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当日配布資料

©Hiroshi Koroki

青少年ボランティア活動推進に期待される教育関係機関とNPOの役割

-私が変わる、社会は変わる-

講師 (社福)世田谷ボランティア協会理事長 興梠 寛(こうろきひろし)

1. ほんとうの自分と出会うとき

ほんとうの自分と出会うとき
 人は、誰もが自分の物語をもって生きています。
 そして誰もが、自己認識の危機との隣りあわせにあり、とくに思春期においては、自分の社会的役割などに確信が持てないなどの、心理的葛藤のなかに生きているといえるでしょう。いや、大人にとってもそうではないかと思うのです。自分をより肯定的に確認し、可能性を信じて、自己肯定意識をもって生きていくことは、とても容易なことではありません。
 人は、こうして過去、現在、未来の物語のなかで、自分の存在を確かめ、自分自身を発見したり軌道修正をしながら生きています。その物語の主人公は、他の誰でもない、自分自身です。
 やがて人は、子ども時代から、思春期・青年期のはじまりとともに、自分とは何か、自分は何になりたいのか、という“アイデンティティ”の問題をかかえていくようになります。あるときは、その確認のために、自分の理想の人を見つけて同一化したり、自分もその人のように振る舞おうとしたり、そこに近づくために考えをめぐらしたり、同じようになれない自分を気にしたり悩んだりします。
 そのような、希望と失望とを往復する経験のプロセスをとおして、ほんとうの自分とはどういう存在なのか、ほんとうにやりたいこととは何なのかを探っていきます。私たちは、このように他者を意識し、交わることなしに自分を発見し、生き方を確立していくことは不可能だといえます。
 人にとって、他者はつねに鏡のような役割を果たしてきます。出会いのはじめは、他者しか見えなかったのですが、心のかよいあいの深まりとともに、しだいに他者のなかに自分の姿を見るようになるでしょう。そうしたプロセスのなかで、他者は、自分自身を発見し確認するための鏡の役割をになっていきます。
 しかし、他者は、自分の鏡であるからといって、その鏡のなかにみえる自分はどんな姿の自分でもいいかというと、そうではないのです。そこに必要な自分の姿は“意味ある自分”であることが大切です。“意味ある自分”とは、いったいどんな自分なのか。それは、自分が他の人びとから“意味ある他者”として認められていることです。自分は、他者や家族、身近な集団から必要されている。かけがえのない存在として、たよりにされている。なくてはならない人として、認められ、喜ばれている、ということの体験をとおして“意味ある自分”を感じ、認知していくのです。
 もし、私が他の人びとから“意味のない他者”としてあつかわれ、誰にも必要とされず、認められることもなく、不愉快な存在としてあつかわれたとすればどうでしょうか。おそらく、私は他者のなかに“意味のない自分”を見つめつづけることになるでしょう。人は、他者のなかに“意味ある自分”を発見したい、という生物学的衝動を持って生きているのです。言葉を変えれば、人は他者や社会から“必要とされたい”という潜在的意志を持っているとも表現できるでしょう。
 ボランティアになることは、社会の発見だけでなく“自己発見”のチャンスであることの背景には、そのような心の動きがあるのです。

2. 自分探しの旅の時代へ
(1) 増加する「勉強嫌い」
 国立教育政策研究所が2004年に実施した小・中学校教育課程実施状況調査によれば、「勉強が嫌い」と答えた小学5年生は46.4パーセント、6年生は52.2パーセント。中学1年生は70.4パーセント、2年生は75.4パーセント、3年生は73.4パーセント。とくに中学生の7割は勉強嫌いで高等学校に入る。
(2) 「大学全入時代」(2007年予測)を迎える課題
 2005年における大学・短期大学進学率は51.5パーセント(男子53.1パーセント、女子49.8パーセント)。専修学校を含めた高等教育機関への進学率は76.2パーセント(文部科学省平成17年度『学校基本調査』)。その一方で、全国の私立大学の教員60.1パーセント、短大の教員66.0パーセントが「学生の基礎学力がない」と指摘している。1998年の同調査と比較すると大学で24.8パーセント、短大で22.1パーセント増加している。 特に理系教員の危機意識が高く、理学系の大学教員の74.8パーセント、短大教員」の72.5パーセント。工学系の大学教員の69.3パーセント、短大教員の72.7パーセントが基礎学力がないとしている。(2004年度11月~12月調査『私立大学情報教育協会』)
(3) 新たな青少年問題となりつつある「ニート」問題(若年無業者問題イコールNot in Education,Employment or Training
  1 2005年『労働経済白書』(2005年7月22日)によれば、2004年度のニートに相当する若年無業者(15歳から34歳まで)は64万人。1993年の40万人から年ごとに上昇。
2 「ニート」問題は、低賃金の若年労働者やパート労働、派遣社員にたよる日本企業の利潤至上主義や経済効率主義が招いた社会問題でもある。
3 「ニート」問題は、豊かな社会の反映とされるが、実態調査では低所得層の家庭を背景に多くみられる富の格差のなかに生じる社会問題である。
4 もちろん、家庭に引きこもるなどの「非社会性」の問題も背景にあるが、家庭・学校・地域社会が協働して問題解決にあたる必要がある。
(4) 『第7回世界青年意識調査』(2003年実施)にみる日本の青年
  1 地域社会の愛着度について聞いてみると「好きである」と答えた青年は40.6パーセントで調査国最低。永住意識については「住んでいたい」が33.2パーセントで同じく最低で、1位のドイツ(56.2)と比べると大きな差がある。
2 ボランティア活動経験の有無については、調査国中最低の参加率。

  現在活動している 以前したことがある 全くしたことがない わからない
日本 3.3パーセント 31.7パーセント 63.2パーセント 1.8パーセント
韓国 5.0パーセント 42.6パーセント 50.8パーセント 1.7パーセント
アメリカ 21.0パーセント 40.4パーセント 36.1パーセント 2.5パーセント
スウェーデン 19.9パーセント 23.4パーセント 52.3パーセント 4.5パーセント
ドイツ 8.2パーセント 14.4パーセント 72.9パーセント 4.5パーセント

3 自国の政治に関心があるかどうかについては、調査国中最低の関心度。

  非常に関心がある まあ関心がある あまり関心がない 全く関心がない
日本 6.5パーセント 40.2パーセント 37.1パーセント 14.1パーセント
韓国 9.6パーセント 43.7パーセント 32.3パーセント 13.3パーセント
アメリカ 30.7パーセント 38.5パーセント 17.8パーセント 11.9パーセント
スウェーデン 13.6パーセント 30.0パーセント 36.5パーセント 19.2パーセント
ドイツ 8.1パーセント 37.3パーセント 34.6パーセント 19.3パーセント

4 自国の社会への満足度については、ドイツとならび調査国中最低の満足度。

  満足 やや満足 やや不満 不満
日本 4.2パーセント 31.3パーセント 42.0パーセント 17.4パーセント
韓国 6.3パーセント 32.9パーセント 43.9パーセント 14.3パーセント
アメリカ 35.7パーセント 40.8パーセント 14.3パーセント 7.5パーセント
スウェーデン 11.3パーセント 64.0パーセント 18.4パーセント 4.6パーセント
ドイツ 4.2パーセント 28.4パーセント 36.8パーセント 28.9パーセント

5 自国の社会の問題だと思われることとの上位5つはつぎのとおり。
1位: 就職が難しく、失業も多い(64.6パーセント)
2位: よい政治が行われていない(43.7パーセント)
3位: 学歴によって収入や仕事に格差がある(40.7パーセント)
4位: 老人等に対する社会福祉が不十分(34.5パーセント)
5位: 環境破壊に対して、国民が無関心(31.7パーセント)
(5) 高校生のボランティア意識(神奈川県高等学校教科研究会社会科部会・神奈川県青少年総合研修センター共同研究)
  1 学校行事や部活動に積極的に参加する生徒は、ボランティア活動に対する積極的な気持ちが強く、半数を超える高校生が「人と交流する」活動を求めている。また、アルバイト経験が「ある」高校生のほうが、「ない」高校生よりもボランティアに対する積極的な気持ちが強い。
2 高校生ボランティア活動の情報源は、41.9パーセントが「学校から」で、6.4パーセントが「友人や仲間から」と答えており、学校の情報提供が高い。また、活動したいが「情報が少ない」という意見も多く見られる。
3 「ボランティア活動に何を求めているか」についての質問では、「自分探し」「多くの人と交流できる」「新しい体験ができる」などの内発的傾向が強いことが明らかになった。また、阻害要因として「ボランティア活動をする上で困ること」では、「時間がとれない」(52.6パーセント)と一番多い。
(6) 大学生のボランティア動機に強い「自分のため」(内発的動機)
 財団法人『内外学生センター』(現在の独立行政法人『日本学生支援機構』)が1998年に全国98の大学で、学生10,000人を対象に『学生のボランティア活動に関する調査』を行ったところ、ボランティア活動「現在している」は7.2パーセント。「以前したことがある」が33.5パーセントで、合わせて40.7パーセントの学生がなんらかの活動の経験があることがわかった。
 また、学生たちはなぜボランティアをするのか、という参加の動機に着目してみた。つぎの図表は、2003年から2004年にかけて、関東地方の6つの国立・私立大学生、1,650人を対象に行った『学生のボランティア活動への参加動機調査』(調査・興梠寛)です。

【大学生のボランティア動機】
社会のために(外発的動機)
〔34パーセント〕
社会への貢献タイプ
<34パーセント>
困っている人の手助けがしたいから
地域社会をよりよくしたいから
社会への不正や矛盾に怒りを感じるから
社会への問題解決に知識・技術・学問を役立てたい
自分のために
(内発的動機)
〔64パーセント〕
自分の発見タイプ
<48パーセント>
新しい人と出会いたいから
自分の経験や技術などを生かしたいから
新しく感動できる体験がしたいから
自分のやりたいことを発見したいから
キャリアづくりタイプ
<11パーセント>
授業や仕事として位置づけられているから
大学や職場で活動を奨励しているから
単位取得や資格取得のために必要だから
進学・就職・昇進に有利にしたいから
癒しセラピータイプ
<7パーセント>
自分自身を見失っているような不安や喪失感から
自分自身の生き方に自身がもてないから
不安な気持ちや傷ついた心を癒したいから
人とのコミュニケーションや集団での生活に自身がもてないから
(16の動機を表す言葉を3つまで選択してもらい集計)

 調査では、現代の学生のボランティア動機に著しい特徴が現れ、ボランティア活動の参加イメージを「自分のために」と考えている学生が64パーセントもいたことわかった。なかでも「自分の発見」動機に関する言葉を選んだ学生は48パーセントだった。

3. 「自己実現」と「共生」のための学びへ
(1) 21世紀教育への提言
 国連ユネスコ『学習:秘められた宝-21世紀教育国際委員会報告書』(1996年)
  1 知るための学び(Learning to know
2 為すための学び(Learning to do
3 他者と共に生きるための学び(Learning to live <with others>
4 人間となるための学び(Learning to be
この理念の背景に、ロバート・ハッチンスの「ラーニング・ソサエティ」(学習社会論)や、エーリッヒ・フロムの「持つ」(To have)ための学びか「在る」(To be)ための学びかの問いかけが反映されている。フロムは「限られた能力を最大限に活かして、自分の個性に満ちた生きることの喜びをかくとくするための学び」を説く。
(2) 「自己実現」と「共生」のための学びへ
 ユネスコの提言は、これまでの伝統的な教育観である「知識」や「技術」の修得に加えて、21世紀の教育にとって重要さを増すのは「自己実現」と「共生」のための学びであるとの期待をしめしたものだ。
 このユネスコの教育理念は、ボランティア活動のめざす世界と、不思議なほどぴったりとあてはまるように思える。現代社会におけるボランティア活動もまた、ボランティアをする人びとの「自己実現」と、ボランティアが立ち向かう「共生」社会の実現の二つの目標をめざし、そうした活動の持続的力によってこそ、行政や企業とは行動原理を異にするもうひとつの公共「市民社会」(Civil Society)を創出する第3の道である。
 ボランティア活動のもつ潜在的な教育力を活用した「ボランティア学習」(Volunteer Learning)への期待は、いまでは世界的な潮流であるといえる。
(3) 「ボランティア学習」(Volunteer Learning)のもつ潜在的教育力
 「ボランティア学習」は、潜在的な教育力として、1ボランティア活動をとおして自らの生き方を見つめ、自己実現をはかることができる教育的役割「自己への探求」(Personal Insight2他者や社会にかかわることをとおして、地域社会の課題やグローバル社会でおこる諸問題について知る教育的役割「社会問題の理解」(Understanding Social Issues)、3生涯にわたって習得した学習成果や、学校教育で学んだ成果を社会問題解決のために還元し、さらなる学びを深める教育的役割「学習成果の応用」(Application of Skills)などの教育力を内に秘めていると考えられてる。

「ボランティア学習」(Volunteer Learning)とは、ボランティア活動(Volunteering)の持つ特性や、潜在的な自己啓発力や自己教育力を認識したうえで、身近な生活課題をはじめ、地域社会や地球社会などの、持続可能な共生社会の課題をテーマに意図的計画的に体験学習環境を設定して行う、社会貢献学習である。〔興梠寛〕

4. 学ぶことの意味を学ぶ「サービスラーニング」(Service Learning
(1) 青少年の学ぶ意欲を育む
 1960年代初頭からイギリスの“ボランティアの父”といわれるアレック・ディクソンによって提唱された、大学における教科教授法「サービスラーニング」(Service Learning)は、1980年代頃からアメリカ合衆国全土の大学に広がった。また、現在では60パーセントを越える高等学校にも浸透し、アカデミックな学問を学ぶ意欲を育てる革命的教科教授法として実践されている。
 「サービス・ラーニング」(Service Learning)とは、そのボランティア活動のもつ教育力のなかでも、とくに「学習成果の応用」に注目し、それを教育方法論として実践的に高めた教科教授法である。学校において、学生が教室で学んだ学術的な学習成果、すなわち教科を学んだ成果を活用して地域社会の諸問題の解決に役立てたり、人びとに対して社会の克服すべき課題や問題解決の方法を指摘したりしながら、あらためて自分がアカデミックな学問を学ぶ意味を再確認し深めるための、教科学習と社会貢献活動を融合させた互酬的な経験学習であるといえる。
 アメリカにおける大学の「サービス・ラーニング」を活用した授業科目は、環境や工学系、自然科学や化学系、法律学系、建築学系、経済学や経営学系、医学や薬学系、教育学系、社会学や社会福祉学系、芸術学系など多岐にわたってくり広げられ、ハーバード大学やスタンフォード大学を先頭に900を越える大学に浸透している。
(2) なぜ、アカデミズムとボランティア学習を融合させた学びなのか
 アカデミズム、すなはち教科とボランティア学習とを癒合された学びなのか。そのメリットとは何か。アメリカ合衆国政府のボランティア活動推進機関『コーポレーション・フォー・ナショナルサービス』(Cooperation for National Service)によれば、アカデミズムとボランティア学習とを融合させた授業を行うメリットをつぎのように説明している。
  1 高校・大学のもつ高度な知的・技術的・人的資源を提供してコミュニティの課題を提起し、市民社会や行政、社会貢献企業などと結びついて問題解決のために協働することで、高校・大学への認知と社会的な存在意義が高まる〔高校・大学への有効性〕。
2 教師が教える学問について、学生が教室で学んだ成果を活用して地域社会に貢献することで、学生がより学ぶことの意味や喜びを発見し、学問への意欲と関心を高め、授業への参加意識を高めることができる〔教師への有効性〕。
3 学生たちは、学びの教室を地域社会へと大きく広げることで、アカデミズムの本質や社会的役割を理解しつつ、生活者や社会課題の実態にそくした生きた学問が学べるとともに、学ぶ力を育み、学問への理解度を高めることができる〔学生への有効性〕。
4 地域社会にとって、高校や大学のもつ専門的知識や技術、問題解決能力、学生の若いパワーなどの知的・人的資源が提供されることは、社会課題の解決や活力ある地域社会を創るために有効的であり、地域の必要不可欠な力である〔地域社会への有効性〕。

5. 大学に広がりつつある学生のボランティア活動支援システム
 2004年10月に、独立行政法人『日本学生支援機構』が、全国1,247の大学・短期大学・高等専門学校を調査した『大学のボランティア情報の収集・提供の体制に関する調査分析・集計結果』を紹介によれば、大学等の学内において、ボランティア情報の提供や活動相談の担当部署を設置している大学は、年とともに増加傾向にあり、全体の82パーセントに達していまる。
 その業務の内容については「ボランティア情報の収集と提供」(77パーセント)、「ボランティア希望者と受け入れ先との需給調整」(31.4パーセント)、「ボランティア団体との交流・情報交換」(16.1パーセント)、「ボランティア活動の企画実施」(12.6パーセント)、「授業に関連したボランティア実習等の連絡調整」(12.1パーセント)となっています。また、学内に「ボランティア・コーディネーター」などの専門的知識をもつスタッフを配置している大学も増えつつある。
 また、イギリスの大学で伝統的に実施されている『ギャップイヤー制度』(就学猶予制度)のように、大学入学資格取得後に約一年間程度まで国内外でボランティアが出来る制度や、就学中や卒業資格取得後のボランティア休暇制度づくりも課題となっている。

6. 英国の「市民教育」(Citizenship Education)とボランティア学習
(1) 「市民教育」とは何か
 1998年イギリス政府の『市民教育助言委員会』が「学校での市民教育と民主主義の教育」(Education for citizenship and the teaching of democracy in school)と題したレポートを提出し、政治への関心の向上、地域のための行動できる人材の育成、多様な社会を結びつけていくための「市民意識」の育成などを目的に誕生した科目を登場させることになった。
 このレポートをもとに、イギリス政府『教育技能省』(Department for Education and Skills)は、2002年9月から新しい教科「市民教育」(Citizenship Education)をスタートさせた。「市民教育」はつぎの3つの構成要素から成り立っている。
  1 生徒の精神的、社会的、文化的成長を促進し、学校の教室や教室を超えた場においても、より自尊心と責任感のある人間を育成する「社会的・道徳的責任」(social and moral responsibility
2 学校や近隣、地域、そしてより広い世界における生活において、生徒たちが有益な役割を果たすことを奨励する「コミュニティへの関与」(community involvement
3 経済社会や民主的組織の価値について教え、異なる国籍や、宗教、人種的アイデンティティを尊重することを奨励し、課題を発見し、反省し、議論に参加する生徒の能力を育成する「政治的能力」(political literacy)を育成する。
(2) 「地球市民教育」(Global Citizenship Education)の導入
 「市民教育」の政策立案のプロセスには、多様な研究者とともに多様な市民セクターが企画立案に参画した。が、なかでも教育内容のなかに、とくに人権教育、開発教育、グローバル教育、多文化共生などといった「地球規模の課題」や「グローバルでローカルな教育」の視点が取り入れられた。
(3) ボランタリーセクターの学校教育への参画時代がはじまる
 そうした新しい学習の充実のためには、市民社会を基盤として多様な教育スキルを開発している“市民非営利セクター”(Voluntary Sector)の参加を必要とし、学校教育を推進していくためのパートナーシップは不可欠なものだと考えている。
 そこで、イギリス政府は全国各地で展開するボランタリ組織に業務委託をした、青少年の地域社会におけるボランティア学習を企画した『ミレニアムボランティア計画』を推進している。
(4) 「市民教育」の特徴
  1 Citizenship」という教科の授業枠を設定して行ってもいいし、各教科の授業のなかに少しずつ埋め込まれて実践(クロスカリキュラム)されてもよく、授業配分も各学校にまかされている。
2 生徒たちが学習内容に対して意見が言える環境をつくり、主体性を育む教育方法が強調されている。
3 知的理解だけでなく、議会や裁判所などを活用した模擬議会や模擬裁判、社会問題を解決するために貢献する体験的理解などがを重要視する。
4 評価については、従来の8段階を避けて、そのかわりの学習到達目標である「達成に向かっている」(working towards)「達成した」(achieving)「目標以上のことをした」(working beyond)という形で評価され、評価法も学校や教師にまかされている。また、評価の方法として、生徒自身による自己評価(自分の活動がどのようにうまくいったか、何を学んだか、改善点はどこか、つぎのステップはなにか)や、ポートフォリオ評価(活動の成果をファイルに保存する)などの評価も行われている。

7. 青少年を人生と社会の主役にするために
(1) ボランティアとは社会の意志決定に参画すること
  1 若者を社会の意志決定機関に参加させ、多様な人びとと出会い、社会を知り、批判的思考方法を磨き、社会の課題を発見する感性と問題意識を育み、社会のなかで影響力を発揮できるようにするための学びのチャンス「Citizenship Learning」や学習カリキュラムを開拓する。
2 若者が「道徳的」「文化的」「社会的」「政治的」責任意識を育むために、教育機関とNPOとの“教育活動の協働”を促進する。とくにNPOは、多様な実戦経験を生かした教育理念や方法、教材などを開拓し、学校教育や社会教育のパートナーとして活躍が期待されている。
(2) 自己実現のための学び“教育的モラトリアム期間”を社会に定着させる
  1 英国の『ギャップイヤー制度』は、18歳から25歳の青年を対象にした、大学等の“就学猶予制度”として注目されている。若者は、大学入学資格を獲得後に最大16カ月間(夏期休暇を含む)に渡り、国内外でボランティア活動、就労体験などを経験することができる。
2 それは“人生の設計”や自己の理想とする“人間像”を探り、職業観を育み、これから学ぶ大学教育への“学ぶアイデンティティ”を獲得するための“教育的モラトリアム期間”である。
(3) すべての若者たちに“ボランティアになるチャンス”をつくりだす
  1 日本ではいま、若者が“アウトサイダー化”され、安価な労働力や消費人間として商品市場に深くからめとられていく現象が起こっている。
2 “若者の市場原理”から脱却し、若者を社会の構成員の中心として明確に位置づけし、社会の意志決定に参加させ、そのプロセスのなかで育ち、社会で影響力を発揮できることが可能な社会システムへと変革していくことが急務である。
3 ボランティア活動は、“人間としての自立”と“社会人としての自立”をすすめていくための学びと社会参画の場として無限の可能性を秘めている。

8. 多文化共生の時代の学びへ
(1) 多数者と少数者の間にある社会的不平等の解決と、文化の多様性(Diversity)を理解する機会を、教師が生徒をはじめ、保護者や地域社会に提供していくことである。
(2) 差別や制度的な不平等について、道徳的、文化的、社会的、政治的な視点から学び、その問題解決のために行動し貢献しながら学びを深めていく。
(3) すべての生徒は、不安定な民族的に対立している国家や世界における問題を解決していくことができる知識やスキル、寛容性を持った担い手(Active Citizens)になる。
(4) それぞれの人が、他者の文化の視点をとおして自分を見つめることによって、より深い自己理解をはかることが大切である。

興梠 寛(こうろきひろし)
ボランティア社会学研究者
■1948年宮崎県生まれ■新聞社勤務を経て、英国・コミュニティサービス・ボランティアズ(CSV)客員研究員、社団法人日本青年奉仕協会(JYVA)事務局長、IAVE(ボランティア活動推進国際協議会)日本代表、シャプラニール・市民による海外協力の会運営委員などを歴任。■現在は、ボランティア社会学や社会教育学の研究者として、昭和女子大学をはじめ、日本社会事業大学、恵泉女学園大学、拓殖大学、信州大学、岐阜県立看護大学、国際医療福祉大学、NHK学園等で教鞭をとる。■日本ボランティア学習協会代表理事、社会福祉法人世田谷ボランティア協会理事長、独立行政法人国立青少年教育振興機構理事、国立社会教育実践研究センター・全国体験活動ボランティア活動総合推進センター・コーディネーター、社団法人日本青年奉仕協会理事、東京ボランティア・市民活動センター運営委員、独立行政法人日本学生支援機構・学生のボランティア推進委員会委員長、チャイルドライン運営委員他、国内や海外のボランティア活動の推進や調査研究活動に携わる。■現在、文部科学省中央教育審議会臨時委員として「生涯学習分科会」「初等中等教育分科会」に参加。■近著に『希望への力~地球市民社会の「ボランティア学」』(光生館)、『英国の市民教育』(日本ボランティア学習協会)、『現代のエスプリ』(異文化理解、ボランタリズム)他多数。

©Hiroshi Koroki


ボランティアが築く市民社会モデル



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Volunteer Learning Component