ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   わが国の科学技術の現状
第4章  研究開発の推進
1  研究投資・研究人材
(1)  研究投資


昭和32年度において約1,000億円であつたわが国の総研究投資額は,その後の10年間に約6倍となり,昭和42年度には6,060億円(対前年度比24%増)となつた。研究投資の国民所得に対する割合は1.8%と前年度(1.7%)に比べてわずかに上昇したが政府財政のなかに占める科学技術関係予算についてみると,一般会計予算に対する割合は3.2%で,ここ数年横ばい状態にある。近年,大多数の工業国において研究開発に投入される投資は急激に増大してきておりその投資額の国民所得に占める割合は,アメリカにおいては3.6%,ソ連においては3.2%となつており,その絶対額はきわめて膨大なものとなつている( 付表1-15 参照)。

また,その他の先進工業国であるイギリス,フランスなどにおいて,いずれも国民所得の2%以上が研究開発に投入されている。

近年,科学技術の役割はきわめて大きくなつており,科学技術が経済社会からの要請にこたえうるためには,さらに研究開発の進展を図ることが緊急の課題となつている。これに加えて,研究開発が総合化,大規模化したため,研究開発の効率的,重点的な推進が望まれている。

以上のような情勢のもとにわが国においても今後研究投資増大へ一層の努力を払うとともに,研究開発の計画的推進への要請が非常に高まつている。

以下本節においてはわが国の研究投資について,研究活動を推進する主体である「会社等」,「研究機関」および「大学等」注)の投資構造を3者それぞれの役割との関連のもとに分析することにしよう。

第1‐15表 研究投資と国民所得(国民総生産)の推移


(1) 組織別,研究投資の構造

わが国の研究費に関する「会社等」,「研究機関」,「大学等」の各組織別推移は, 第1-15表 に示すとおりである。研究費の構成は「会社等」62%,「研究機関」15%,「大学等」23%となつている。わが国の研究開発は,明治以来政府主導型で進められてきたが,昭和30年代にはいつて民間企業の経済力が向上するとともに,世界的な技術革新の進行と相まつて,新製品の開発競争が激化し,企業における研究開発努力は著しく増大した。欧米の先進工業国においても,それぞれ歴史的背景の相違はあるが現代における研究開発の実施が民間企業においてもつとも活発に行なわれている点については同様である( 第1‐17図 参照)。


注)1,「会社等」とは,農業,建設業,製造業,運輸通信業等を営む資本金100万円以上(ただし農林水産業は1,000万円以上)の会社および日本国有鉄道,日本電信電話公社等の特殊法人を含み,研究専門の特殊法人は含まない。

2.「研究機関」とは,国,公立の試験研究機関,研究を主たる業務とする特殊法人の研究機関および公益法人の試験研究機関をいう。

3.「大学等」とは,学校教育法に基づく大学の学部,付属研究所,短期大学および高等専門学校等をいう。

第1‐17図 研究費の組織別構成

わが国における研究投資のこのような組織別構成に関する一・二の特徴として,まず第1にわが国においては大学の占め割合が大きいことをあげることができる。第2は,研究投資の面において国の負担割合が少なく,わが国の研究開発が投資面においても産業主導型であることである( 第1‐18図 参照)。

第1‐16表 は,主要工業国における研究費を研究目的別に分類したものである。この表からもわかるように,アメリカをはじめイギリス,フランスなどの諸国では,原子力研究,宇宙研究および国防研究の占め割合がきわめて大きい。各国の研究費から国防に関する研究費を除いた研究費について国際比較を行うと, 第1‐19図 のとおりとなる。すなわち,わが国の研究投資の規模は,国防研究費をまつたく除いても,まだ欧米の主要国に及ばない。しかも,国防研究をまつたく除外して比較することには問題がある。

国防研究が一般の科学技術に及ぼす効果については種々の議論があるが,アメリカの科学技術政策に関するOECDの報告書によれば,波及効果の明瞭なものとしては,

1) 国防研究のために開発された計画技術,管理技術の民間への適用

2) 国防研究の成果として

イ 新製品の民間への普及
ロ 耐熱金属,特殊鋼等の特定分野における生産技術の進歩および普及
ハ 新製造技術による製品のコストダウン
ニ 大型電子機器などの民間への普及

等があり,また,波及効果は明瞭でないが,その影響があると考えられるものとして

1) 政府計画に参画している会社における知識の集積と一般的な技能水準の向上
2) 国防需要の影響下にある会社あるいは,国全体としての情報交流の促進,専門の技術水準の向上

等があげられている。

第1‐18図 研究費の公共負担割合

いずれにしても,今日世界の多くの国において国防研究が科学技術の広い分野にわたつて先導的役割を果たしてきたと認められるであろう。

したがつて,わが国としても,今後科学技術の強力な振興を図つていくために,広汎な分野にわたつて大きな波及効果をもたらすような,原子力,宇宙,海洋等の大規模な先導的技術開発を積極的に推進することは重要な意味をもつものと考えられる。

第1‐16表 研究目的別研究費

わが国の研究投資構造のもう一つの特徴は,研究投資の規模が小さく,また大企業から中小企業にいたるまで研究を実施している会社が広く分散していることである。 第1‐17表 は,わが国の「会社等」のうち農林水産業,鉱業,建設業,製造業,運輸通信公益業に属する資本金百万円以上(ただし農林水産業は1,000万円以上)の会社につい業,研究を実施している会社を資本金階層別に調べたものである。

昭和41年度における研究実施会社総数は,8,815社であつたは,このうち使用研究費1,000万円未満の企業が6,924社もあり,使用研究費5億円以上の企業は90社である( 第1‐18表 )。 第1‐20図 によりアメリカの例でみると,使用研究費1億ドル(360億円)以上の企業が28社,1億ドル未満1,000万ドル以上の企業が102社で,全産業界における研究開発費に占める割合は,それぞれ62.7%,20.8%で合計すると83.5%を占めている。フランスでは,使用研究費1,000万ドル(36億円)以上の企業は16社で,その全産業界の研究費に占める割合は43.3%である。

第1‐19図 国防研究費を除く研究費の国際比較

第1‐17表 資本金階級別の研究を行なつている会社数 および研究費(支出額)         (1966年)

第1‐20図 諸外国における研究費規模別研究実施会社数

一方,科学技術庁の調査によれば,わが国においては,使用研究費36億円(1,000万ドル)上の企業は,昭和35年度3社,38年度6社,昭和41年度19社でその全産業の研究費に占める割合は,それぞれ12.2%,16.5%,20.2%であり,諸外国に比してわが国の研究規模が小型であるが,これは,まな研究活動の実施主体が分散していることを示すものであろう。全産業および技術先端産業である化学工業,電気機械工業,機械工業,鉄鋼業,輸送用機械工業の5業種について研究費の上位企業への集中度をみると, 第1‐21図 のようになる( 付表1-25 , 1-26 参照)。

第1‐18表 主要産業における研究費規模別研究実施会社数

近年資本自由化に対処して,経営基盤の強化あるいは技術開発カ強化の必要性などから企業の大型合併が次第に進められつつあるが,研究費の集中度についてはあまり大きな変化はなく,全般的にみると,逆に研究費の上位企業への集中度は,昭和41年度においては35年度よりも低くなつている。

また,上に述べた5業種についてみると,集中度が高くなつているのは,機械工業,輸送用機械工業,あまり変化のないのは鉄鋼業,低くなつているのは化学工業,電気機械工業である。このように,もつとも研究集約的色彩の濃い電気機械工業,化学工業をはじめ多くの業種において研究費の上位企業への集中度が低くなりつつある原因としては,次のようなものが考えられる。

すなわち,近年,内外の市場を問わず製品の販売競争において新製品開発に依存する面が大きくなつたため,少数の大企業だけでなく,かなり広範囲の企業にわたつて研究開発が積極的に進められた結果,各業界の上位企業における研究費が年々かなりの増加をみせているにもかかわらず,全体として研究費の上位企業への集中度を低くしている。

第1‐21図 産業における研究費の集中度


(2) 研究費の流れからみた研究投資構造

わが国の研究費の研究組織別負担割合は, 第1‐19表 に示すとおりである。この表で明らかなように,わが国においては「会社等」の研究費は,ほとんど民間企業自身で負担しており,政府の委託または補助によるものは全体の0.6%ときわめて少額である。また,「研究機関」のうち,国営,公営のものおよび国立,公立の大学(付置研究所を含む)では,研究資金のほぼ全額を国と地方公共団体に依存しており,民間からの委託によるものはほとんどないといつてよい状況である。

第1‐19表研究費の負担割合

「研究機関」のうち,民営のものの研究投資の国,地方公共団体の負担割合は,77.9%とかなり大きな値となつているが,これは,民営の研究機関のなかには国の出資金に大きく依存している理化学研究所,日本原子力研究所など特殊法人の研究所が大きな割合を占めているためである。

第1‐20表 は,各組織間における研究費の流れを示したものである。昭和41年度に「会社等」が委託および共同研究などのために外部へ支出した研究費は,168億円で(全負担研究費に対する割合は5.8%),そのうち半分以上(87億円)は,他の民間企業等へ支出されている。この場合,ある系列に属する企業がそれぞれの研究部門を独立させて研究を主たる事業とする会社を共同で設立し,これに資金を支出するといつた形のものが多い。このような研究専門の会社は,昭和36,37年頃の民間企業における中央研究所設立ブームと軌を一にして19社ほど設立されたがその後の増減はあまりみられない。「会社等」の研究費のその他の支出先は,公益法人等民営の「研究機関」へ32億円,「大学等」へ24億円,国・公営の「研究機関」へ6億円,その他へ20億円となつている。つぎに,「研究機関」から委託または共同研究のために外部へ支出された研究費をみると,昭和41年度は9億8千万円(「研究機関」の全負担研究費に対する割合は1.3%)で,そのおもな支出先は,「会社等」である。また,「大学等」は,その性格上当然のことながら,外部に支出した研究費は1億4千万円(「大学等」の全負担研究費に対する割合は0.1%)ときわめて少なく,支出先もほとんど大学に限られている。このようにわが国の各組織相互間の研究費の流れは少ない。

第1‐20表研究費の流れ (単位百万円)

研究を効率的に推進するためには,必ずしも研究費の負担者と研究の実施者とが一致する必要はない。むしろ,研究分野または研究課題に即して,適切な研究機関において研究が実施されることが望ましく,そのために研究の委託などの方法により研究費の活用を図ることが重要であろう。わが国においては,大型工業技術開発制度にみられるように民間企業に対する比較的大規模な国の資金投入が行なわれるようになつてきたものの,全体としては,このような研究費の流れは,まだ十分とはいえない。したがつて今後は,積極的に国と民間企業との間の研究費の交流を図ることが重要となろうが,民間企業の協力も望まれる。

第1‐21表 アメリカにおける研究費の流れ(1965年)

第1‐21表 は,アメリカにおける研究費の流れを示したものであるが,アメリカにおいては政府,産業界,大学の間に効果的な協力関係があり,これら3つの部門間において研究資金の大きな流れがみられる。アメリカにおいてとくに著しいのは,研究費負担者としての政府の役割の大きいことであり,全研究費の64%,131億ドルを負担している。この負担研究費のうち,政府自身で研究を実施している分は23%であり,60%を産業界へ,13%を大学へ,また4%を非営利研究機関(わが国の公益法人等研究機関にあたる。)へ出資している。


(3) 研究段階別にみた投資構造

現代の世界における革新的技術の成功例の多くは,基礎研究から応用研究,開発研究までの強力な組織的推進によつて生まれたものであり,わが国においても,研究の各段階の緊密な連携とともに調和ある発展を図ることは,きわめて重要な課題である。そこで,研究投資の面からみたわが国の基礎研究,応用研究,開発研究に対する力の配分についてみることとする。

わが国の「会社等」における研究費の基礎,応用,開発別比率は,基礎研究10.4%,応用研究28.4%,開発研究61.2%となつている( 付表1-24 参照)。

また,基礎研究を純粋基礎研究と目的基礎研究に分けると,わが国の民間企業等で行なわれている基礎研究の92%が目的基礎研究に属している。しかし,諸外国と比較するとわが国の「会社等」では基礎研究,応用研究のウエイトが大きく,開発研究のウエイトは小さい( 第1‐22表 参照)。「研究機関」においても,基礎研究25.4%,応用研究46.2%,開発研究28.4%と基礎研究,応用研究のウエイトが大きく,開発研究のウエイトが著しく小さい。また,基礎研究の純粋基礎,目的基礎別内訳では,純粋基礎研究の比率が32%と民間企業と比較して大きくなつている。つぎに,「大学等」についてみると,わが国においては「大学等」の研究費は,基礎,応用,開発別に分類されていないが,基礎研究に中心がおかれ,一部応用研究も行なわれているが,開発研究が行なわれる場合はきわめてまれであろう。

第1‐22表 組織別研究費の研究段階別比率

以上を総合して,わが国全体の研究費の基礎,応用,開発別配分を諸外国と比較すると, 第1‐23表 に示すとおりとなる。この表でみると,わが国の研究費の総額は,アメリカの1/24,イギリスの1/2,フランスの1/1.5となつているが,基礎研究費は,アメリカの1/10,イギリス,フランスとはほぼ同額であり,応用研究費でそれぞれ1/17,1/1.7,1/1.6であり,開発研究費では1/40,1/3.3,1/1.9となつており,基礎研究から開発研究への段階が進むにつれて,その差が大きくなつている。一般に,その国の研究費の総額が少ないほどそのなかに占める基礎研究費のウエイトが大きくなる傾向にあり,これを図示すると 第1‐22図 にみられるように,各国の全研究費に占める基礎研究費の割合は一つの傾向線上にあるが,日本の場合だけは特異な存在となつており,わが国においては,基礎研究費の比重が著しく大きい。

第1‐22図 基礎研究費比率と研究費総額

第1‐23表,基礎,応用,開発別研究費の国際比較


以上の分析から今後のわが国における研究開発においては,基礎研究の成果を有効に活用するとともに,応用研究ないしは開発研究に一層の重点を置くことが必要であるものと考えられる。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ