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第1部   重要性を増す政府の研究活動
第2章  政府の研究活動の特徴
第4節  政府予算に占める研究費の動向と研究活動の計画化
2  研究活動の計画化


今日,各国において研究活動の規模が大きくなり,活発化するとともに,その計画的実施は,大きな課題となっている。

研究活動の計画化の態様は,いろいろなとらえ方があるが,次のとおり分類してみる。


1) 研究活動のプロジェクト化
社会経済のニーズに対応して実施される研究開発課題には,特定時期までに達成すべき目標を定め,研究活動を管理,推進するものが増加している。
このうち,多くの科学技術分野にまたがり,多くの機関の研究者が関与する大規模な研究開発課題については,研究を行う者のほか,行政部局又は他の適当な者が研究開発目標を設定し,研究活動を管理,推進する方式,すなわち,プロジェクト方式をとることが効果的であるとされており,我が国のほか,欧米諸国において,この意味のプロジェクトが推進されている。

2) 特定分野における研究活動の計画化
エネルギー研究開発,あるいは原子力開発,宇宙開発などプロジェクトとなる研究開発課題が多数あり,分野全体として計画的,効率的推進を図る必要がある場合,その分野における研究開発計画が作成されている。

3) 各分野を総合した研究活動全体の計画化
基礎,応用,開発の各段階の研究活動の調和のとれた展開,特定研究開発分野の重点的推進等を目標とし,国全体又は政府の研究活動を対象として計画化が図られている。

各国における研究活動の計画化がどのような形態をとるかは,その国の科学技術政策のあり方とそれを取り巻く諸要因によって異なる。

また,計画の内容も,長期的に投入資金量を明確にし,この配分により研究活動の重点的推進を意図したもの,重点的に推進すべきプロジェクトを明確にし,政府部内等において合意を得ることを意図したものなどそれぞれ異なっている。

以下,各国の研究活動の計画化の状況について具体的に検討してみる。


(1) アメリカ

アメリカは,第1節及び第2節にみたように,国防,宇宙開発,原子力開発など,その時代,時代の重要課題に対応して,政府部内のみならず,大学,産業界の研究開発能力を動員する形で研究開発が進められてきた。この研究開発の推進に当たって,重要研究開発課題については,プロジェクトが作成されている。代表的なものとしては,「アポロ計画(1962年〜1972年)」,「ガン制圧計画(1972年〜1976年)」等がある。これらは,いずれも国家的ニーズを一定期限内に達成するため,研究資金,研究者等を集中的に動員することを目的としたものである。この結果,国防,宇宙,保健の分野に支出される政府資金ほ,急激に増加した。分野全般にわたる計画としては,1976年,エネルギー研究開発庁(現エネルギー省)によって作成された「エネルギー研究・開発及び実証のための国家計画」がある。この計画は,エネルギー研究開発について2,000年以降まで展望し,1985年までは研究開発計画が線表で示されており,資金計画は示されていない。この計画は,大統領及び議会に提出され,進捗状況を議会に報告の上,見直されることになっている。この進捗の実績は,必ずしも計画通りではないが,第1節にみたとおり1976年度,1977年度と政府研究資金におけるエネルギー分野の比重は大きく増加している。

このように,アメリカにおいては,当面する最重要ニーズに対応する研究開発課題についてプロジェクト化が進められた結果,ニーズに柔軟に対応できる研究開発体制が整備される一方,研究開発,とりわけ基礎研究の安定的発展を期し難いという側面が生じたと言われている。


(2) イギリス

イギリスは,戦後,既にみてきたとおり,国防,原子力に重点を置いて研究開発を進めてきたが,1960年代に入り,特に技術省が設置されていた1960年代後半,航空機を中心とする民生部門の技術開発の比重が高まった。1970年代に技術省が廃止されて以来,技術開発を集中的に進めるというより,各省庁のそれぞれのニーズに対応して効果的研究開発が進められている。

イギリスでは,国防,原子力においてはもちろん,1960年代後半強化された民間航空機開発など,主要研究開発課題については,プロジェクトが作成されているが,主要プロジェクトのほか,大学補助金委員会,科学研究会議など基礎分野の研究開発資金についても,いわゆる転がし(ローリング)5か年計画が作成され,研究開発の推進が行われている。これにより,研究開発全般が,長期的見通しをもって推進されている点に特徴がある。各省庁の研究開発資金の5か年計画は,政府全体の公共支出計画の一部を成している。公共支出計画は,5か年間の公共支出を主として目的別に示したもので,第1年度は計画が発表された時に実施中の予算の計数が,そして第2年度はこの計数に基づいて見積もられた翌年度予算編成の基礎となる計数がそれぞれ示されており,第3年度は見積り額,第4年度及び第5年度は暫定見通し額である。この計画は,毎年度見直し,計画期間を1年ずつ先にずらすことになる。


(3) 西ドイツ

西ドイツの科学技術政策については,既に述べたとおり,連邦政府のみならず,州政府も大きく関与しているが,現在では連邦基本法に基づく連邦・州間協定により相互に連携をとりつつ,実質的には連邦政府が主導権をとって進められており,特に,大学,国防を除いた分野の研究活動については,研究技術省が中心となって推進している。同省は,自ら,原子力開発,宇宙開発,海洋開発,情報処理,新技術開発を推進するとともに,他の省庁で行われる研究活動についても企画,調整を行い,現在,同省単独で,あるいは,他省庁と協力して,連邦政府が重点的に推進する研究開発課題について中期研究開発計画を作成し,長期的観点から研究開発を進めている。中期研究開発計画は,期間は4年間で,研究開発目標,具体的研究開発課題,担当研究開発機関等とともに,中期財政計画に基づき予定所要資金額が示されている。

第1-2-31図 西ドイツの中期研究開発計 画における研究費の伸び

この中期研究開発計画を事項別の研究費の仲びで示すと, 第1-2-31図 のとおりとなる。同図に示すとおり,近年,通信・電子,情報等の分野,あるいは労働環境改善,生活環境改善等の生活関連分野の伸びが著しい。

中期財政計画は,1967年以降作成されているもので,財政体質を改善し,長期的視野の下に財政運営を図ることを目的として,計画期間5年で主要項目別財政支出額と収入見積りが示されており,毎年見直しをする転がし(ローリング)計画である。

西ドイツの予算制度は,単年度主義であるので,毎年予算編成が行われるが,この際,プロジェクトごとに所要資金の見直しが行われ,所要資金が増加した場合,増額要求が行われる。しかし,中期財政計画によって全体として枠付けされているため,実施中の個別プロジェクトで各省庁と財政当局が激しくやり合うことはないと言われている。


(4) フランス

フランスは,計画期間中達成すべき経済・社会目標を明確にし,中央管理経済によって達成しようとするいわゆる全体的経済計画により,経済の運営が行われているが,科学技術行政機構が整備された第4次計画(1962年〜1965年)以降,研究開発についても経済・社会目標に対応させて推進を図るという考え方でこの計画中に位置付けられている。しかし,研究開発成果の定量化が困難であること,研究開発の不確実性等から,計画化の手段は財政的手段となっている。

第6次計画(1971年〜1975年)から計画中,特に優先的に実施すべき計画を最優先実行計画として取りまとめる方式が採用されているが,これは,第5次計画において詳細な計画が採択されたにもかかわらず,年度予算の段階でなしくずしにされた経験から考え出されたものである。

第7次計画(1976年〜1980年)は,1976年国会の承認,大統領の署名を得て公布されたが,研究開発(国防,航空機等に関する研究開発は除く。)に関する最優先実行計画は,「国の科学的ポテンシャルの強化」のタイトルの下に,予算額6,508億円(104億8,900万フラン)が計上されている。その主要内容は,研究者の年率3%の増加,大学の研究活動の強化のほか,最優先施策として,

1) エネルギー及び原料依存度の減少,
2) 農業及び高テクノロジー分野などの工業における生産手段の適応化,
3) 生活条件と生活環境の改善,
4) 開発途上国との研究協力

を掲げている。

最優先実行計画に盛り込まれた事項については,毎年度優先的に予算化されるよう努力される。毎年度の予算編成においては,研究開発予算は,大学における研究,国防及び航空機に関する研究開発を除き,包括予算として科学技術研究総務庁が取りまとめ,学識経験者から成る科学技術研究諮問委員会に諮問し,科学技術研究閣僚会議で検討の上,決定される。


(5) 日本

日本では,科学技術会議が,基本的かつ総合的な科学技術政策について内閣総理大臣の諮問を受け, 第1-2-3表 のとおり答申している。

第1-2-3表 科学技術政策についての科学技術会議の答申

これらは,いずれも達成すべき科学技術政策の目標,目標達成に必要な施策,重点的に推進すべき研究開発分野及び各分野の主要研究開発課題等を明らかにし,我が国の政府の研究活動の方向を示しているものであり,厳密な意味で計画とは言えないが,国全体又は政府の研究活動の計画化を指向したものであり,国全体の合意作りに役立っている。この科学技術会議の答申を基本的な指針として,科学技術庁は,毎年度予算編成に際し,大学,国防等を除いた政府研究費の約50%にあたる科学技術予算について予算見積りの方針を示し,総合調整を行っている。昭和53年7月,長期的かつ総合的研究開発目標であるエネルギー研究開発基本計画について,科学技術会議から答申され,この答申に基づくエネルギー研究開発基本計画の策定により,我が国における研究活動の計画化は,一歩進んだことになる。

また,原子力開発利用について「原子力開発利用長期計画」が原子力委員会により,宇宙開発について「宇宙開発計画」が宇宙開発委員会により策定されている。これらは,それぞれの分野における主要プロジェクトの達成目標,必要な施策等を示しているものである。

このほか,各省庁において推進されている主要研究開発課題については,それぞれプロジェクトあるいは計画が作成されている。

以上,各国における科学技術活動の計画化の状況についてみたが,各国における立法府と行政府の関係,行政府内における意志決定機構,財政制度等が異なり,単純に比較できないが,要約すると,次のとおりである。

1) 検討を行ったアメリカ,イギリス,西ドイツ,フランス及び日本とも重要研究開発課題については,プロジェクト化が行われている。
2) 研究開発分野ごとの計画化は,西ドイツにおいて重点的に推進されている。また,エネルギー分野については,西ドイツのほか,日本,アメリカにおいて研究開発計画が作成されている。
3) 国全体の研究活動を対象とする計画については,フランスが経済計画の中で試みているが,優先的に資金を投入する項目を明示するものにとどまっている。日本においては,科学技術会議の第6号答申等この方向を指向したものが出されており,国全体の科学技術活動の合意作りに役立っている。
4) 西ドイツ,イギリス,フランスにおいては,単年度予算制度の下で多年度にわたる研究開発の円滑な推進が図れるよう,多年度財政計画又は経済計画に基づき投入資金額の長期的見通しが与えられている。

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