スポーツ振興基本計画 2スポーツ振興施策の展開方策 3我が国の国際競技力の総合的な向上方策 B

2 スポーツ振興施策の展開方策

3.我が国の国際競技力の総合的な向上方策

B.政策目標達成のために必要な側面的な施策

(1) スポーツ医・科学の活用
 
1 到達目標
   スポーツ医・科学の研究成果を活用した競技者の育成を行うため、その基盤となる実践的なスポーツ医・科学の研究体制をJISSを中心に構築し、これらを利用した支援を実施する。

2 現状と課題
   国際競技力の向上を図るためには、競技者のトレーニングやコーチングにスポーツ医・科学の研究成果を適切に反映させる必要がある。このためには、体育系大学をはじめとする研究機関等におけるスポーツ医・科学の基礎研究の成果を実際の指導に活用するための総合的・実践的な研究を行い、この研究成果を競技者の育成の場に還元する必要がある。
 このため、2001年度(平成13年度)から本格的な活動が開始されているJISSにおいて、国際競技力の向上のためのスポーツ医・科学研究の促進、科学的トレーニング方法の開発、スポーツに関する各種情報の収集・提供、スポーツ障害等に関する予防法の研究や競技者として復帰するための治療やリハビリテーションを総合的に実施することが求められている。
 こうしたJISSの活動には、研究スタッフの確保や共同研究の実施等の面で、競技団体、体育系大学をはじめとする研究機関等からの協力が不可欠である。
 また、2007年(平成19年)中に整備することとしているナショナルトレーニングセンター中核拠点施設及び2006年(平成18年)から指定を開始するナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点と一体となって、トップレベルの競技者の支援を実施する必要がある。
 さらに、スポーツ医・科学の研究成果を活用した指導が全国で行われるためには、地域における競技者の強化拠点やスポーツ医・科学研究機関等に対し、JISSがスポーツ医・科学を中心とする各種のスポーツ情報を積極的に提供する必要がある。

3 今後の具体的施策展開
 
1) スポーツ科学、医学、情報の各側面からの支援の実施
   トップレベル競技者等の国際競技力の向上に向けた活動に対し、スポーツ科学、医学、情報の各側面から計画的、総合的及び継続的な支援を実施する。

2) スポーツ医・科学に基づいたトレーニング、コーチング方法等の開発
   JISSは、競技団体と連携して、スポーツ医・科学の研究成果や最新の情報技術等の活用により、トップレベル競技者等の能力等を総合的に分析し、その結果を踏まえて競技者の特性に応じた効果的なトレーニングやコーチング方法を開発するとともに、競技力向上に資するスポーツ用品の開発を支援する。
 また、JISSは、トップレベル競技者等の身体特性、運動能力等に関する総合的な分析を推進し、この成果を活用して、地域のスポーツ医・科学研究機関等との連携のもと、競技団体等が行う優れた素質を有する競技者の発掘を支援する。

3) スポーツ医・科学研究の推進等
   JISSは、体育系大学をはじめとする研究機関、競技団体、地方公共団体等と積極的に研究協力、情報交換を行いつつ、国際競技力の向上に直結するスポーツ医・科学研究、競技者として復帰するための治療やリハビリテーション等を行う。

4) 我が国におけるスポーツ情報に関する中枢的機能の確立
   JISSは、我が国におけるスポーツ情報に関する中枢的な機関として、体育系大学をはじめとする研究機関、競技団体及び地方公共団体等との連絡体制を確立し、スポーツ医・科学に基づいたトレーニングやコーチングの方法、スポーツ医・科学研究の最新成果及び優れた素質を有する競技者に関する情報等の競技力向上に有用な情報の収集及び提供を行う。

5) JISSの組織運営体制の充実
   JISSの事業が円滑に行われるよう、その研究員の確保や研究の質的向上等に努め、また、ナショナルトレーニングセンター中核拠点施設及びナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点と連携した事業を展開できるよう、JISSの組織運営体制の充実を図る。

(2) アンチ・ドーピング活動の推進
 
1 到達目標
   我が国のアンチ・ドーピング体制の整備と国際機関との連携強化を促進する。

2 現状と課題
   競技成績の向上を目的として筋肉増強剤等の禁止薬物を使用するドーピングは、フェアプレイの精神に反することはもとより、競技者自身の健康を害するおそれや青少年の薬物使用を助長する懸念があり、決して容認できるものではない。ドーピング違反の疑いがある者の検出数については、国際的には1991年(平成3年)の805名から2005年(平成17年)の3,909名へと、増加する傾向にあるが、我が国においては1991年(平成3年)の15名から2005年(平成17年)の10名へと、減少する傾向にある。このように、我が国の検出者数は低水準にあるものの、検査数も多くないことから、国際的にみて、我が国はドーピング違反が少ないとは言えない状況にある。
 国際的には、1999年(平成11年)11月、国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)を中心に、スポーツ界、政府、競技者、学識経験者等の協力のもと、国際的なドーピング検査の基準、ドーピング違反に対する制裁手続き等の統一、アンチ・ドーピング活動に関する教育・啓発活動等を行うことを目的とする世界アンチ・ドーピング機構(以下「WADA」という。)が設立され、世界的なアンチ・ドーピング活動の推進体制の整備が行われている。
 その後、アンチ・ドーピング活動は国内外で大きく展開しており、2003年(平成15年)3月には、WADAにより世界アンチ・ドーピング規程が策定されるとともに、2005年(平成17年)10月には、WADAを中心とした国内レベル及び国際レベルの協力活動を推進・強化する体制を確立することを目的とするアンチ・ドーピング条約が第33回国連教育科学文化機関(以下「ユネスコ」という。)総会において採択された。
 こうした中で、我が国はWADA設立以来、アジア地域を代表して常任理事国を務めるとともに、2001年(平成13年)9月、我が国のアンチ・ドーピング活動を推進する中核的な機関として財団法人日本アンチ・ドーピング機構が設立され、2004年(平成16年)4月には、WADAのアジア・オセアニア地域事務所の開設に協力するなど、アンチ・ドーピング活動の推進体制を整備してきたところである。
 我が国のアンチ・ドーピング体制は整備されつつあるが、欧米のアンチ・ドーピング先進国に比べ、検査件数が少ないなど、一層の充実が望まれている。また、アンチ・ドーピング活動を推進するに当たっては、ドーピング違反が競技者やその指導者のドーピングに関する知識の欠如によるものも多いことから、アンチ・ドーピングに関する教育・啓発活動を積極的に推進することが求められている。

3 今後の具体的施策展開
 
1) アンチ・ドーピング活動の更なる推進
   国内体制の検討を行い、アンチ・ドーピング条約を締結するとともに、十分な検査件数の確保や適切な競技外検査の実施等、国際水準の達成を目指し、積極的に取り組む。
 また、競技者に対する教育・啓発活動をはじめとする幅広いアンチ・ドーピング活動の充実・強化を図る。

2) 国際機関との連携の確立
   WADAにおけるアジア地域を代表する常任理事国として、アンチ・ドーピングに関する国際的な教育・啓発活動等に積極的に取り組む。また、アンチ・ドーピング条約の締約国としてユネスコや他の締約国と連携を図りながらアンチ・ドーピング活動を推進する。

(3) 国際的又は全国的な規模の競技大会の円滑な開催等
 
1 到達目標
   国際的又は全国的な規模の競技大会の円滑な開催のための体制を整備する。

2 現状と課題
   オリンピック競技大会等の国際競技大会や国民体育大会等の全国規模の競技大会の開催は、競技水準の向上やスポーツの普及のみならず、多くの人々の活力ある生活の形成にも貢献するものである。特に、青少年が国際競技大会等を実際に観戦することは、スポーツへの興味・関心を高め、我が国のスポーツの振興に資するとともに、豊かな国際性を培う機会となる。
 JOCでは、2016年(平成28年)のオリンピック競技大会を日本に招致するため、2006年(平成18年)8月30日に国内立候補都市を東京都に決定したところであり、IOCへの立候補を経て、2009年(平成21年)10月にはIOC総会において開催都市が選定される予定である。
 国際競技大会等を円滑に開催するためには、開催地の地方公共団体や競技団体が、過去の大会の招致や準備・運営に関する情報、大会を支えるボランティアに関する情報等を十分に活用する必要があり、こうした情報を収集・提供するための仕組みを構築することが求められている。
 また、近年の厳しい経済状況等を踏まえ、国際競技大会や国民体育大会等の開催が開催地に過重な負担とならないよう、大会運営の簡素化や効率化に十分配慮する必要がある。
 さらに、パラリンピック競技大会をはじめとする障害者スポーツ大会が、障害のある人のスポーツへの参加の契機となるばかりでなく、多くの国民に感動を与えるものであることを踏まえ、我が国における障害者のスポーツ大会の開催や国際的な障害者のスポーツ大会への参加が円滑に行われるよう、競技団体も協力することが求められている。

3 今後の具体的施策展開
 
1) 国際競技大会の円滑な開催
   今後とも我が国でオリンピック競技大会をはじめとする国際競技大会を積極的に開催するとともに、その開催について必要な支援を行う。また、国際競技大会等の運営の簡素化・効率化を推進するとともに、大会の招致や円滑な準備運営にとって不可欠である国際経験の豊富なスタッフの養成に努める。

2) 国際競技大会等の開催に必要なノウハウの共有化
   国際競技大会等の招致や円滑な準備運営のため、過去に我が国で開催された大会の招致や準備・運営に関する情報をJISSに集約し、提供するとともに、関係者間で共有化を図る。

3) 国際競技大会等に参加するボランティアの組織化
   地方公共団体や競技団体は、相互に協力しつつ、国際競技大会等におけるボランティアの窓口となる組織を整備し、その募集に関する広報活動等を行うことが望ましい。

4) 障害者スポーツの大会に対する支援
   パラリンピック競技大会等障害者スポーツの大会の円滑な開催を支援するため、競技団体は財団法人日本障害者スポーツ協会等との連携を強化することが望ましい。特に、全国的な規模の競技大会を開催するに当たっては、障害者部門の設置や障害者スポーツの大会との同時開催に努めることが望ましい。

(4) プロスポーツの競技者等の社会への貢献の促進
 
1 到達目標
   スポーツの振興や活力ある社会の形成に向けたプロスポーツの競技者等の活動を促進する。

2 現状と課題
   スポーツの楽しみ方として、スポーツを競技場で観戦したり、テレビで見たりする「みるスポーツ」の重要性が高まっている。こうした中で、多くの人々に親しまれているプロスポーツは、青少年のスポーツへの関心を高め、スポーツの裾野を広げる役割を果たすとともに、プロスポーツの競技者の高度な技術はスポーツ全体の競技力の向上にも貢献するなど大きな意義を有している。
 しかしながら、プロスポーツには未だに興業のイメージを持つ国民が少なくない現状にあり、プロスポーツを一層振興するためには、プロスポーツの競技者が素晴らしい技術により人々に楽しみを与えるなど社会に大きく貢献する存在であるとの意識を国民各層に浸透させていくことが望まれている。
 こうした中で、プロスポーツの競技者や引退した者が、青少年や地域のスポーツ愛好者等にその高度な技術や経験を伝えることをはじめとする社会貢献活動を積極的に行い、その社会的な評価の向上に努めることが求められている。
 また、現在では、IOCのオリンピック憲章で「アマチュア」の文言が削除されるとともに、プロの競技者がオリンピック競技大会や国際競技大会に参加できる競技が増加するなど、アマ・プロのオープン化が進んでおり、我が国のスポーツ振興や国際競技力の向上の観点から、プロスポーツとアマチュアスポーツとの間の連携の強化を推進する必要がある。

3 今後の具体的施策展開
 
1) プロスポーツの競技者等の技術指導等を通じた社会貢献活動の促進
   「プロスポーツ選手等による技術活用事業」を一層推進し、プロスポーツの競技者等が青少年を中心とするアマチュアの競技者に指導を行う機会を積極的に提供する。

2) プロスポーツ団体と競技団体等の連携の強化
   プロスポーツとアマチュアスポーツの関係者との研究協議や情報交換の機会を充実し、両者が一体となって競技者の育成・強化を推進する環境を整備する。

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スポーツ・青少年局企画・体育課

(スポーツ・青少年局企画・体育課)

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