第1章 スポーツをめぐる現状と今後の課題

1.背景と展望

(1)我が国の社会の現状と目指すべき社会像

 近年、我が国は、少子高齢化や情報化の進展、地域社会の空洞化や人間関係の希薄化が進んだほか、グローバル化に伴い国際的な協力・交流が活発になる一方、国際競争も激化するなど、我が国を取り巻く社会環境や価値観は急激に変化している。
 また、平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、多くの人命が奪われるとともに、国民生活にも未曾有の大きな被害をもたらした。現在も復旧・復興が大きな課題となっているが、そのプロセスを通じて、「社会の絆」の重要性が改めて認識された。このような環境の変化に対応して、我が国の社会が将来も持続的な発展を遂げるためには、人々が深い絆で結ばれた地域社会が健在であり続け、そこでは、次代を担う青少年が、他者との協同や公正さと規律を学びながら健全に育つとともに、人々が健康に長寿を享受できる社会を実現することが必要であると考えられる。さらには、国民が自国に誇りを持つことができ、我が国が国際的にも信頼され、尊敬される国であることを目指すべきである。そして、そのような社会を目指すに当たっては、スポーツには大きな貢献が期待される。これは、被災地でのスポーツによる被災者や避難者を元気づける取組からも分かるように、スポーツは、状況や社会を変える大きな力を持つものであるからである。

(2)スポーツ基本法の制定~背景とスポーツの果たす役割の明確化~

 スポーツの振興については、平成13年からのスポーツ振興基本計画に基づく振興方策の結果、子どもの体力の低下傾向に歯止めがかかるとともに、成人のスポーツ実施率やオリンピックにおけるメダル獲得率が上昇したが、なお計画に掲げる目標には達していない状況にある。
 スポーツ界では、ガバナンスの向上やドーピング防止、スポーツ仲裁等のスポーツ界の透明性、公平・公正性に対する要請が高まるとともに、プロスポーツ及び障害者スポーツの発展や国際化の進展等の大きな環境変化が生じている。
 上記のような我が国の社会の現状や国際的な環境変化を踏まえ、スポーツ界における新たな課題に対応するため、超党派の国会議員で構成される議員連盟の提案により、スポーツ振興法が50年ぶりに全面改正され、新たにスポーツ基本法が制定され、平成23年8月24日に施行された。
 スポーツ基本法は、スポーツを取り巻く現代的課題を踏まえ、スポーツに関する基本理念を定め、国・地方公共団体の責務やスポーツ団体等の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を規定するものである。
 同法は、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとするとともに、スポ-ツが、青少年の健全育成や、地域社会の再生、心身の健康の保持増進、社会・経済の活力の創造、我が国の国際的地位の向上等国民生活において多面にわたる役割を担うことを明らかにしている。今後のスポーツの推進に当たっては、体を動かすという人間の本源的な欲求に応え、精神的充足や楽しさ、喜びをもたらすというスポーツの内在的な価値とともに、前述のようなスポーツが果たす役割を常に念頭におく必要がある。

(3)スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会の創出

 上記のようなスポーツの役割の重要性に鑑み、スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会の創出を目指していくことが必要であり、その具体的な社会の姿として以下のものを掲げる。

  1. 青少年が健全に育ち、他者との協同や公正さと規律を重んじる社会
  2. 健康で活力に満ちた長寿社会
  3. 地域の人々の主体的な協働により、深い絆で結ばれた一体感や活力がある地域社会
  4. 国民が自国に誇りを持ち、経済的に発展し、活力ある社会
  5. 平和と友好に貢献し、国際的に信頼され、尊敬される国

 こうした社会を目指す過程において、またその実現により、スポーツの意義や価値が広く国民に共有され、より多くの人々がスポーツの楽しさや感動を分かち互いに支え合う「新たなスポーツ文化」の確立を目指していくことが必要である。

2.スポーツ基本計画の策定

 スポーツ基本計画は、スポーツ基本法に基づき、文部科学大臣が、スポーツに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため定めるものである。したがって、スポーツ基本計画は、スポーツ基本法の理念を具体化し、今後の我が国のスポーツ政策の具体的な方向性を示すものとして、国、地方公共団体及びスポーツ団体等の関係者が一体となって施策を推進していくための重要な指針として位置づけられるものであり、今後のスポーツ施策はスポーツ基本計画に基づき推進されることとなる。
 計画の期間については、総合的で包括的な計画とするという観点から10年間程度を見通した計画としつつ、社会やスポーツ界の変化の早さに適切に対応し、期間経過後における施策の評価を改善サイクルに結びつけるため、平成24年度から、概ね5年間に総合的かつ計画的に取り組む施策を体系化している。
 なお、今後概ね10年間のスポーツ施策の基本的な方向性を示すものとして、文部科学省は、平成22年8月に「スポーツ立国戦略」を策定している。そこでは、「新たなスポーツ文化」の確立を目指し、「人(する人、観る人、支える(育てる)人)の重視」と「連携・協働の推進」を基本的な考え方とし、ライフステージに応じたスポーツ機会の創造、世界で競い合うトップアスリートの育成・強化、スポ-ツ界の連携・協働による「好循環」の創出、スポーツ界における透明性や公平・公正性の向上、社会全体でスポーツを支える基盤整備を重点戦略と位置づけているが、「スポーツ立国戦略」の内容で引き続き有効なものについては、スポーツ基本計画の策定にあたり必要に応じて取り入れている。
 スポーツ基本法では、地方公共団体は、スポーツ基本計画を参酌して、その地方の実情に即したスポーツの推進に関する計画を定めるよう努めることとされている。本計画が、地方公共団体の計画策定の指針となるよう、国と地方公共団体が果たすべき役割に留意して策定している。
 次章では、10年間を通じた基本方針を明らかにするとともに、第3章において、今後5年間にどのように具体的な施策に取り組んでいくかを、客観的な到達目標を明らかにしつつ、現状と課題の分析や、それを踏まえ展開すべき施策を明示する。

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スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)

-- 登録:平成24年05月 --