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第1部  社会発展基盤の強化と拡大のために
第4章  社会開発基盤の強化
第3節  ライフサイエンスの振興
1  振興の意義


ライフサイエンスは,これまでの生物学などといつた個々の学問分野と異なり,人文科学から自然科学に至る広範な学問分野を結集した学際的協力のもとに生命現象や生物機能の解明及びその応用を図つていく総合的な科学技術である。最近になつてライフサイエンスが登場し,クローズアップされてきたのは,後で述べる技術的背景が整つてきたことと共に,社会経済からの強い要請があつたことによるものである。

今日,保健・医療,環境,食料及び人口問題など我々の社会が当面している課題は数多いが,ライフサイエンスの進歩発展は,それらの課題への解決に大きく貢献するものと考えられている。

戦後,生活水準が上昇し,医療が改善されてきたことなどから,ここ20年ほどの間に平均寿命は10年程度と大幅に延び,健康は大きく増進されてきた。しかし,がんに代表される治療の困難な疾病はまだ解決を見ておらず,また,いつまでも健康で若くありたいとの願望には強いものがある。

また,近年における環境の破壊や事故,災害の発生は,第4節あるいは第5節でも見るように,我々の生活を脅かす深刻な問題となつている。

一方,世界の人口は年増加率2%という爆発的な速度で増大しつつあるが,これは世界の食料需給のひつ迫を通じて,我が国の食料確保を脅かす危険性をはらむものである。

更には,我が国においては省資源,省エネルギー化が急務となつているが,これを推し進めていく技術は今なお不十分である。

こうした課題は,例えばがんの場合,臨床医学の改善といつた個体レベルの段階から遺伝機構の解明といつた分子レベルの段階の研究によつて治療法が求められ,また,食料の確保の場合,品種改良が器管レベルの育種技術の開発から細胞,分子レベルの突然変異の究明によつて行われるなどに見られるように,生命や生物機能を解明し,その応用を図る学問分野の総合的な結集によつて取り組まれることが極めて重要となつている。ここで,いくつかの研究課題例によつてライフサイエンスの持つ総合的科学技術としての性格を示したのが 第1-4-18図 である。本図からライフサイエンスが極めて広範な分野の科学技術の結集によつて研究が推進されるものであることが理解できよう。

第1-4-18図 ライフサイエンスの研究分野の例

ライフサイエンスという言葉は,既に1930年代以降においてアメリカで生命を扱う学問を示す用語として用いられてきている。すなわち,1930年代半ばに分子生物学が登場し,生命現象が分子間の相互作用として理解されることが示されたことから,生物学,医学,薬学等の生命と生物に関する諸科学は,物質を共通基盤としてその展開が可能となつた。その結果,これらの諸科学を生命の本質を解明する一つの科学分野として横断的にとらえることが可能となり,以後,総合科学という意味あいにおいてライフサイエンスという言葉が使われるようになつたものである。更に,近年における分子生物学等生命に関する諸問題の著しい進展,とりわけ,生命現象を分子レベルから探究し得るようになつて,それを物理学的,化学的現象としては握する条件が整つてきたことがサイフサイエンスの登場の技術的背景だとしている。

先に述べた今日の諸課題を実現し,人間の福祉に貢献するという観点から,ライフサイエンスが取り組んでいかなくてはならない研究課題例を見てみれば,おおむね, 第1-4-11表 に示すようなものとなろう。

世界各国においてライフサイエンスに対する関心は高まりを見せており,例えば,ライフサイエンスの言葉を生んだアメリかでは,連邦政府資金が年間5,631億円(2,125百万ドル)にも上り,また,西ドイツにおいてもライフサイエンスに関する大規模な研究センターが設立されるなど,ライフサイエンスに関する研究は着実に強化されつつある。

第1-4-11表 ライフサイエンスの研究課題例

我が国では,昭和46年,科学技術会議から内閣総理大臣に対して出された第5号答申「1970年代における総合的科学技術政策の基本について」において,現在直面している健康問題,環境問題,食料問題等の解明に極めて有効であり,かつ今後の科学技術の新しい方向への飛躍的発展を支えるものとして,ライフサイエンスの振興の必要性が打ち出された。次いで,科学技術会議ライフサイエンス懇談会において,47年9月に「ライフサイエンスの振興方策の大綱」が,同年12月に「ライフサイエンスの当面の振興方策」が取りまとめられた。これらは,翌48年7月「ライフサイエンス懇談会報告」として科学技術会議に報告されたが,これは,長期的視点に立つてライフサイエンスの研究の方向を示すとともに,広い見地に立つて基盤的研究の充実を図りつつ社会の要請に沿つて問題解決を指向する目的指向的研究を推進すること,特に目的指向的研究を推進するためライフサイエンス研究推進機関を設立すべきであること,ライフサイエンスはその結果が人類にとつて深刻な問題を提起することもあり得るので,そのもたらす影響を事前に十分検討すること及び円滑で望ましいライフサイエンスの振興のための条件を整備することが必要であるとしており,今後のライフサイエンス振興のあり方を示している。

更に科学技術会議においては,48年7月ライフサイエンス部会が新たに設置され,我が国におけるライフサイエンスの重要な研究目標とその振興方策が検討されている。

以上のような情勢を背景としてライフサイエンス研究は年ごとに活発さを増す状況にある。


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