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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第4節   共通的基盤的科学技術の動向
3   極限技術


外的環境一特に温度と圧力-の変化が物質に与える影響は大きい。殊に超高温・極低温・超高圧・超高真空といつた極限状態では,常温,常圧では見られない興味ある現象を伴う不連続な変化も現れ,その応用範囲は非常に広い。

このような超限状態を現出させる極限技術は,周辺技術の進歩とあいまつて近年向上が著しいものがある。

最近の極限技術に共通する技術的な問題としては,単により厳しい極限状態を目指す尺度の延長よりは,その持続時間,容量の拡大にある。何千万度という温度,何百キロバールという圧力を人工的に作り得たとしても,その時間が1万分の1秒あるいはその空間が10-3CM 3 であつたとしたら,その応用範囲は極めて限られたものとなるからである。

(1) 超高温

超高温度を達成する方法は,熱エネルギーの密度を極度に大きくすることにある。最も単純で,かつ,効果的な方法は,表面温度6,000°K(Kelvin,絶対温度)と推定される太陽熱を集光する太陽炉を建設することであるが,熱力学の法則に従つてどんなに集中度を良くしても6,OOO°Kを超えることはできない。現在まで世界各国で建設された太陽炉は約160基に上ると言われているが,我が国では,通商産業省工業技術院名古屋工業技術試験所がヘリオスタット式太陽炉で直径2mのアルミニウム放物面鏡又は1.5mのガラス放物面鏡を用い,焦点距離6cmの位置に径6mmの太陽像を結んで3,500°Cを記録している。理論的には焦点の熱束は500cal/cm 2 /secで4,200°Kに換算される。集中率を50,000倍とすると無反射なら約5,500°Kの理論値が得られるが,表面鏡での反射されるごとに反射率は80%として名古屋工業技術試験所の方式では総合反射率64%と見積もられる。最近,太陽炉の用途は,高融点物質の熔解,合成などのほか,2,000°C以上の国際実用温度目盛の高温2次定点設定の研究が国際的に共同研究として行われているが,500°C〜1,500°Cの中温領域の太陽エネルギーは太陽熱発電,熱電気発電用水の化学分解にその用途が見いだされよう。

原子核と電子の混合ガス状態にあるプラズマは,周囲からのガス冷却によつて熱ピンチする範囲では工学的に10,000°Cは容易に得られ,高温度材料の溶射,溶接,切断への使途はますます拡大しつつある。このプラズマを光源とし太陽炉と同じ考え方で集光するアークィメージ炉は,構造及び取扱いの容易さからキセノン光源に置き換えられているが,アークィメージ炉で高温材料を急速に加熱溶解し,しかも秒速50万度程度の高速冷却をする実験手段が開発され,非晶質体の研究と工業化への手掛かりが開けつつある。

核融合のためには1億度を超える超高温度が必要条件とされるが,このためにはプラズマ密度を上げる必要がある。しかし,ある密度に達するとプラズマ運動のエネルギーを磁場で押さえ込むのが困離となり,また,継続的プラズマ流動が不安定となつて持続も難しくなるので,従来,トカマク型,テーターピンチ型で当面していたこれらの困離をレーザー照射で解決しようという試みに大きな期待がかけられている。ガラスレーザーを用い大阪大学では径8cmの分割2ビーム式で250ジュール・1ナノセコンド(10-9秒)が得られ,更に4ビーム式で1,000ジュール・1ナノセコンド目指している。名古屋大学では,径4cmで,50ジュール・ 2ナノセコンドを得ており,いずれも約1億度と見なされるがフランスのリメーユ研究所では150ジュール4ビーム10ナノセコンド,アメリカのLLL(lewrence Livermor Lab)では1,000ジュール・ 50ピコセコンド(10-12秒)〜1ナノセコンドを報告している。

また,ガスレーザではアメリカで,250ジュール・1ナノセコンドを得ており,これが現在最高のデータであろう。重水素,三重水素を燃料とするこれらの核融合実験もようやく軌道に乗つたと言える。

(2) 極低温

ヘリウムの液化温度付近(4.2°K:絶対温度)以下の温度を極低温の領域と言う (第1-4-20図) 。この付近の温度では,物質を構成する原子の熱振動はほとんど無くなり零点振動のみのほぼ凍結状態になる。そこでは常温では見られなかつた特異な現象,例えば液体ヘリウムの超流動あるいは金属・合金・金属間化合物などの超電導性,完全反磁性有機金属化合物の急激な電導性の変化などが示される。液体ヘリウムは,入点(超流動性を示す温度:2,17°K)以下で超流動性を示すが,同位元素の3Heは超流動性を示さなかつた。しかし,これについても稀釈冷凍法あるいは3Heの断熱的な圧縮冷却法など超低温発生の技術の進歩により3Heも2,7°7nK(1°mK=1/1000°K)以下で超流動性を示すことが発見された。超電導現象については,Nb3Geが23°Kに移転温度を持つことが示され,わずかずつではあるが高位の方に超電導転移温度は移つてきている。これが300K付近になれば技術的に経済性の問題解決は容易となる。

第1-4-20図 極低温の創出状況

この超電導現象は種々の可能性を秘め,他の科学技術への応用範囲も広いために世界各国において研究に取り組んでいる。

超電導の応用には電磁石としての利用と電気抵抗がゼロであることの利用,及び超電導電子の位相の変化の利用などが考えられる。

電磁石としての利用には,非常に高い磁界の発生が必要とされる核融合実験,高圧エネルギー物理,磁気浮上高速輸送などが効果的である。10万〜15万エルステッドの高磁界を作るには,従来は膨大な装置と数千KWの電力を必要とした。その上,この電力は磁界発生よりも電気抵抗による発熱にその大部分が消費されるために,多量の冷却水を必要としていた。しかし,超電導磁石では磁石を42°Kに保つための小型ヘリウム冷凍装置とこれを働かせる数KWの電力があれば十分とされるようになつた。高性能の冷凍装置や移転温度の高い超電導材料,その他付属機器などの開発が目下進められている。

電気抵抗がゼロという完全導電性は,電力ケーブルや通信ケーブルへの応用が考えられており,特に原子力発電のような大電力発電所が辺地に作られた場合,遠隔地から都市までを超電導送電することや,在来のケーブルでは対処できないほどの急増する情報量に対する超電導通信ケーブルなどが考えられる。これらの経済的に成立するためには高性能のヘリウム冷凍機,断熱法,断熱用複合材の研究が不可欠であろう。

電子の位相を測ることは従来不可能であつたが,超電導電子についてはJosephson効果によつて可能となつこ。これを用いた計測器は10-17ボルト,10-12アンペアの微小電圧電流を磁束量子に変換して測定することとなる。

月の重力の精密測定,宇宙空間からの微弱電波の探索のみならず,いろいろの精密測定に使用されている。

極低温技術は,このほか,ロケットの液体燃料,衛星通信などに使われるが,その温度を90°K辺りまで含めると金属の低温脆性破壊による処理,プラスチックスやゴムの低温粉砕など極めて多くの利用法が考えられ研究されている。

(3) 超高圧

一般に物質は高圧下で,原子又は分子間距離が縮まり,結晶構造,電導性,磁性などが変化する。圧縮される物質が流体の場合,内部に相当のエネルギーが貯えられる。

超高圧(通常2×10 4 気圧(バール)以上を指す)の発生技術は,ダイヤモンド合成を契機としてこの15年来急速に進歩した。その結果1,000以上の新物質が合成され,10 5 気圧領域での固体の性質が調べられた。また,一方において圧力を利用した技術にもかなりの進展が見られた。

現在は,更に新しい発展を目指した変革の時代と言える。その理由は,これまでは圧力発生技術を取つてみても,ほぼ通常の工業的規模や常識が通用した。しかし,今後の問題には予測を超えた困難がある。今後の発展方向は,およそ以下の3つに分類されるが,そのいずれにおいてもこのことが言える。

1) メガバール(10 6 気圧)領域の圧力発生と物質状態の研究
2) 10 5 気圧領域の工学的利用技術
3) 超高圧領域での物質変化を利用した新プロセスの開発

このうち,1)は,主として基礎的研究に属するもので,超高圧下で見られる物質の特異な振舞いはこれまでの物質観に変革をもたらすはずである。技術的に見ると,より高い圧力を発生させる装置は全体としては巨大化する傾向がある。10 3 トン級の圧力発生用プレスは多方面に利用されているが,10 4 〜10 5 トン級になるとプレス製造技術そのものが問題となる。また,巨大プレスを用いた圧力発生システム自体にも,種々の困難が伴う。ソ連は,昨年5×10 4 トンプレスを建造し,メガバール領域の圧力発生を試みたが,これを実用のものとするには,いま少しの時間が必要であろう。

2)は,現実の技術開発の課題である。例えば,天然ダイヤモンドの探掘条件は年とともに悪化しており,工業用粉末の輸入量で見る限り,天然品1に対して合成品3の割合となつている。より良質で安価な工業用ダイヤモンドを製造すること及びダイヤモンド粉末を焼結させて,高性能の切削工具やI C基板を製造する技術は早急に確立されねばならない。この問題に対して最も大きな障害となつているのは大容量で経済性のある合成用高圧装量の開発である。

3)は,将来技術に属する。高圧下では脆性金属が展延性を著しく増すことが知られており,静水圧押し出し加工技術が各方面で開発されている。

高圧流体を利用した技術には高圧水流によるトンネル,削岩などが挙げられる。

以上,主として静的圧力を利用した技術を概観したが,一昨年頃から,我国でもようやく爆薬を利用した動的高圧発生実験が軌道に乗り出した。動的圧力の持続時間は10 -9 〜10 -6 秒の短時間であるが,その時間内においても物質合成が可能となつており試料回収技術等にも進展が見られている。

(4) 超高真空

常圧に対して,低圧の領域の技術すなわち真空領域の技術も1つの極限技術と見ることができる。一口に真空と言つても,その領域は極めて広く,1気圧に近いところから絶対真空に近いところまでの広範な領域があり,科学技術研究あるいは工業面への応用も,圧力(真空度)に対応して各種の応用が考えられる。それらの様子を 第1-4-21図 に示す。ここに示された応用分野は,図に示すように圧力の範囲は1気圧付近から10 -10  Torr(1Torr=lmmHg)以下にまで及ぶ。このような低圧を得るための真空ポンプは極めて多種にわたり,その到達圧力も排気の原理によつてそれぞれ異る。 第1-4-22図 は各種真空ポンプとその到着圧力を示す。超高真空あるいは極高真空と言われる領域における問題は,そのような低圧領域で十分な排気スピードを持つ真空ポンプの開発(これは,ほぼ達成されていると言つてよい。)と,十分な精度を持つて圧力を測定し得る真空計並びに測定技術の確立である。この点については,工業的にはまだ確立されているとは言えない。しかしながら,超高真空の領城で仕事は,ポンプ真空計以外にもバルブその他多くの部品の開発が確立され,極めて行い易くなつた。最近,特にクローズアップされた真空の応用分野は,イオンプレーティング,活性反応蒸着等を総称したPVD(Physical Vapour Deposition)法による各種材料の表面処理で,耐食,耐熱,耐磨耗等の特性を有する被膜の作製が実用に供されることとなろう。また,サンシャイン計画の一環として選択透過膜の開発も,PVD法によつて実現されるであろう。

第1-4-21図真空技術の応用分野

表面物性の研究や表面分析の実用化が,超高真空が得易くなつたことと相まつて急速に進んだのも大きな特徴である。オージェ電子分析装置を用いた表面分析におけるデータの数はこの1年に急増したし,スキャンニングオージェ電子分析装置の出現は,表面分析の幅を大きく拡大した。

第1-4-22図 真空ポンプの作動圧力範囲


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