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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第2章   健康・安全など国民生活の向上に貢献する科学技術
第4節   安全性の確保
1   日常生活における安全性の確保


(1)生活用品の安全性確保

技術革新の進展により生活用品は多種多様化し,構造的にも複雑になつてきているが,反面,消費者側から欠陥の指摘を受ける製品も増加する傾向にあり,なかでも安全性についての社会的関心は高まつている。

例えば,国民生活センターの資料から見ると,昭和48年度の安全・衛生 に関する苦情 注) は苦情全体の17%を占めている (第1-2-9図 ,第1-2-10図) 。また,通商産業省で受け付けた安全性に関する苦情件数を見ても,昭和46年度311件,昭和47年度372件,昭和48年度380件と増加しており・,昭和48年度の安全性に関する苦情は苦情全体の31拭と大きな割合を占めている。


注)対象商品は,本項で述べられているもののほか,食料品,医薬品等も含まれている。

第1-2-9図 安全・衛生に関する苦情件数の推移

第1-2-10図 苦情相談の内容(単位俗)

生活用品の安全性の確保のため,国は各種の取締法による安全規制や試買テストの実施,問題ある製品の公表等を行つており,製造側でも自主的な安全検定と安全表示などを行つている。

これは基本的には安全基準を設定し,それに合致した製品を製造することにより安全性を確保しようとするものであるが,一方,既存の安全基準に安住することは,かえつて安全性の確保の要請に反することにもなりかねない。

したがつて,生活用品の安全問題に対処するには国は新らたな危険性を先取り的に調査,研究し,結果を迅速に広報するとともに,最先端の科学技術を反映させて適宜安全基準を見直すことなどに努める必要がある。

製造側も,これまでのように,製品の品質性能の保証と取扱い注意書きの整備までは行うが,製造側の手を離れた後は消費者側の使い方の問題であるといつたような考え方から一歩進んで,商品の欠陥についての製造者の責任を強く自覚する必要がある。

このための技術的な対応としては,安全基準の見直しのための各種分析,計測技術,試薬,試験装置,試験方法,影響度判定法等の向上に努めること,また,設計,製造,サンプリング,テストの各段階で製品の安全性をパラメーターの一つとしてより積極的に取り入れること,デザインレビュー時に安全性もチェックすること,クレームやその他の事故原因のあつた製品に関するデータを整備すること等が必要である。

また,生活用品の安全問題は,構造的欠陥によるほかに,取扱説明書,表示等による注意喚起をもつてしても,消費者が誤つて使用することによる事故が多いので,今後,製品の開発,生産に当たつては,消費者が通常犯しやすい誤使用をしても安全性が確保される(フールプルーフ)製品の技術開発に努める必要があろう。

(研究開発の動向)

(1)電気用品の安全性確保

電気用品の安全性を確保するためには,特に甲種電気用品 注) を中心として感電や火災防上のための技術上の基準の改正が行われている。また,家事省力化等の動きに合わせて開発された新製品の安全性一関する技術基準の整備が検討されている。

製品の改善例としては,電気冷蔵庫の過冷却防止ヒーターのひずみと短絡による異常発熱防止のため,アルミ箔に高周波圧着したシート状ヒーターに改善したこと,カラーテレビ電源スイツチのハンダ付け不完全による発煙焼損に対して,スイッチケースを難燃性アスベスト入りフェノール樹脂成型品に改善したこと,電子ジャーの接点溶着による異常温度上昇に対しては,バイメタルサーモスタットをとりやめ,半導体を使用した無接点方式の温度制御方法へ改善したこと,充電式カミソリの発火に対しては安全ヒューズの装着やコンデンサー充電方式からトランス充電方式へ変更したこと等が挙げられる。

今後は,例えば電気アンカの低温ヤケドのような新たな問題の技術的検討や接触停止型扇風機の例に見られるフールプルーフ製品の開発などの技術開発が期待される。

(2)ガス用品の安全性確保

ガス用品の安全性を確保するためには,ガスもれ警報器の品質向上が図られている一方, LPガスの着色,着臭実験をはじめとしたLPガス保安に係る研究開発を本格的に行うこととなつている。

LPガス用の瞬間湯沸器,ストーブ,風呂バーナーについては,炎が消えるとガスの通路が閉じるセーフティ・パイロットの装置が各種の消費器具に新たに義務付けられたところであり,今後は消費器具のより一層の安全性の確保,消費設備の耐震遮断装置の開発,実用化等が望まれる。


注)甲種電気用品とは,構造又は使用方法その他の使用状況から見て,特に危険の発生する恐れが多いとして,電気用品取締法により個別に指定されたものを言う。

(3) 繊維製品の安全性確保

繊維製品には,しわの防止,肌ざわりの向上,純白感の向上,難燃性の確保を図るため,各々,ホルマリン樹脂加工,柔軟加工,蛍光増白加工,難燃加工が施されている。

このような加工処理には,ホルマリン,高級アルコール製剤,フェノール系化合物,燐化合物などが用いられるため,過剰加工は,ちくちくする,赤くはれるなどの皮膚症状を引き起こすことがある。

衣料使用者の中には,抵抗力の弱い乳幼児,病人,老人も存在することを考えれば,加工処理剤の過剰使用とならないことが必要であるが,加工目標の定量化はホルマリンを除いてなされていない。今後は他の薬品に対する加工目標の定量化が望まれるが,そのためには各種加工剤についての毒性試験や効果等の詳細研究が必要である。更に,これらの結果から代替加工剤の開発が期待される。

(4)その他の生活用品の安全性確保

家庭用品に使用されている塩化ビニル,有機水銀,ホルマリン等の化学物質については,「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」に基づいて規制されており,その他の化学物質についても各種毒性試験を行い,家庭用品中の有害物質の含有量,溶出量,発散量に関する検討が行われている。更に,遅延型アレルギー試験など基礎的な問題について研究の推進が必要とされる。

昭和49年3月には「消費生活用製品安全法」の特定製品 注) として家庭用の圧力なべ及び圧力がま,乗車用ヘルメット,野球用ヘルメッ1・,炭酸飲料びん詰,炭酸飲料を充てんするためのガラスびんの5品目が指定された。これらは一定の技術基準を満たさなければならないこととされているが,今後とも安全性確保のための新技術の開発が進められることが必要であろう。


注)構造,材質,使用状況等から見て一般消費者の生命又は身体に対して特に危害を及ぼす恐れが多いとして,消費生活用製品安全法により個別に指定された製品を言う。

おもちやの安全性確保については,乗物の安全性と強度について,また,おしゃぶり,がらがら等の強度及び危険性が問題となる箇所についてその技術改善が検討されている。幼児が使用するおもちやについては,特,にフールプルーフを考慮した安全対策が必要とされる。

洗剤に関しては,その安全性の確認と使用の適正化を図るため代謝試験,催奇性試験,慢性毒性試験が継続されている。

以上は,生活用品の安全性確保について技術面を中心に述べたものであるが,安全性を一層確保するためには,国及び製造側は上述のようなハ一ド面と並行して,使用者に安全な・使い方を実際に示して教育すること,安全性に関して良いことといけないことを明示したリストを公表すること,安全確認済や危険性などを端的に表示すること等,言わばソフト面の努力を合わせて行うことが必要であろう。

(2)食品の安全性確保

食品によつて受ける危害は,食物の腐敗や食物に付着した病原菌などによるものが依然多いが,この種の危険性は製造設備の近代化,防腐剤の使用,貯蔵・包装・加工技術等の進歩及び食品の清潔な取扱いなど我々の注意によつても大幅に減少させる可能性がある。

しかしながら,現在の食品の安全問題は,上述以外にも森永ミルク中毒事件,カネミ油症事件のように製造プロセスの安全管理や安全性に対する配慮の欠如から生ずるもの,AF2問題のように食品添加物としての有害作用によるもの,PCBや水銀のように環境汚染を通じての食品安全問題,更に,容器による食品安全問題,農薬,飼料添加物による食品安全問題など広範多岐にわたつている。

しかし,現実には,我々は,これらの諸々の要因が重なり合つた影響を受けているわけであり,複合汚染による危険性という観点からの解明も必要であるが,現在ではその危険性を十分判断できるとは言い難い。したがつて,この点の解明は,大きな課題として今後の努力が期待されている。

食品の安全問題は,技術の進歩や,生活様式の多様化等現代社会の特質を反映して複雑なものとなつているが,一たん問題になつた場合の影響は計り知れないものがあることを思うと,何よりも,被害の発生を事前に防止することに万全を尽す必要がある。

(研究開発の動向)

(1)食品添加物の安全性確保

食品添加物点検計画により,糊料のポリアクリル酸ナトリウム,保存料のデヒドロ酢酸,酸化防止剤のBHT等について,慢性毒性試験,催奇性試験等が行われている。

また,殺菌料AF 2 については,昭和49年8月27日から食品衛生法に基づく食品添加物の指定が取り消され,食肉製品,魚肉ねり製品,豆腐などのAF 2 使用食品について1か月以内に回収等の措置がとられたが,安全代替品の開発が期待される。

食品添加物は現在,防腐剤,色素,人工甘味料など300種以上あると言われるが,昭和50年度からも引き続き保存料,殺菌剤などについて突然変異性に関する検査法の確立をはじめとする安全性の再検査を行うことになつている。

(2)環境汚染からの食品安全性確保

農用地の土壌汚染対策地域として,カドミウムについては玄米に1ppm以上含まれる地域,銅については土壌中に125 ppm以上含まれる地域が指定されることになつている。

こうした重金属による農地の汚染を防止するためには,主として客土,排土,水源転換等が行われているが,例えば,客土と排土のどちらを採用するか,その厚さはどの程度とするかなど具体的な適用方法は現地の実情に即して様々な方法がとられている。

PCBに関しては,慢性毒性の研究及び処理方法の実験が行われた。 一方,規制に関しては, 第1-2-1表 のように,食品等のPCB残留規制暫定値が昭和47年8月に決められている。

塩化ビニル系レジンの可塑剤として幅広く使用されているフタル酸エステルについては,その年間生産量が35万トン(昭和47年度)と多いことも関連して環境汚染に伴う食品申への混入が心配されている。

このため,フタル酸エステルについての全国的汚染調査が実施されることとなつたが,その毒性等人体への影響についての研究をより積極的に進める必要がある。

第1-2-1表 食品関係のPCB基準(暫定値)

(3)容器の安全性確保

昭和46年10月,日本公衆衛生学会で幼児用のユリア樹脂製の食器の常用と視野狭さくが関係あるという報告がなされているが,現在,合成樹脂製食器から溶出するホルマリンの毒性及びその検査方法に関する研究が行われている。

フタル酸エステルについては,環境汚染を通じての安全性の問題のほかに,食品包装フィルムをはじめ多くの軟質塩化ビニル容器から食品への移行も考えられる。特に,脂肪性食品を中心とした食品移行及び人体への影響度についてのより詳細な研究が必要であろう。

陶磁器では,上絵付けのものは焼成温度が低い場合には,しばしばうわぐすりから鉛の溶出が見られるので,適正な焼成,下絵付けなど改善努力がなされている。

また,ホウロウの白色顔料が以前のアンチモン白からチタン白に代わり有害金属の心配が少なくなつたように,代替剤の開発も必要であろう。

(4)農薬の安全性確保

農薬の使用に伴う中毒事故,農産物中の残留農薬,環境汚染等については,安全対策上の観点から農薬取締法に基づく各種の厳しい規制措置が制度化されている。

特に,農産物中における残留農薬については,食品衛生上極めて重要な問題であるから,農林省,厚生省,環境庁その他関係機関の緊密な協力のもとに登録農薬の安全性を確認するための厳しい登録検査の実施とともに,これに基づく対策として,農薬の安全な使用方法や使用規制措置などが定められ,その積極的な推進が図られている。

農薬では,特に,有機水銀剤や有機塩素剤などの農薬残留等が問題となつていたが,農薬残留に対しては,速分解,非残留性農薬の開発,残留性はあるが人体及び有用生物に無害な合成農薬の開発,残留成分分解促進剤の開発等が重要なテーマとなつている。

今後の農薬開発は,病害虫防除や除草に対する有効性追求に偏るのではなく,自然界における生態系への影響を最小限に止める方向での安全な農薬の開発に努める必要があろう。

したがつて,技術開発も従来とは異なつた新しい方法,つまり,病原菌に対する寄生植物の抵抗性増強剤とか菌の侵入阻止剤,害虫に対する誘引剤,忌避剤,化学不妊剤,フエロモンなどを用いる新防除法が考えられるほか,細菌,ウイルス,天敵などの利用による生物的防除も積極的に研究する必要がある。これらの研究については関係機関で種々着手されているが,その一例として,最近,フエロモンについて,ハスモンヨトウの性フエロモンの化学構造の同定と人工合成がなされ,誘引効率や交尾阻害の可能性等野外での利用方法についての研究が行われている。

(5)飼料添加物の安全性確保

飼料には抗生物質等の飼料添加物が添加されている場合がある。

現在,飼料添加物については,安全性確保の見地から飼料添加物公定書により規制が行われている。ストレプトマイシン等の抗生物質は,主として幼家畜の発育促進等に利用されているが,家畜を通して畜産物への残留,耐性菌の出現等の問題があり,このため,畜産物への移行等について研究が行われている。

(3)医薬品等の安全性確保

医薬品等の開発に当たつては,新しい物質の安全性を確保するための厳密なチェックが必要である。

また,開発後製品化されたものの品質管理も重要である。

これらが伴わなければ,医薬品等の安全性の確保は難しい。わけても,現在の医薬品等の開発では特に副作用の安全対策が大きな問題として取り上げられており,医薬品等の製造(輸入)の承認に当たつては安全性,有効性の見地から厳格な審査が行われているが,承認後も,これらの副作用の問題に関し,常時,情報を収集し,これを評価の上,必要な情報を関係各方面に伝達し,医療関係者が副作用発生に対する細心の注意を払いつつ医薬品を使用できる体制が必要である。

(1)有害な副作用の防止

昭和48年度には,国立予防衛生研究所を中心として弱毒ワクチニアウイルスによる痘そうワクチン開発に関する基礎調査が行われたが,昭和49年度には同研究所を中心として弱毒痘そうワクチンの試作及び実用化に関する研究が行われた。

昭和49年6月には,動物実験のデータ等から塩化ビニルモノマーの発がん性の存在が確実と認められたため,塩化ビニルモノマーを含有するスプレー式殺虫剤の製造,販売の中止と回収の措置がとられた。

このため,科学技術庁において昭和49年度の緊急研究として,低濃度塩化ビニルモノマーの毒性発現機序,塩化ビニル製容器からのモノマーの溶出,塩化ビニルモノマー含有のスプレー剤の処理に関する検討が行われた。

医薬品等の安全性は,承認許可時点の技術レベルにより判定したものであり,技術進歩に伴つて安全性の見直しは常に必要である。このため医薬品の安全性については,副作用モニター病院等からの副作用情報の収集などにより,常時その時点における医学,薬学のレベルを反映した再検討を強化することが必要である。

(2)製造時の品質管理

医薬品の製造に関しては,厳密な品質管理及び製造管理が要求される。一般に,原料の種類が多いと製品のばらつきは大きくなるが,医薬品にはこうしたことは許されず,原料の受入れから始まり,各工程における温度,湿度,作業条件等の管理,機器の調整及び品質試験は厳密に行われなければならない。

特に,注射剤その他の無菌を必要とする医薬品の製造にあたつては,容器の閉塞前の作業は,除菌された空気により陽圧に保たれた作業室で行うとともに,作業中における作業室内の細菌数の測定を行うこと等により,細菌汚染の防止について十分配慮する必要がある。

なお,WHOの「医薬の製造及び品質管理に関する規範」(GMP)の勧告に伴い,我が国においても「医薬品の製造及び品質管理に関する基準」を制定し,昭和51年度を目途として,医薬品製造所に製造責任者,品質管理責任者及び製造衛生管理責任者を置くこと等,医薬品の製造及び品質管理の強化が図られている。

(4)火災の防止

諸外国の火災の定義,火災報告のあり方等の相違により一概に言うことはできないが, 第1-2-2表 に見られるように日本は外国の火災状況に比べて人口当たりの出火件数は低く,国民の防火に関する意識が高いことを物語つている。しかし,一たん火災になると建物の構造,地勢,都市環境などが影響して火災による死者の発生率は高くなり,アメリカの約6倍,イギリスの約8倍,イタリア,フランスの10倍以上となつている。

我が国の火災による全死者の約37形は「煙死」とも言うべき一酸化炭素中毒又は窒息によるものである。

第1-2-2表 1972年の諸外国の火災状況

しかし,最近では,建築材料,内装材,商品,調度品等に有機可燃物を素材とするものが急激に増えたこと及び建築物が密閉性の高いものに変化しつつあること等に起因する有害ガスによる被害も増えている。火災時の煙・有害ガス対策については関係省庁,関係機関において所要の措置がとられているが,被害防止を図るための研究開発に関しては今まで以上に強力に推進する必要がある。

(研究開発の動向)

火災時における煙,有害ガスの研究としては,火災時の煙の発生機構と特性の研究,火災時に生ずる微量でも猛毒なハロゲン化合物等の分析研究,ねずみを用いた試験装置の開発及び建築材料等から発生するガスの危険性の判定についての検討等が行われている。

また,煙死防止のため,濃煙熱気中における人間の心理的,生理的動態のは握に努めるほか,人体呼気を再生浄化する循環式高性能呼吸器具の実用化が行われている。そのほか,誘導排煙法に関する基礎研究が行われている。

建材に関しては,防火性能評価の研究が行われており,初期火災の抑制に効果的な高分子材料の難燃化,防災効果に関する実験的研究も行われている。

地震火災対策の研究としては,地域特性が延焼性状に及ぼす影響に関する研究が行われており,また密集市街地域を選んで延焼のシミュレーションが行われている。このほか,同時多発的な火災の発生に際し,火災状況の全体は握を迅速に行うため,赤外走査撮影装置冬搭載した航空機による赤外偵察法に関する研究が行われており,昭和49年8月に岩手県松尾廃鉱住宅群を利用して行われた木造家屋群の実規模火災による延焼性状に関する研究においては,赤外偵察法及び消火剤の空中散布による延焼阻止技術について実地検討が行われた。

(5)交通安全の確保

現在,交通安全の確保を図るためには,新交通システムの研究,運転手の能力開発及び教育,各種施設の改善,輸送機器や制御技術の向上など総合的な対策が必要であるが,ここでは特に次の2つに焦点を絞つて述べる。

第1は,技術革新に伴う安全率の向上の反面,一たび事故が発生した場合,その被害規模は著しく大規模化し,重大な社会問題となる恐れがあるということであり,第2は,マン・マシン・システムの安全性向上が必要であるということである。

第1については,典型的な形で現れていると思われる航空機を例にとれば,次のように考えられる。

我が国の飛行キロ当たりの事故件数は, 第1-2-11図 に見られるように,昭和47年は昭和31,32年当時の約4分の1になつており,傾向としては航空機技術等の発達により漸次減少していくすう勢にある。

つまり,ピストン機からジェット機へというような技術革新による新しい飛行機の導入により事故率は低下してきていると言えるが,反面,技術革新による航空機の高速化,大型化等は事故被害の大幅な大規模化をもたらしており,今後ともますますその傾向が高まる恐れは大きい。

現在の交通機関が高速化,大型化してきており,高度にマン・マシン・システム化が進んでいることに着目すると,重大事故の未然防止を行うためには特にマン・マシン・システムの安全性向上という視点に立つて安全問題をとらえてみる必要があろう。

第1-2-11図 航空事故率の推移

第2については,次のように考えられる。

マン・マシン・システムの安全性を向上させるには,それを構成する人間と機械について,各々,人間については訓練による能力の向上,機械については最先端技術を応用した性能の向上,フェールセーフ構造(装置の一部が故障しても,装置全体としては,直ちに故障にならないような構造)の開発及び機械の保守点検などに努めることを基本としなければならないことを深く認識する必要があろう。

こうした認識の上に立つて,マン・マシン・システムの安全性を考える上での課題は,人間と機械との相似性と相違性を踏まえた上で,その混成系であるシステムをどのように構成すれば最も安全でしかも機能的に高度なものが得られるかということであろう。

このためには,臨機応変な処置とか,直感的な判断とか熟練によつて得る予見性とかの良い意味での人間の特性が生かされるよう人間が配置され,人間の不得手な部分は機械によつて自動化され,更に人間の特性に合わせて配置されるようにシステムを構成する必要がある。

システムの構成の代表的なものには,直列形の結合と並列形の結合がある。今日の交通のマン・マシン・システムの多くは人間が機械を運転し,人間の意志を機械が強力に実行した形となる直列形であると云える。

したがつて,システムの安全性を確保するためには,機械と人間を並列に組み合わせること,更に,システムをいくつかの独立したシステムに分け,それを並列に活動させることが必要である。

このための技術課題としては,人間の誤操作によつても安全性が確保されるフール・プルーフ技術の開発が中心となるものであろう。また,システムをシミュレートしたモデルでの異常現象の研究の畜積も欠かせないものであろう。

(研究開発の動向)

(1)自動車

人間一自動車系の安全性については,高速走行訓練用シミュレーターとして複雑な道路環境表示などについて,全電子式シミュレーターの開発が行われている。また,操縦性安定性評価方法を決定するための試験方法及び判定法の検討が行われている。

日米両国政府間で開発目標が合意された実験安全車(ESV)については車体重量1,000キログラム級のものが開発されている。この概略は,衝突時の乗員保護,高速からの急制動でも車が横すべりせず短距離で止まれること,高速での急ハンドルでも転覆しないこと,3パターンビームヘッドランプ(高速,中速,下向用)など灯火類の改善を図ることなどを目指すものであり,昭和49年6月には評価試験結果がロンドンの国際会議で発表された。

このほかにも,衝撃吸収バンパー等構造面の安全性を高める研究,安全タイヤの開発等が行われている。

(2)鉄道

近年の列車の高速化,高密度化に対処するため,既にATS (自動列車停止装置),CTC(列車集中制御装置),ATC(自動列車制御装置)が実用化され,ATO(自動列車運転装置)のように運転自動化も目指されている。

更に,安全性向上を図るため,新幹線の列車群管理制御(コムトラック)に見られるようなシステム化による総合的な安全性確保の方向で,人間一列車系の安全性向上が図られている。

また,列車火災事故防止のため,火災に対する車両材料の選定及び車両構造に関する研究,トンネル内における火災の性状及び地上施設に対する影響の研究,車両火災の探知装置,報知装置及び自動消火装置に関する研究等が行われている。このほか鉄筋コンクリートモノレールけたの強度に関する研究も行われている。

なお,新幹線の安全対策として,昭和54年3月末までに車両の取替えをするほか,レール,架線の強化等を推進することとしている。

(3)船舶

船舶の大型化,高速化,航行の遠距離化に対応するため,自動航跡記録装量や接岸時などの安全性確保を図るためのドップラー・ソナー・システムの開発が行われ,更に,100万トン級タンカーの制限水路における操縦性に関する研究が行われるなど,人間一船舶系の安全性向上が図られている。

船体構造部については,大型船「かりほるにあ丸」の海難事故を契機として,船体構造計算法の精密化に関する研究,疲労亀裂の伝ぱに関する研究,船体の残留応力に関する研究,溶接割れに対する検査法の研究などが行われている。

カーフェリーについては,昭和48年に相次いだカーフェリー事故を契機にカーフェリーの船型に関する研究,外洋フェリーの運動性能に関する研究などが継続されている。

原子力船については安全性評価の研究,放射線遮蔽の基礎研究,船用炉構材の照射損傷に関する理論的研究,安全防護システムの研究などが行われている。

(4)航空

安全な進入,着陸を確保するILS(計器着陸装置)の性能向上やILS電波障害の研究などが行われ,更に,現用のILSに代わる全く新しい精密着陸誘導システムとして,マイクロ波によるILSの研究が行われるなど,高度な人間一航空機系の安全性向上が図られている。

施設面でも,安全な航路を維持するため,VOR(超短波全方向式無線標識)とDME(距離測定用施設)を組み合せたVOR/DME施設の整備が進められている。

また,一方では航空交通管制の近代化を目的としたレーダ情報処理システムの整備が着々と進められている。

更に,昭和60年代には航行衛星を用いた航空機の位置確認及び管制の実現が予想されているが,これに関しては衛星搭載電子装置や地上局装置の研究などが行われている。


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