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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
2  宇宙開発


宇宙技術の急速な進歩により,宇宙空間は人類の新たな活動領域の1つに加えられつつある。ロケット,人工衛星等の手段によつて宇宙空間の真相が次々と明らかにされるとともに,その成果はわれわれの日常生活の多方面に利用されて,人類社会に幾多の革新的な利益をもたらしている。

すなわち,科学研究の分野においては,観測用のロケットや人工衛星等を用いて地球周辺や惑星間の宇宙空間の探査,観測が行なわれ,天文学,宇宙物理学,地球科学等の発展に大きな貢献を果たしてきた。とくに米国およびソ連は,有人宇宙飛行の分野において数々の偉業を成し遂げ,米国はアポロ計画によつて6回にわたる有人月面探査を実現した。

また,通信,気象,航行援助,測地,資源探査等実利用の分野においても研究開発の進展はめざましく,インテルサット(国際電気通信衛星機構)による国際間衛星通信網の確立をはじめ,着々とその実用化が進められている。

次に各国での最近の動きをみると,米国はアポロ計画につづく新しい宇宙開発計画としてポストアポロ計画を立案し,60年代に培われた宇宙開発の成果をもとに宇宙を人類の利益のために本格的に利用しようとしている。

ソ連も,月探査,金星探査等大規模な宇宙開発活動を進めており,またヨーロツパ諸国においても,気象,通信,科学観測等各種の衛星の開発構想がもたれるなどいまや広範な宇宙の利用時代が開かれようとしている。

このような世界の情勢のなかにあつて,宇宙開発にやや立ち遅れたわが国としても,昭和52年度までに科学衛星6個と技術試験衛星,実験用静止通信衛星等4個の衛星を打ち上げるとともに,世界的な気象観測システムの一環として静止気象衛星を打ち上げることとしている (第1-39図)

第1-39図 わが国の人工衛星打上げ計画

以上のほか,最近注目される動きとしては国際協力の活発化がある。具体的には,米国の他国の衛星打上げ援助政策の表明,気象衛星打上げに関するGARP(地球大気開発計画)の推進,インテルサット恒久化協定の締結,米ソ宇宙協力協定の締結,米国のポストアポロ計画への各国の参加の要請等をあげることができる。

このため,わが国としても,このような情勢に適切に対処した国際協力を展開していく必要があると考えられる。

(1) 技術進歩の状況

宇宙開発は,ロケット,人工衛星,打上げ場,人工衛星追跡,管制等の広範な技術が総合化されてなりたつているが,なかでも中心となるのはロケットと人工衛星である。

以下にこの2つの技術分野について,最近の動向とその進展する方向について概観してみる。

(1) ロケット

ロケットは,人工衛星等の宇宙物体を宇宙空間に打ち上げる唯一の運搬手段であり,あらゆる宇宙活動にその基礎を与えるものである。したがつて,ロケットなくしては宇宙活動は不可能であり,ロケットを保有するかどうかがその国の宇宙開発能力を判断する指標となる。

現在,人工衛星を打上げるロケットを保有している国は,米国,ソ連,フランス,日本,中国の5か国である。

米国は,アポロ計画用として開発した第1段直径10m,全長110m,発射時重量2,700トンの巨大な3段式液体燃料ロケット,サターンVをはじめ,タイタン,アトラス・セントール,ソー・アジーナ,デルタ,スカウト等各種のロケットを開発し,月や惑星の探査,科学衛星,実用衛星,有人衛星等多様なミッションに応じてそれぞれ打上げに使用してきた。さらに,米国はスペースシャトルとよばれる再使用可能な有人口ケットを開発し,安価かつ簡便な衛星打上げシステムの確立を図る等宇宙を人類の利益に利用すべく広範な計画を進めようとしている。

一方,欧州においてはフランスがディアマンロケットを開発し,1965年11月初の人工衛星を打ち上げ,以後その改良開発を進めている。イギリスはブラック・アローロケットを開発し,1971年10月初の人工衛星の打上げに成功したが,財政事情等によりその後の製作を中止し以後の打上げは外国に依存することとなつた。また,より大型のロケットとして当初,ELDO(欧州宇宙ロケット開発機構)において静止衛星の打上げ能力をもつヨーロツパ2号および3号の開発が進められていたが,現在はESRO(欧州宇宙研究機構)と合併しフランスを中心にこの開発を続けることが計画されている,

第1-24表 各国の主なロケットの性能

わが国では,宇宙開発委員会が定めた「宇宙開発計画(昭和47年度決定)」に基づき,科学衛星打上げのためのMロケットと実用衛星打上げのためのNロケットの改良開発が進められている。Mロケットは,これまでに2個の科学衛星を含む4個の衛星打上げ実績をもち,今後信頼性の向上,二次噴射推力方向制御の付加等の改良が行なわれることとなつている。Nロケットは,130kg程度の衛星を静止軌道に打ち上げる能力を有することを目標に開発が進められている。

(2) 人工衛星

(イ) 科学衛星

宇宙科学観測の目的は,人類が居住する地球の環境を知り,また,宇宙の研究により新しい原理法則を発見することである。ロケット,人工衛星等による観測は,これらの分野に多大の貢献をしている。

地球の環境を知るということについては,地球周辺の電離層の状況,地球を囲む磁気圏,太陽風の様子,太陽系空間プラズマの性質等がかなり明らかになり,STP(Solar Terrestrial Physics)という新しい分野が展開されるにいたつている。わが国の科学衛星「しんせい」,「でんぱ」もすでにSTPにおけるいくつかの新しい知見を加えている。

また,新しい法則,原理の発見については,大気圏外から発するX線,γ線,紫外線の観測により人類の宇宙に関する認識を新たにした。

(ロ) 通信衛星

国際通信におけるインテルサットの利用はめざましく,わが国の国際電話,テレックス通信量の約半分をまかなうまでになつている。また,国際通信のこの10年間における年間伸び率は,大西洋地域では80%,わが国では20%以上というきわめて高い値を保つてきているが,この傾向は今後も継続するとみられるため,現在のインテルサット4号に代る新しい大型衛星を開発することが検討されている。

一方,衛星の大型化による経済性の増進と各種通信システムの開発は,これらのグローバルな範囲での通信に加えて比較的狭い範囲での通信を行なうことを可能としつつある。このため,世界の各国は,地域内,国内を目的とした通信衛星の開発を進めているが,そのなかにあつてカナダは米国のロケットにより昭和47年11月に世界初の国内静止通信衛星の打上げに成功した。

わが国においても宇宙開発計画において実験用静止通信衛星を昭和52年度を目標に打ち上げることとしており,その開発を進めている。なお,より大型の実験用の静止通信衛星についても検討が進められている。

(ハ) 放送衛星

放送衛星は,地上放送網が未発達の国におけるテレビジョン放送の普及,広大な国土や周辺に散在するコミュニティへの番組の提供等教育の普及,文化の向上に果たす役割が大きい。これまで放送衛星はきわめて高い宇宙技術を必要とするところからその実現が遅れてきたが,最近の宇宙技術の進展によりその実現の可能性が大きくなつている。最も具体的な計画としては,米国が1976年に打上げ予定のATS-F衛星によりインドにおいて試験的に教育テレビジョン放送を行なうものがある。

このほか,フランス,ドイツ,カナダ等に放送衛星の開発の計画がある。

わが国においては,難視聴地域解消等の放送需要,アジアにおける先進国として将来の衛星放送に関する潜在的要求等にこたえる立場から,実験用の中型放送衛星についても検討が行なわれている。

(ニ) 気象衛星

米,ソの打ち上げた気象衛星による実験により宇宙からの広域気象観測の可能性が実証され,気象衛星を組織的に配置すれば,これまでの盲点であつた海洋,砂漠についても必要な観測が可能であることが明らかになり,気象衛星による気象予報精度の飛躍的向上が期待されている。

気象衛星には,ITOS(改良タイロス)にみられるような太陽同期の極軌道衛星とATS(応用技術衛星)にみられるような静止衛星があり,いずれも可視・赤外放射計,TVカメラによる雲分布の観測,赤外放射計による地表温度の測定,赤外スペクトロメーターによる温度の垂直分布の測定等を主なミッションとしている。

一方,WMO(世界気象機関)は,気象業務が世界的組織で実施することが効果的であることを認識して,WWW(世界気象監視)計画を提案し,1969年から遂行しつつあり,その一環であるGARPにおいて人工衛星による観測を計画している。この計画は,静止気象衛星5個(米国2,欧州1,日本1,その他にソ連が1個負担の意思を表明)と軌道衛星数個で全世界をカバーするもので観測の開始は1977年を予定している。この静止気象衛星のうちアジア地区をカバーするものについては,日本が受け持つことを要請され,昭和48年度から同衛星の開発,製作を行なうこととなつた。

(ホ) その他

以上のほか,現在世界で計画され,または利用されている実用衛星としては,資源衛星,航行衛星,測地衛星,電離層観測衛星などがある。

資源衛星は,地表面におけるさまざまな現象,たとえば農作物の生育状況,森林の健康状態,積雪の分布状況等を宇宙から観測するもので,その有用性は世界的に認識されている。米国は1972年に実験用衛星ERTS-Aを打ち上げたが,これにはわが国の研究者の提案による2つの観測テーマが共同研究テーマとして取り上げられた。また,引き続いてERTS-Bが打ち上げられるほか,スカイ・ラブにおいて同種の観測が行なわれる予定である。これらの衛星によつて得られるデータは,とくに開発途上国での利用が有効であるため,国連においてその世界的な規模での利用が検討されている。

航行衛星は,航空機,船舶等の増加に伴つて,今後,ひつ迫が予想される航行援助,交通管制の一翼を担うものと期待されている。これによちt,明りょう度の高い音声通信およびデータ伝送が可能となり,また,航空路・海路の効率的運用を図ることができる。航行衛星システムの開発は,ESROおよび米国が中心となつて進めており,わが国も航行衛星の国際的性格からこれら諸外国の動向に弾力的かつ機動的に対処しうるようそのシステム等について研究を進めている。

また,測地衛星,電離層観測衛星については宇宙開発の初期から米国等で開発が進められ,それぞれの分野で相当の成果を収めてきている。

(2) 将来実現が予測される技術

(1)に述べたような諸計画が実現した以降に予測される宇宙開発技術には,各種実用目的の衛星システムの充実,高度化が図られるほか,次のようなものが実現可能となろう。

(1) 宇宙空間の探査

種々の科学衛星や有人宇宙実験の積み重ねは,われわれの宇宙に関する知見をますます豊富なものとしよう。衛星を用いた宇宙空間の探査はすでにエコロジー等と結びつき,地球科学,惑星科学といつた新学問分野を開拓しつつあるが,人工惑星,人工衛星等による火星,金星等惑星系の探査,地球周辺の諸現象の解明,太陽・天文観測等は,これらの分野の研究を一層深めるとともに,一つの大宇宙船としての地球のより有効な利用を進め,人類が宇宙空間へとその生活領域を拡大していく足がかりとなろう。

(2) その他の技術

米国がアポロ計画のために開発した技術と計画・管理手法は,今日の世界の技術を大きく先導しているが,この傾向は今後も続くであろう。

また,米国はポストアポロ計画の一環として宇宙空間と地球を往復する再使用可能な有人口ケット,スペースシャトルの開発を計画しており,その利用による衛星打上げコストの低廉化と有人ステーション,有人スペースタグの実現は,人類の宇宙への進出を確固たるものとするとともに,宇宙空間における真空状態,無重力状態を利用した各種の実験の遂行を一層容易にし,宇宙ステーション内で操業する工場等の実現をもたらすものとなろう。そのほか,宇宙空間における無尽蔵の資源といえる太陽エネルギーを利用し地上に送る超大規模宇宙発電所の建設や宇宙天然資源の利用等についても検討が行なわれている。


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