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第1部   重要性を増す政府の研究活動
第2章  政府の研究活動の特徴
第1節  政府研究費の目的別動向
2  主要国の政府研究費の目的別動向


本項では,研究費を指標とし,政府の研究活動が,具体的にどのような役割を担って行われているかを,欧米主要国のアメリカ,イギリス,西ドイツ及びフランスと我が国について,研究目的の動向から比較,分析することとする。


(1) アメリカ

アメリカの政府研究活動は,連邦政府にその責任がゆだねられており,公共負担の研究費のほとんどを連邦政府が支出している。したがって,連邦政府の研究費によってアメリカの政府研究投資動向をみていくこととする。 第1-2-2図 は,アメリカの政府研究費の目的別割合である。同図に示すとおり,第2次大戦参戦後,急速に増大した国防研究費の割合が,1960年度におい七も政府研究費の8割を超えている。しかしながら,1960年代に入ると,人類初の月旅行を目指すアポロ計画が始まり,これに伴い,宇宙開発に関する研究開発の優先度が高まり,相対的に国防分野への支出割合が急激に減少している。1970年代には,国防研究の割合がほぼ横ばいに推移したのに対し,宇宙開発は,アポロ計画の終了に伴い,その投資割合が減少し,この結果,国防,宇宙以外の分野の割合が拡大している。国防研究の内容についてみると,ミサイル,航空機,宇宙及び原子力という技術先端的な分野が半分以上を占めている。

第1-2-3図 は,国防以外の研究目的の推移をみたものである。同図は,1977年度の優先度の大きい順に並べてあるが,国防研究に次いで政府研究費の投入の大きい宇宙開発への配分割合が減少傾向を続けている。また,その内容も,アメリカの威信をかけたアポロ計画の終了後は,宇宙連絡船(スペースシャトル) の開発に代表されるように,国の威信より,むしろこれまでの成果を踏まえ,実用に役立つ分野の開拓に重点を移していることがうかがえる。

第1-2-2図 アメリカの政府研究費の目的別推移(1)

宇宙開発への研究投資割合の減少に対し,宇宙開発に次いで優先度の高い保健分野における研究投資割合は増大しており,特に,社会からの要請の強いがん防圧に関する研究が積極的に行われている。また,1970年代に優先度の高まった分野としては,石油危機以降の核エネルギー研究を含むエネルギー分野,及び環境分野が挙げられる。このほか,科学技術基盤の強化,運輸,通信,自然資源,農産物等に関する研究活動が政府資金により行われている。

第1-2-3図 アメリカの政府研究費の目的別推移(2)

以上のように,アメリカにおける政府の研究活動は,国家安全保障に関する分野の研究開発を最も主要な目的としており,このほかでは,公共性の強い分野の研究活動が強力に行われている。また,政府資金の研究目的別割合の変化からみると,国防,宇宙への研究投資割合の減少傾向と,宇宙開発の内容変化をも含め,保健,エネルギー,環境等の国民生活に,より直結した分野への研究投資割合が増加する傾向がみられる。


(2) イギリス

イギリスの政府の研究活動は,アメリカと同様,中央政府の責任により行われており,地方政府の研究費負担はほとんどみられない。

第1-2-4図 は,イギリスの政府研究費の目的別割合の推移である。同図に示すとおり,政府研究活動の主要目的となっている国防研究は,1960年代初めには政府研究費の6割を超えていたが,その後,60年代末には4割台まで急速にその割合が減少した。しかし,1970年代に入ると,逆にその割合は漸増傾向を示し,77年度は政府研究費の5割を占めている。また,1960年代前半は国防に次ぐ重要研究分野であった原子力開発の投資割合をみると,1960年代においては,減少傾向がみられたが,70年代は,政府研究費の7%前後の割合で推移している。一方,1960年代初めから研究が行われている宇宙開発への研究投資割合は極めて小さい。これに対し,民間航空分野への研究投資は,1960年代後半から70年代前半までの間は政府研究費の1割以上を占め,この期間の原子力開発と宇宙開発への投資割合より大きく,民間航空機産業の育成を大きな国家目標としていることがうかがえる。このほか,科学研究全般の促進を目的として,大学に直接一括支出される研究費が政府研究費の約1割の割合を占めている。

次に,国防研究費及び大学に直接一括支出される研究費以外の研究費について,研究目的別に最近の推移をみると, 第1-2-5図 のとおりである。

第1-2-4図 イギリスの政府研究費の目的別推移(1)

イギリスにおいては,大学に直接支出される研究経費以外に,科学研究の促進を目的として教育科学省から独立して設立されている組織である研究会議を通じて研究機関,大学へ政府資金が流れている。このうち,農業,医学以外の全ての自然科学分野の科学研究の促進を図る研究会議予算と政府の科学研究補助金を合わせた割合は,同図に示すとおり,政府研究費の約1割の割合で推移している。

また,原子力研究開発は,同じく数%の割合で推移している。産業振興を目的とする研究費の支出は,前述したように,その大部分が航空分野であったが,1970年代に入ると,フランスと共同で行った超音速旅客機(コンコルド) の開発の終了に伴って大幅にその割合が減少している。

第1-2-5図 イギリスの政府研究費の目的別推移(2)

これに伴い,航空・宇宙以外の鉱工業,農業,保健・厚生,その他の公共サービス分野の研究費の割合が増加しているが,航空分野の減少を埋めるに至らず,他方,原子力の割合と大学及び研究会議等の科学研究費の割合が横ばいであることを考えると,民間航空機開発のための研究費の割合の減少分のほとんどが国防研究費割合の増加分に回っていると言える。


(3) 西ドイツ

西ドイツの政府の研究活動は,連邦政府とベルリン地区及び10州の政府の協力により進められている。連邦政府と州政府間の責任区分は複雑であるが, 第1-2-6図 に示すように,おおむね,大学における研究費の大部分を州政府が,産業界で使用される政府研究費を連邦政府が支出しており,また,政府研究機関及び民間非営利研究機関への支出は両者とも行っている。

第1-2-6図 西ドイツの連邦政府と州政府の研究費の割合と分担

研究投資目的別の連邦政府と州政府の負担割合を1970〜75年度間の平均でみると,大学を中心に行われる科学研究については,州政府が大部分を負担している。一方,国防,原子力,宇宙,鉱工業,建設,運輸については,その研究費の全部又は大部分が連邦政府の負担となっている。このほかの農業,保健,自然環境等については,州政府も3〜5割の研究費を負担している。このような状況から,本白書では,西ドイツの政府研究費を原則として連邦政府と州政府の研究費を合わせた公共負担研究費によってみていくこととする。

第1-2-7図 は,西ドイツの政府研究費の目的別割合の推移である。同図に示すとおり,西ドイツでは,大学に直接支出される研究費の割合が全体の約4割と最も大きくなっている。一方,政府研究費に占める国防研究費の割合は,アメリカ,イギリスに比べると小さく,1960年代で政府研究費の約2割,70年代に入るとその割合は更に減少し,ここ数年,ほぼ1割である。宇宙開発は,1960年代初めから進められているが,その研究費の割合は,60年代後半以降,政府研究費のほぼ5%前後の割合で推移している。全体的にみると,1960年代後半から70年代前半に国防研究費及び原子力研究の割合が減少し,これ以外の研究分野の割合が増加していることがわかる。このうち,大学へ直接支出された研究費と国防研究費を除いた研究費について,その目的分野別の推移を示すと 表1-2-8図 のとおりとなる。

第1-2-7図 西ドイツの政府研究費の目的別推移(1)

同図に示すとおり,民間非営利研究機関等で行われている政府の研究開発計画の基礎研究及び大学には適さない大規模な基礎研究等,情報・教育訓練等企業の共通的問題に対する研究,保健,建設,運輸に関する研究への支出の割合が増加している。このほか,民間航空機開発等の鉱工業分野への研究投資割合は,宇宙開発への投資割合より優先度が高く,全体の5〜8%を占めている。

第1-2-8図 西ドイツの政府研究費の目的別推移(2)

以上のように,西ドイツにおいては,政府の研究目的についてはイギリスと大きな差異は認められないが,研究目的別の投資割合は大分異なっている。すなわち,最も大きい投資割合を示しているのは,大学に直接支出される科学研究促進を目的とする研究費で,政府研究費全体の4割を占めている。

一方,国防研究及び原子力開発への投資割合は,1960年代後半から70年代前半にかけて減少し,産業,保健,公共サービス等の分野への研究投資割合が増加している。また,民間非営利研究機関等における科学研究の促進を目的とする研究活動に対しては,国防研究,原子力開発に匹敵する規模の研究投資が行われている。


(4) フランス

フランスの政府の研究活動は,アメリカ,イギリスと同様,中央政府が責任を持って行っている。

第1-2-9図 は,フランスの政府研究費の目的別割合の推移である。同図に示すとおり,フランスの政府研究目的のうち,最もその割合の大きい国防研究費は,既に述べた主要国と同様の傾向にあり,1961年度の政府研究費全体の44%から77年度の30%へと,その割合は減少している。また,1960年代前半は,政府研究費のおよそ4分の1を占めていた原子力開発費の割合も減少を続け,70年代は,13〜15%の割合で推移している。フランスにおける宇宙開発は,他のヨーロッパ主要国と同時に1960年代初めから行われ,その研究投資割合は,過去10年間数%程度である。一方,民間航空機開発助成も,ほぼ宇宙開発に匹敵する研究投資割合で推移している。また,大学へ直接一括支出される研究費及び科学の進歩を目的として大学,研究機関へ支出される研究助成費を合わせた研究費は,1960年代以降,約2割の割合となっている。以上の研究目的以外の割合は増加している。

第1-2-9図 フランスの政府研究費の目的別推移(1)

第1-2-10図 フランスの政府研究費の目的別推移(2)

第1-2-10図 は,国防研究費と大学及び研究機関への科学研究費を除いた研究費の研究目的別推移を示したものである。

同図に示すとおり,原子力開発以外の研究費割合は,1965年度の18%から,71年度以降は30%以上へと増加し,その内訳では,農学,保健,産業の研究・開発助成,建設,運輸等の分野への研究投資割合がほとんど一様に増加している。

以上のように,フランスにおいては,1960年代以降でみると,国防,原子力,科学研究の促進,宇宙及び民間航空機産業の育成が主な政府の研究目的であるが,既に述べた主要国と同様,国防,原子力の研究費割合が減少し,代わって,これら以外の工業技術の促進,農業,保健,建設,運輸などへの政府研究費の支出割合の増加が認められる。


(5) 日本

我が国の公共研究費は, 第1-2-11図 に示すとおり,国が約8割,地方公共団体が約2割を負担している。このうち,地方公共団体の研究費は,公立大学,農業関係を中心とする公立試験研究機関に支出されている。ここでは,公共研究費全体の8割を超える国の研究活動を取り上げて,その動向を述べる。また,政府研究費としては,研究機関,大学等へ支出される研究費及び研究活動に附帯する行政費等を合わせた科学技術関係予算 注) を取り上げることとする。

第1-2-11図 我が国の国と地方公共団体の研究費負担割合及び支出先(1976年度)

第1-2-12図 は,我が国の政府研究費の目的別割合の推移である。同図に示すとおり,我が国では,国防研究の割合が政府研究費の3〜4%前後と極めて小さいのに対し,科学研究の促進を目的として,ヨーロッパ主要国と同様に,大学へ直接一括支出される研究費と,大学,研究機関等への科学研究助成費を加えた割合が全体の5割台を占めている。

国立大学及び国立大学附置研究所に支出された研究費の学問分野別割合をみると,農学分野は,1960年度の17%から77年度は12%へと徐々に減少がみられる。逆に,医学,歯学,薬学等からなる保健分野は,1960年代初めの25%から,60年代末以降の30%台へと増加している。理学はほぼ2割,工学は約4割で推移している。

このほか,私立大学への助成を中心とする助成金の割合が1970年代に増加している。

科学研究の促進に次いで割合の大きいものとしては,原子力関係費が挙げられる。原子力関係費は,原子力開発及びその医療,農業,工業等への利用に関する研究費であり,その割合は,全体の9%から16%の間で増減がみられ,1977年度は14%の割合となっている。一方,1960年代半ば以降に本格的な推進が始まった宇宙開発分野への研究投資は,70年代に入るとその割合が急増し,政府研究費の約1割を占めている。このほかの研究投資割合は,1960年度の3割からその後減少を続け,70年代はほぼ2割となっている。


注)本白書において従来から使用しているものであって,自然科学分野における政府の科学技術活動に支出された経費である。その内容は,一般会計予算中の科学技術振興費と,これ以外で一般会計予算及び特別会計予算に計上されている科学技術活動と考えられる予算を科学技術庁限りで集計したものである。科学技術振興費以外の経費のうち,主なものは,国立学校特別会計に計上されている国立大学の研究活動費である。なお,政府関係機関予算に計上されている日本国有鉄道,日本電信電話公社,日本専売公社の三公社の研究費並びに政府から出資金等が支出されている日本道路公団等の独立採算性が期待されている特殊法人の研究費は含まれていない。これらの公社,公団等特殊法人の研究費は,総理府統計によると,1976年度で科学技術関係費の9.6%に相当する740億円である。

第1-2-12図 我が国の政府研究費の目的別推移(1)

第1-2-13図 は,1970年代における原子力関係,宇宙開発及びその他の政府研究費について目的別に示したもので,原子力関係,宇宙開発への政府支出の伸びに対し,農林水産技術への研究投資割合の減少がみられる。一方,鉱工業技術に対する研究投資は,電算機産業への振興対策助成費が支出された1972年度以降,その割合が増加したが,この助成費の減少に伴い,鉱工業への研究投資割合も減少している。社会経済の要請に既応する研究で,かつ,研究規模が大きく,企業化に伴う危険負担が大きいため,国が中心となり,学界や産業界との共同研究体制で総合的な研究開発を進めている大型工業技術開発は,政府研究費の2%程度で推移している。このほか,厚生,運輸,建設,郵政等の行政目的に沿った研究投資が行われている。

第1-2-13図 我が国の政府研究費の目的別推移(2)


(6) 開発途上国との研究協力

以上までは,主要国政府が国内の社会経済が調和のとらた発展を続けることを主な目的として行う研究活動の動向をみてきた。しかしながら,政府の研究投資のなかには,その投資割合は比較的小さいが,科学技術活動における先進国の重要な責務である開発途上国自身の研究開発能力を高めるための研究協力投資が含まれているので,これを取り上げてみる。

開発途上国の健全な成長は,世界各国が貿易,投資等を通じてその相互依存関係を強めている世界経済において極めて重要な問題となっている。従来から,先進国は,開発途上国に対する経済協力に努めているが,研究協力が協開発途上国の社会経済に真に寄与するためには,これらの国における科学術基盤の強化,技術水準の向上が不可欠の条件である。このため,先進国の技術を開発途上国へ移転する等の目的で,開発途上国の技術者を受け入れて技行う研修,先進国技術者の派遣による技術指導,機材の供与等による技術力が政府開発援助の一環として行われている。しかしながら,主に先進国で開発された技術をもって行われる従来の技術協力のみでは,先進国と風土,社会経済環境等の様々の条件が異る開発途上国において,移転技術等が有効に生かされていない場合が多い。この主な要因として, 第1-2-1表 の一部の開発途上国の研究費を見てわかるように,これらの国では,その研究開発基盤が弱いため,先進国の技術を自国に適した技術として改良・育成することが困難な場合が多いことが挙げられる。このような理由から,先進国が開発途上国との共同研究等により,開発途上国自身の研究開発能力を向上させ,これらの国に真に適応する技術の開発を目指す研究協力が重要となっている。

第1-2-1表 開発途上国の研究費総額

第1-2-14図 は,主要国政府の開発途上国との研究協力実績である。我が国においては,1970年度に農林水産省に熱帯農業研究センターを設置し,東南アジアの農林業技術開発のための研究協力を実施している。また,その後,通商産業省の産業技術研究協力,建設省の建設技術研究協力,文部省の開発途上国科学協力,科学技術庁の研究協力が始まり,急速に研究投資は増加しているが,欧米主要国に比べると,まだ格差があるとみられる。

第1-2-14図 開発途上国との研究協力実績


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