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第1部   重要性を増す政府の研究活動
第3章  重要性を増す政府の研究活動
第2節  政府の研究活動の展開
4  我が国の開発途上国に対する研究協力の推進


第1節で述べたように,開発途上国に対する研究協力の必要性は,国際的にも高まっているが,我が国においても,開発途上国自身の研究開発能力の向上を促進させ,自国の諸条件に適した技術の自立的開発を可能とするため,科学技術分野での研究開発等を専門家の派遣による共同研究や研修員の受入れ等により実施している。

我が国の政府機関による研究協力は,東南アジアを中心に,1970年に農林水産省の附属機関として設置された熱帯農業研究センターを初めとして,通商産業省,科学技術庁,文部省,建設省において行われており,昭和52年度の各省庁別プロジェクト研究は 第1-3-4表 に示すとおりである。

近年,我が国の開発途上国に対する研究協力投資は,急速に増加しつつあるが,我が国の経済力の大きさ,資源・エネルギーの海外依存度の大きさ,技術水準の高さから考えると,欧米主要国に比べ必ずしも高い水準とは言えない状況にある。この中にあって,研究協力の方法においても,欧米諸国とは異なった特色がみられる。その一例を,熱帯農業に関する先進諸国の研究協力の方法と我が国の研究協力のそれとを比較し,その特色について述べることとする。

第1-3-4表 各省庁の研究協力の状況 (1)農林水産省(熱帯農業研究センターによる研究協力) (2)通商産業省(国際産業技術研究事業) (3)科学技術庁



開発途上諸国は,産業構造の上で農業に依存している程度が先進諸国に比べかなり大きく,農業の産業におけるウエイトの大きさとそのあり方が,産業・社会・文化に影響を及ぼしており,この結果,国全体としての発展のため,農業は無視しえないものとなっている。

しかしながら,先進国の農業技術を現地にそのまま移転しても,適合することはまれで,現地の自然環境や経済,社会,文化等に応じた新たな技術の創造が必要とされる。このため,先進諸国は,熱帯地域の開発途上国との研究協力に力を注いでいる。

これら開発途上国の農業は,旧植民地体制の下で二重構造を作り出している。すなわち,植民地宗主国の資本と技術とを注いで育成され,世界市場への輸出を目的とする大規模な企業的農業と,生きていくための営みとして従来から続けられてきた技術水準の低い農民農業である。第二次世界大戦以後,政治的独立を遂げた熱帯地域の多くの国々にとって,独立以前から存在していた企業的農業は,外貨獲得の重要な輸出産品として位置付けられていたが,また,主食の自給・確保を図るための農民農業を近代的農業へ発展させることも緊急かつ重要な課題であった。このような意味において,農業研究協力に対する開発途上国の期待も二面性を持っており,先進諸国の熱帯農業に対する研究協力も異なった形態をとっている。

すなわち,イギリス,フランス,オランダなど旧植民地を多く抱えていた国々にとって,農業研究協力は,企業的農業を中心としたものであり,現在でもその流れは引き続いている。

第1-3-5表 は,イギリス,フランスの熱帯農業に関する主な研究機関を掲げたものである。このように,両国の熱帯農業に関する研究は,ゴム,油やし,茶,コーヒー,カカオ,ココナツやし等の世界市場に対する品質向上,管理の研究が中心である。もちろん,農民農業のための研究協力も行ってはいるが,開発途上国で主食としている農作物に対する研究蓄積が少ないため,栽培技術全体にわたる研究協力よりは,むしろオランダが行っている害虫駆除に関する研究等の個々の課題についての研究協力にとどまっている。

一方,日本,アメリカ,カナダなど植民地とのつながりの少なかった先進諸国の熱帯農業に対する研究協力は,開発途上国民の主食確保のためのものがその主体となっている。しかしながら,我が国とアメリカ,カナダとの研究協力の方法はかなり異なったものとなっている。

第1-3-5表 イギリス及びフランスの熱帯農業に関する主な研究

アメリカ,カナダの研究協力は,開発途上国の人材を自国に招いてトレーニングを行い,学位を取得させることにより,開発途上国の農業研究に役立てるやり方,すなわち開発途上国の研究者養成に重点を置くものである。

これに対し,我が国の研究協力の方法は,研究者が開発途上国に赴き,研究者自らも研究活動を行うことによって相手国の農業研究に役立てるという方法が主として採られている。具体的には,東南アジアの開発途上国の主食である米の生産性向上のため等の目的で,我が国の研究者が開発途上国に赴き, 第1-3-4表の(1) に示すような研究協力が進められ,成果を挙げつつある。

しかしながら,開発途上国の土地所有制を初めとする制度的問題等により,これらの研究成果は,まだ必ずしも生産性向上等に結びついていない段階にある。

以上,農業における研究協力の一例をみてきたが,開発途上国に対する先進諸国の研究協力は,その歴史的背景や技術的蓄積度合が異なっているため,必ずしも一様ではないが,開発途上国にとって先進国との研究協力は必要かつ欠くことができないものとなっており,研究協力を求める要請は,極めて大きい。我が国は,このような要請に対して研究協力活動を,農業分野のほか,鉱工業,保健,土木,通信など多くの分野において強化する必要があるが,その展開に当たって次のような課題がある。

第1に,今後,研究協力を推進するに当たっては,相手国の研究協力に対するニーズを十分は握することが不可欠であり,そのためには情報の収集・流通機能等の強化が必要である。

第2に,農業分野における我が国の研究協力にみるように,研究協力を支えるのは何といっても人材であり,科学技術国際交流を支える優秀な人材の確保が必要である。それには,語学力ももちろん必要であるが,開発途上国が必要とする研究を支える優れた人材を,いかに確保していくかにある。終身雇用体系が優先する我が国において,派遣研究者の帰国後の処遇の問題も存在する。

第3に,今後,アメリカ,カナダ等において活発に行われている開発途上国の研究人材の養成も重要な課題であり,このためには,受入れ態勢の充実が必要であろう。

以上,我が国の研究協力の諸課題について触れてみたが,我が国は,資源・エネルギー,貿易等の面で開発途上国との相互依存関係が他の先進諸国と比較して極めて高いという事情にあり,今後,資金的にも,行政的にも,より一層の研究協力に対する取り組みが必要である。


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