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第1部   重要性を増す政府の研究活動
第1章  政府の研究活動の役割
2  産業の発展


(鉱工業)

戦後,めざましい発展を遂げた我が国の鉱工業技術は,主として民間企業による活発な研究活動の成果によるところが大きかった。

これに対し,政府は,我が国の鉱工業技術の開発に望ましい方向性と活力を与え,鉱工業分野が調和よく発展するよう,国が必要とする研究開発を自ら進めるとともに,民間企業の技術開発を補完し,支援してきた。

すなわち,政府は,その成果が直ちに利益に結び付きにくい基礎研究や,研究開発に伴う危険負担が大きく,長期間と多額の資金を必要とする研究開発,分析技術,材料技術,電子技術のような先導的・基盤的分野の研究開発,中小企業分野など民間企業のみに期待することが困難であり,かつ,国家的見地からその推進を必要とする分野の研究開発については重要な推進者となってきた。

鉱工業技術は,多岐にわたるものであるが,ここでは,先導的あるいは基盤的な研究開発成果例を挙げ,鉱工業分野における政府の研究活動の役割を述べてみる。

第1-1-5図 は,我が国における数値制御工作機械の生産台数の推移を示したもので,過去10年間に10倍以上の生産増加がみられる。

工作機械は,自動車等各種機械製品を生み出す機械として,全ての機械工業の基礎設備となっている。そして,工作機械の性能は,これによって製造される製品の品質に直接影響を及ぼすため,その高性能化は,常に重要な研究課題である。

数値制御工作機械は,工作機械の発展のなかでも画期的な成果の一つである。これは,昭和27年にアメリカで初めて開発されたオートメーション工作機械で,起動ボタンを押すだけで,あらかじめ与えられた指令通り動いて,自動的に材料を加工する高精密で高能率の工作機械である。

我が国でも,工作機械工業の技術水準の向上を目指して,独自の発想に基づく高精密かつ高性能の工作機械の開発が要請されていた。このため,昭和31年より,国立試験研究機関(通商産業省機械技術研究所)において,金属加工機械の一種であるジグ中ぐり盤を対象に,数値制御によるジグ中ぐり盤の研究開発に着手し,この分野における我が国の研究開発の先鞭をつけた。

第1-1-5図 数値制御工作機械の生産台数の増加

本研究により開発されたシステムは,数値制御に必要なデータ処理及び動作信号指令を扱う計算指令装置,位置の検出装置及びジグ中ぐり盤本体部に大別される。計算指令装置は,演算素子に新たに我が国で開発されたパラメトロンを採用した。検出装置としては,新しい光電式自動位置検出方式を開発し,精密自動位置決め方式として広い応用面を提供した。機械本体は,系統的な構造強度の研究を通して設計され,所期の目的を達成するとともに,その後発展した工作機械の剛性向上の研究に重要な一石を投じた。これらの成果は,民間に移転され,昭和38年には実用機の生産が開始されている。

更に,本研究の成果は,単にジグ中ぐり盤の性能向上へ直接貢献したのみではなく,他の工作機械の数値制御化をうながす大きな動機となり,工作機械の高性能化に必要な基礎的なデータを提供し,その後の我が国の数値制御工作機械の技術開発に著しい波及効果をもたらし,先進工業国に比べると極めて低かった工作機械工業の技術水準を速やかに向上させた。

また,数値制御方式は,昭和40年代から質的にも大きな進歩を遂げつつある。すなわち,当初は,個々の機械の数値制御化が進んだが,この技術が一応の完成をみると,個々の機械を常に最適の状態で動作させるための適応制御技術,及び数台の工作機械をコンピューターで制御する群管理システムヘと進み,更には,工作機械を含む工場全体をコンピューターで制御する無人化工場へと進みつつある。

このうち,適応制御技術については,前述の国立試験研究機関において,昭和42年度から5年間にわたり,旋盤を対象とした研究を行い,適応制御旋盤の開発に成功した。

また,群管理システムについては,政府は,昭和43年度より3年間にわたり,民間企業6社に研究開発助成費を交付し,国立試験研究機関の指導の下に共同研究の推進を図り,それによって開発されたシステムは,既に国内数社で稼動している。このように,政府は,本分野に関し,当初の段階から現在に至るまで常に先導的な役割を果たしており,このような努力が 第1-1-5図 に示す数値制御工作機械の生産台数の増加に結実している。

機械工業の基盤技術である数値制御工作機械の開発を紹介したが,更に,多分野にわたる基盤的な性格をもつものに新材料の開発がある。これについても,政府は,積極的な研究活動を行っており,この成果のうち,ゴルフのブラックシャフト,テニスラケットなどに使用されている炭素繊維の開発を取り上げてみよう。

炭素繊維は,強度,弾性率が高く,比重が小さく,また,金属同様に導電性がある反面,疲労強度が高く,耐摩耗性にも優れており,更に,耐熱性や耐薬品性に優れるなど,多くの優れた特性を有しており,新しい工業材料として脚光を浴びている。

この研究開発に最初に着手したのはアメリカであり,昭和34年には,レーヨン繊維を原料とする炭素繊維が開発された。我が国では,34年より国立試験研究機関(通商産業省大阪工業技術試験所)が最初の研究に着手し,36年には,各種の高分子繊維を焼成検討した結果,ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料として,これを200〜300゜Cの空気中で黒色化するまで加熱して耐炎化処理を施し,次に,これを窒素ガス等の不活性雰囲気中で800〜3000°C間の温度まで加熱して,炭化あるいは黒鉛化させるという,レーヨン系炭素繊維に比較して格段に優れた性質の炭素繊維の製造法の開発に成功した。

炭素繊維の用途は,まだ限られているが,その優れた特性から,今後,量産体制が整えば多くの用途が開けるものと期待され,特に,その軽量性から義手,義足などの医療用機器の材料として,また,今後,省エネルギー化を推進するため,航空機,自動車等の構造材,各種部材としての利用など大きな可能性を秘めている材料である。

以上は,鉱工業分野において国立試験研究機関の活動を主体とするものの一部を取り上げた。これに対し,近年,我が国が直面する鉱工業の高度化,資源開発,環境保全などの諸問題を解決するため,各研究組織による総合的な研究活動の推進が要請されている。

これは,これらの諸問題を解決する課題の多くが,技術的に高度のものが多く,社会経済からの期待に科学技術がこたえるには,資金,広範な分野の人材の結集などを必要とし,一国立試験研究機関,一企業などで取り組めるものでなく,国家的な取り組みが必要とされるためである。このため,政府としては総合的な研究開発体制をとって多くの課題に取り組んでいる( 詳細は第3部第2章参照 )。

鉱工業分野では,政府は,昭和41年度から大型工業技術研究開発制度(通称:大型プロジェクト)を発足させ,国民経済上重要かつ緊急に必要とされる先導的大型工業技術であって,波及的効果が大きいと考えられる技術について,政府が全額所要経費を負担し,国立試験研究機関と産業界との密接な協力体制を組織し,計画的,総合的な研究開発を進めてきている。特に,本研究開発においては,総研究開発費の約8割から9割が民間企業への研究開発委託費であり,主として機械装置,部品,材料等の試作研究,運転試験研究等に民間企業の技術的能力を活用しているが,同時に,これは,民間企業の技術開発力の養成を図る上で大きく貢献していることも見のがせないところである。

昭和52年度までに実施されたプロジェクトは15あるが,ここでは,既に終了したプロジェクトの中から,「電気自動車」と「海水淡水化と副産物の利用」の二つを取り上げ,その成果の概要を紹介する。

電気自動車は,電池に蓄えられた電気エネルギーを用いて電動機を駆動させるために,排気ガスを放出せず,かつ,振動騒音が少なく,自動車公害防止の面からみると理想的な自動車である。

更に,長期的にみると,電気自動車は,電力を使用するため,石油のみでなく,水力,石炭,天然ガス,原子力等の一次エネルギーが利用でき,エネルギー資源の多様化にも対応できる。また,運転操作が簡単である上に,運転制御のオートメーション化が容易である。

このように,電気自動車には多くの長所があるが,高性能化したガソリン自動車に匹敵するものを民間企業のみの力で開発するのは困難なため,昭和46年度より52年度まで大型プロジェクトの一つとして電気自動車が取り上げられ.官民一体となった研究開発が進められた。

この結果,開発された実験車では,1)一充電走行距離が単独電池搭載型車種で250km程度(従来は100km位),ハイブリッド電池(発進用専用の高出力電池と定常走行用の高エネルギー電池を組み合わせた電池)搭載型車種で450km程度となり,2)加速性能,登坂性能もガソリン車に匹敵する性能を得るとともに,最高速度は時速100km前後まで可能となり,3)騒音も同車格のガソリン車と比較して5〜10ホン下回り,4)電池は従来のものに比べて単位重量当たりの蓄電量を約2倍と高性能化し,また,電池の寿命も2〜3年の使用が可能となるなど,世界的にも注目されるめざましい成果をあげ,都市内走行を前提とした場合,性能面においては,ほぼガソリン自動車に匹敵する水準に達した。

このような成果をあげ,本プロジェクトは,52年度をもって一応終了したが,今後はコストダウンを図ることが最大の課題であり,このためには,電池,電動機,制御装置等の量産化技術,量産化に適した軽量化車体の開発などの生産技術面における改良を進めるとともに,電気自動車に適した需要分野を開拓し,大量の需要を創出することが重要であろう。

海水淡水化とその副産物の利用技術は,水資源の創造を目指すものである。我が国は,近年における急速な水需要の増大によって,毎年のように,各地で水不足が起こっており,更に,将来は恒常的な水不足の発生が懸念されている。一方,我が国は,四方を海に囲まれており,この海水を淡水化することができれば,将来の水資源の確保に有力な手段を与えることになる。

このため,昭和44年度より本プロジェクトを大型プロジェクトとして取り上げ,海水から大量かつ安価な淡水を安定して生産する工業的な技術の開発及びその副産物である食塩,カリウム等の回収技術の開発に着手した。

海水の淡水化には,蒸発法,電気透析法,逆浸透法,冷凍法があるが,このプロジェクトでは,大量かつ安価で安定した淡水を得る可能性がある高速流長管式多段フラッシュ法を選定した。この方式は, 第1-1-6図 に示すように,海水を加熱し,その加熱温海水(ブライン)をその飽和蒸気圧より低い圧力を保った蒸発室に導入し,飽和蒸気温度までフラッシュ蒸発させ,その蒸気を伝熱管の外面で凝縮させ,その蒸留水を集めるもので,温度差のある多数の蒸発室を連絡させ,各段のわずかな温度差,圧力差を連続的に利用するものである。この方式の特徴としては,単機容量の増大とプラントのコンパクト化を図るため,従来採用されていた“短管式”を“長管式”にし,蒸発缶内の加熱した温海水の流速を“高流速化”したことである。この結果,従来の単機容量1日1万m3 から1日10万m3 の淡水製造規模という画期的な海水淡水化装置の大型化技術,装置材料の腐食防止技術やスケール発生防止技術等,安定した運転を可能とする多くの技術が確立され,単位造水量当たりのコストは,従来方式に比べ半分程度となった。また,副産物である塩素,カリウム等の回収も可能となった。この成果を利用した淡水化装置は,既に国内3か所,海外6か所に設置されており,更に,北九州で具体的な導入計画が検討され,首都圏,京阪神地方や沖縄でも検討が始められている。また,中近東諸国からも大きな関心が寄せられるなど,国の内外を問わず,新しい水資源確保手段として大いにその発展が期待されている。

第1-1-6図 高流速長管式多段フラッシュ蒸発装置

(農業)

農業技術も,戦後は,技術革新の名にふさわしく,広範,多岐にわたってめざましい進歩を遂げた。

農業分野の研究開発は,農家自らが研究投資をし,研究開発を行う能力が十分でないこと,一方,狭少な国土に多数の人口を擁する我が国にとって,農業の健全な発展とそれによる安定的な食糧の生産,供給を行うことは,国の重要な政策課題の一つであることから,主として,中央の国立試験研究機関において基礎・応用研究を主に行い,これらの成果を自然条件,経営形態などの諸条件の異なるそれぞれの地域に適合させていくため,各地域にある国立試験研究機関,公立試験研究機関などが開発研究を行っている。

一方,民間企業は,肥料,農薬,農業機械などの農業用資材の開発,改良を通じて農業の発展に寄与しているが,これらの資材は,農業生産の場において,その利用技術が確立され,初めて所期の効果が発揮される。また,これらの資材の開発,改良に当たっては,現地での利用試験の成果が研究開発段階に戻されることによって,その効率的な推進が可能になる。このため,国・公立試験研究機関が行っている農業用資材の利用技術等に関する研究開発は,民間企業の研究開発の推進にも寄与している。

これらの開発成果は,最終的に都道府県の農業改良普及員が,農家を巡回して技術指導する普及事業等によって農家に普及されている。

このように,農業分野では,基礎研究の段階から開発研究まで,更には,研究開発の成果を各農家に普及,浸透させる段階まで,一貫した総合的,体系的な体制が整備されている。この中で,政府は,自ら重要な分野を担当して研究開発を行うとともに,都道府県,民間企業等が行う研究開発への助成,都道府県が行う普及事業への助成,農家等が行う新技術の導入に対する資金援助などを行っており,農業技術の進歩に果たしている政府の役割は大きい。また,国の研究開発は,国内農業のみならず,近年は,国際的な技術交流等を行うほか,開発途上国に対する技術協力に役立つ技術開発なども活発化しており,国際的な視野の下に進められている。

農業分野における多くの成果のうち,画期的なものとしては,従来の我が国の伝統的な稲作形態を一変させた農業機械の開発,改良とその利用技術の進歩が挙げられる。

我が国の経済の高度成長が進展し始めた昭和30年代後半から,農業労働力の減少,農工間の所得格差の拡大傾向が顕著となり,生産費の切下げ,集団化による大量生産技術の確立などが強く要請されるようになった。このため,農薬,化学肥料,除草剤,農業機械などの農業用資材の開発,改良とそれらを利用した栽培技術の開発が進められたが,その主役は,なんといっても農業機械の開発,改良とその利用技術の進歩であろう。

国立試験研究機関が実施した稲作の機械化に関する試験研究は,昭和30年代後半から40年代前半に集中的に実施されている。特に,この中で,43年度から3年間にわたり行われた「構造改善推進のための農業機械化技術の緊急開発に関する研究」においては,稲作における二大労働ピークを形成し,稲作の機械化における最大の障害となっていた田植及び収穫作業の機械化技術が確立された。これは,8国立試験研究機関,16公立試験研究機関,農業機械化研究所(特殊法人),(財)生物環境技術研究所(旧農電研究所)からなる全国的な試験研究実施体制を組織し,民間企業における田植機,収穫機等の開発,改良と並行し,機械化に適合した育苗法,耕うん整地法,肥培管理法,機械の利用技術及びこれらの成果を総合的に体系化した機械化作業体系などの開発に総力をあげて取り組んだ成果であった。そして,その成果は,直ちに国及び都道府県の普及指導上の指針として活用され,これが一つの契機となって,40年代後半以降,田植機及び収穫機の爆発的な普及が進み, 第1-1-7図 に示すように,労働生産性の著しい向上をもたらしている。

農業生産技術体系は,稲作の機械化技術の確立で述べたように,システム的なものであるが,その構成要素の主柱である農作物,家畜等の育種は,生産性の向上を図る最も基本的な手段と言える。しかしながら,対象生物固有の世代交代過程を利用する現行の育種方法は,成果を得るまで長期間にわたり,また,これに代わる画期的な方法は,まだ一般化されたものがみられない。このため,民間の採算ベースにはのりにくいものが多く,野菜,花き類などのように民間育種が中心となっているものを除くと,稲・麦を初めとして,多くの農作物・家畜の育種については,国及び都道府県の試験研究機関等によって,育種方法等の研究,遺伝資源の導入保存,育種試験等が行われている。

第1-1-7図 稲作における労働生産性の向上

最近,国が育成した新品種としては,作付け適期の幅が広く,かつ,生育期間が短いため,耕地の有効利用に役立つフジヒカリ(水稲)や,機械化適性により労働生産性の向上に寄与するシロワセコムギ(小麦)など,数多く挙げられるが,ここでは,りんごの育種成果の一例を取り上げてみる。 第1-1-8図 は,りんごの品種別収穫割合の推移である。同図に見られるように,最近の傾向としては,「国光」の収穫割合の減少と「ふじ」の著しい増加が特徴となっている。

我が国のりんご栽培は,明治初年,西洋りんごの導入に端を発するが,それ以来,経済栽培はほとんど外国の品種に頼ってきた。しかし,昭和に入ってから,国立試験研究機関などで交雑による本格的育種試験が開始され,近年になってようやくその成果が実り,国内で育成された優良品種が従来の外国品種にとって代わりつつある。その代表的な品種が「ふじ」である。

第1-1-8図 りんごの品種別収穫割合の推移

「ふじ」は,従来の主要品種「国光」に代わる新品種の育成を目標として,戦前,国立試験研究機関(現農林水産省果樹試験場盛岡支場)が「国光」と「デリシャス」の交配を行い,その交配実生から選抜したもので,昭和37年に「ふじ」と命名され,「りんご農林1号」として登録された。「国光」は,アメリカからの導入品種で,晩生貯蔵品種として,かっては主産地の青森県で栽培面積の50%以上を占めた時代があり,47年度まで我が国の品種別収穫割合が最も大きかった。しかし,貯蔵性はあるが,肉質不良で甘味及び芳香がなく,特に,貯蔵末期に肉質が著しく変質することが大きな欠点であり,また,加工用としても適していなかった。「ふじ」は,肉質が硬くて果汁がすこぶる多く,酸味が少なくて生食用にも,果汁用などの加工用にも適し,また,貯蔵性も抜群で,従来の品種をしのぐ画期的な新品種として評価され, 第1-1-8図 に見るように,近年,急速にその生産割合及び生産量が増加している。


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