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第1部   重要性を増す政府の研究活動
第3章  重要性を増す政府の研究活動
第2節  政府の研究活動の展開
3  産業技術開発の推進


我が国の産業技術の水準は,欧米諸国を目標に努力を続けた結果,めざましい向上を遂げたが,その源泉の一つは,海外からの技術導入であった。しかしながら,技術導入は,我が国企業の技術水準が向上したこと,また,欧米諸国における革新的技術の減少,我が国に技術供与することに対する反発の高まり等もあり,従来のような活況を呈することは困難となっている。

したがって,今後,産業技術を発展させていくためには,引き続き,必要な技術導入を積極的に図っていくとともに,自ら目標を設定し,自らの力で技術開発を強力に進めていくことが要求されていると言えよう。

民間における産業技術開発については,政府は,これまでも述べてきたように,主として基礎的・基盤的分野の研究開発を推進するとともに,経営基盤の弱い中小企業を対象とする研究開発,国民経済上重要な技術であるが,所要資金,研究開発の期間及びリスク等からして民間企業のみでは行えない研究開発等を推進してきた。産業振興という観点からすると,西欧主要国と我が国では,名目上の施策では大差がなく,アメリカと比較すると我が国の方が遥かに多くの施策が行われている。しかし,国防研究費あるいは大型の産業技術助成費により政府から民間に流れる政府資金量では差が出ている。

そして,問題となるのは,この政府資金が主として研究集約的分野に流れこんでいることの影響である。

したがって,ここでは,特に,この問題に焦点を当てて検討してみる。まず,めざましく向上していると言われる我が国の研究集約的分野の技術開発力について,それを示す一つの重要な指標である技術貿易の面から検討する。次いで,民間の研究活動に対する政府支出の差がもたらす影響について考えてみる。そして,我が国では,研究集約的分野の民間産業技術の開発に対し政府はどのように取り組んでいるかという問題について,我が国として最も多額の研究開発助成が行われた電子計算機等を例にとって検討し,今後の課題について考えてみる。


(1) 研究集約的分野における技術開発力の状況

第1-3-19図 は,我が国とアメリカ,西ドイツ,フランス及びイギリスとの間における研究集約的商品の貿易状況について示したものである。これによると,化学製品,航空機は,輸入超過となっているが,このほかは,全て我が国の輸出超過となっており,特に通信,電子,電気計測器及び自動車の輸出超過が著しく,国際競争力は極めて強いと言える。

次に,技術開発力を示す重要な指標の一つである技術貿易額を取り上げ,その収支状況をみると, 第1-3-20図 のとおりとなる。同図は,研究集約的業種の技術貿易収支額と,これらの収支額の差が業種内の使用研究費に対しどの程度の割合になっているかを,1974〜76年度の3年平均で示したものである。

第1-3-19図 欧米主要国との商品貿易状況(1976〜77年平均)

技術貿易収支は,商品貿易収支と異なり,欧米主要4か国に対しては,一方的な輸入超過となっている。そして,技術貿易収支額の使用研究費に対する割合からみると,一般機械工業,電気機械器具工業及び自動車以外の輸送用機械工業の技術導入割合が大きく,これらの業種では使用研究費の1〜3割に相当する額を欧米主要4か国に支払っている。これに対し,自動車工業及び精密機械工業は,技術導入割合が小さいと言える。また,油脂・塗料工業は,前図と併せてみると,技術導入より商品輸入が活発な傾向がみられる。

第1-3-20図 欧米主要国との技術貿易状況(1974〜76年度平均)

我が国の場合,欧米先進国からの導入技術及びこれらの技術の改良技術を十分に使いこなす能力は,極めて高いが,新たな技術を開発する能力が比較的低いことは,従来から良く知られており,以上の貿易状況からも明らかなところである。

世界経済において大きな影響力を持つに至った我が国が,今後とも国際協調の下で発展を続けて行くためには,このような外国技術依存の体質を改善し,独創性ある技術を生み出し,技術的国際分業体制の一翼を担うことが必要となっている。


(2) 研究集約的分野における政府支出の影響

我が国の研究集約的分野においては,技術貿易状況からみると,業種によって,アメリカ,西ドイツなどからの導入技術に,まだ,かなり依存していることがうかがえる。しかも,この分野の民間の研究開発に対する政府支出では,これらの国とは格差がみられる。特に,アメリカにおける国防・宇宙目的のための政府支出は巨額であり,その大部分は,航空機,電子産業に支出されている。この支出のもたらす影響をどのように考えるべきであろうか。

国防・宇宙技術の多くは,先端的,かつ,極限追求型技術の体系であり,また,機密保護の要請もあって民生部門への転用は容易でないということはかねてから指摘されており,産業技術開発という目的からすると,目的に直結した形で資金を投入した方が効率性が高いと言える。しかし,国防・宇宙開発の目的のため,政府資金を主として投入している産業技術の分野は,航空機,電子機器といった莫大な研究開発資金を必要とする上,開発に伴う危険負担が大きい研究集約的な技術分野であって,民間のみの力では十分研究開発を成し遂げ得ないものが多く,しかも,一旦形成された技術開発力はたやすく追い付くことはできないものであることを考えると,こうした政府支出のもたらす効果は,無視できないものがある。

第1-3-21図 は,戦後のアメリカの産業部門の技術革新を取り上げ,このうち,政府資金の投入による技術革新がどの程度であるかを業種グループ別に示したものである。研究開発における政府の役割の大きい農業,鉱業,建設業,公益業等の非製造業は,最もその割合が大きい。また,研究活動の活発な化学,機械産業は,技術革新数が最も多く,その割合でも約4分の1が政府資金の助けを借りている。すなわち,政府資金の投入が産業部門,特に研究集約的な産業部門の技術革新に相当の影響を与えていると言えよう。

アメリカにおける国防・宇宙などの分野の膨大な研究開発支出によって育成された技術開発力が,民生部門に波及する影響について,1960年代半ば,西欧主要国において技術格差問題として大きな論議を呼んだ。そして,イギリス,フランス,西ドイツは,研究集約的分野の民間研究開発に対し,国防目的による支出のほか,かなりの額の政府資金を支出している。いずれも,先行する強力なアメリカ企業の技術開発力に対抗する力を国内企業に育成することを目的としたものであるが,この政策の成果は,各国企業の技術開発力,その他の企業活動の状況の相違もあり,一様ではない。

第1-3-21図 政府資金による技術革新数及びその割合(アメリカ)


(3) 研究集約的産業に対する研究開発助成

研究集約的分野においては,アメリカは,膨大な政府資金を民間研究開発活動に支出しており,また,イギリス,フランス,西ドイツは,国防目的による支出のほか,かなりの研究開発助成を行っている。

我が国は,民間に対する政府支出額では劣るものの,政府は西欧諸国と同様に,この分野の技術開発力強化のため力を注いできた。この分野の技術は,付加価値の高い商品を生み出す源泉であり,また,今後の産業発展の柱となるものであるので重要性が大きい。こうした技術の一つが電子計算機である。我が国は,電子計算機については,積極的に民間の研究開発の助成を行ってきたが,この電子計算機を例にとり,研究集約的分野の研究開発に対する助成の状況についてみてみる。

電子計算機は,IBMが世界市場の過半を押さえている分野である。この分野は,研究開発を進める上で,膨大な研究費と人材を必要とし,開発リスクが大きい上,技術が日進月歩するものであるため,一旦築き上げられた強大な技術開発力は,後発の外国企業の追随を容易に許さない厚い壁となる。

アメリカにおける電子計算機産業の発展は,国防・宇宙の分野の需要が基礎となっており,ここで蓄えられた技術的蓄積が民生部門に応用され,情報利用の高度化による需要の拡大とともに,アメリカ企業は,世界の市場の過半を制するに至った。

我が国の電子計算機産業は,当初,科学技術計算を主体とした分野を市場としていたが,産業の発達や経済の発展に伴い,情報分野を初めとする多くの分野において電子計算機の役割は,ますます重要なものとなっており,今日では,我が国の戦略的産業にまで育ってきた。この間,政府は,国産企業の活発な研究活動を基調としつつ,電子計算機の生産及び利用について方向付けを行うとともに,技術開発面での不必要な競争の排除,研究開発に必要な資金の援助等を行ってきた。こうした例としては,昭和41年度から開始されたIBM360シリーズに対抗できる機種開発を目的とする大型プロジェクトによる「超高性能電子計算機」の開発を進めるとともに,46年度には,電子計算機に関する高度化計画を定め,我が国の電子計算機についての展望及び目標設定を行い,更に,47年度からIBM370シリーズに対抗できる電子計算機及び周辺装置の開発を目的として国内企業に対して開発費の50%補助を行った。

昭和51年度からは,超LSIメモリー,超LSI論理回路を開発するため,国内メーカーからなる技術研究組合に対して,開発費の50%補助を行っており,また,直接,電子計算機技術の向上を図ったものとは言えないが,電子計算機技術と密接に関連のあるパターン認識に関して大型プロジェクトにより「パターン情報処理システムの開発」を発足させた。一方,超LSIについては,日本電信電話公社が電子交換機など通信分野に利用するため,50年度から国内企業と共同して研究開発を行っている。

このように政府は,民間企業の研究開発に対する助成を行い,また,通商産業省工業技術院電子技術総合研究所等において基礎的・基盤的研究を推進してきたが,こうした努力は,国内企業の努力とあいまって,ハードウェア面の技術開発力の強化の推進力となり,新機種開発では,我が国は,IBMを激しく追う技術開発力を持つに至っている。

フランス,イギリス,西ドイツにおいても,アメリカ企業に対抗するため,民間の研究活動に積極的な助成が行われているが,その態様は,それぞれ異なっている。

フランス,イギリスにおいては,国内企業を統合し,統合した企業の研究開発に対し,政府資金が支出された。また,西ドイツにおいては,第1次から第3次にわたる情報処理高度化計画により,当初からハードウェアよりもソフトウェアを中心とする情報処理システムに重点を置いて研究開発が進められてきたが,第3次計画からは,大型機種の開発をほぼ断念し,これを除いた分野について国際競争力を持つことを目的として政府資金を支出している。

このように,各国とも,電子計算機の研究開発については,政府が積極的に助成を行っているが,各国の国産電子計算機の構成比を見ると, 第1-3-22図 のとおりとなる。これで見る限り,我が国は,国産機の構成比が55.1%を占めており,ハードウェアにおいては成果があがっていると言える。

この成果は,もちろん政府の研究開発助成にのみ帰せられるべきものではない。民間の活発な研究活動,それも単にIBMに対してだけでなく,国内企業間で激しく競い合った研究活動が大きく貢献している。また,電子計算機レンタル制度確立のための助成,公的機関による国産機の優先購入等の措置,特に,電子計算機の輸入規制等の通商政策の果たした役割も極めて大きい。こうした要件が一体となって,電子計算機のハードウェアについては,みるべき成果をあげたが,この産業分野は,技術開発力なしには成り立たないものであることを考えると,技術開発力強化のため,民間の努力とあいまって随時展開された政府の施策の効果は大きい。このように,我が国の電子計算機産業は,ハードウェアの面ではかなりの技術水準に達したが,大型機種の市場の成長は鈍化しており,また,一機種の商品としてのライフサイクルは約6年といわれる中にあって,今後も引き続き,強力な技術開発力を持つアメリカ企業と激しい競争をしていかねばならない。更に,我が国としては,ソフトウェアの開発が重要である。電子計算機は,ハードウェアだけでは用をなさず,これを利用するためのソフトウェアが不可欠であるが,我が国がこの分野で劣勢にあることは否定できない。ソフトウェア産業は,知識集約型の産業として,また,我が国経済を支える産業として重要であり,その開発を積極的に進めなければならない。

第1-3-22図 主要国の電子計算機の国産機と外国機の構成比

電子計算機については,このような官民合わせた努力が積み重ねられ,それなりの成果をあげてきたが,一旦築き上げられた強力な技術開発力を持つアメリカ企業に追いつくことは容易ではない。我が国の国内大手6社の研究費を合わせてもIBMl社の5分の1に過ぎないと言われている現状において,今後,開発戦略を明確にして官民の協力により,どのように対応するか大きな課題である。

次に,研究集約的産業の代表の一つである航空機産業についてみると,アメリカは,ここでも,膨大な国防研究を土台として技術開発力を築き上げ,現在でも,アメリカの航空機産業は,使用研究費の約8割を国防・宇宙目的のための政府研究支出から得ており,この強力な技術開発力を背景として世界市場の過半を押さえている。一方,西欧諸国は,民間航空機の分野で,多額の研究開発助成を行っているが,最近では,フランス,西ドイツ,イギリス等によるエアバス開発などのように国際共同開発が増加している。

航空機開発は,電子計算機と比較すると,必要とする研究資金は更に膨大であり,開発のリードタイムが長い上,開発の危険負担は大きいものがある。また,メンテナンス等サービス網の確立に多額の資金を要するなど航空機産業を取り巻く条件は厳しいものがあり,後発企業が地歩を確立するのは容易でない。航空機産業としては,アメリカはもとより,西欧諸国と比べても後発に属する我が国は,政府の助成の下にYX開発計画を発足させ,アメリカ及びイタリアとの国際共同事業として大型ジェット旅客機開発に本格的に乗り出した。

更に,先導的大型工業技術については,大型工業技術研究開発制度に基づき官民の能力を結集したプロジェクト・方式により研究開発が進められている。この制度により,第1章で紹介した電気自動車,海水の淡水化と副産物利用を含め,15のプロジェクト(昭和52年度まで)が実施され,研究集約的分野の産業技術開発に大きな貢献をしている。

このように,研究集約的分野における産業技術の開発については,政府の助成あるいは委託開発が我が国でも行われている。この分野における政府の助成等の目的のうち,国際的商品を生み出す技術開発力を作り上げることが重要であるが,この目的のためには,政府助成を強化するとともに,民間の研究開発力を中心として国立試験研究機関,大学等いわゆる産・官・学の研究能力を政府の主導の下に結集して研究開発を推進することが必要となっている。西ドイツにおいては,連邦政府の科学技術政策の目標3項目の一つに国際競争力の強化を掲げ,この目標の下に,重要産業技術について中期研究開発計画を定め,産・官・学の研究能力を結集して研究開発を進めている。

我が国においても,産業技術について自主技術開発力を強化することが急務となっているが,このためには,民間企業の技術開発力の強化を前提としつつ,明確な目標の下に,産・官・学の連携を密接にして研究開発を推進することが,この分野に対する政府助成の強化とともに必要になっている。


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