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第3部   部門別に見た技術の動向
第1章  農林水産業
2.  生産技術
  水産業



現状

明治以来敗戦にいたるまで,漁場の分割と,漁業権による排多的占有という漁業構造のなかでは,漁法,漁具等の発達による生産力の向上はさまたげられ,沿岸漁業の漁獲はきわめて不安定のまゝ放置されていたといえよう。このような制約は沿岸漁業の経済的発達をはばみ,漁家の生活を悲惨なものにしていた。零細な漁家が,みずから資本を蓄積して,資本主義経済の発達にともなって拡大した国内市場の要望にこたえ,新しい外国技術を導入して,漁業水域外の沖合漁業へと発達することを困難にし,むしろ,沿岸魚業者からの収奪によって資本を蓄積した商業資本を中心に,沖合漁業は発達してきた。沖合漁業は,沿岸漁業よりは小さい制約のもとで,より高い技術によって,沿岸の漁業権漁業と同じ魚類資源を漁獲していったので,当然の帰結として沿岸漁業の漁獲量は減少し,沿岸漁業に頼る多くの漁家は,定置網漁業者を除いてますます貧困化し,沖合漁業の労働力給源となるか,瀬戸内島嶼地帯にみられるように,零細な農耕地を中心にして農業者として転化するかであった。

図3.17 火光棒受網によるサンマ漁法

漁探の採用が漁獲を激増させた

沖合漁業にも制約はあった。沿岸漁業に,何がしかの保護を加えるための漁業許可制度と,その取締規則によって,沖合漁業も,その技術発展による生産力の上昇に制限が加えられていた。したがって,戦中戦後の経済混乱と食糧増産の国家的要求によって,これらの制約が現実において打破されると,火光棒受網魚法によるサンマ漁,揚操における魚探等の技術が,数年の間にすさまじい勢いで導入され,魚獲量の魚種別構成に大きい変化をもたらした。

遠洋漁業は明治38年の遠洋漁業奨励法にみられるように,当初から政府の積極的な保護を受けていた。漁業の発達とともに,外国沿岸へのとどまることを知らぬ進出も,つねに軍艦旗の保障のもとに強行操業され,技術の進歩による生産力の上昇も低く,技術体系も他の近代産業,あるいは外国漁業に比して決して高くないのである。

以上のような漁業構造のなかでは,おのずから漁撈作業体系も漁業技術の発達も異ってくる。母船式捕鯨,トロール,以西底曳等の遠洋漁業では,一応,機械体系は整っている。捕鯨漁業の技術体系は,そのなかでも最も近代化されている。しかし,昭和26〜27年頃,外国では,キャッチャーボートが600トン,17ノットでレーダを持ち,しけのなかでも自由に活動していたが,わが国ではせいぜい400トンのキャッチャーボートで,レーダの装置もなく,漁群発見技能と,砲手の技能を頼りに捕鯨するといった状況であった。最近にいたって,やっとトン数も大きくなり,レーダ装置も整い,捕鯨量も外国に劣らないところまできたという状況である。

カッオ,マグロ,以東底曳,揚操,棒受等の遠洋ないしは沖合漁業では,手労働体系のなかに,一部,機械体系が入ってるいにすぎない。そして,定置,′地曳,船曳漁業はまったくの手労働体系である沖合漁業の技術はおくれており,沿岸漁業にいたっては,より劣悪であることはおのずら明らかであろう。
(2) 今後の課題

漁業経営体の85%をしめる漁家は,沿岸漁業と一部の沖合漁業を営んでいる。昭和27年以来,12〜13億貫のわが国総漁獲量のなかで,沿岸漁業は,おおむね50%を占めてはいるが,戦前から沿岸漁業の漁獲量は相対的に減少の一途をたどってきている。零細漁家の生活は,ますます悲惨なものになりつつある。

図3.18 漁場別漁獲量の比率の推移

85%にのぼるこのような漁家の漁業経営の安定は,漁業制度の改革をまってはじめて可能となり,自然科学,技術の発展により,海洋資源に挑戦して漁業生産の拡大をはかることができよう。その前提として,まず,国民の食糧消費傾向の変化を考慮に入れながら,沿岸漁業資源の調査と,その培養に努力することがきわめて主要なものとなってこよう。とくに,浅海における主要貝そう類の漁場適地は23億坪と推定されているが,すでに開発されているのは,約4割の9億坪にすぎず,残りの未開発漁場の開発と管理の具体策についての研究を進めるべきであろう。

また前述したように,工場,都市の廃水による被害は,昭和29年には約700件に達しており,浅海水産増殖事業を進めるうえでの障害となっており,汚水処理のための研究と管理を,国家の総合的な見地から,強化拡充してゆくことも考えるべきである。

一般に,水産に関する研究体制は貪弱である。漁船研究室はさいわい,敗戦とともに,旧海軍技術者を擁し,研究者の質的確保はできていても,研究室とは名ばかりで,行政機関の1係として存在しており,海区別の研究機関,真珠研究所なども含めて,その機構を再検討することが望まれる。

各海区における沿岸,沖合漁業資源調査は,一部特志家によって進められてきたが,最近,ようやく資源調査の重要性が認められ,その研究も一般化し,アナログコンピュータも整備されて,調査研究はいちじるしく進歩をみようとしている。しかし,漁業資源調査の方法論は未確立である。しかも,調査は長期間,広大な海域を対象に続けてゆく必要があることから,そのための研究投資は,日本経済全体のバランスのなかでばロスが大きすぎるといわれるかも知れない。しかしながら,零細沿岸漁家の存在と,漁獲総生産高に対する研究のための費用の比率が,ごく小さいという現況からすれば,せっかく芽生えた漁業資源調査は,今後むしろ拡大してゆくべきだと思われる。


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