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第3部   政府の施策
第2章  政府機関などにおける研究活動
4  多分野の協力による研究開発の推進
(1)  原子力開発


我が国の原子力平和利用は,原子力委員会の決定する原子力開発利用長期計画及び原子力開発利用基本計画(年度計画)に沿って,総合的かつ計画的に推進されている。昭和52年度は,原子力の安全確保が原子力の開発利用を進めて行く上で不可欠の前提であるとの認識に立って,原子力施設の安全性確保,環境保全のための研究開発等の原子力の開発・利用に伴う安全対策の一層の強化を図るとともに,更に核燃料サイクルの確立,新型動力炉の開発,人類究極のエネルギー源として期待されている核融合の研究開発等の拡充強化を図った。

また,原子力行政の基本的なあり方については,内閣総理大臣の私的懇談会である原子力行政懇談会において,検討が行われ,昭和51年7月検討結果がまとめられ,この検討結果を受けて,現行の原子力委員会を二分し,新たに原子力安全委員会を設けること,安全規制の面では,実用発電用原子炉は通商産業省,実用舶用原子炉は運輸省,研究開発段階にある原子炉及び試験研究の用に供する原子炉については科学技術庁がそれぞれ一貫して担当することを主な内容とする「原子力基本法等の一部を改正する法律案」を第80回国会に提出した。本法案は,第81,82,83回国会で継続審議となり,第84回国会で衆議院において一部修正の上,可決成立した。

我が国と主要国の原子力関係予算の推移を 第3-2-8表 第3-2-9表 に示す。

第3-2-8表 原子力関係予算の推移

第3-2-9表 主要国の原子力開発予算の推移


(1) 安全性の確保

原子力開発利用は,放射能の危険性を十分に認識し,開発当初から,放射性物質を確実に管理する対策を講じるなど,安全性の確保を最重点にして技術の開発が行われてきており,他の産業分野には見られない厳しい安全確保に対する法的な措置も講じられてきた。特に,原子炉施設の設置許可に当たっての基本設計の審査に際しては,内閣総理大臣は,原子力委員会から,設置する場所の地質,地盤,気象などの自然条件,人口分布などの社会的条件,施設の工学的安全性,平常運転時の被ばく評価,事故時の災害評価等について事前に意見を徴し,これを尊重して許可を行っている。

一方,運転開始後は,内部の規制のほか,環境における放射線量が一般の個人に容認される線量限度を十分下回っていることを確認するためモニタリングが実施されている。

原子力に係る安全性研究については,日本原子力研究所を中心として放射線医学総合研究所等の国立試験研究機関において行われ,また,民間機関への委託により研究されている。

軽水炉施設の安全性研究については,日本原子力研究所を中心に,原子炉の反応度事故及び冷却材喪失事故に関する研究等を行っており,昭和52年度には,引き続き原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)による各種試験,冷却材喪失事故試験装置(ROSA:Rig of Safety Assessment)による非常用炉心冷却装置の効果に関する実験研究等を行った。

原子力施設から環境へ放出される放射性物質については,放出量の低減化を図るため,回収技術の研究開発及び放射性廃液の処理技術の開発などを実施している。

原子力施設から環境へ放出される放射性物質による一般公衆に対する被ばくは,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告あるいは法令の定める限度を十分下回るよう努力がなされている。更に,低レベルの放射線の長期にわたる被ばくの人体に及ぼす影響に関し,「環境放射線による被ばく線量の推定」と「低レベル放射線の人体に対する影響の定量的推定」を主な調査研究テーマとして,放射線医学総合研究所を中心として研究が行われている。放射性廃棄物の処理処分は,原子力開発利用を進める上で早急に解決すべき課題であり,処理処分体制の整備のための調査を行うとともに,海洋処分用固化体の基準化,高レベル廃棄物の処理処分等に関する研究開発が行われている。また,試験的海洋処分についての検討が進められた。


(2) 核燃料サイクルの確立

我が国の原子力発電が本格的な実用期に入ったことに伴って,核燃料の安定的供給の確保とウラン資源の有効利用などを目指した核燃料サイクルの確立がますます重要な政策課題となっている。

ウラン資源の乏しい我が国は,そのほとんどを海外に依存せざるを得ず,長期の購入契約による確保を図るとともに,所要量3分の1程度を開発輸入により確保することを目途として海外ウラン探鉱を推進しているところである。昭和52年度においては,動力炉・核燃料開発事業団は,アフリカ,南米等における鉱業事情調査を実施するとともに,カナダ,アフリカ諸国,オーストラリアなどの有望地区において引き続き独自の鉱床調査及び他国機関との共同調査を行った。また,民間においては,金属鉱業事業団等からの助成により海外でのウラン探鉱開発が進められている。

ここ当分の間,原子力発電の主力は濃縮ウランを燃料とする軽水炉であることから,我が国の原子力発電によるエネルギーの安定確保のために濃縮ウランの供給確保も重要な課題となっている。このため,我が国は,アメリカ政府との契約により約5,100万KWの原子力発電に必要な濃縮ウランを確保しているほか,ヨーロッパ(ユーロディフ)からも購入する契約を締結している。また,濃縮ウランの究極的安定確保を図るため,我が国において国際競争力のある濃縮工場を稼動させることを目標に,遠心分離法によるウラン濃縮技術の開発を国のプロジェクトとして積極的に推進している。昭和52年度においては,動力炉・核燃料開発事業団で進められてきたカスケード試験装置による試験を踏まえ,岡山県人形峠においてパイロットプラントの建設に着手した。

使用済燃料の再処理については,核燃料の有効利用などの観点から,国内においてその体制を確立するとの基本的方針の下に,動力炉・核燃料開発事業団において,年間処理能力210トンの再処理施設の建設が茨城県東海村において進められ,昭和49年度には建設工事を終了した。その後,化学薬品を用いた化学試験,50年9月から天然ウラン及び劣化ウランを用いたウラン試験を実施していたが,52年3月に所定の成果をおさめた。そして,実際の使用済燃料を用いたホット試験については,52年9月から行われている。また,再処理を行うことができる事業者の範囲を拡大するための原子炉等規制法の改正法案が,53年2月,第84回国会に提出され,現在継続審議となっている。


(2) 新型動力炉の研究開発

在来の軽水炉は,ウラン資源の1%程度しか利用できない。これに対して,燃料の有効利用などの点で大きな期待がかけられているのは高速増殖炉である。この炉は,在来型炉がウラン235などの核分裂によって生じる高速中性子を軽水などにより減速するのに対して,減速過程を経ないで核分裂反応を続けるもので,有効に利用できる中性子が多いため,核分裂を起こさないウラン238を核分裂性のプルトニウムに効率的に変えることができ,使った燃料以上の燃料が生成される。この高速増殖炉による燃料の有効利用により,ウラン資源の60〜80%を活用できる。

しかし,高速増殖炉の実用化までには,更に一層の研究開発が必要であり,我が国では,軽水炉と高速増殖炉の間を補完するものとして,自主技術により,軽水炉技術の経験によって早期に実現が可能な新型転換炉の開発を行っている。

高速増殖炉と新型転換炉は,「動力炉開発業務に関する基本方針」,「同第2次基本計画」に基づき,動力炉・核燃料開発事業団においてその研究開発が進められている。

高速増殖炉については,大洗工学センターにおいて建設を進めてきた高速増殖実験炉「常陽」が,昭和52年4月臨界に達した。また,原型炉「もんじゅ」(電気出力30万KW)の建設に必要な関連研究開発などを進めている。この研究開発の主なものとして,ナトリウム技術開発試験,蒸気発生器試験,核燃料・炉材料の開発試験,安全性試験などがある。

新型転換炉については,福井県敦賀市に原型炉「ふげん」(重水減速軽水冷却型,電気出力16.5万KW)が完成し,53年3月臨界に達し,その後,本格運転のための各種試験に入っている。


(4) 原子炉の多目的利用

現在の原子炉は主として,発電に利用されているが,原子炉で発生した熱をプロセス・ガス,プロセス・ヒート又はプロセス蒸気などの形で,製鉄,化学工業などのエネルギー多消費産業や,海水淡水化,地域暖房などの熱源として多方面に利用することが考えられている。

このような原子炉の多目的利用の例としては,イギリスのコールダーホール原子力発電所からウインズケール工場へのブロセス蒸気の供給,ソ連のシェフチェンコ原子力発電所の高速増殖炉BN-350(電気出力相当30万KW)による1日12万トンの淡水製造がある。これらの原子炉の利用は,いずれも100〜200°C程度の比較的低温域での熱利用であるが,更に,将来1,000°C以上の高温ガスを取り出すことのできる高温ガス炉が実用化されれは,製鉄などの高温利用から海水淡水化などの低温利用まで段階的に熱利用を行う原子力コンビナートも可能と考えられている。

我が国では,炉心出口温度1,000°Cの多目的高温ガス炉の開発を目指して日本原子力研究所で研究が進められており,実験炉の設計研究を行うとともに,高温工学の試験,燃料・材料の開発,安全性の研究,材料試験炉(JMTR)に接続したOGL-1による高温ヘリウム取扱技術及び伝熱流動の研究などの研究を行っている。今後は,これらの成果を踏まえ,大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設,更には実験炉の建設へと進むこととしている。また,多目的高温ガス炉の開発と並行し,通商産業省では,このような高温ガス炉などを熱源とした製鉄への利用プロセスについての研究開発を行っている。


(5) 核融合

核融合は,海水の中に含まれている重水素などを燃料とするため,世界に偏在する化石燃料,ウランといった地下資源に依存することなく,永久的にエネルギーの安定供給が可能となることからその早期実現が期待される。

我が国においては,昭和43年7月に決定された「核融合研究開発基本計画」に基づき,44年度から49年度までの間,第一段階の研究開発を推進してきた。この結果,日本原子力研究所に完成したトカマク型の中間ベータ値トーラス装置(JFT-2)及び高安定化磁場装置(JFT-2a)により高温プラズマの閉じ込めについて顕著な成果を収めた。これらの成果を踏まえ,50年7月「第二段階核融合研究開発基本計画」を策定し,核融合動力炉実験の前提となる臨界プラズマ実験装置(JT-60)の建設,実験を主計画とする第二段階の研究開発を進めており,現在,日本原子力研究所で, JT-60の建設が進められている。また,非円形断面トーラス磁場装置(JT一4)の研究も開始されている。

更に,工業技術院電子技術総合研究所では,スクリュー・ピンチ装置(TPE-1)及びその改良型(TPE-1a)により,高ベータ・プラズマ閉じ込めについて着実な成果を収め,現在,これらを大型化したTPE-2を建設している。

なお,大学関係では名古屋大学プラズマ研究所等においてプラズマの生成,閉じ込め,加熱等に関する理論及び実験的研究が行われている。


(6) 原子力船

世界においては,今日まで,ソ連の砕氷船レーニン号,アメリカの貨物船サバンナ号,西ドイツの鉱石運搬船オット・ハーン号等の5隻の原子力船が建造されている。

我が国においても,「原子力第一船開発基本計画」に基づき,原子力船の建造運航経験を得るとともに乗組員の養成を行うことを目的として,原子力第一船「むつ」の建造及び定係港施設の工事を終了し,昭和49年8月「むつ」の出力上昇試験を開始したが,同年9月放射線漏れが起きたため試験を中断し青森県むつ市の定係港に係留された。

政府は,昭和49年10月,「むつ」放射線漏れ問題調査委員会を設け,「むつ」の放射線漏れの原因,「むつ」開発体制のあり方などについて調査,検討を行った。また,原子力委員会においても,50年3月原子力船懇談会を開催し,「むつ」の今後の措置,我が国における原子力船開発のあり方などについて検討を行った。政府はこれらの検討結果を尊重し,日本原子力船開発事業団を中心として「むつ」の開発を今後とも推進することとし,現行の日本原子力船開発事業団法の改正法案(11年間延長)を,52年2月,第80回国会に提出したが,継続審査となり,その後52年11月,第82回国会において同法案は一部修正(55年11月30日まで延長)の上可決成立した。この修正の趣旨は,日本原子力船開発事業団が原子力船についての研究開発機関に移行するための必要な措置として,同事業団法が廃止するものとされる期限を51年3月31日から4年8か月延長するものである。

政府は,「むつ」放射線漏れの際,青森県,むつ市及び青森県漁業協同組合連合会との間で締結した合意協定書に基づき,「むつ」の新定係港を決定すべく,その選定作業を進めてきたが,「むつ」について総点検・改修を行い,その安全性を確認することが先決であるとの判断から,修理港の決定を急ぐこととし,昭和51年2月,佐世保港を修理港として受け入れることについて内閣総理大臣から長崎県知事及び佐世保市長に対し,協力を要請した。

これに対し,52年4月,佐世保市においては,政府要請どおり,「むつ」受入れ受諾を同市議会が議決し,一方,長崎県においては,  「核燃料体を取りはずして入港すること」を条件に受入れを県議会が議決した。

政府は,その後も「むつ」修理港受入れについて長崎側と折衝を続けてきたが,53年5月,1)圧力容器上蓋を撤去しないで総点検・改修を行うこと,2)回航に先立ち長崎県知事に対し,原子炉運転のため設けられている運転モードスイッチの鍵及び制御棒駆動盤の鍵を引き渡し,長崎県知事は,佐世保での総点検・改修期間中これを管理・保管するものとすることの措置を講ずることとして,長崎県知事及び佐世保市長に対し,再要請を行った。これに対し,長崎県知事及び佐世保市長は,「むつ」受入れについてそれぞれ議会に諮問し,53年6月,両議会とも,「むつ」受入れに同意する旨議決した。

これを受けて,53年7月長崎県知事及び佐世保市長は,政府に対し,「むつ」を受け入れる旨回答した。これを踏まえ,同月,科学技術庁,日本原子力船開発事業団,長崎県,佐世保市及び長崎県漁業協同組合連合会との間で「むつ」佐世保港修理受入れについての合意協定書が締結された。


(7) 放射線利用

我が国における放射性同位元素(ラジオアイソトープ)及び放射線発生装置の利用は,原子力利用の中でも早くから着手され,放射線利用技術開発の進展に伴って,急速な発展を遂げた。

今日では,放射線利用は,基礎科学の分野から工学,農業,医療等の応用分野まで広範な分野において重要な地位を占めるに至り,放射性同位元素や各種放射線発生装置を使用する事業所は,医療,農業,工業等の各分野において逐年増加しており,昭和53年3月末現在では,3,715事業所にのぼっている。

医療分野における放射線利用は,X線を用いる診断,高エネルギー放射線発生装置やコバルトを用いる治療及び放射性同位元素を用いる診断治療(核医学)の3分野にわたって行われている。特に,放射線治療の主たる対象である悪性腫瘍に関しては,従来の治療法に加え,原子炉,サイクロトロン等を用いた方法が注目され,昭和51年2月から本格的に稼動した放射線医学総合研究所の医療用サイクロトロンにおいては,悪性黒色腫等に著しい治療効果を挙げている。

工業利用分野では,その利用は広範な業種に及び,ゲージング,非破壊検査,螢光エックス線分析,放射化分析等多岐にわたっている。また,農業利用分野についても,作物の品種改良,農林水産生物の生理機構の研究におけるトレーサー利用,放射化分析等広い分野にわたって放射線利用技術の普及をみている。

特に,放射線による食品照射の研究については,食糧の安定供給等に資するため,昭和42年9月「食品照射研究開発基本計画」を策定し,その研究開発を原子力特定総合研究に指定した。これに基づき,現在まで,ばれいしょ,玉ねぎ,米,小麦,ウインナソーセージ等について,国立試験研究機関,日本原子力研究所,理化学研究所等が連携して実用化のための研究を進めており,既にばれいしょについては,実用化,普及段階に至っている。

このような放射線利用における実用化の進展とともに,放射性同位元素の需要も毎年増加してきている。これら放射性同位元素の供給については,外国からの輸入のほか,日本原子力研究所を中心として,需要の多い核種に重点を置いて国産化を進めており,特に,海外に依存することの困難な短寿命核種については,放射線医学総合研究所,理化学研究所等で積極的に製造の研究開発を進めている。

原子炉の使用済燃料から回収される放射性同位元素の利用に関する研究については,日本原子力研究所で,90 Sr,137 Cs,147 Pm等の核種を各種線源として使用するための加工技術の研究が進められている。


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