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第1部   科学技術発展の回顧と新たな課題
第2章  社会開発分野における技術革新への期待
第2節  社会開発分野における技術革新達成の条件
2  社会開発分野における技術革新の促進に際し留意すべき点


(産業技術のケース・スタディからの教訓)

前項においては,産業活動分野における技術革新達成の条件を述べたが,このような条件は,社会開発分野における技術革新のため,民間企業の参加を促進する上で,どのような意味を持つであろうか。以下,この点に中心を置いて,社会開発分野における技術革新の促進に際し留意すべき点を述べることとする。


(1) 技術的に可能であること

技術的に可能であることは当然の前提である。生物の機能についての知識を拡大し,これを応用して全く新しい型の技術を開発したり,新しい材料を開発することも重要であるが,現在問題視されているのは,むしろ既存の知識や産業活動分野の技術をいかにして社会開発分野の技術革新に役立てるかという点である。この意味で,社会開発分野の技術革新は,どちらかというと技術先導型というより需要先導型であると言える。


(2) 需要があること

上述のように需要先導型であるので,この点は極めて重要である。技術革新が期待されている以上,莫然とした意味での需要は当然存在するが,これが技術革新を刺激する程度のものであるか否かが問題となる。立遅れが問題とされる社会開発分野の製品やサービスに対する需要は,自動車や家庭電化製品のような一般耐久消費材の需要とは,次の点で性質を異にしている。

1) 需要が多種多様で,需要者が国・地方公共団体などの公的機関であることが多いこと (第1-2-13表参照)。
2) 需要が社会的制度のあり方と密接に関連していること。

耐久消費材のような大量消費を期待できるものについては,創業者利潤が大きいため,市場を通じての競争メカニズムを維持することによって技術開発競争を期待することができるが,多品種少量生産品については,開発に伴う危険(リスク)に比べて多くの利潤を期待できないので,供給側は積極的になりにくい事情がある。このため,生産プラントのような多品種少量生産品については,需要側が開発目標と需要を示し,供給側と協力して開発する方式によって技術の向上を達成した例が多い (第1-2-14表参照) 。この意味から,大口の需要者である公的機関の技術革新への態度・考え方が本分野での今後の技術革新に大きな影響力を持つと言える。

需要が社会的制度のあり方と密接に関連しているということは,社会的制度の形成にあたる国の役割が大きいことを意味する。例えば,産業技術審議会研究開発部会報告(社会開発関連技術の進め方について)で指摘されているように,医療機器,福祉機器の研究開発に当たって医療保険などの関連社会制度の整備・拡充が新たな需要を創出し,これが民間企業の研究開発意欲を喚起したり,逆に,当該制度の制約が研究開発意欲を阻害する面もある。また,一般消費財(例えば自動車)についても同様のことがいえるが,国の規制政策が需要の形成に大きな影響力を持つ場合もある。

第1-2-13表 社会開発分野の技術革新が期待されている分野の例

第1-2-14表 供給側と需要側の共同開発の技術の具体例

更に,需要が社会的制度のあり方と密接に関連しているということは,技術革新の促進に際し,社会的制度と技術革新のかかわりについて科学的総合的分析を行うことが重要であることにもつながる。近年,システム工学,情報科学,数理科学などの発達により複雑化した社会経済問題を科学的総合的に分析・解明し,政策判断の基礎を提供することができるようになってきており,シンク・タンクを中心として,この種の活動が拡がる傾向にある。社会開発分野における技術革新を促進する観点からもソフトサイエンスといわれるこの種領域の活動を振興することが重要である。


(3) 有能な技術革新の担い手が存在すること

担い手に関しては,その内容を前述のように,1)担い手が存在ずること,2)その担い手が技術革新へ動機付けられ,意欲を持って取組むこと,3)技術革新の担い手に能力があること(この場合の能力には,研究者,技術者の能力はもちろん,(ア)関連技術の蓄積,(イ)情報の入手,(ウ)マネージメントに関する能力も含まれる。)に分解することができる。外部から技術革新を促進する立場からみると,このうち,1)と2)が特に重要であるので,以下,この点について述べることとする。

(1)技術革新の担い手が存在すること

産業活動分野では,売上げの拡大,生産性の向上などによって利益を受ける者が技術革新を引き起こす意欲を持ち,その担い手どなるので,技術革新の担い手が存在することは問題とするに足りないが,社会開発分野の場合は,需要が多種多様であるため民間企業にとって技術開発の危険(リスク)をおかすほどの魅力に乏しい。需要者が1か所の場合は共同開発方式で進めれば良いが,需要者が多く,しかも社会制度と結びつく場合(例えば,交通・物流関連技術) (第1-2-13表参照) には,担い手自体も不明確となる。このような分野では,中心となる担い手と関係機関の協力体制の確立が技術革新促進の重要な要素となる。

(2)技術革新への動機付けを与え,意欲を持たせること

技術革新への動機付けについては,担い手が国鉄,電電公社のような公的機関である場合と民間企業である場合によって異なる。前者は,公的機関の態度・考え方の問題であり,ここでの論点ではないので,後者について述べることとする。

民間企業が担い手となる場合の動機付けを国の立場で述べると,1)技術開発成功後の需要を明確化すること,2)公的機関が需要者となる場合は技術開発目標と需要を示し,協力して開発すること,3)民間企業の負担で技術開発をさせるには危険(リスク)が大きい分野については,技術開発費を援助することをあげることができる。1)と2)は「(2)需要があること」で述べたとおりである。3)には,需要側(ユーザー)を所管する省が助成する方法と供給側(メーカー)を所管する省が助成する方法がある。技術開発は需要側と供給側との共同開発が効果的であるので,助成側も双方の所管官庁の協調が必要である。昭和51年度から開始された福祉機器の委託開発助成制度は,通商産業省,厚生省の共同認可の研究組合を結成させ,研究開発を委託しようとするもので,この意味から望ましい方向といえよう。

(民間企業の意識)

産業技術のケース・スタディをもとに,社会開発分野における技術革新の刺激策として,1)需要の明確化,2)社会制度の改善による需要の形成,3)技術革新の担い手の明確化と協力体制の確立,4)研究開発の助成を指摘したが,技術革新を担う立場にある民間企業ではどのように考えているであろうか。科学技術庁計画局で行った「民間企業の研究活動に関する調査」(昭和51年6月実施)の結果によれば,ケース・スタディに基づく指摘と類似している。すなわち,民間企業は,社会開発分野の技術開発推進上のネックとして次の事項が重要であると考えている。

ア 研究開発対象が高度化・複雑化しているため,一企業では対応できないこと(27%)
イ 需要の予測が困難なため研究開発目標が設定しにくいこと(19%)
ウ 特定市場や多品種少量生産のため多額の研究開発投資に比べて利益が少ないこと(18%)
工 従来からの研究蓄積が少ないこと(14%)
オ 新技術の社会への適用がスムーズにいかないこと(10%)
カ マンパワー (研究者数,能力)が不足していること(5%)
キ 研究開発資金が不足していること(4%)
ク その他(2%)更に,このようなネックを踏まえて,社会開発分野の技術開発推進のため,政府に次のことを期待している。
ア 国による長期需要予測と研究目標の明確化(24%)
イ 社会政策の充実,公害規制の強化などに伴う需要の形成(19%)
ウ 民間企業の研究開発に対する補助金交付などの助成措置の強化(17%)
工 国の研究開発の強化とその成果の民間への普及体制の整備(11%)
オ 民間企業の研究開発に対する税制・金融上の優遇措置の強化(9%)
力 産官学の共同研究体制の強化(8%)
キ 国内における企業間の技術交流促進のための体制の整備(3%)
ク 大学,国立試験研究機関などにおける人材養成(3%)
ケ 科学技術情報流通体制の整備(3%)
コ その他

以上は,社会開発分野全体 注) の平均的傾向を示したものであるが,社会開発分野は幅広く,分野ごとの特性があるため,分野に着目すると,政府に期待する事項の重要度も第1-2-9図に示すとおり,大きく異なっている。例えば,食品や医薬品の安全性の確保には,国の研究開発の強化とその成果の民間への普及体制の整備が最も重要であるのに対し,住宅生産組立技術の開発には,国による長期需要の予測と研究目標の明確化が,福祉機器の開発には,社会政策の充実などによる需要の育成と民間企業の研究開発に対する補助金交付などの助成措置の強化が最も重要とされている。したがって,今後の推進に当たっては,分野ごとの特性を踏まえたきめ細かい施策を展開することが極めて重要である。


注)調査対象は,次のとおりである。
食生活:新食品資源の開発(微生物たん白など),食品の流通加工技術の開発(品質保持,流通の合理化など),食糧の貯蔵技術(備蓄など),食品の安全性の確保(食品添加物の安全利用など)
住生活:住宅材料の開発(構造材料,内装材料など),住宅生産組立て技術の開発(生産工程の省力化,自動化,ユニット化など),住宅の快適化・安全化技術の開発(冷暖房,耐火など)
環境保全:公害測定・監視技術の開発,公害防止技術の開発,廃棄物処理技術の開発,廃棄物の再資源化技術の開発,下水処理技術の開発
事故災害防止:自然災害防止技術の開発,産業災害防止技術の開発,ビル火災防止技術の開発,交通事故防止技術の開発
医 療:医療機器の開発(診断・治療機器,人工臓器など),医療システムの開発(救急医療システム,総合検診システムなど),医薬品の安全性の確保(医薬品の副作用防止など)
福 祉:福祉機器の開発(車椅子,義手,義足,リハビリテーション用機器,看護用機器など)
家庭生活:生活用品の安全性の確保(電気器具,ガス器具,繊維製品などの安全性)
教 育:教育用機器の開発
第1-2-9図 社会開発分野の技術開発推進について政府に期待する事項(技術分野別)


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