維部門の売上げを超えるに至り,営業収益の面でも2グループに差をつけることができた。
2) 2グループは,研究開発力は優れていたが,研究開発の重点を繊維部門においていたため,製品の非繊維化はIグループに対して遅れている。しかしながら,繊維部門に重点をおいていたため,製品の差別化,高級化が進んでおり,Iグループ及び3グループでは50年度から52年度にかけて繊維部門の売上げが減少したのに対し,2グループでは繊維部門の売上げは横ばいとなっており,営業収益の面でも3グループとは大きな差がある。
3) すなわち,新興工業国における生産体制の拡充,先進国での設備過剰等により構造不況業種となった合成繊維工業は,研究開発の面からは,対照的な二つの対応を行うことにより,自らの企業体質の転換を図ってきた。一つは,Iグループのように本来の業種と異なる分野での研究開発に重点をおき,企業の製品構成を転換することであり,あと一つは,本来の業種での研究開発を重視し,製品の差別化,高級化を図り,国際競争力を確保していくことであった。
4) また,合成繊維工業の場合は,かねてからの研究開発の蓄積によって,シーズに基づく製品構成の転換,製品の差別化,高級化を図ることが可能であったが,最近では企業体質の弱化により,第1-1-25図(オ)にみるとおり開発費,試験研究費の支出は減少傾向にある企業が多く今後の研究活動の展開は困難になりつつあると考えられる。合成繊維工業を例にして,新興工業国の追い上げ等により構造不況となっている産業がどのような研究開発を行っているかをみたが,このような産業にとっては,Iグループのように本来の業種と異なる分野での研究開発に重点をおくか,2グループのように本来の業種での研究開発を重視するかを明確な戦略の上に位置付けて,研究資源の有効な活用を図ることが重要であろう。 しかしながら,構造不況となっている産業においては研究費を充分には支出する余裕はなく,前節でみたように石油危機以降全般的に基礎研究段階への研究投資が減退していることと相まって今後はシーズに基づく製品構成の転換,製品の差別化,高級化を行うことが困難となると考えられる。このため,国・公立試験研究機関においても,このような産業の自助的な研究活動を補完し,連携が図られるようにするなどのことが必要であると考えられる。

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