第3章 今後5年間に総合的かつ計画的に取り組むべき施策

1.学校と地域における子どものスポーツ機会の充実

政策目標:

 子どものスポーツ機会の充実を目指し、学校や地域等において、すべての子どもがスポーツを楽しむことができる環境の整備を図る。
 そうした取組の結果として、今後10年以内に子どもの体力が昭和60年頃の水準を上回ることができるよう、今後5年間、体力の向上傾向が維持され、確実なものとなることを目標とする。

 子どもにとってスポーツは、生涯にわたってたくましく生きるための健康や体力の基礎を培うとともに、公正さと規律を尊ぶ態度や克己心を培うなど人間形成に重要な役割を果たすものである。
 子どもの体力については、文部科学省が実施している「体力・運動能力調査」によると、平成13年から約10年間にわたり概ね低下傾向に歯止めがかかってきており、子どもの体力向上に関するこれまでの施策は、全体的に効果は出てきているが、体力水準が高かった昭和60年頃と比較すると、基礎的運動能力は依然として低い状況にある。
 また、近年、積極的にスポーツをする子どもとそうでない子どもの二極化が顕著に認められることから、運動習慣が身に付いていない子どもに対する支援の充実等は引き続き大きな課題としてある。
 このため、子どもが積極的にスポーツに取り組む態度を育成することが必要であり、学校の体育に関する活動や地域スポーツを通じて、子どもが十分に体を動かして、スポーツの楽しさや意義・価値を実感することができる環境の整備を図る。
 また、こうした取組の結果として、今後10年以内に子どもの体力が昭和60年頃の水準を上回ることができるよう、今後5年間、体力の向上傾向を維持し、確実なものとする。

(1)幼児期からの子どもの体力向上方策の推進

1.施策目標:

 「全国体力・運動能力等調査」等による検証を行いつつ、子どもが積極的に運動遊び等を通じてスポーツに親しむ習慣や意欲を養い、体力の向上を図る。

2.現状と課題:

 子どもの体力は、文部科学省が実施している「体力・運動能力調査」によると、平成13年から約10年間にわたり、概ね低下傾向に歯止めがかかってきており、これまでの施策が一定の効果をあげていると言えるが、体力水準が高かった昭和60年頃と比較すると、基礎的運動能力は依然として低い状況にある。また、近年、積極的にスポーツをする子どもとそうでない子どもの二極化が顕著に認められる。中学校女子においては、スポーツをほとんどしない子どもが3割を超えている。
 このような状況において、運動習慣が身に付いていない子どもに対する支援の充実等を学校だけでなく、家庭や地域が一体となって行い、積極的にスポーツに取り組む態度を育成し、ひいては体力を向上させることは、引き続き大きな課題である。
 また、積極的にスポーツをする子どもとそうでない子どもの二極化については、小学校の早い段階からその傾向が認められるとともに、小学校低学年においては、明確な体力の向上傾向は認められないこと等から、幼児期からの積極的な取組が重要となっている。なお、日本学術会議においても幼児の生活全体における身体活動等の促進が提言されている。
 さらに、障害のある子どものスポーツについて、障害の種類や程度に応じた配慮が求められている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国及び地方公共団体は、各地域の教育委員会や学校等が行う「全国体力・運動能力等調査」等に基づいたすべての子どもの体力向上に向けた取組において検証改善サイクルの確立を促進する。
 その際、子どもの体力の重要性に関し、保護者に対する理解促進が有効であることから、保護者が参加する取組を推進する。
 また、積極的にスポーツを行わない子どもが多くいることから、特にその傾向が中学校段階で顕著となる女子を対象にして、スポーツの楽しさや喜びを味わうことができるようにすることに重点を置く。

○ 国は、幼児期における運動指針をもとに実践研究を実施すること等を通じて、全国的に幼児期からの体力向上に向けた取組を促進するための普及啓発を推進する。

○ 地方公共団体等においては、幼児期における運動指針を踏まえ、地域の実情に応じて、幼児期から体を動かした遊びに取り組む習慣や望ましい生活習慣を身に付けさせるための取組を行うことが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、年齢や性別に応じたスポーツの促進や体力向上方策の中で、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)の積極的な活用を図る。

○ 国及び地方公共団体は、地域のスポーツ施設やスポーツ指導者に対する障害者のニーズを把握する。また、障害者スポーツ団体等と連携を図りつつ、地域のスポーツ施設が障害者を受け入れる際に必要な運営上・指導上の留意点に関する手引きや、新しい種目、用品・用具等の開発・実践研究を推進する。

(2)学校の体育に関する活動の充実

1.施策目標:

 教員の指導力の向上やスポーツ指導者の活用等による体育・保健体育の授業の充実、運動部活動の活性化等により、学校の教育活動全体を通じて、児童生徒がスポーツの楽しさや喜びを味わえるようにするとともに、体力の向上を図る。

2.現状と課題:

 学校における体育に関する活動は、生涯にわたる豊かなスポーツライフを実現するための基礎となるものである。
 平成20年及び平成21年に改訂した学習指導要領においては、小学校から高等学校までを見通して発達の段階のまとまりを踏まえた指導内容の系統化や明確化が図られたが、小学校においては、教員の高齢化も進む中で、ほとんどの教員が全教科を指導しており、教員が体育の授業に不安を抱えたり、専門性を重視した指導が十分に実施されていない状況もみられる。中学校においては、武道等が必修化されたことに伴い、安全で円滑な指導を充実させるための取組が求められている。高等学校においては、将来にわたって継続的なスポーツライフを営むことができるようにする指導の充実が求められている。また、中学校及び高等学校においては、オリンピック等の国際競技大会の国際親善や世界平和における大きな役割等のスポーツの意義等について理解させることとしている。
 指導体制の充実を図るためには、専科教員や専門性を有する地域のスポーツ指導者の配置を促進することが有効であるが、全体としてはその活用の実態は十分とは言えない状況にある。
 運動部活動については、例えば中学校での所属率がほぼ横ばいで推移しているが、少子化に伴う運動部活動の所属生徒数の減少等により、チーム競技等においては特に活動に支障をきたしている。また、顧問教員の負担を軽減するためのスポーツ指導者の確保についても課題があり、その形態や運営について一層の工夫が求められている。さらに、種目によっては女子の参加が困難なものもあり、参加機会の充実が求められている。
 なお、体育・保健体育の授業や運動部活動等、学校の体育に関する活動においては、毎年度、重大な事故が報告されており、安全面での更なる配慮・工夫が求められている。
 また、障害のある児童生徒の学校の体育に関する活動については、児童生徒の教育的ニーズに応じた対応が行われてきたところであるが、スポーツ基本法でも、障害の種類や程度に応じた配慮が求められている。
 学校体育施設(※1)については、耐震化率はまだ100%に達しておらず、また、グラウンドの芝生化の整備率は上昇しているものの、依然として低い水準にとどまっているなどの状況にあり、その充実が課題となっている。さらに、学習指導要領の改訂による武道必修化にあたっては、武道場の整備の推進が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、平成20年及び平成21年に改訂した学習指導要領に基づく発達の段階に応じた指導内容の定着を図る観点から、教員の実技指導研修等を支援するとともに、児童生徒に模範となる実技を視覚的に示すための体育・保健体育の授業のためのデジタル教材の作成・提供等の取組を推進する。
 地方公共団体においては、研修会の開催や実技指導資料等の作成により、教員の指導力向上を図ることが期待される。

○ 大学においては、大学の自主性に基づき、教員養成課程において、健康や安全、障害者に配慮した体育の授業や運動部活動の指導・経営・調整に必要な確かな力量等を備えた教員を養成するため、学校現場と連携するとともに、カリキュラムや学習方法の一層の改善を図ることが期待される。

○ 国は、教職員配置について、「義務標準法」(※2)に基づき各学校における学級数等に応じて基礎的な教職員定数を国の標準として定めており、この中で、学級担任以外の教員も配置できるよう、学級数以上の定数が算定されるようになっている。また、平成23年4月の義務標準法改正により、上記の基礎的な定数とは別に措置される、いわゆる加配定数について、新たに小学校における教科の専門的な指導を実施するための加配措置が設けられたところであり、地方公共団体においては、これらの定数も活用し、体育の専科教員の配置を推進しながら、学校の教育活動全体を通じて、体育に関する活動の充実を図ることが期待される。

○ 国は、地域での教育支援体制を強化するため、地域のスポーツ指導者を活用するなどして、小学校全体の体育の授業等を計画したり、担任とティームティーチングで体育の授業に取り組む人材(小学校体育活動コーディネーター)の派遣体制の整備を支援する。地方公共団体においては、地域のスポーツ指導者等を積極的に活用することが望まれる。

○ 地方公共団体においては、中学校における武道等の必修化に伴い、安全かつ効果的な指導のために、地域の指導者等の積極的な活用等による指導体制の充実や、施設等の整備を図ることが期待される。国においては、武道等の指導の充実を図る取組を支援する。

○ 国は、生徒のスポーツに関する多様なニーズに応えた中学校及び高等学校の運動部活動の充実を促進し、生徒の運動部活動への参加機会を充実させるため、複数校による合同実施やシーズン制等による複数種目実施、総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)との連携等運動部活動における先導的な取組を支援する。これらを通じて、男子と比較して加入率が低い女子の運動部活動への参加機会の向上を図る。

○ 地方公共団体においては、運動部活動の充実のため、児童生徒のスポーツに関する多様なニーズに応える柔軟な運営等を行う取組を一層促進することが期待される。
 また、こうした児童生徒の多様なニーズに応える運動部活動を推進するため、研修等により運動部活動に関する指導力や経営・調整能力の向上を図るとともに、学校と地域のスポーツ指導者との連携を支援することも期待される。その際、総合型クラブ等との連携についても、一層理解の促進を図ることが求められる。さらに、運動部活動の指導に当たる教員の意欲を高める取組を行うことも期待される。

○ 学校体育団体等スポーツ団体においては、主催する大会等について、国や地方公共団体と協議しながら総合型クラブで活動する生徒等の参加を認めたり、地域スポーツクラブの大会との交流大会を実施したりするなど、柔軟な対応が図られるよう検討することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、学校の体育に関する活動を安心して行うことができるよう、スポーツ医・科学を活用したスポーツ事故の防止及びスポーツ障害の予防・早期発見に関する知識の普及啓発や、学校とスポーツドクター等地域の医療機関の専門家等との連携を促進するとともに、安全性の向上や事故防止等についての教員等の研修の充実を図る。その際、マウスガードの着用の効果等の普及啓発を図ることも考えられる。また、学校で保有しているスポーツ用具の定期的な点検・適切な保管管理に関する啓発を図る。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、災害共済給付業務から得られる学校の管理下における災害事例について、医学・歯学等の専門家と連携しつつ、調査・分析を行い、学校関係者等に情報提供を行う。

○ 国は、障害のある児童生徒の学校の体育に関する活動について、障害の種類や程度に応じて参加できるようにするため、適切かつ効果的な指導の在り方について調査し、先導的な取組を検討・推進する。

○ 地方公共団体においては、障害のある児童生徒の学校の体育に関する活動を推進するため、学校と地域のスポーツ関係者等との連携を促進することが期待される。

○ 学校においては、「個別の教育支援計画」を作成するなど、障害のある児童生徒の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行うことが求められる。また、「交流及び共同学習」を行う際は、障害のある児童生徒の実態に応じた配慮を行いつつ、障害の有無にかかわらず、ともに体を動かす喜びを味わうとともに交流を深める取組等を行うことも期待される。

○ 国は、子どもが楽しく安全にスポーツに親しめる環境を創り出すため、地方公共団体が行う学校体育施設の耐震化や、学校の実態に応じたグラウンドの芝生化等の学校体育施設の充実を支援する。

○ 地方公共団体においては、耐震化やグラウンドの芝生化等の学校体育施設の充実に努めることが期待される。


※1 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校の体育施設を指す。

※2 公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年5月1日法律第116号)

(3)子どもを取り巻く社会のスポーツ環境の充実

1.施策目標:

 地域社会全体が連携・協働して、総合型クラブをはじめとした地域のスポーツ環境の充実により、子どものスポーツ機会を向上させる。

2.現状と課題:

 近年、積極的にスポーツをする子どもとそうでない子どもの二極化が顕著に認められる。中学校女子においては、スポーツをほとんどしない子どもが3割を超えている。
 子ども自身が体を動かすことの楽しさに触れ、進んで体を動かすようになるためには、子どもたちの生活の場である地域におけるスポーツ活動を充実していくことが重要であるが、内閣府の「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月)によると、多くの大人が自分の子ども時代と比べて、子どものスポーツ環境は悪くなったと考えている。また、子どもの多くもスポーツ機会が増えることを望んでいる。
 このような中、地域における子どものスポーツ機会の場として、地域スポーツクラブ等での活動が重要であると考えられるが、総合型クラブでは、スポーツ指導者の確保が十分にはできていないとともに、スポーツ指導者の派遣等学校の体育に関する活動との連携も不十分な状況にある。また、スポーツ少年団についても、小学生の加入率は高いが、中学生の加入率は低く、各地域において、子どものスポーツ機会を十分提供できているとは言えない状況にある。
 さらに、障害のある子どものスポーツについて、障害の種類や程度に応じた配慮が求められている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、中学校女子をはじめ積極的にスポーツを行わない子どもに対して魅力ある活動を提供し、子どものスポーツ環境の充実を図るため、総合型クラブやスポーツ少年団をはじめとした地域における子どもの多様なスポーツ機会を充実させるための取組を推進する。

○ 国は、運動習慣が身に付いていない子どもやスポーツが苦手な子どもを運動好きにするためのきっかけをもたらすとともに、豊かな人間性・社会性を育むため、スポーツ・レクリエーション活動等の活用を推進する。
 このため、国立青少年教育施設・国立公園・国営公園等におけるハイキング、トレッキング、サイクリングやキャンプ活動等野外活動やスポーツ・レクリエーション活動を推進する。

○ 特に、国及び国立青少年教育施設を設置する独立行政法人国立青少年教育振興機構は、子どもが伸び伸びと、かつ安全に野外活動等を実施できるよう、知識と経験を備えた質の高い指導者の養成に引き続き取り組むとともに、野外活動の重要性を幅広く家庭や社会に伝え、社会全体で野外活動等を推進する機運を高めるための普及啓発等の取組をより一層推進する。

○ 国は、旅行先で気軽に多様なスポーツに親しめるスポーツツーリズムを推進し、子どもにとって居住地域だけでは不足しがちなスポーツ機会を向上させる取組を推進する。

○ 国は、学校の体育に関する活動と地域スポーツの連携促進の観点から、総合型クラブによる学校へのスポーツ指導者派遣のための体制の整備を推進する。

○ 地方公共団体においては、学校、総合型クラブ、スポーツ少年団、学校体育団体、競技団体、野外活動関係団体、スポーツ・レクリエーション活動関係団体、障害者スポーツ団体等が連携して、子どもの多様なスポーツ活動が効率的・効果的に行われるための取組を推進することが期待される。
 具体的には、地域の実情に応じて、子どものスポーツに関する団体等が一堂に会する場を設定し、子どもの指導に関する理念等についての共通理解を促進させるとともに、子どものスポーツへの参加機会の選択肢を充実させるための取組等について協議することも考えられる。

○ 総合型クラブにおいては、子どもと保護者・家族が、異年齢の子どもや多世代の大人とともにスポーツに親しむことができるよう、今後幅広い世代の参加者を確保したクラブ運営が期待される。また、地方公共団体や学校との連絡・協議により、総合型クラブにおいて活躍するスポーツ指導者に対し、学校の体育に関する活動に対する理解の促進を図ることが望まれる。

○ スポーツ少年団においては、子どもにジュニアリーダー・シニアリーダーとして、スポーツとの多様な関わり方の場を提供することや、中学校の部活動との連携等を通じて、中学生や高校生の参加の促進に対する取組を行うことが期待される。

○ スポーツ団体においては、子どもの発達の段階に応じて多様な指導を行うことができるスポーツ指導者の養成及び資質の向上を図るための講習会やスポーツ指導者養成事業等に取り組むことが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、地域のスポーツ施設やスポーツ指導者に対する障害者のニーズを把握する。また、障害者スポーツ団体等と連携を図りつつ、地域のスポーツ施設が障害者を受け入れる際に必要な運営上・指導上の留意点に関する手引きや、新しい種目、用品・用具等の開発・実践研究を推進する。

○ 国は、障害者の競技大会への参加や旅行先でもスポーツに親しめる機会を充実するため、民間事業者等と連携し、障害の有無にかかわらず移動・旅行ができる環境整備に取り組む。

2.若者のスポーツ参加機会の拡充や高齢者の体力つくり支援等ライフステージに応じたスポーツ活動の推進

政策目標:

 ライフステージに応じたスポーツ活動を推進するため、国民の誰もが、それぞれの体力や年齢、技術、興味・目的に応じて、いつでも、どこでも、いつまでも安全にスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会の実現に向けた環境の整備を推進する。
  そうした取組を通して、できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が3人に2人(65%程度)、週3回以上のスポーツ実施率が3人に1人(30%程度)となることを目標とする。また、健康状態等によりスポーツを実施することが困難な人の存在にも留意しつつ、成人のスポーツ未実施者(1年間に一度もスポーツをしない者)の数がゼロに近づくことを目標とする。

 人々がライフステージに応じてスポーツ活動に取り組むことは、生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むために不可欠である。このような観点から、国民の誰もが、各人の自発性のもと、各々の興味・関心・適性等に応じて日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、スポーツを支え、スポーツを育てる活動に参画できる環境の整備を図る。その際、障害者が自主的かつ積極的にスポーツ活動に取り組めるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をすることが必要である。
 また、スポーツを行う者の安全性を確保するため、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)の研究成果を活用しつつ、スポーツ事故その他スポーツによって生じる外傷、障害等の防止及びこれらの軽減を図る。

(1)ライフステージに応じたスポーツ活動等の推進

1.施策目標:

 年齢、性別を問わず人々がスポーツを行うようにするとともに、既にスポーツを行っている者についてはさらなる実施頻度の向上を目指し、ライフステージに応じたスポーツ参加等を促進する環境を整備する。

2.現状と課題:

 内閣府の「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月)によると、週1回以上運動・スポーツを行う成人の割合は45.3%と概ね2人に1人、週3回以上は23.5%と概ね4人に1人となっている。世代別に見ると、週1回以上、週3回以上ともに20歳代、30歳代が他の世代と比べて低くなっている。
 一方、運動・スポーツを年に1回も行わない成人の割合は、平成12年度には全体で31.9%であったものが、平成21年度には22.2%まで低下しているが、これを男女別に見ると概ね女性の方が高く、また年齢別に見ると、年齢が高くなるほど高くなっている。
 次に、運動・スポーツを行った理由を見ると、「健康・体力つくりのため」、「楽しみ、気晴らしとして」、「友人、仲間との交流として」という動機が強い傾向としてうかがえるため、このようなニーズにあった運動・スポーツを行える機会や環境を整備することが運動・スポーツを行う成人の割合を増やすために重要となると考えられる。
 運動・スポーツを行わなかった理由を世代別に見ると、「仕事(家事・育児)が忙しくて時間がない」が20~60歳代で最も多く挙げられ、70歳以上では「体が弱いから」、「年をとったから」等の理由が大きな割合を占めており、運動・スポーツを行う際の阻害要因は世代によって異なる。また、スポーツ推進についての国や地方公共団体への要望の上位に「年齢層にあったスポーツの開発普及」が挙げられている。
 これらのことから、多くの国民は、国や地方公共団体に年齢による生活の変化に対応してスポーツ活動を行える環境を整えることを期待していると考えられる。
 また、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」(平成12年~平成24年)の最終評価においては、意識的に運動を心がけている人の割合は増加したが、運動習慣者の割合は変化がなく、運動・身体活動の重要性を理解しているものの行動に移せない状況にあることから、行動変容を促すことが求められている。
 スポーツを「支える人」の重要な要素であるスポーツボランティアは、地域スポーツクラブ等のスポーツ団体において、日常的に運営やスポーツ指導を支えたり、国際競技大会や地域スポーツ大会等の運営を支えるなどしており、スポーツ推進のために一層の活躍が期待されている。
 公益財団法人笹川スポーツ財団の「スポーツライフ・データ2010」(平成22年)によると、スポーツボランティア活動に携わる成人の割合は、平成13~平成22年の10年間、7~8%前後で推移しており、直近の平成22年は成人の8.4%、すなわち約870万のスポーツボランティアが存在すると推計されるが、スポーツ推進のためには、その数がさらに増加することが望まれる。
 また、年間の活動状況については、『日常的な活動』の「スポーツ指導」(平均38.6回)が最も多く、次いで「団体・クラブの運営や世話」(平均24.6回)、「スポーツの審判」(平均17.9回)と続き、スポーツボランティアは日常的なスポーツ活動に主として取り組んでいる。地域スポーツ推進の観点から、このような日常的・継続的な活動に対する評価・顕彰を行うことも考えられる。
 スポーツ基本法の規定において、スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類や程度に応じ必要な配慮をしつつ推進することが求められている。障害者スポーツについては、例えばスペシャルオリンピックス等さまざまなスポーツ活動を通じた障害者の自立や社会参加を促す取組も進められている。公益財団法人日本障害者スポーツ協会による障害者スポーツ指導員については、人数は増加しているものの、活躍の場所や機会が少ないとの指摘がある。一方、地域スポーツにおいては、障害者のスポーツ活動に知見のあるスポーツ指導者の確保や障害者に配慮した施設・設備の整備が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ実施率の向上)

○ 国は、各年齢層や性別等ライフステージに応じたスポーツ活動の実態を把握する調査研究を行い、ライフステージに応じたスポーツ活動を促進するための方策を検討する。

○ 国は、独立行政法人、地方公共団体、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りながら、スポーツ医・科学の研究成果を活用し、心身の健康の保持・増進のために各年齢層、性別等ごとに日常的に望まれる運動量の目安となる指針・基準の策定を行い、その普及・啓発を図る。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)や地方公共団体等が行う地域におけるスポーツ活動を支援する。

(多様な主体のスポーツ参加の促進)

○ 国は、スポーツ実施率の低い比較的若い年齢層(20歳代、30歳代)のスポーツ参加機会の拡充を図るため、これらの年齢層のスポーツ参加が困難な要因を分析する。地方公共団体やスポーツ団体においては、スポーツに身近に親しむことが出来る交流の場を設定するなど、スポーツ活動に参加しやすい機会を充実させることが期待される。

○ 国は、独立行政法人、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携し、仕事や家事・育児とのバランスを図りながら日常的に気軽にスポーツに親しめるよう、仕事や家事・育児の合間に行える運動等について開発・普及・啓発を図る。

○ 国は、高齢者に対するスポーツ参加機会の拡充を図るため、環境・嗜好・適性に応じて高齢者が無理なく日常的に取り組むことのできる、日常生活動作を活かした運動等の多様なスポーツ・レクリエーションプログラムを開発し、その普及・啓発を図る。

○ 国は、総合型クラブ等において行われる、スポーツが苦手な人でも楽しく、気軽にスポーツに親しめるスポーツ・レクリエーション活動を支援する。

○ 国は、旅行先で気軽に多様なスポーツに親しめるスポーツツーリズムを推進し、ライフステージに応じたスポーツ機会を向上させる取組を推進する。

○ 国及び地方公共団体は、地域のスポーツ施設やスポーツ指導者に対する障害者のニーズを把握する。また、障害者スポーツ団体等と連携を図りつつ、地域のスポーツ施設が障害者を受け入れる際に必要な運営上・指導上の留意点に関する手引きや、新しい種目、用品・用具等の開発・実践研究を推進する。

○ 国は、障害者の競技大会への参加や旅行先でもスポーツに親しめる機会を充実するため、民間事業者等と連携し、障害の有無にかかわらず移動・旅行ができる環境整備に取り組む。

○ 地方公共団体においては、職業人・社会人として経験を積み、生活が安定し、子育ても一段落するなど、余暇時間を自分のために使える年齢層や定年退職を迎え、仕事中心の生活から地域における生活に比重が移行していく年齢層が、スポーツボランティア等のスポーツ活動を通じて、地域社会に参加し積極的な役割を得ることができるよう、スポーツプログラムやスポーツイベント等様々な機会を提供することが期待される。

○ 地方公共団体や総合型クラブ等のスポーツ団体においては、親子や家族がともに参加できるスポーツ教室やスポーツイベントの開催等を通じて、スポーツ未実施者やスポーツが苦手な人に対するスポーツへの参加のきっかけづくりに取り組むことが期待される。

○ 総合型クラブ等の地域スポーツクラブにおいては、若者デーやレディースデーを設けるなど特定の年齢層・性別等をターゲットに、スポーツプログラムやスポーツ教室、スポーツイベント等を開催することが期待される。

○ 職場において、「スポーツのためのノー残業デー」を設けたり、社内報でスポーツの重要性を広報するなど積極的な取組が期待される。

(スポーツボランティア活動の普及促進)

○ 国は、地方公共団体、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りつつ、スポーツボランティア活動に関する事例の紹介等の普及・啓発活動を通して、スポーツボランティア活動に対する国民の関心を高める。

○ 地方公共団体においては、スポーツボランティアとして大きな貢献がある者を、例えば「スポーツボランティアマスター(仮称)」として認定しその功績を称えること等により、スポーツボランティア活動を奨励することが期待される。

○ 地方公共団体やスポーツ団体等においては、地域住民が、日常的に総合型クラブをはじめとした地域スポーツクラブやスポーツ団体等の運営に参画できたり、校区運動会や地域スポーツ大会等のスポーツイベントの運営・実施やスポーツの指導に参画できる環境を整えることが期待される。

(2)スポーツにおける安全の確保

1.施策目標:

 安心してスポーツ活動を行うための環境を整備し、スポーツによって生じる事故・外傷・障害等の防止や軽減を図る。

2.現状と課題:

 スポーツ事故その他スポーツによって生じる外傷、障害等の防止及びこれらの軽減を図ることは、安全な環境のもとで日常的にスポーツに親しむために不可欠である。
 現在、スポーツ事故・外傷・障害等の全般的な状況を示すデータは存在しないが、 財団法人スポーツ安全協会の「スポーツ安全保険」では、平成21年度に18万7,763件の傷害保険支払の実績があり、この他にもスポーツ事故・外傷・障害等が非常に多く発生していることが推測されるため、地域スポーツにおける事故・外傷・障害等の実態を把握し、軽減することが喫緊の課題となっている。
 また、スポーツ活動中の事故・外傷・障害等の防止や軽減を図るためには、スポーツ用具の安全性を確保することや、実技指導にあたるスポーツ指導者が、必要な知識・技術を習得して指導に活用することが重要となる。
 スポーツ用具の安全性の確保については、施設管理者がスポーツ用具の定期的な点検や保管管理について一層の配慮を行うことが必要である。
 また、スポーツ指導者の育成については、公益財団法人日本体育協会及び公益財団法人日本レクリエーション協会等による公認スポーツ指導者の資格取得課程のカリキュラムでは、心肺蘇生法や外傷・障害等に対する救急処置等のスポーツ外傷・障害等の予防や対処法、熱中症の予防等が必修とされている。しかし、現場のスポーツ指導者の全てがスポーツ指導者資格を有しているわけではなく、また、資格を有している者についても、常に最新のスポーツ医・科学に関する知見を習得し続けることは容易ではない。
 さらに、スポーツを行う際には、特に生死にかかわる急な心肺停止等についても十分対処できるようにしておくことが重要である。
 現在、スポーツ実施中に限定した心肺機能停止傷病者の発生数や除細動の実施による救命率等のデータは存在しないが、総務省 消防庁の「 救急統計活用検討会報告書」(平成22年3月)によると、公共の場所における自動体外式除細動器(「AED」)の設置台数の増加により、早期除細動が実施され、心肺機能停止傷病者の社会復帰率の増加に寄与したという結果が報告されている。このため、スポーツ施設にAEDを設置することは人命救助に大きく寄与する喫緊の課題である。
 現在、様々な施設にAEDが設置され、地方公共団体や医療機関、スポーツ団体等によりAED設置状況の公開や、利用方法等の研修会が行われ、人命救助のために大きな力となっている。しかし、現状では、 必ずしも全てのスポーツ施設にAEDが配置されているわけではなく、また施設利用者側も十分意識していなかったり、自らAEDを携行したりすることが少ないという問題もある。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ安全に関する情報分析・研究及び成果の活用)

○ 国は、独立行政法人、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りつつ、全国的なスポーツ事故・外傷・障害等の実態を把握し、その原因を分析して、スポーツ事故・外傷・障害等の確実な予防を可能にするスポーツ医・科学の疫学的研究の取組を推進する。

○ 国立スポーツ科学センターは、開発した高度なスポーツ医・科学の研究成果をスポーツ事故・外傷・障害等の防止等に活用し、人々の日常のスポーツ活動に広く還元する。

○ 地方公共団体においては、スポーツ医・科学の成果を地域スポーツの様々な場面で活用できるよう、スポーツ事故・外傷・障害等に関するデータの整備・提供や、研究者を講師とする研修等において研究成果の普及・啓発を図ることが期待される。

○ 国、独立行政法人、地方公共団体及びスポーツ団体等は、スポーツ指導者やクラブマネジャー、スポーツイベントの主催者、スポーツ施設の管理者等を対象として、スポーツ事故・外傷・障害等に関わる最新のスポーツ医・科学的知見を学習するための研修やスポーツ用具の定期的な点検及び適切な保管管理に関する啓発の機会を設けるとともに、スポーツドクター等地域の医療機関の専門家等との連携を促進するなど、スポーツ事故・外傷・障害等を未然に防止するための取組を推進する。あわせて、スポーツに関する保険制度について普及を促すなど、事故対応に係る意識の啓発を促進する。

(AEDの活用)

○ 国は、地方公共団体やスポーツ団体に対して、スポーツ事業の実施・運営にあたり、AED設置の確認や携行、機器を使用できる者の会場配置等、不測の事態が生じた際に速やかにAEDを使用できる体制整備を図るよう普及・啓発する。

○ 地方公共団体においては、保有する公共スポーツ施設等におけるAEDについて、定期的な点検や適切な保管管理を行うとともに、その設置の有無や、設置の機器のタイプ等を表示して、施設利用者に周知することが期待される。

(スポーツ施設等の安全対策)

○ 国は、国立青少年教育施設・国営公園等におけるハイキング、トレッキング、サイクリングやキャンプ活動等野外活動やスポーツ・レクリエーション活動の場となる施設等の安全確保を図る。

○ 地方公共団体においては、子どもや女性、高齢者、障害者を含む全ての地域住民が楽しく安全にスポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツに親しめる環境を創り出すため、バリアフリー化や耐震化等の公共スポーツ施設等の安全確保に努めることが期待される。国においては、地方公共団体が行う公共スポーツ施設等の安全確保対策を支援する。

3.住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境の整備

政策目標:

 住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境を整備するため、総合型地域スポーツクラブの育成やスポーツ指導者・スポーツ施設の充実等を図る。

 住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境を整備することは、地域社会の再生において重要な意義を有するものであるとともに、生涯を通じた住民のスポーツ参画の基盤となるものである。このような観点から、総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)を中心とする地域スポーツクラブが、地域スポーツの担い手としての重要な役割を果たしていけるよう、さらなる育成とその活動の充実を図る。また、ライフステージに応じて住民が安心して地域でスポーツ活動に取り組んでいくためには、その基盤として、住民のニーズに応えつつ、スポーツ指導者やその活動の場となるスポーツ施設等を充実させる必要がある。さらに、地域の企業や大学は、人材や施設、研究能力等、スポーツについて豊富な資源を有しており、地域スポーツにおいて、これらを積極的に活用していくため、企業や大学等との連携を図る。

(1)コミュニティの中心となる地域スポーツクラブの育成・推進

1.施策目標:

 総合型クラブを中心とする地域スポーツクラブがスポーツを通じて「新しい公共」を担い、コミュニティの核となれるよう、地方公共団体の人口規模や高齢化、過疎化等に留意しつつ、各市区町村に少なくとも1つは総合型クラブが育成されることを目指す。
 さらに、総合型クラブがより自立的に運営することができるようにするため、運営面や指導面において周辺の地域スポーツクラブを支えることができる総合型クラブ(「拠点クラブ」)を広域市町村圏(全国300箇所程度)を目安として育成する。

2.現状と課題:

 総合型クラブは、地域の人々に年齢、興味・関心、技術・技能レベル等に応じた様々なスポーツ機会を提供する、多種目、多世代、多志向のスポーツクラブである。
 国においては、平成7年度からこのような理念による総合型クラブづくりのモデル事業を展開し、平成16年度以降は、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)を通じて総合型クラブに支援を行っているところである。
 文部科学省の「平成23年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」によると、総合型クラブの設置率は平成23年7月現在、市 (東京23区含む)のみの場合は90.9%であり、町村を加えると75.4%と低くなる。この地域差の背景には、各市区町村の人口規模や高齢化、過疎化等の要因が存在すると考えられる。
 スポーツ振興基本計画(平成12年策定、平成18年改訂)では、全国の各市区町村において少なくとも1つは総合型クラブを育成することを目標に掲げている。他方、これが標準と受け止められ、複数の総合型クラブを育成できる市区町村でも1つしか育成されていない原因となり、結果として、総合型クラブの育成の鈍化に繋がっていると考えられる。
 総合型クラブの自主性・主体性を支える重要な要素である財源については、平成23年7月現在、総合型クラブのうち、自己財源率が50%以下のクラブが半数以上(57.65%)を占めており、財政基盤が弱い総合型クラブが多い (文部科学省「平成23年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成24年2月))。
 また、多様な財源の確保が期待できる法人格を取得した総合型クラブは11.4%、地方公共団体から指定管理者として委託された総合型クラブは3.7%といずれもまだ少ない。これらのことから、総合型クラブにおける自己財源の確保に向けた取組の充実が大きな課題となっている。
 さらに、総合型クラブの認知度については、公益財団法人笹川スポーツ財団の「スポーツライフ・データ2008」(平成20年)によると、総合型クラブを知らない者が約7割にのぼり、総合型クラブの理念・趣旨、特徴、地域住民の関与の仕方等に関わる情報が広く行き渡っていない。
 総合型クラブの創設や運営、活動を効率的に支援することが期待される広域スポーツセンターについては、全都道府県に設置されているものの、広域スポーツセンターに相談したことがある総合型クラブは全体の約3割に過ぎず、総合型クラブの期待に十分応えているとは言い難い状況にある。また、広域スポーツセンターについては、会費収入等の恒常的な収入基盤がないことが課題となっている。
 文部科学省の「平成22年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成23年2月)によると、総合型クラブの設立による地域の変化として、「世代を超えた交流が生まれた」、「地域住民間の交流が活性化した」、「地域の連帯感が強まった」等の意見も掲げられており、総合型クラブは、様々なスポーツ活動を行う場を創出することはもとより、地域スポーツ活動を通して、地域の絆や結びつきを再発見するなど、官だけでなく、市民、NPO、企業等が積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」を担うコミュニティの核となることが期待されている側面もある。

3.今後の具体的施策展開:

(地域スポーツクラブの育成・支援等)

○ 国は、地方公共団体やスポーツ団体、大学・企業等と連携し、市区町村の人口規模や高齢化、過疎化等各地域の実情に応じて、望ましい総合型クラブの在り方や支援策について検討を行うとともに、その成果に基づき総合型クラブの支援策の改善を図り、各地域の実情に応じたきめ細やかな総合型クラブの育成を促進する。

○ 国は、総合型クラブの自立化を促すとともに、総合型クラブへの移行を指向する単一種目(多世代・多志向)の地域スポーツクラブや、周辺の拠点クラブ・スポーツ少年団等と連携することにより総体として総合型クラブと同等の役割を果たす地域スポーツクラブ等についても支援を行うなど、総合型クラブ育成に向けた支援の対象範囲の拡大を検討する。

○ 国は、総合型クラブを含む地域スポーツクラブの財源の拡充のため、会費収入の増加につながる会員募集の広報活動や、認定NPO法人制度の積極的な活用、地元企業とのパートナーシップの確立により幅広く寄附を集める取組、公共の施設の指定管理者となることによりその収入を運営財源にするための取組等の優良事例を収集・検討し、地方公共団体や各地域スポーツクラブに対して普及・啓発を図る。

○ 国及びスポーツ団体は、現行の「クラブ育成アドバイザー」を一層充実させ、総合型クラブの創設から自立・活動までを一体的にアドバイスできる「クラブアドバイザー(仮称)」について協議・検討し、スポーツ団体は、「クラブアドバイザー(仮称)」を育成する。

○ 国は、地域におけるスポーツ活動の推進に関し、特にその活動の功績が顕著な総合型クラブに対する顕彰の在り方を検討する。

○ 国は、広域スポーツセンターについて、拠点クラブや各都道府県総合型クラブ連絡協議会等のスポーツ関係団体・組織等との間の、地域スポーツ推進に係る役割分担を含め、その在り方を見直す。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、総合型クラブの活動等への助成等を通じ、スポーツによる地域や世代間の交流の基盤の整備を図る。

○ 地方公共団体においては、地域スポーツクラブに対して、地域スポーツの推進という公益的な活動への一層の貢献に資するため、NPO法人格を取得することを促すことが期待される。

(地域スポーツクラブと地域との連携による課題解決等)

○ 国は、地域コミュニティの核として総合型クラブが充実・発展するよう、スポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツだけでなく、文化・福祉活動等も展開することに資する先進事例等を収集し、情報発信する。

○ 地方公共団体においては、育成された拠点クラブが周辺の学校や地域スポーツクラブ等と効果的に連携できるよう、拠点クラブやスポーツ指導者に関する情報の提供を充実することが期待される。

○ 地方公共団体においては、総合型クラブと連携し、学校の体育に関する活動の中で総合型クラブでの体験等の機会を提供し、子どもに対する総合型クラブの認知度を向上させることが期待される。

○ 地方公共団体においては、総合型クラブが幼稚園や放課後児童クラブ(学童保育)等と連携し、 スポーツ教室における運動や外遊び等の機会を増やす取組を支援することが期待される。

○ 地域スポーツクラブにおいては、地域の課題(学校・地域連携、健康増進、体力向上、子育て支援等)解決への貢献も視野に入れ、会員はもとより、広く地域住民が主体的に取り組むスポーツ活動を推進することにより、地域スポーツクラブがスポーツを通じて「新しい公共」を担うコミュニティの核として充実・発展していくことが期待される。

(総合型クラブ間のネットワークの拡充)

○ 国は、地方公共団体及びスポーツ団体と連携し、総合型クラブを世代間又は地域間の交流や様々なスポーツ活動を実践する場として充実させるため、「総合型地域スポーツクラブ交流大会(仮称)」の開催を検討する。

○ 地方公共団体においては、スポーツ団体と連携し、各都道府県にある総合型クラブ連絡協議会を支援し、総合型クラブの総合型クラブ連絡協議会への加盟を促進し、総合型クラブ間の情報共有やスポーツ交流大会等の中核となるよう組織体制を充実させるとともに、総合型クラブ連絡協議会の自立化を促すことが期待される。

○ スポーツ団体においては、総合型クラブ全国協議会の活動の充実を支援することが期待される。総合型クラブ全国協議会においては、総合型クラブの創設活動の支援、社会的な認知度向上のための広報活動、総合型クラブ育成に関する調査研究等を実施することが期待される。

(2)地域のスポーツ指導者等の充実

1.施策目標:

 地域住民やスポーツ団体等のニーズを踏まえつつ、スポーツ指導者等の養成を推進するとともに、資格を有するスポーツ指導者の有効活用を図る。

2.現状と課題:

 スポーツ指導者は、スポーツを「支える(育てる)人」の重要な要素の一つであり、大学はもとより、日体協や各競技団体、公益財団法人日本レクリエーション協会(「レク協」)をはじめ、多くのスポーツ団体においても養成や研修が行われており、量的には増加傾向を示している。
 しかし、スポーツ団体によるスポーツ指導者の需要(どのようなタイプのスポーツ指導者がどこにどれだけ必要か)が、詳細に把握できていないため、今後のスポーツ指導者の養成等において、量的・質的な目標が明確でない状況にある。
 さらに、資格を有するスポーツ指導者を地域のスポーツ活動で有効に活用する活動場所や機会が少ないことに加え、マッチングも必ずしも十分に機能していないという問題もある。
 スポーツ指導者を登録しマッチングに活用するための制度として、スポーツリーダーズバンク等が36道府県で設置されているが、過去に設置していたが廃止した地方公共団体もあり、その理由として、制度の周知不足等による低い活用率、活動の機会が少ないことによる登録スポーツ指導者の減少、個人情報保護の観点から公開できるスポーツ指導者情報が限られるなどの問題点が指摘されている。
 次に、総合型クラブや地域のスポーツ団体の組織運営が円滑にかつ効率的に行われるためには、優れた組織運営能力を有する専門的な人材であるクラブマネジャーが不可欠であるが、総合型クラブを含む地域スポーツクラブの増加に対してその養成が追いついていない状況にある。
 なお、総合型クラブのスポーツ指導者のうち、スポーツ指導者として何らかの資格を有する者は全体の42.5%にとどまっており、スポーツ指導者としての資質の面が課題となっている。また、クラブマネジャーを主たる業務とする者を配置している総合型クラブは45.5%と半数を下回っており、そのうち勤務体系が常勤である者は全体の36.0%に過ぎない。このことは、財政的な自立性が低いことが一因と考えられる。
 さらに、スポーツ基本法において地域のスポーツ推進体制の重要な部分を担うこととされている「スポーツ推進委員」(旧体育指導委員)については、平成23年度には52,531人が市区町村から委嘱されており、男女別では女性の割合が少ない。
 また、その活動内容について、同法により、地域住民のニーズを踏まえたスポーツのコーディネーターの役割が追加されたが、現状では、実技指導や市区町村教育委員会が実施するスポーツ事業の企画・立案・運営等の業務は概ね実施されているものの、総合型クラブの創設や運営への参画、スポーツ活動全般にわたるコーディネート等の取組は十分でない面も見られる。スポーツ推進のための事業の実施に係る連絡調整の役割等法律で要請されている新たな役割に対応して、さらなる注力が求められる。
 公益財団法人日本障害者スポーツ協会(「JSAD」)による障害者スポーツ指導員については、人数は増加しているものの、活躍の場所や機会が少ないとの指摘がある。一方、地域のスポーツ施設においては、障害者スポーツに知見のあるスポーツ指導者の配置が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ指導者の養成)

○ 国は、例えば、企業や大学の公開(寄附)講座や講習会等の開催によるスポーツ指導者の資質向上を図るなど、地元の企業や大学と総合型クラブとの連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、総合型クラブをはじめとする地域スポーツクラブが、スポーツ指導者や運営者等を確保できるよう、地域スポーツクラブやクラブ会員等のニーズも踏まえつつ、日体協、レク協及びJSAD等が実施する養成事業や総合型クラブ等の運営を担う人材養成のための取組を支援する。

○ スポーツ団体においては、スポーツ指導者の量的・質的な需要に応えるよう、スポーツ指導者の養成事業の定期的な見直しを行うことが期待される。

○ スポーツ団体においては、若者や高齢者、女性、障害者のスポーツ指導を適切に行うことができるスポーツ指導者講習会等を実施するなど、スポーツ指導者の資質向上を図ることが期待される。

(スポーツ指導者の活用促進)

○ 国は、スポーツ団体が実施するスポーツ指導者の養成・活用に関する需要を把握するとともに、スポーツ指導者の効果的な活用方策の検討を行い、その成果を全国に普及・啓発する。

○ 国は、総合型クラブの運営者やスポーツ指導者の雇用形態の改善を図り、長期間にわたり安定して運営者やスポーツ指導者を配置できる仕組みとすることができるよう、総合型クラブが多様な財源を確保し、財政的な自立を図ることを促す税制上の優遇措置等について周知するとともに、認定NPO法人格の取得を促す。

○ 国及び地方公共団体は、大学、スポーツ団体及び企業等と連携して、スポーツツーリズムや観光によるまちづくりに関する専門的知識を有する人材の育成及びそれらの地域スポーツにおけるコーディネーター等としての活用を促進する。

○ 地方公共団体においては、学校の体育に関する活動において、総合型クラブと連携し、地域のスポーツ指導者を積極的に活用することが期待される。

○ 地方公共団体においては、体育系大学の卒業生やスポーツ指導者の有資格者等の質の高いスポーツ指導者を公共スポーツ施設や総合型クラブの支援策を担当する部署や機関で活用するとともに、指導者の研修の充実を図るなど、地域のニーズに即した人材確保、活用方策を検討することが期待される。

○ スポーツ団体においては、各団体が有するスポーツ指導者情報について、スポーツ指導者が地域スポーツ活動の場面においてより一層活用されるよう、団体間の共有化を図ることが期待される。

○ JSAD等の障害者スポーツ団体においては、障害者のスポーツ活動を支援するため、地方公共団体や他のスポーツ団体と連携を図り、健常者に対するスポーツ指導者が、障害者へのスポーツ指導を行うための講習会等の充実を図ることや、養成された障害者スポーツ指導者の活用を促進することが期待される。

(スポーツ推進委員の資質向上)

○ 国は、スポーツ推進委員について、地方公共団体に対して、熱意と能力があり、地域において効果的に連絡調整を行うことができる人材を委嘱するよう促すとともに、研修の機会の充実を図る。

○ 地方公共団体においては、スポーツ指導者の資格を有し、熱意と能力があり、地域において効果的に連絡調整を行うことができる者を、性別や年齢のバランスに配慮しつつ、スポーツ推進委員に委嘱することや、その資質向上のために研修の充実を図ることが期待される。

○ スポーツ団体においては、スポーツ推進委員の研修会を定期的に開催し資質向上に努める。また、委員として功績が顕著であった者に対する顕彰制度を充実させることが期待される。

(クラブアドバイザーの育成)

○ 国及びスポーツ団体は、現行の「クラブ育成アドバイザー」を一層充実させ、総合型クラブの創設から自立・活動までを一体的にアドバイスできる「クラブアドバイザー(仮称)」について協議・検討し、スポーツ団体は、「クラブアドバイザー(仮称)」を育成する。

○ 国は、地方公共団体と連携し、スポーツ推進委員に対して「クラブアドバイザー(仮称)」と連携を図り、総合型クラブの育成支援への一層の参画を促す。

(3)地域スポーツ施設の充実

1.施策目標:

 地域における身近なスポーツ活動の場を確保するため、学校体育施設等の有効活用や地域のスポーツ施設の整備を支援する。

2.現状と課題:

 地域におけるスポーツ活動の場であるスポーツ施設は、近年、減少傾向にあり、特に、全体の6割以上を占める「学校体育・スポーツ施設」については、ピークであった平成2年度(156,548箇所)から平成20年度(136,276箇所)までの間に約2万箇所を超える大幅な減少となっている。
 施設数が減少した背景には、少子化に伴う学校の統廃合等による学校数の減少や、地方公共団体の厳しい財政状況の下、既存の施設が閉鎖されたり、新たなスポーツ施設の整備が抑制されたこと等が影響していると考えられる。
 こうしたスポーツ施設の減少への対策として、最も身近なスポーツ施設である学校体育施設(※3)を、地域住民がこれまで以上に有効かつ効率的に活用できるようにすることが具体的な方策の一つであると考えられる。
 「学校体育・スポーツ施設」の開放の推進については、屋外運動場の80.0%、体育館の87.3%、水泳プールの26.7%が地域住民に開放されているが、施設開放は行っているものの、定期的ではない、利用手続きが煩雑である、利用方法等に関する情報が不足しているなど、地域住民のニーズに十分に対応しきれていないという指摘もある。
 その一方で、学校が保有する児童生徒に関する情報や金銭の管理、防火・防犯や電気・水道料金の負担等の観点から、学校にこれらの責任を負わせたまま開放することが困難な状況の施設も多い。
 このため、学校体育施設は、学校が地域住民へ場を提供する「開放型」から、「共同利用型」への移行を一層促進し、設置者、学校、地域社会が施設管理の責任・負担や地域住民の利用に係る調整等を協働して担うことで、地域住民の立場に立った積極的な利用の促進を図っていくことが求められる。
 なお、文部科学省「平成23年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成24年2月)によると、総合型クラブの活動拠点施設の状況については、「学校体育・スポーツ施設」(54.3%)が最も多く、次いで「公共スポーツ施設」(37.7%)、「休校・廃校施設」 (1.7%)、「自己所有施設」、「民間スポーツ施設」(ともに1.3%)等となっており、またクラブハウスを有する総合型クラブは52.3%となっている。総合型クラブ以外の単一種目型の地域スポーツクラブ、スポーツ少年団等の既存のスポーツ団体も、学校開放による学校体育施設と公共スポーツ施設の利用に大きく依存しており、学校体育施設の開放促進は、地域スポーツクラブの活性化の観点からも重要な課題である。
 また、スポーツ施設の耐震化も重要な課題であるが、地方公共団体が設置する体育館のうち耐震化されているものは全体の6割強であり、施設利用者の安全の確保のためには、耐震化を早急に進める必要がある。
 障害者スポーツの施設面の現状については、障害者の健康の保持増進を図り、もって障害者の福祉の向上に寄与すること等を目的とした障害者スポーツセンターは、運営面や指導面、施設面等において障害者が利用しやすいよう様々な面で工夫がなされており、平成22年現在、全国に計23箇所ある。スポーツ基本法の趣旨を踏まえ、今後障害者が、障害者スポーツセンターのみならず、より身近な地域のスポーツ施設においてスポーツに親しむことができるよう、地域のスポーツ施設における障害者に配慮した施設・設備の整備が課題となっている。


 ※3 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校の体育施設を指す。

3.今後の具体的施策展開:

(既存施設の共同利用・活用の促進)

○ 国及び地方公共団体は、学校体育施設や公共スポーツ施設の夜間照明施設の設置等による利用可能時間の拡大、休校・廃校や空き教室等の積極的な活用による地域スポーツにおける身近な活動場所の拡充を推進する。

○ 国は、学校体育施設の地域との共同利用化について、先進事例を収集し、地方公共団体に対して普及・啓発を図る。

○ 地方公共団体においては、休日におけるグラウンドや体育館の一般開放等の定期的な施設開放の実施や、時間帯・予約方法の工夫等による稼働率の向上を図るとともに、学校体育施設開放に係る責任・負担や利用調整等を地方公共団体・学校・地域が共同して担うことが可能となる施設の運営方法を検討し、共同利用化をより一層推進することが期待される。

○ 地方公共団体においては、学校体育施設や公共スポーツ施設等が「新しい公共」を担う地域コミュニティの核となる機能を充実・強化するため、地域住民の交流の場となるよう、ロッカールーム、温水シャワー、セミナー室、談話室等を備えたクラブハウスの整備を推進することが期待される。

○ 地域スポーツクラブにおいては、子どもを持つ親のスポーツ参加機会を増やすために、クラブハウス等の拠点施設に託児室や授乳室等を設置するように努めることが期待される。

○ 企業及び大学においては、地域住民が広く活用できるよう、休業日等においてスポーツ施設を開放することが期待される。

○ 国は、公共スポーツ施設の指定管理者として、法人格を有する総合型クラブを指定するなどの先進事例を調査し、情報提供を行う。

○ 地方公共団体においては、地域の実情に応じて公共スポーツ施設の指定管理者として総合型クラブを積極的に活用することが期待される。

(スポーツ施設の整備・充実)

○ 国は、国立青少年教育施設・国営公園等におけるハイキング、トレッキング、サイクリングやキャンプ活動等野外活動やスポーツ・レクリエーション活動の場となる施設等の整備を図るとともに、地方公共団体が行う体育館等の公共スポーツ施設等の充実のための取組を支援する。

○ 国は、障害者がより身近な地域のスポーツ施設においてスポーツに親しむことができるよう、健常者も障害者もともに利用できるスポーツ施設の在り方について検討する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、地域住民のスポーツ活動の拠点となる学校のグラウンドの芝生化等身近なスポーツ施設の整備を支援する。

○ 地方公共団体においては、子どもや女性、高齢者、障害者を含む全ての地域住民が楽しく安全にスポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツに親しめる環境を創り出すため、バリアフリー化や耐震化、グラウンドの芝生化等の公共スポーツ施設等の充実に努めることが期待される。

○ 地方公共団体においては、民間の資金や経営手法等の導入による多様な手法を活用し、学校体育施設や公共スポーツ施設等の整備又は管理運営を工夫することが期待される。国は、先進事例等の調査・情報提供等によりこうした取組を支援する。

(4)地域スポーツと企業・大学等との連携

1.施策目標:

 企業や大学に蓄積された人材やスポーツ施設、スポーツ医・科学の研究成果等を地域スポーツにおいて活用するための連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 地域のスポーツ環境を充実させるためには、地方公共団体、学校、地域スポーツクラブ、大学、企業等地域における様々な主体が、スポーツ推進に関連し保有する様々な資源を最大限活用しつつ連携・協働して取り組んでいくことが重要である。このことは、スポーツ界の好循環の創出にも必要となると考えられる。
 企業のスポーツチームは、優れたアスリートやスポーツ指導者等が在籍するほか、スポーツ施設を保有しており、こうした人的・物的資源を地域に提供することにより、地域に根ざした企業活動に結びつける取組も行われている。
 今後、地方公共団体において、こうした地元企業による取組を地域の活性化に積極的に活用していくことが必要である。
 また、スポーツ産業による用具等の研究開発については、競技水準の向上や安全なスポーツ環境の確保等、地域のスポーツ環境を支えるものであるが、大学や地域スポーツの関係者との連携を深め、地域のニーズにも応えるよう活動を充実させる必要がある。
 他方、大学、特に体育系大学・学部は、アスリート等が知識や技能を獲得する人材育成の場であるとともに、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)に関する高度な研究の場となっている。しかしながら、現状では、これらの活動は、大学で完結するかたちで行われがちであり、地域における他の主体との連携・協働は拡充の余地が大きい。
 また、その保有する高度なスポーツ施設を地域に提供することにより、地域スポーツの拠点となる取組も一部の大学で着手されており、地域のスポーツ環境を充実させるためには、こうした大学の社会貢献活動が広く行われるようにすることも課題である。
 さらに、スポーツ基本法に基づき、障害者スポーツについて、障害の種類に応じて必要な配慮が求められていること、スポーツを健康の保持増進の観点から効果的に活用していくこと、スポーツ事故等に対応した安全なスポーツ環境を整えること等が求められているが、こうした高度な課題に十分に対応できる知見や推進体制が整っていないのが現状である。これらに対応するため、地域スポーツにおいて、企業や大学との連携・協働を推進し、その資源を積極的に活用する必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、地域スポーツにおけるスポーツ指導者やクラブマネジャー等の優れた人材を確保するために、例えば、企業や大学による地域スポーツクラブ向けの公開(寄附)講座や講習会等の開催等、地域スポーツクラブと地元の企業や大学との連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、健常者と障害者が同じ場所でスポーツを行うための方法や、スポーツ障害・事故防止策、地域の活性化につながるスポーツ・レクリエーションプログラム等について、大学等での研究成果や人材を広く地域スポーツに活用するための取組を推進する。

○ 地方公共団体においては、スポーツを地域振興に積極的に活用するため、スポーツ団体だけでなく、地元企業(地域のスポーツチームを有する地元の企業を含む)や大学と連携・協働することが期待される。また、拠点クラブによる地元の企業や大学との連携・協働を推進することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、例えばスポーツツーリズムによる地域の活性化を目的とする連携組織(いわゆる「地域スポーツコミッション」)等の設立を推進するなど、スポーツを地域の観光資源とした特色ある地域づくりを進めるため、行政と企業、スポーツ団体等との連携・協働を推進する。

○ 企業においては、地方公共団体や大学等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、地方公共団体や企業等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放、総合型クラブの運営や地元のジュニアアスリートの発掘・育成、スポーツ指導者等の養成等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、学生によるスポーツボランティア活動を支援することが期待される。

4.国際競技力の向上に向けた人材の養成やスポーツ環境の整備

政策目標:

 国際競技力の向上を図るため、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てるというオリンピズムの根本原則への深い理解に立って、競技性の高い障害者スポーツを含めたトップスポーツにおいて、ジュニア期からトップレベルに至る体系的な人材養成システムの構築や、スポーツ環境の整備を行う。
  そうした取組を通して、今後、夏季・冬季オリンピック競技大会それぞれにおける過去最多を超えるメダル数の獲得、オリンピック競技大会及び各世界選手権大会における過去最多を超える入賞者数の実現を図る。これにより、オリンピック競技大会の金メダル獲得ランキングについては、夏季大会では5位以上、冬季大会では10位以上をそれぞれ目標とする。
  また、パラリンピック競技大会の金メダル獲得ランキングについては、直近の大会(夏季大会17位(2008/北京)、冬季大会8位(2010/バンクーバー))以上をそれぞれ目標とする。

 アスリートは、不断の努力の積み重ねにより、人間の可能性の極限を追求している。また、同時に、その活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動などをもたらすものである。スポーツ基本法では、アスリートが、オリンピック競技大会やパラリンピック競技大会等の国際競技大会等において優秀な成績を収めることができるよう、スポーツに関する競技水準の向上に資する諸施策について、相互の有機的な連携を図りつつ、効果的に推進されなければならないと定められている。
 こうしたことを踏まえ、国際競技力の向上を図るためには、ジュニア期からトップレベルに至る戦略的支援の強化や、スポーツ指導者等の養成・研修、強化・研究活動等の拠点構築といった育成プログラム、人材、拠点という三つの観点から取り組むことが必要である。

(1)ジュニア期からトップレベルに至る戦略的支援の強化

1.施策目標:

 トップアスリートを発掘・育成・強化するため、スポーツ団体や強化・研究関係機関、地域等との連携により、ジュニア期からトップレベルに至る体系的かつ戦略的な支援を強化する。

2.現状と課題:

 国際競技大会等における我が国のアスリートの活躍は、国民に日本人としての誇りと喜び、夢と希望をもたらし、国民意識を高揚させるとともに、社会全体に活力を生み出し、国際社会における我が国の存在感を高めるものである。我が国のアスリートによるメダル獲得は、その一つのあらわれである。
 しかしながら、アスリートによるメダル獲得の状況、とりわけ金メダルの獲得状況は、強豪国と比較しても、世界のトップクラスであるとは言い難い。直近5回のオリンピック競技大会を見ても、我が国の金メダル獲得ランキングは、最高で夏季大会は5位(2004/アテネ)、冬季大会は7位(1998/長野)であるものの、直近の夏季大会は8位(2008/北京)、冬季大会は20位(2010/バンクーバー)にとどまっている。また、直近5回のパラリンピック競技大会を見ると、最高で夏季大会は10位(1996/アトランタ、2004/アテネ)、冬季大会は4位(1998/長野)であるものの、直近の夏季大会は17位(2008/北京)、冬季大会は8位(2010/バンクーバー)にとどまっている。
 これらについては、トップアスリート層(オリンピック競技大会直前の世界選手権大会等において好成績を収めているアスリート層)のオリンピック競技大会におけるメダル獲得率が強豪国と比べて低く、また、そもそも我が国のトップアスリート層が強豪国と比べて厚くないこと、競技性の高い障害者スポーツに関しては、事務所、事務局員、組織や資金等、統括団体及び中央競技団体の組織運営の基盤が、健常者の団体に比べてさらに脆弱であり、アスリートの発掘・育成・強化が困難な状況にあること等が原因であると考えられる。
 さらに、オリンピック競技大会においては、女性が参加できる競技数(メダル数)が増加しており、特に、近年の夏季大会で我が国の女性アスリートのメダル獲得率は男性アスリートより高い。こうした分野における競技力の向上は、重要な課題となってきているが、女性アスリートに対する効果的な支援の在り方についてはいまだ研究・開発の途上にある。
 また、中央競技団体及び強化・研究関係機関においては、競技水準の向上を図るための情報その他のスポーツに関する国内外の情報の収集やその活用・発信が十分とはいえないという課題も見られる。

3.今後の具体的施策展開:

○ 各競技において、優れた素質を有するアスリートが、一貫した指導理念に基づいて、トップアスリートへと育成されるシステムが重要であり、個人の特性等に応じた最適な指導を受けることができるような仕組みが求められる。このため、国は、中央競技団体において、中・長期的なプランに基づいて、効果的にアスリートの強化を図ることができるよう、強化活動全体を統括するナショナルコーチ等の専門的なスタッフの配置を支援する。

○ 国は、中央競技団体がメダルを獲得できる潜在的な能力を有するアスリートの発掘・育成・強化を図り、トップアスリート層を厚くしていくような育成システムを自立的に構築していくため、独立行政法人日本スポーツ振興センターと連携し、公益財団法人日本オリンピック委員会(「JOC」)又は中央競技団体等に対し、システム構築全体に関わる戦略を統括するスタッフや、指導方法、情報戦略等の専門分野から助言等を行う専門スタッフチーム等の配置を支援する。

○ 国及び日本スポーツ振興センターは、中長期的な視点から、将来性の豊かなジュニアアスリートを発掘・育成していくため、その育成システムを支援する。

○ 国、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)及び開催地の都道府県は、将来性豊かなアスリートの発掘・育成を念頭に置き、ジュニアアスリートからトップアスリートまで、国際レベルを目指すアスリートが競う国内トップレベルの総合競技大会として、国民体育大会を開催する。また、スポーツ団体においては、国民体育大会以外の場も活用しながら、ジュニアアスリートの発掘・育成に取り組むことが期待される。

○ ジュニア期においては、長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であることから、ジュニアアスリートの育成に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者、地方公共団体及び学校等においては、個々のアスリートの特性や発達段階、学業とのバランスや本人のキャリア形成にも配慮した適切な支援に努めることが期待される。

○ 国は、こうしたアスリートの発掘・育成・強化の体制の充実に加え、我が国のトップアスリートが世界の強豪国に競り勝ち、確実にメダルを獲得することができるよう、医学・歯学・生理学・心理学・力学等のスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)、情報分野等による支援や競技用具等の開発、調査研究等からなる、多方面からの高度な支援、すなわちマルチサポートを戦略的・継続的に実施する。
 特に、女性アスリートに対する支援に関しては、国内外の女性スポーツに関する情報の収集、データベース化を行うととともに、女性特有の課題解決に向けた調査研究を行うなどの取組を推進し、支援の充実に努める。
 また、スポーツ医・科学、情報等の観点から、競技直前のアスリートのコンディションの調整等を行う選手村村外の拠点(マルチサポート・ハウス)は、有効かつ重要な支援であることから、今後、大規模な国際競技大会において、その設置に取り組む。

○ JOC、日本パラリンピック委員会(「JPC」)及び中央競技団体等においては、国際競技大会等の各種機会を活用し、国際オリンピック委員会や国際パラリンピック委員会、国際競技連盟との競技力向上に向けた情報共有の場や国際的ネットワークを構築することが期待される。

○ 我が国のスポーツ界が世界的なスポーツ・コミュニティにおいて活躍し存在感を高めていくことは重要であることから、国は、日本スポーツ振興センターと連携し、JOC、JPC及び中央競技団体による国際的ネットワークの構築が戦略的に進められるよう、その支援に取り組む。

○ 国は、トップアスリートの意欲を高める観点や、トップアスリートの強化活動に多大な貢献をしている企業スポーツを支援する観点から、これらのアスリートや企業等に対する表彰等を引き続き実施する。あわせて、JOC及びJPCにおいても、オリンピックとパラリンピックの関係に留意しつつ、関係省庁や関係団体等と連携して、成績優秀者に対する表彰等トップアスリートの意欲を高める取組を行うことが期待される。
 また、新たなスポーツ種目のうち、競技性が高まってオリンピック、パラリンピック種目になる可能性のあるような種目等も視野に入れて支援していく配慮も望まれる。

○ 国は、公益財団法人日本障害者スポーツ協会及び日本スポーツ振興センター等と連携し、競技性の高い障害者スポーツについて、さらなるメダル獲得に向けたアスリートの発掘・育成・強化や情報分野等による支援、競技用具等の開発、調査研究等を推進する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、競技性の高い障害者スポーツを含むトップスポーツにおいてスポーツ団体が行うトップアスリートの強化活動を支援する。

(2)スポーツ指導者及び審判員等の養成・研修やキャリア循環の形成

1.施策目標:

 スポーツ指導者及び審判員等トップスポーツの推進に寄与する人材の養成や、トップアスリートからスポーツ指導者等に至るキャリアの形成を行う体制を充実させる。

2.現状と課題:

 これからも国際的な競技水準はさらに向上していくとともに、スポーツを通じた国際交流も一層発展していくと考えられる。
 こうした動きに対応していくためには、スポーツ指導者等には、従来求められてきた戦術・戦略の構築や、スポーツ医・科学等に関する知識等を活用した強化方法の立案・指導を行う能力に加え、国際コミュニケーション等の新たな能力が求められる。また、関係する業務の量も増大することから、スポーツ指導者等の人数も今のままでは厳しい状況になることが予想される。
 中央競技団体等において、必要なスポーツ指導者等が十分に確保されておらず、次世代のトップアスリートの養成が必ずしも円滑に行われていないなど、アスリートがスポーツ指導者等になるためのキャリア循環が十分とはいえない状況である。
 障害者スポーツの統括団体及び中央競技団体の組織については、事務所、事務局員、組織や資金等、組織運営の基盤が健常者の団体に比べてさらに脆弱であり、アスリートの発掘・育成のために必要なスポーツ指導者や専門スタッフ等が十分確保されていないことが課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ JOCにおいては、スポーツ指導者等が高度な専門的能力を習得する機会として、ナショナルコーチアカデミーのさらなる充実等に取り組むとともに、国際競技大会や国際競技連盟での活躍が期待される審判員、専門スタッフ等の海外研さんの機会の確保に努めることで、中央競技団体におけるスタッフの充実に取り組むことが期待される。国は、これらのJOCの取組に対する必要な支援を引き続き行う。

○ 中央競技団体においては、JOCや日体協と連携し、ジュニア期からトップレベルに至るまで個々の特性や発達段階に応じた専門的指導が行えるよう指導者の養成及び指導者体系の構築を図るとともに、競技力向上に向けた企画立案、スポーツ科学・医学・情報等の分野に高い専門性を有するスタッフを養成・確保し、競技に関する現状分析力や情報共有の機能の強化に努めることが望まれる。特に、障害者及び健常者の中央競技団体においては、相互に連携を図ることにより、障害者の中央競技団体における、スポーツ指導者等の確保や事務局機能の強化を図ることが期待される。

○ 中央競技団体、JOC、日体協、JPC及び大学等においては、養成したスポーツ指導者等が、大学の教員等として国内で活躍する機会を確保することが期待される。また、国及び日本スポーツ振興センターと連携しつつ、国際機関や国際競技連盟、国外の競技団体等、各方面において我が国で養成した人材が活躍できる派遣システムを構築することが望ましい。

○ 国、日本スポーツ振興センター、中央競技団体、JOC及び日体協等は、女性アスリート支援の観点からも、女性のスポーツ指導者の育成方策について検討する。

(3)トップアスリートのための強化・研究活動等の拠点構築

1.施策目標:

 国際競技力の向上を推進する拠点体制として、世界水準に対応したナショナルトレーニングセンター(「NTC」)、国立スポーツ科学センター(「JISS」)、大学等の拠点を整備し、強化・研究関係機関の相互の連携強化を促進する。

2.現状と課題:

 我が国は、日本スポーツ振興センター、JOC及び中央競技団体等と連携し、トップアスリートが高度なトレーニングを行う拠点としてのNTC(競技別強化拠点を含む。)やスポーツ医・科学、情報分野等からの支援を行う拠点としてのJISSを整備してきた。世界の強豪国等における競技水準が年々向上していく中、NTCやJISSは、それぞれ世界トップレベルの拠点として、その役割を果たし、リードし続けていく必要がある。
 また、これまでNTCやJISS、大学等の強化・研究関係機関間における連携が必ずしも十分ではなく、それぞれの機関が蓄積してきた人材・知識・情報等の資源が、トップアスリートに対する強化・支援に十分に活用されていない。
 競技性の高い障害者スポーツについては、強化拠点がなく、研究の充実等も求められている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、日本スポーツ振興センター及びJOCと緊密に連携し、オリンピック競技大会の結果やメダル獲得上位国の状況等の調査・分析を踏まえつつ、NTC及びJISSを段階的に改善し、機能を強化する。

○ このうち、NTCについては、中核拠点と競技別強化拠点との連携・協力を図り、効果的にアスリートの競技力強化ができる環境を整備する。また、海洋・水辺系競技、冬季競技等への支援やNTCの狭隘化等の課題も踏まえつつ、NTCと大学等が連携した新たな強化・研究拠点の在り方等について検討する。さらに、パラリンピアンのNTC利用については、日本スポーツ振興センター、JOC及びJPC等の関係者間における検討及びそれに基づく取組が期待される。

○ JISSについては、その機能をさらに高めるため、スポーツ医・科学、情報に関する研究の高度化及びその活用・応用を促進するとともに、アスリート支援のさらなる充実に努める。また、国内外の情報収集・活用の能力を高めるため、関係団体への情報提供に関する支援体制を充実させるとともに、国内外の研究機関との交流・連携を強化する。

○ 大学においては、競技性の高い障害者スポーツを含めたトップスポーツについて、これまでの指導・研究活動の実績等を活かしながら、高度な練習施設の活用、今後のさらなる競技力強化へ向けてのアスリート・スポーツ指導者等の人材養成や調査研究活動の充実に取り組むこと等が期待される。また、大学の教職員や学生が、アスリートや指導者等として、国際競技大会等に積極的に参加できるような配慮を行うことが期待される。

○ 国立障害者リハビリテーションセンター(「NRCD」)においては、障害者スポーツのアスリートが安全な環境において競技力の向上が図られるよう、例えばメディカルサポートのための環境整備を図るなど、競技性の高い障害者スポーツに対する支援機能を強化する。

○ NTC、JISS及び大学並びにNRCD等においては、強化・研究関係機関として、相互に連携を進め、強化・研究の活動拠点のネットワークを形成することが期待される。

5.オリンピック・パラリンピック等の国際競技大会等の招致・開催等を通じた国際交流・貢献の推進

政策目標:

 国際的な貢献・交流を推進するため、スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てるというオリンピズムの根本原則への深い理解に立って、オリンピック競技大会・パラリンピック競技大会等の国際競技大会等の積極的な招致や円滑な開催、国際的な情報の収集・発信、国際的な人的ネットワークの構築等を行う。

 スポーツの普及振興、オリンピック競技大会参加の組織体制整備のため「大日本体育協会」が創立され、国際オリンピック委員会に承認されてから100年が経過した。スポーツを通じた国際的な交流や貢献は、国際相互理解を促進し、国際平和に大きく貢献するなど、スポーツは、我が国の国際的地位の向上にも極めて重要な役割を果たすものである。
 このため、オリンピック競技大会やパラリンピック競技大会等の国際競技大会等の招致・開催を進めることで、こうした国際的な交流の機会を拡充していくとともに、我が国スポーツ界から国際的なスポーツ界で活躍できるような人的ネットワークを築いていくことが必要である。

(1)オリンピック・パラリンピック等の国際競技大会等の招致・開催等

1.施策目標:

 国や独立行政法人、地方公共団体、スポーツ団体等関係機関が連携し、国際競技大会等の積極的な招致及び円滑な開催を支援する。

2.現状と課題:

 国際競技大会等を我が国において招致・開催することは、単に競技力向上のみならず、広く国民・市民のスポーツへの関心を高め、スポーツの振興や地域の活性化につながるものである。
 しかし、国際競技大会等の招致・開催は、中央競技団体や地方公共団体が主体となって進められているほか、大規模な国際競技大会等については、招致・開催するために必要な、関係省庁・地方公共団体・スポーツ界等の連携や、収集した情報の効果的な活用、社会的機運の醸成が必ずしも十分とはいえない状況も見られる。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、独立行政法人日本スポーツ振興センター、地方公共団体、公益財団法人日本オリンピック委員会(「JOC」)、日本パラリンピック委員会(「JPC」)及び中央競技団体等と連携し、大規模な国際競技大会等の招致や、我が国で予定されている国際競技大会等の円滑な開催に向けて、海外への情報発信や社会的機運の醸成、海外からのスポーツ関係者の受入れ等に必要な措置等の支援を行う。
 また、在外公館等においては、国際競技大会等の日本への招致及びスポーツ分野の国際選挙等に関する情報収集活動及び国際プロモーション活動等の支援を行う。

○ 日本スポーツ振興センターは、国内外のスポーツ関係団体との連携による国内外の情報収集・分析及び提供、国立霞ヶ丘競技場等の施設の整備・充実等を行い、オリンピック・ワールドカップ等大規模な国際競技大会の招致・開催に対し支援する。

○ JOC、JPC及び中央競技団体等においては、国際競技大会等の招致や準備運営に関する支援、助言、情報交換・共有の仕組みについて検討を行い、具体化していくことが期待される。

○ JOC、JPC及び中央競技団体においては、これらの活動をより円滑に行うため、国際競技連盟等に人材を派遣し、日常からの情報収集・発信に努めることが望ましい。

(2)スポーツに係る国際的な交流及び貢献の推進

1.施策目標:

 国際スポーツ界において活躍できる人材を養成し、情報を収集・発信する体制を整備するとともに、国際的な人的ネットワークを構築し、我が国の貢献度や存在感を高める。

2.現状と課題:

 我が国のスポーツ界は、中央競技団体ごとに国際競技連盟等とつながりがあるものの、日常からの情報の収集・発信や、国際的なスポーツ界への参画が不十分であり、国際競技連盟の動きを察知できないまま、競技ルールの改変等で不利となる事例も見られる。
 また、スポーツ医学・歯学・生理学・心理学・力学等のスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)、情報分野等における国際的な交流についても、個々の研究者・大学間で相互交流の取組が見られ、国立スポーツ科学センター(「JISS」)と海外の研究機関等との連携も進められてきているものの、いまだ十分とはいえず、国際スポーツ界においてイニシアティブを十分には発揮できていない。
 他方、我が国は、世界ドーピング防止機構(「WADA」)のアジア代表常任理事国として、アジアで大きな地位を占めてきたところであり、ドーピング防止活動への貢献を通じて、存在感を一層発揮できるよう、優れた実践事業をさらに展開していく必要がある。
 スポーツを通じた国際交流及び貢献については、政府開発援助(「ODA」)等によりスポーツ指導者の派遣や関連器材供与等人的・物的な支援が行われている。
 市民レベルの国際交流については、全国の地方公共団体で1,676件の海外との姉妹自治体交流事業が行われている中、スポーツに関する交流事業は91件となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ JOC、JPC及び中央競技団体においては、国際機関や国際競技連盟等に対する、スポーツ指導者、審判員及び専門スタッフ等の人材派遣・国際交流を図ることにより、国際スポーツ界におけるイニシアティブを確立し、競技水準の向上を実現させる好循環を創出するとともに、国際的なスポーツ・コミュニティと安定した関係を築くことができる人的ネットワークの構築に努めることが期待される。国においても、日本スポーツ振興センターと連携しつつ、JOC、JPC及び中央競技団体による国際的なネットワーク作りを戦略的に進めていくことが必要である。

○ JISSにおいては、海外の研究機関との連携等を進め、スポーツ医・科学、情報分野における国際ネットワークを構築する。また、日本スポーツ振興センターは、国内外のスポーツに関する情報収集・発信の役割を果たしていくため、国内外の関係機関との連携・ネットワークの構築を進めるとともに、海外拠点の在り方について検討を行う。

○ 国は、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構と協力し、WADAの常任理事国として、WADAの理事会・事務局・地域事務所の各レベルにおける連携を維持・強化する。また、国際連合教育科学文化機関(「UNESCO」)の「ドーピングの防止に関する国際規約」締約国として、UNESCOとの連携も維持・強化する。

○ 国は、JOC、日体協及び中央競技団体等と連携し、引き続きODA等を通じたスポーツ指導者の派遣や関連器材供与等スポーツ分野における人的・物的な国際交流及び貢献を推進する。
 JOC、日体協及び中央競技団体等は、これらの活動への協力等を通じて、アスリートやスポーツ指導者等のキャリア形成の充実や、国内外の交流の促進に積極的に取り組むことが期待される。

○ 国は、障害者スポーツを含む市民レベルでのスポーツを通じた国際交流について、ジュニア世代の競技大会や市民レベルのスポーツ大会等への人材の派遣・受入れや海外のスポーツ指導者への研修機会の提供等の取組を通じて、市民レベルでのスポーツを通じた国際交流を図る。地方公共団体においては、海外の都市との姉妹自治体交流事業等のスポーツを通じた国際交流により、地域の活性化を図ることが考えられる。

○ 国は、スポーツ団体や大学等と連携し、訪日外国人への武道等の体験機会を設けるなど、スポーツツーリズムによる国際交流を推進する。

6.ドーピング防止やスポーツ仲裁等の推進によるスポーツ界の透明性、公平・公正性の向上

政策目標:

 スポーツ界における透明性、公平・公正性の向上を目指し、競技団体・アスリート等に対する研修やジュニア層への教育を徹底するなどドーピング防止活動を推進するための環境を整備するとともに、スポーツ団体のガバナンスを強化し組織運営の透明化を図るほかスポーツ紛争の仲裁のための基礎環境の整備・定着を図る。

 スポーツ界の透明性や公平・公正性を向上させることは、誰もが安全かつ公正な環境の下でスポーツに参画できる機会を充実させるための基礎条件である。また、このことは、次代を担う青少年が、スポーツを通じて、他者を尊重しこれと協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度等を培っていくためにも重要である。
 ドーピングについては、アスリートに重大な健康被害をもたらすことに加え、フェアプレイの精神に反し、青少年に悪影響を及ぼすなどの問題があるため、その撲滅に向けて国内外で取組が進められてきたが、国際連合教育科学文化機関(「UNESCO」)の「ドーピング防止に関する国際規約」やスポーツ基本法でも、国はドーピング防止活動の推進に必要な施策を講じることとされた。このような観点から、国際的な水準のドーピング検査やドーピングに関する教育・啓発等の防止活動の充実を図る。
 さらに、スポーツ界の透明性、公平性・公正性を高めるためには、その主体であるスポーツ団体が、社会的な責任に応える組織運営を行うことが必要であり、スポーツ基本法では、スポーツ団体が、運営の透明性を確保するとともに、スポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に努めることとされ、国はスポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に資するために必要な施策を講じることとされた。このような観点から、ガイドラインの策定等によりスポーツ団体のガバナンスを強化し、組織運営体制の透明度を高めるとともに、スポーツ紛争の解決のための基礎的な環境整備を図る。

(1)ドーピング防止活動の推進

1.施策目標:

 国際的な水準のドーピング検査・調査体制の充実、検査技術・機器等の研究開発の推進、情報提供体制の充実、教育・研修、普及啓発を通じた、ドーピング防止活動を充実させる。

2.現状と課題:

 今後、我が国における競技会外検査(いわゆる「抜き打ち検査」)の実施数の増加や検査技術の向上が求められると予想され、こうした状況に対応するためには、現状の検査体制のままでは十分とはいえない。
 さらに、UNESCOの「ドーピングの防止に関する国際規約」締約国会議や、世界ドーピング防止機構(「WADA」)の常任理事会・理事会において、各国におけるドーピング防止規則違反の刑事罰の法制化について議論されている。
 また、禁止物質等のインターネットでの販売や栄養補給剤等への混入が疑われる状況も見られることから、競技団体・アスリート等のドーピング防止活動に関する知識がさらに必要となってきている。学校教育においても、高等学校学習指導要領にドーピングに関する記述が盛り込まれ、平成25年度から実施されることとなっている。
 これらに加え、前述のとおり、我が国は、WADAのアジア代表常任理事国として、アジアで大きな地位を占めており、ドーピング防止活動への貢献を通じて、さらに存在感を発揮していく必要がある。
 ドーピング防止に関する取組は、競技団体の健全なガバナンスのあらわれの一つであり、競技団体は確実に取り組む必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(「JADA」)においては、国際的な水準を踏まえ、検査数の拡充、とりわけ抜き打ち検査の割合の増加や、ドーピングの高度化に対処するため、検査・調査体制の充実、検査技術・機器等の研究開発(血液採取によるドーピング検査等を含む)、ドーピング防止活動の効果や効率性を高める上での情報提供体制の充実、ドーピングに関する社会科学的なアプローチによる研究等の推進に努める。
 また、UNESCO及びWADAにおける、ドーピング防止規則違反の刑事罰法制化の議論を踏まえつつ、世界各国の取組も含め、今後の規制の在り方について調査・研究を行う。

○ 国は、JADAと連携しつつ、ドーピング防止に関する情報検索システムを構築するなど情報提供体制の充実を図るほか、例えば、競技団体・アスリート等に対する競技会場での教育(アウトリーチプログラム)を一層充実させるなど、ジュニア層からトップアスリートまでの教育・研修活動を一層推進する。また、学習指導要領改訂の趣旨を踏まえ、学校におけるドーピング防止教育を充実させる必要がある。

○ 国は、これらに加え、国際スポーツ界へ貢献し、存在感を発揮するために、JADAと協力し、WADAの常任理事国として、WADAの理事会・事務局・地域事務所の各レベルにおける連携を維持・強化する。また、アジア代表常任理事国として、WADA地域事務所と協力し、UNESCOの「ドーピングの防止に関する国際規約」の未締結国への働きかけをはじめとしたアジア地域におけるドーピング防止活動の推進や、アジア諸国との連携・貢献を図る。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、ドーピング防止活動への支援を図る。

(2)スポーツ団体のガバナンス強化と透明性の向上に向けた取組の推進

1.施策目標:

 スポーツ団体と協力し、スポーツ団体の組織運営体制の在り方に関するガイドラインを策定すること等により、ガバナンスを強化し、透明性が高い組織運営体制を整備したスポーツ団体を継続的に増加させる。

2.現状と課題:

 スポーツは、次代を担う青少年の人格の形成に大きな影響を及ぼすものであり、公平・公正なスポーツ環境を整備することは、競技スポーツ・地域スポーツを問わず、スポーツ界全体に求められている。また、近年、企業の社会的責任の一環として組織運営の透明化や説明責任を果たすことが社会的潮流として求められるようになっている。これは、スポーツ界においても同様であり、スポーツ基本法は、第5条第2項において、スポーツ団体は、スポーツの振興のための事業を適正に行うため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう努めるものとするとしている。さらに、スポーツ団体が新公益法人制度のもとで公益社団法人・公益財団法人に移行していく中で、今後一層、スポーツ団体の自助努力による適切な団体運営が求められている。
 これらのことから、一部のスポーツ団体における不祥事は、スポーツ団体全体に対する国民の信頼を失わせる可能性があり、スポーツ団体の判断や説明には大きな社会的責任が伴うことを踏まえた対処が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、統括団体、中央競技団体等スポーツ団体の代表や学識経験者等による有識者会合を設置し、スポーツ団体の組織運営体制の在り方の指針となるガイドラインを策定する。また、その効果的な活用を図るため、策定したガイドラインに基づく体制整備の状況を国庫補助やスポーツ振興基金・スポーツ振興くじ助成の内容等に反映できる仕組みについて、スポーツ団体に所属するアスリート個人へのセーフティネットも含め、検討する。

○ スポーツ団体においては、スポーツ基本法の規定を踏まえ、その運営の透明性の確保を図るとともに、国が策定したガイドラインに準拠してその事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう自主的に努力する。その際、特に、公益財団法人日本オリンピック委員会(「JOC」)、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)、公益財団法人日本障害者スポーツ協会(「JSAD」)においては、統括団体としての役割を踏まえ、加盟・準加盟団体のガバナンスの強化を推進することが期待される。このほか、スポーツ団体においては、団体の運営にアスリートの意見を反映する仕組みの導入や、女性の団体役員等への積極的な登用、外部役員・監査役の登用を図ることが期待される。また、小規模なスポーツ団体におけるガバナンス強化に向けた一方策として、例えば団体間の連携を図りつつ、共通する事務を協働で処理するための取組等を通じ、組織マネジメントの強化を図ることも考えられる。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、スポーツ団体が行う研修会や専門家の配置等のガバナンス強化に向けた取組を支援する。

(3)スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた取組の推進

1.施策目標:

 スポーツ団体と連携し、スポーツ仲裁の自動受諾条項を置くスポーツ団体の継続的な増加等スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた基礎的環境整備を推進する。

2.現状と課題:

 スポーツ基本法では、スポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならないとされており、アスリートのスポーツ活動が不当に妨げられることのないようにする必要がある。また、同法第5条3項において、スポーツ団体は、スポーツに関する紛争について迅速かつ適正な解決に努めるとされており、さらに、同法第15条において、国は、スポーツに関する紛争の仲裁又は調停を行う機関への支援、仲裁人等の資質の向上等スポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に資するために必要な施策を講ずるとされている。
 競技団体による代表選手選考やドーピング違反による資格停止処分等をめぐる紛争に対し、JOC、日体協、JSADの3団体は平成15年に一般財団法人日本スポーツ仲裁機構(「JSAA」)を設立し、スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた体制整備に自ら取り組んできているが、スポーツ仲裁自動受諾条項の採択状況は、JOC、日体協及びその加盟・準加盟団体の合計では47.1%、JSAD及びその加盟・準加盟団体の合計では13%となっている。これについては、スポーツ団体の財政的余裕が無いために、仲裁申立てに対応する弁護士費用が捻出できないとの指摘もある。
 これらのことから、国とスポーツ団体が連携し、スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた基礎的体制整備を行うことが課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、JSAAと連携し、統括団体及び競技団体並びにアスリートのスポーツ仲裁・調停に関する理解増進を図るとともに、仲裁人・調停人等スポーツ仲裁に関わる専門的人材の育成を推進する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、JSAAが行うスポーツ紛争の迅速・円滑な解決のための取組を支援する。

○ JOC及び日体協の加盟・準加盟団体等並びにJSAD及びその加盟・準加盟団体等においては、スポーツ仲裁自動受諾条項を採択し、スポーツ紛争の迅速・円滑な解決のための環境を整備することが期待される。また、JOC、日体協及びJSADにおいては、我が国のスポーツ団体を統括する立場にあることから、JSAAと連携し、加盟・準加盟団体におけるスポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた取組を推進することが期待される。

7.スポーツ界における好循環の創出に向けたトップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進

政策目標:

 トップスポーツの伸長とスポーツの裾野の拡大を促すスポーツ界における好循環の創出を目指し、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働を推進する。

 世界の舞台で活躍するトップアスリートは、地域スポーツや学校の体育に関する活動等地域におけるスポーツの中で育まれ、長期間にわたるたゆまぬ努力により、その才能を開花させたものである。
 また、トップスポーツにより培われるアスリートの技術や経験、人間的な魅力は社会的な財産であり、それらを地域におけるスポーツに還元することは、スポーツの活性化と裾野の拡大につながるとともに、新たな次世代アスリートの発掘・育成によるトップスポーツの伸長にも寄与するものと考えられる。
 このような好循環の創出に向け、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働を推進する。
 その際、スポーツに関する専門的人材及び施設を有する企業・大学等が地域スポーツの担い手の一つとして地域における連携・協働に加わることは、このような好循環にも資することから、地域スポーツと企業・大学等との連携・協働も推進する。

(1)トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進

1.施策目標:

 次世代アスリートの育成と地域スポーツの推進や学校の体育に関する活動の充実等を目的とした、トップスポーツと地域におけるスポーツとの連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 我が国では、世界の頂点を目指すトップスポーツと、住民が楽しみや健康の保持増進等のために行う地域スポーツや学校の体育に関する活動は、それぞれが別の目的を持った活動として捉えられ、これまではその連携が不十分であった。そのため、次世代のアスリートの発掘・育成を計画的・継続的に一貫して行う体制も不十分である。アスリートの中には、学齢期において勉学面や人間形成の面等、将来の長い人生において必要な資質について、適切な時期に適切な指導・経験が与えられていない者も一部にいるとの指摘がある。したがって、ジュニアアスリートの指導に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者及び学校は、目先の大会等の結果のみにとらわれることなく、スポーツキャリア全体を含めた長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であり、学業とのバランスも含め、キャリアデザインの重要性を認識することが重要である。
 また、アスリート自身も、現役引退後のキャリアパスに漠然とした不安を感じているものの、引退後のセカンドキャリアに向け現役時代から計画的に準備する者は少なく、競技団体によるサポートもあまり行われていない。
 一方、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)等の地域スポーツクラブにおいて活用することは、住民のスポーツ参加機運を高めるにあたり非常に有意義であると考えられるが、トップアスリートを含め、専門性を有するスポーツ指導者の活用は全体的には十分とは言えない状況である。
 学校の体育に関する活動については、中学校においては、平成20年及び平成21年に改訂した学習指導要領により武道等が必修化されるとともに、小学校においては、学校の小規模化や教員の高齢化等の問題により学校の体育に関する活動の指導に課題を抱えるなど、いずれも専門性を有するスポーツ指導者の活用を含めた指導体制の充実が必要となっている。
 また、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を学校の体育に関する活動において活用することは、児童生徒がスポーツに親しむ態度を涵養するにあたり非常に有意義であると考えられるが、トップアスリートを含め、専門性を有するスポーツ指導者の活用は全体的に十分とは言えない状況にあり、今後、スポーツ指導者を活用する際の円滑な受入れに向けて体制を整える必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国及び地方公共団体は、トップスポーツと地域におけるスポーツの人材の好循環を創出するため、地域におけるスポーツ活動の中から潜在的な能力のある次世代のアスリートを戦略的に発掘・育成する体制を整備するとともに、将来的には育成されたアスリートが、総合型クラブ等において優れた地域のスポーツ指導者となり、自身が有する技術や経験、人間的な魅力をジュニアの育成や地域貢献等に還元し、あわせて自らの指導者としてのスキルアップを図るという流れを作り出すことにより人材の好循環のサイクルを確立する。

○ 国は、トップアスリートや、スポーツ指導者、スポーツ団体に対して、トップアスリートとしてのアスリートライフ(パフォーマンスやトレーニング)に必要な環境を確保しながら、現役引退後のキャリアに必要な教育や職業訓練を受け、将来に備えるという「デュアルキャリア」についての意識啓発を行うとともに、独立行政法人日本スポーツ振興センター、スポーツ団体、大学等と連携し、競技引退後の奨学金等による支援や企業、総合型クラブ、学校等への紹介・斡旋等アスリートのスポーツキャリア形成のための支援を推進する。

○ スポーツ団体においては、トップアスリート等のスポーツキャリア形成の一環として、大学と連携し、トップアスリートが指導者として資質向上を図るための支援を行うとともに、地方公共団体と連携し、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を総合型クラブや学校等へ派遣することが期待される。

○ 国は、充実した活動基盤を持つ拠点となる総合型クラブ(「拠点クラブ」)を、地域住民が身近にスポーツを行うことができる地理的な距離を考慮し、広域市町村圏(全国300箇所程度)を目安として育成し、拠点クラブにトップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を配置し、周辺地域のクラブや学校の体育に関する活動等を対象に巡回指導等を実施する体制を整備する。

○ 地方公共団体においては、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者等を活用し、総合型クラブの活動や学校の体育に関する活動等を支援することが期待される。
 その際、地域のスポーツ活動全体をコーディネートするスポーツ推進委員を活用することにより効果的・効率的に総合型クラブや学校にスポーツ指導者等を派遣することが期待される。

○ 総合型クラブ等地域スポーツクラブにおいては、住民のスポーツへの参加機運を高める優れたスポーツ指導者を確保するため、専門性を有するトップアスリート等を積極的に活用することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、平成24年度から中学校で必修となる武道等の指導の充実や、学校において専門的な指導を行うことができるスポーツ指導者の不足を補い、体育の授業や運動部活動の充実を図るため、地域スポーツクラブや関係団体等と連携し、トップアスリート等としての経験を有する優れたスポーツ指導者を学校で活用することを推進する。

○ 国は、地域での教育支援体制を強化するため、地域のスポーツ指導者を活用するなどして、小学校全体の体育の授業等を計画したり、担任とティームティーチングで体育の授業に取り組む人材(小学校体育活動コーディネーター)の派遣体制の整備を支援する。

○ ジュニア期においては、長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であることから、ジュニアアスリートの育成に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者、地方公共団体及び学校等においては、個々のアスリートの特性や発達段階、学業とのバランスや本人のキャリア形成にも配慮した適切な支援に努めることが期待される。

(2)地域スポーツと企業・大学等との連携

1.施策目標:

 企業や大学に蓄積された人材やスポーツ施設、スポーツ医・科学の研究成果等を地域スポーツにおいて活用するための連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 地域のスポーツ環境を充実させるためには、地方公共団体、学校、地域スポーツクラブ、大学、企業等地域における様々な主体が、スポーツ推進に関連し保有する様々な資源を最大限活用しつつ連携・協働して取り組んでいくことが重要である。このことは、スポーツ界の好循環の創出にも必要となると考えられる。
 企業のスポーツチームは、優れたアスリートやスポーツ指導者等が在籍するほか、スポーツ施設を保有しており、こうした人的・物的資源を地域に提供することにより、地域に根ざした企業活動に結びつける取組も行われている。
 今後、地方公共団体において、こうした地元企業による取組を地域の活性化に積極的に活用していくことが必要である。
 また、スポーツ産業による用具等の研究開発については、競技水準の向上や安全なスポーツ環境の確保等、地域のスポーツ環境を支えるものであるが、大学や地域スポーツの関係者との連携を深め、地域のニーズにも応えるよう活動を充実させる必要がある。
 他方、大学、特に体育系大学・学部は、アスリート等が知識や技能を獲得する人材育成の場であるとともに、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)に関する高度な研究の場となっている。しかしながら、現状では、これらの活動は、大学で完結するかたちで行われがちであり、地域における他の主体との連携・協働は拡充の余地が大きい。
 また、その保有する高度なスポーツ施設を地域に提供することにより、地域スポーツの拠点となる取組も一部の大学で着手されており、地域のスポーツ環境を充実させるためには、こうした大学の社会貢献活動が広く行われるようにすることも課題である。
 さらに、スポーツ基本法に基づき、障害者スポーツについて、障害の種類に応じて必要な配慮が求められていること、スポーツを健康の保持増進の観点から効果的に活用していくこと、スポーツ事故等に対応した安全なスポーツ環境を整えること等が求められているが、こうした高度な課題に十分に対応できる知見や推進体制が整っていないのが現状である。これらに対応するため、地域スポーツにおいて、企業や大学との連携・協働を推進し、その資源を積極的に活用する必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、地域スポーツにおけるスポーツ指導者やクラブマネジャー等の優れた人材を確保するために、例えば、企業や大学による地域スポーツクラブ向けの公開(寄附)講座や講習会等の開催等、地域スポーツクラブと地元の企業や大学との連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、健常者と障害者が同じ場所でスポーツを行うための方法や、スポーツ障害・事故防止策、地域の活性化につながるスポーツ・レクリエーションプログラム等について、大学等での研究成果や人材を広く地域スポーツに活用するための取組を推進する。

○ 地方公共団体においては、スポーツを地域振興に積極的に活用するため、スポーツ団体だけでなく、地元企業(地域のスポーツチームを有する地元の企業を含む)や大学と連携・協働することが期待される。また、拠点クラブによる地元の企業や大学との連携・協働を推進することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、例えばスポーツツーリズムによる地域の活性化を目的とする連携組織(いわゆる「地域スポーツコミッション」)等の設立を推進するなど、スポーツを地域の観光資源とした特色ある地域づくりを進めるため、行政と企業、スポーツ団体等との連携・協働を推進する。

○ 企業においては、地方公共団体や大学等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放等スポーツを通じた地域貢献活動を実施 することが期待される。

○ 大学においては、地方公共団体や企業等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放、総合型クラブの運営や地元のジュニアアスリートの発掘・育成、スポーツ指導者等の養成等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、学生によるスポーツボランティア活動を支援することが期待される。

お問合せ先

スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)

-- 登録:平成24年05月 --