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第2章 米国調査 ジョー・バーカ下院議員事務所(Congressman Joe Baca’s Office)

ジョー・バーカ下院議員事務所(Congressman Joe Baca’s Office

1    住所等
  ・ 住所 328 Cannon Building, Washington, DC 20515
TEL 202-225-6161
FAX 202-225-8671
URL http://www.house.gov/baca


2    調査日時
  ・ 平成15年7月29日(火曜日)15時~16時


3    対応者
  ・ Oscar T. Ramirez氏 (Assistant Legislative Director


   
4    概要
(1)  ジョー・バーカ議員が法案を提出した背景について
 ラテン系アメリカ人のジョー・バーカ(Joe Baca)氏はカリフォルニア州選出の下院議員で、最初に選出されたのは1999年11月である。バーカ氏のホームページには、彼が多くの教育に関する法案のスポンサーになっている事実が記載されており、バーカ議員が特に教育問題に関心を持っていることが読み取れる。
 インタビューに対応してくれたRamirez氏によると、2002年3月か4月頃にカリフォルニア州の保護者から、バーカ議員事務所に「グランド・セフト・オート(Grand Theft Auto)」というゲームソフトに対する不満の電話がかかってきたことがきっかけで、テレビゲームに関する調査を開始した。
 確かにテレビゲームには良いものも存在していることは事実である。例えば、2週間ほど前にゲーム業界が議会を訪問し、良いゲームなどを見る機会があった。消防士の訓練シミュレーションや子ども用の誘拐対策ゲームなどがあり、これらは良いゲームであるが、バーカ議員が心配しているのは、性的・暴力的な内容があるもの、特に強姦のシーンなどのあるゲームであり、この類のテレビゲームは制作されるべきではないと考えている。
 また、ゲーム業界では、ヒット作品が生まれると似たようなゲームが増えて、性的・暴力的なゲームが増えるという傾向がある。しかし、政府はもちろん、業界団体も、制作現場に赴いてゲームの中身について指示を与えることはできないので、性的・暴力的なテレビゲームが子どもの手に入らないような対策を講じる必要があると考え、法案提出に至ったということであった。青少年の問題行動を考える場合、ゲームは一つの側面でしかないが、なぜテレビゲームの問題に取り組んでいるかというと、多くの人々が強い関心を持っていてそれを求めているからである。

(2)  「テレビゲームの性や暴力から子どもを守る法案」について
 バーカ議員は、2002年5月2日に最初の法案を下院の司法委員会に提出している。その法案においては下記のように8つの内容を示し、これらを含むソフトウェアの未成年への販売を禁止している。しかし、具体的な内容を示したが故に、憲法修正第一条の表現の自由との関連でこの法案は通らなかった。になっている事実が記載されており、バーカ議員が特に教育問題に関心を持っていることが読み取れる。
 そこで、2003年2月11日に再度提出された法案では、法律として採択されやすいように工夫し、子どもに有害なゲームの販売・賃貸を取り締まる、という単純な表現にしている。なぜそのようにしたかについて対応者のRamirez氏は、「最高裁は子どもに有害な性的内容に対しては、子どもを保護する意味で政府の介入を認める、という特例を定めているので、この特例を利用することで、性的な内容を強調しながらも暴力的な内容も含めるように工夫した」と説明していた。(資料編135~140ページ)
 なお、この法案における未成年とは17歳以下の者を指している。


2002年5月2日提出法案の内容
1   提案理由

 テレビゲーム産業は93億ドルの市場を持つに至り、現在も毎年15パーセントの成長を遂げている。
 性的・暴力的内容を含むテレビゲームの使用及び視聴は未成年者に有害であり、妥当な制限によって、これらのゲームを使用する未成年の数を有意に減少させることができる。
 エンターテインメントソフトウェア産業から出されているテレビゲームの格付けや説明書には、ある種のテレビゲームは生々しい性や暴力描写があるため成人だけに限られる、とある。
 2001年12月、連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)の調査で、保護者を伴わない13歳から16歳までの未成年者の78パーセントが「M」(17歳以上推奨)と格付けされたソフトウェアを買うことができたと報告している。
 テレビゲームの販売は全国規模で行われているため、実質的には州際通商を脅かしている。
 未成年者が生々しい性や暴力描写のある成人向けのテレビゲームを購入できないようにすることに対し、国民的な関心があると議会は認識している。
 性的・暴力的内容を含む成人向けのテレビゲームを未成年に販売、又は使用を禁止するための細部まで行き届いた法律を制定する必要がある。

2    「未成年者に対するテレビゲームの販売及び賃貸の禁止」条項の文案

 以下の内容を含むテレビゲームを未成年に販売・賃貸する者、又は販売・賃貸を試みる者は、この条項のもとに罰せられる。
 頭部の切断、手足の切断、人体をバラバラあるいはズタズタにする
 凶器の使用、あるいは、格闘による人間又は人間に類似した生物の殺害
 乗り物の乗っ取り
 非合法な麻薬の使用
 強姦その他の性的暴行
 売春
 強烈な暴行
 その他の暴力的重罪行為

2003年2月11日提出法案の内容
1   提案理由

 テレビゲーム産業は100億ドルの市場を持つに至り、現在も毎年15パーセントの成長を遂げている。
 性的・暴力的内容を含むテレビゲームの使用及び視聴は未成年者に有害であり、妥当な制限によって、これらのゲームを使用する未成年の数を有意に減少させることができる。
  2000年6月26日、アメリカ医学学会、アメリカ小児科学会、アメリカ家庭医学会、アメリカ青少年精神医学会など、合衆国の6つの最も重視されている公的衛生団体は、娯楽的暴力視聴は特に子どもたちの暴力的態度・行動・価値観を助長し得るとしている
 エンターテインメントソフトウェア産業から出されているテレビゲームの格付けや説明書には、ある種のテレビゲームは生々しい性や暴力描写があるため成人だけに限られる、とある。
 2001年12月、FTCの調査で、保護者を伴わない13歳から16歳までの未成年者の78パーセントが「M」(17歳以上推奨)と格付けされたソフトウェアを買うことができたと報告している。
 テレビゲームの販売は全国規模で行われているため、実質的には州際通商を脅かしている。
 未成年者が生々しい性や暴力描写のある成人向けのテレビゲームを購入できないようにすることに対し、国民的な関心があると議会は認識している。
 性的・暴力的内容を含む成人向けのテレビゲームを未成年に販売、又は使用を禁止するための細部まで行き届いた法律を制定する必要があり、またそのような法律はこれらのテレビゲームへの成人によるアクセスを制限しない

2    「未成年者に対するテレビゲームの販売及び賃貸の禁止」条項の文案

  裸体、性的行為、その他の未成年に有害な内容を含むテレビゲームを、未成年に販売・賃貸する者、又は販売・賃貸を試みる者はこの条項の下に罰せられる

(※下線部が2002年の法案と異なる部分。)

(3)  法案通過の可能性
 法案通過の可能性については、肯定的な側面と否定的な側面が対応者のRamirez氏によって述べられたが、彼の話を総合すると、法案通過は簡単ではないとの印象を得た。

1 肯定的な側面
 例えば8thと7th裁判区は、テレビゲームと子どもへの悪影響との関係を証明する必要性を説いており、裁判所は、両者の関連性があると判断した場合は、購入できる・できないの規制を行いやすくなると考えている。例えば2001年のFTC調査では、暴力的なゲームと子どもの暴力性との関係を科学的に調査しており、これからこのような調査に時間が費やされるようになれば、子どもへの悪影響がより明確になると考えている。
 2002年の法案では、売春や殺人など8つの内容のカテゴリーを設けて販売を取り締まろうとしたがうまくいかなかったので、2003年の法案では、70年代の最高裁の判断(未成年に有害である猥褻な表現については政府が規制できる)を利用して、猥褻という定義に沿った形で暴力も加えて、拡大しようと試みているので、これがうまく行けば法案が通るかもしれない。
 何が猥褻かどうかは、裁判所が決定するが、裁判所のポルノに関する過去の判例が利用できると考えている。何が猥褻かどうか定義することは難しくても、見れば猥褻かどうか明白である、という考えを利用していくつもりである。このようにすると抽象的な法律になってしまう可能性があるが、逆に抽象的であるため販売者側は違法性を恐れるがために、とりあえず子どもに販売をするのを避けるというような抑止効果が期待できるのではないか。
 また、インターネット上の有害内容を取り締まろうとする法案は存在するが、子どもと大人を分けることができないので、その実施は難しい。これに対して、小売店レベルでは、子どもへの販売を限定することができるので、実施しやすいと考えている。
 最後に、バーカ議員の選挙区にはサンノゼが含まれないので、多少やりやすい面があると考えられる。なぜなら、サンノゼ代表の議員は、法案を支持すると表明した2ヵ月後にシリコンバレーからの反発を受けて支持を取り消しているからである。

2 否定的な側面
 Ramirez氏によれば、法案が可決される可能性は非常に少ないということであった。まず憲法修正第一条の問題があり、バーカ議員の友人も「その問題には触れるな」という考えを持っているそうである。共和党でも政府が介入する問題ではないという考えを持つ議員が多いが、一方では支持する人間もいる。例えば、共和党においては、モラルの問題からゲームの中身を問題視する議員が存在し、また民主党においても、暴力的なゲームとコロンバイン高校の銃乱射事件などと結びつける議員が存在するのも事実である。
 憲法修正第一条との関連で、小売店の販売を規制することは難しいかもしれない。そこで、別の方法として購入者に罰金を課すという方法もあるが、購入者の大半が保護者であることを考えると、政治的に実現させることは難しいと考えられる。
 また、2003年6月に8th裁判区が、セントルイスの規制条例(「暴力や露骨な性描写を含むゲームを17歳以下の未成年が購入する場合、又はゲームセンターで遊ぶ場合は保護者の事前の同意が必要である」という内容)を違憲としたことでマイナスの影響が生じている。この違憲判決により、法案の協力者が減っているという事実もある。
 そこで代案の1つとして、決議案を書くことが考えられる。この決議書には法的執行力はないが、可決される可能性は高い。決議案によって業界の自主規制を強化させるという効果があるかもしれない。
 2つ目の代案としては、性的な問題と暴力的な問題を別々に扱い、法案を二分することが挙げられる。性的な表現については、憲法修正第一条でも特例が設けられているため、法案が可決する可能性が高いので、これをまず可決させてから、暴力的な内容を取り締まる法案を可決させる、という手段もある。この二分案に関連することとして、米国では、性的な表現と暴力的な表現のどちらが有害かについては考えが分かれている。民主党系や医療関係者は、暴力的な表現が問題だと見ており、これに対し共和党系保守派は性的な表現を問題視しているという事実がある。
 最後に、2月のニューヨークタイムズの記事で書かれているように、ゲーム業界は100億ドル産業なので、議会にロビイストを大量に送り込み法案成立を阻止しようとしている。法案支持団体としては保護者が大半を占めているので、資金力ではゲーム業界に到底太刀打ちできないが、全米の保護者に情報を発信することで、さらに協力者を拡大しようとしている。

(4)  レーティングについて
 エンターテインメントソフトウェア協会(ESA(イサ):Entertainment Software Association)会長のLowenstein氏も、「完全にレーティング・システムに満足している訳ではない」と言っているように、完全なレーティングは難しいと考えている。そこで、FTCには、直接的にテレビゲームを規制する権限はないが、規制やレーティング・システムをつくる権限を与えるべきだという議論も行われたことがある。現状では、ESRB(Entertainment Software Rating Board)が自主的なレーティングを行っているだけであり、FTCは、情報を発信するという役割を負っている。例えばその一環として、FTCは2003年10月にワークショップを計画している。
 また、レーティングの方法であるが、「T」や「E」に格付けされていてもそれが不適切に思えるゲームがあるので、レーティングだけに頼るのではなく実際の内容にも注目すべきだと考えている。
 さらに、レーティングが存在しても、無視されたり実施が不完全なことも考えられる。小売店では、「M」(17歳以上推奨)ゲームの販売をレジで取り締まる工夫をしているところもあるが、完全に取り締まることは難しいだろう。
 最後に、民間団体による格付けは変更になる恐れがある。バーカ議員が2002年に提出した法案では、「M」ゲームの子どもへの販売を規制したが、例えば法制化した後にゲームの格付けが変更されると困ってしまう。そこで、2003年の法案では、主に中身を取り締まる内容に変更している。

(5) その他
 ワシントン州には、マイクロソフトや米国任天堂があるので、「警官などの法の執行者に対する暴力描写があるテレビゲームを17歳以下に販売することを禁止する」法律が制定されたときは驚いたが、業界側としてはこの程度の法律ならば構わないという譲歩があったと聞いている。
 また、保護者の役割は最初で最後の砦だと考えられるので大変重要だが、ゲーム業界は、これを理由に業界としての責任を放棄してはならないと考えている。もちろん保護者は積極的に子どものゲーム問題に参加するべきだが、バーカ議員の法案は、小売店にもその責任を取らせることを意図している。

5    コメント【佐々木委員】
 対応者であるRamirez氏はインタビューの中でアメリカの1970年代の猥褻判断に何度か言及していた。おそらくこれは、1968年の「ギンズバーグ対ニューヨーク事件」(Ginsberg v. New York, 390 U.S. 629)、及び、1973年の「ミラー対カリフォルニア事件」(miller v. California, 423 U.S. 15)のことを指していると考えられる。
 1968年の「ギンズバーグ対ニューヨーク事件」裁判では、成人にとっては猥褻とは言えなくても17歳未満の未成年にとっては猥褻であると思われる雑誌販売の禁止を認めている。
 また、1973年の「ミラー対カリフォルニア事件」の裁判では、猥褻判断基準として、1)全体として好色的な興味に訴えている、2)明らかに不快な方法で性的行為を描いている、3)全体として芸術性などの真面目な価値視点を欠いている、の3項目を示している。
 特に、「ミラー対カリフォルニア事件」判決で示された基準から分かるように、具体的な行為を示すと言うよりは、包括的な基準を示すことで、その時々の事件に関わる人々が判断できるようにしており、2003年のバーカ議員の法案はこれに添った形でその通過を目指しているようである。
 このように、表現の自由の国アメリカにおいても、その権利にはある程度の制限が存在し、その制限枠に添った形で、テレビゲームについての規制を行うことも可能であるとの印象を持った。
 同時に、このような法案を通すことの難しさも痛感した。議員の中には「表現の自由」の問題には触れるべきではないと考えている者が少なからず存在することを再認識した。そのような中で、なぜバーカ議員があえて法案を提出したかについての真意を感じることもできた。
 バーカ議員は教育問題に強い関心を持っており、子どもに対する悪影響を放っておけなかったのであろう。今回の米国調査中に、問題の発端となったテレビゲームの1つである「グランド・セフト・オート」の一部を見ることができたが、目を背けたくなるようなシーンの続出であった。このような刺激性の大変強い映像を、発達途中の子どもたちが継続的に視聴した場合、悪影響は当然予想されるし、何よりもほぼすべての保護者はそのような映像を子どもから遠ざけたいと思うであろう。そのような保護者の、性的・暴力的映像を子どもに見せたくないという、いわば有害映像を子どもから遠ざける権利のようなものはどこで保護されるのだろうかという疑問を持った。
 テレビゲームを含む、子どもに有害なメディア情報については、このような保護者の思いを、例えばPTAのような全国的な組織を通じて各方面に訴え、しかるべき規制(自主規制も含む。)が施行されると同時に、保護者の意識を高めることで、メディア・リテラシー教育が普及・促進されることを望みたい。

6    参考資料等
  ・ バーカ下院議員事務所のウェブサイト(http://www.house.gov/baca/