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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第3章   国際的視点に立つた資源・エネルギーの確保に貢献する科学技術
第1節   資源問題と科学技術


1 資源問題の所在

資源・エネルギーを取り巻く今日の情勢は,資源の有限性に基づく枯渇問題及び資源開発・利用に伴う環境汚染問題という有史以来初めての試練とも言える世界人類共通の問題が顕在化しているのをはじめとし,最近における資源保有国の天然資源に対する恒久主権の主張に見られるいわゆる資源ナショナリズムの台頭は,国際間の資源流通・分配構造に一つの変化をもたらしている。

1973年末に発生した石油危機は,それまでに沈潜していた資源・エネルギー問題を一気に表面化させ,全世界に多大の衝撃を与えたばかりでなく,今日においてもなお,その波紋は社会・経済に少なからぬ影響を与えている。

資源・エネルギー問題を誘起した大きな要因は,近年における資源・エネルギーの消費量が急激に増大したことによるものであり,また,それを招いた要素として,工業生産の増大と人口の世界的な増加傾向を指摘することができる。

我が国におけるエネルギー消費量の伸びは,鉱工業生産の伸びとほぼ一致しており,しかも世界と比較して著しく伸び率が高い。また,公害苦情件数の昭和40年代における急激な増加に見られるとおり,資源・エネルギーの消費量増大と公害発生とは深い相関があると考えられる (第1-3-1図) 。加えて,我が国は重要資源の大部分を海外に依存しているため,資源ナショナリズムなど海外の情勢変化等の影響を受け易く,資源入手の不安定性を内蔵する資源供給構造となつている。

それだけに我が国の資源・エネルギー問題は,世界の中でもその複雑さと切迫した危機感において著しいものがあり,問題解決には最大の努力が傾注されなければならない。

第1-3-1図 資源・エネルギーと鉱工業,人口,公害等の推移

2 問題解決の方向

資源の枯渇,環境汚染,資源の入手不安という危機意識は,その対策に関する次のような三つの課題を生み出した (第1-3-2図)

すなわち,資源の有限性の認識を深めることにより,過大消費を反省し,資源の貴重性の考えを尊び,資源節約,すなわち省資源・省エネルギー又は資源利用効率の向上を図ることが緊急かつ長期的な対策とされることであり,これをいかに推進するかが第1の課題である。

また,食糧資源あるいは水資源のように定量かつ持続的供給が必要とされるような人間生存上絶対不可欠な資源をはじめ,福祉優先の社会・経済の維持向上に必要な資源・エネルギーの安定供給を図つていくことが必要であり,これをいかに確保していくかが第2の課題である。

また,環境汚染は,資源消費量に比例して増大するほか,資源利用の多様化に伴い汚染因子も多様化する傾向にあるので,自然環境との調和に留意した資源利用のあり方が問われているが,これをいかに解決するかが第3の課題である。

これらの課題に対処するためには,経済成長(工業生産),人口問題,生活水準,健康保持,自然浄化機能,政治,外交(国際協調)等の数多くの要素を考慮しなければならない。これには,科学技術のみで対処し得るものではなく,政治,経済,社会問題を扱う社会科学分野を含む多角的なアプローチが必要である (第1-3-1表)

しかし,科学技術の力によらなければ解決し得ない事柄が数多くあり,この意味からも科学技術への期待はますます高まつていると言えよう。今後の我が国の科学技術が資源問題に対処すべき基本的な方向は,おおむね次のように集約することができる。

第1に,資源の早期枯渇の防止を図るため資源の貴重性の認識に立つた節約技術,すなわち省資源技術,省エネルギー技術等の早急かつ積極的な開発の推進が必要とされることである。

第2に,海外依存度が高いことによる資源入手不安など様々な供給不安定に備えるため,代替資源・エネルギー,新資源・エネルギー開発が必要とされることである。特に,食糧など人間生存上定量かつ持続的供給が必要とされる資源については,自給率向上及び備蓄対策のための増産,貯蔵技術などの開発が必要である。

第3に,資源の開発・利用と自然環境との調和という観点からは,例えば代替資源開発においては,クリーンエネルギーを考慮するなど自然環境汚染を引き起こさない配慮が必要とされることである。このためには,資源のライフサイクルが生態系に与える影響等,資源利用と自然との関連を解明することが必要とされる。また,資源節約技術の推進は,資源の大量消費に起因する環境汚染を抑制するためにも必要とされるものである。

第1-3-2図資源問題の所在

以上,研究開発の基本的方向を述べてきたが,これらの推進を図ると同時に留意しなければならないことは,国内的規模ではもはや解決し得ない資源問題の有する国際性,特に海外資源依存度の高い我が国の実情を考慮し,資源に関する国際会議への積極的参加,国際協力の推進等による国際協調に努力することが必要とされることである。国際協力の果たす役割が極めて大きい我が国としては,その方法の一つとして技術交流が挙げられるが,これを推進するためには我が国の資源に関する科学技術をはじめとする技術水準の向上を図ることが必要であり,このための積極的な自主技術開発が必要とされている。また,このためにはこれらの科学技術の研究開発に必要な資金の確保,人材の育成,体制の整備等の国内的な措置を講じることへの配慮が必要とされよう。

第1-3-1表資源問題の解決策

3 資源問題の特質と科学技術

一口に資源と言つても,それは実に多種多様であり,その種類の相違によつて性質が異なる。このため資源問題もそれぞれ異なつた性格を有する。

石油を始め鉄鉱石,銅等の鉱物資源は,枯渇性資源と呼ぶことができ,埋蔵量が重要な意味を持つのに対し,食糧,森林,鳥獣等の生物資源は自己増殖を行う再生産性資源又は非枯渇性資源であり,持続的供給能力が問題となるものである。また,無生物資源の中でも水(海水を含む)のような循環性を有するもの,及び太陽熱,風力なども非枯渇性資源と言える。

また,鉄鉱石,銅等の鉱物資源は,再利用可能資源であるが,食糧などの生物資源の大部分,及びエネルギーなどのように例えば熱となつて空気中に拡散してしまうようなものは,再利用に困難が伴う。

更に,食糧,森林等の生物資源,及び水,大気等は自然浄化能力を有する資源であるから,その利用に当たつては自然浄化能力を損なわないことが大切である。

天然資源が自然界及び社会動脈系,社会静脈系をたどるライフサイクルにおいてもこのような資源の性質の相違によつてその開発,利用はそれぞれ異つたものとなると考えられる (第1-3-3図) 。また,資源は,このようにいろいろの種類と異なつた性質を有しながらも,自然界の生態系など複雑なシステムを構成する重要な要素となつているものであることを深く認識する必要があろう。このことは,代替資源・エネルギー開発等において技術事前評価(テクノロジー・アセスメント)を行う際の重要なフアクターの一つと言える。

更に,最近の資源問題は広域性が著しいことが挙げられる。資源問題の一つである有限性による資源枯渇問題を取り上げてみても,全世界共通の問題であり,この解決策である節約の推進のためには,現存する枯渇性資源の世界における賦存量のは握をはじめ,社会・経済活動に適切な資源量の国際的な規模での分析が必要とされ,そのパラメータである人口対策,経済投資,未利用資源の開発等も国際的広域性の中でとらえなければならない。今日の資源問題は,一つの社会問題として広範囲にわたるいろいろの要素が複雑に絡み合つて発生しており,諸要素の関連性を体系的に解明し,総合的・科学的手法を用いて取り組むことが不可欠となつている。この要請に対応する手法として,ソフトサイエンスが挙げられる。最近,シンクタンク等でのソフトサイエンスによる事例研究においても,資源・エネルギー問題は重要な項目となつている。

第1-3-3図 資源利用のサイクルと自然環境

資源問題を全地球的な視野に立ち,総合的にとらえた例として,国際的未来研究団体ローマクラブの会合において注目を集めた「地球動態学(World Dynamics)」がある。これは,アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが,世界の人口,経済投資,地球学的空間,自然環境汚染,食糧及び他の天然資源が,世界の社会・経済活動の中でどのような相互作用で時系列変化を起こすかを分析したものであり,これも,ソフトサイエンスによるアプローチの例である,また,資源と自然環境の関連性を重視し,これを広範囲な地域又は全地球的な視野に立つた地球管理が必要であるという考えが強まりつつある。このような要請にこたえるに適切な技術として遠隔探査(リモートヘセンシング)技術があるが,これについて少し触れておきたい。これは大気圏又は宇宙から環境情報,国土利用情報,海洋情報,気象,生物,土壌,地質,水等の基礎情報を,航空機,バルーン,人工衛星(例えば,アメリカの地球資源技術衛星LANDSAT)等によつて,これらに搭載した電磁波測定機器等により測定したデータを収集,処理,解析を行い,環境保全,水資源,農林資源,鉱物資源,海洋資源,国土利用計画,災害防止等の広範な分野にそのデータを提供し,資源利用の適切化と自然環境の保全を期することを可能とするものである。

4 資源政策に見る科学技術の役割と最近の動向

(1)国際的な動き

資源問題の解決のためには,国際的な視野に立つことが必要とされる。このため,世界人類の共通問題意識に立つた国際的な動きが活発化している。

1974年から1975年にかけて,国連の資源特別総会及び同天然資源委員会,世界食糧会議,第三次海洋法会議,世界石油会議,世界エネルギー会議等の資源に関する各種国際会議が相次いで開催されたのをはじめ,経済協力開発機構(OECD)における国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の設立など近年にない活発な動きが見られた。

この中で,科学技術の役割を重要視しながら資源問題を国際的な規模で,しかも総合的にとらえようとする資源政策の動向を探つて見ることとする。

国連の経済社会理事会の下部機関である天然資源委員会は,天然資源に対する恒久主権の問題をはじめとする世界の数々の資源問題を検討しており,1974年4月から5月にかけて開催された国連資源特別総会にもその検討結果が反映されている。更に,1975年3月下旬には東京において第4回天然資源委員会会合が開催された。同委員会は,世界の資源問題を対話と協調の基本精神に基づき,広い視野に立つた解決策樹立の努力を続けており,この中で特に科学技術の役割を強調している。地球上の資源の有限性を論ずる場合でも既存資源の枯渇のみならず,今後の科学技術の進歩,経済及び人口,環境からの制約等のダイナミックな諸要因を考慮に入れたシステマチックなアプローチが不可欠であり,科学技術としては,海底資源を含めた資源探査技術,再生利用を含む資源の効率的利用と節約のための技術,代替鉱物エネルギー資源の開発技術等の開発を重視しなければならないとし,エネルギー資源,鉱物資源等についてその埋蔵量の科学的な推定をはじめ,その開発技術などの技術面についての検討を進めている。

経済協力開発機構(OECD)では,1975年初夏の科学大臣会議において「複雑な諸問題解決のための科学技術」に関する論議を進めたが,その議題の一つとして「天然資源に関する新しいビジョン」を取り上げ,その中で「科学政策と天然資源の管理」についての考え方を提示している。これは,天然資源に関する今日の数々の問題及び人類の危機論は本質的には限りある自然と資源が幾何級数的な人口増加及び経済成長とは両立し得ないものであるという基本的な認識を示すものであり,これらの問題を解決しある種の平衡状態を維持するために,天然資源のより良い管理が必要であることを指摘している。このためには,資源問題があわせ持つ政治的,経済的,社会的及び技術的な側面を考慮する必要があるとともに,資源の開発,利用においては天然資源と自然環境の複雑なシステム,すなわち,エネルギー,原材料と自然環境汚染問題との関連性,資源のライフサイクルの中での自然との結びつきを十分考慮する必要があり,これに関する研究開発の必要性及びそのための体制整備,資源政策と科学技術政策の整合,各国間の科学技術協力の必要性を挙げている。

(2)我が国の動き

我が国では,資源問題についてはかなり以前からその重要性に着目し,各方面で検討がなされてきた。我が国の資源問題をあらゆる角度から総合的にとらえ,将来のビジョンを打ち立てる指針を与えたものとして,科学技術庁資源調査会の調査活動及びエネルギー危機発生以後,科学技術会議の行つたエネルギー科学技術政策目標の策定があるが,このほか,日本学術会議における資源・エネルギー関係の研究体制に関する勧告,エネルギー総合調査会におけるエネルギー問題の検討,産業構造審議会における省資源・省エネルギーの提唱,農政審議会における我が国の食糧の自給率向上のための方策に関する検討等,数多くの取り組みがなされてきている。

科学技術庁資源調査会(会長・内田俊一)における最近の主な活動としては,1985年までを目標として今後いかなる資源利用のあり方が望ましいかをあらゆる角度から総合的に取り組んだ調査活動を挙げることができる。この調査結果は,調査会報告第60号「将来の資源問題(昭和46年12月)」 として集大成されている。

この調査に当たつては,土地資源,水資源,森林資源,エネルギー資源,食糧資源,鉱物資源,高分子資源,海洋資源,熱帯資源といつた諸資源を始め,環境保全,治山治水,保全防災,地域開発,都市問題等の幅広い分野から体系的な検討が進められた。特に将来の資源問題解決のため我が国が取るべき基本的方向としては,健康で快適な国民生活実現のための人間尊重の資源利用の推進,自然と調和した資源利用,自然の再生産力を維持し得る国土利用の推進,海外資源等に関する将来需給の基調変化に応じ得る産業構造の確立,資源に関する独創的科学技術の開発の推進及び全地球的視野に立つた国際協調に徹すること。総合的な資源政策の推進と関係機関の体制整備の必要なことを挙げている。

科学技術会議は,エネルギー技術政策の緊急性及び重要性にかんがみ,昭和48年7月9日に開催された第20回本会議においてエネルギー科学技術部会を設置し,エネルギー分野における長期的かつ総合的な研究開発目標の設定及びその推進方策を審議することを決定し,昭和49年5月30日「エネルギー技術開発の展望と課題」という中間報告を行つた。引き続き今日のエネルギー問題に対処する科学技術の役割,問題解決のための研究開発分野,資源消費形態と環境保全及び安全についての評価,技術開発課題とその技術の評価及び我が国の技術水準,1985年から2000年までに達成すべき技術水準,研究開発の目標を達成するための推進方策,研究開発体制の整備等について検討しており,今後の我が国のエネルギー科学技術政策の方向を示すべく最終報告書の作成を進めている。

以上,今日の資源問題と科学技術の対応の方向について概要を述べたが,第2節以下では,天然資源の中でも現在国際的に最も関心を集めている,エネルギー資源,食糧資源,鉱物資源の三つの資源について,それぞれ科学技術をどのように対応させようとしているかを国際的動向も含め述べることとする。


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