ここからサイトの主なメニューです

第4章 「子どもとインターネット」のより良い関係のために

1   「子どもとインターネット」をめぐる状況

  インターネットが開発された当時は、インターネットに接続するためには一定の知識が必要とされた。しかし、現在では利用者は専門的な知識がなくとも簡単にインターネットを利用することができるようになっており、一般家庭にも普及が進んでいる。このような中で、「子どもとインターネット」をめぐって次のような状況があると思われる。

(1)   無防備な一般の利用者
  インターネット上では、誰が、いつ、誰に対して、どのような内容の通信を行ったか、あるいはどのサイトにアクセスしたかなどは、すべてサーバー管理者やホームページ運営者側に記録されており、一般の利用者はこの点を常に意識しなければならない。その意味でオープンな世界であるが、利用者には個人的な情報は全世界に向けてオープンな状態にあるという実感がないのが一般的である。
  例えば、電子メールについても、利用者は、一般には通信内容は第三者には読まれないと思っているが、実際には、通信内容、送信者、受信者などの情報が運営・管理する側に記録されており、このような個人情報や通信内容などが流出することに伴い、第三者に悪用されたり、犯罪に巻き込まれるなどの危険性が常に存在する。
  電子メールは第三者に通信内容等が明らかになる可能性があるという点で葉書と類似しているが、情報内容を切り取ったり貼り付けたりして二次的、三次的使用が可能であるという点で、葉書と比べて情報量は多く、それだけ危険性は高いといえる。この点は、パソコンであると携帯電話であるとを問わない。なお、カメラ付き携帯電話については、気軽に写真画像を送信できるという利便性はあるが、特に個人写真の場合などはプライバシー上の問題は大きいと思われる(加えて、今後は著作権上の問題も出てくると考えられる。)。
  また、家庭や個人で自らのホームページを開設している例があるが、個人情報が容易に入手され得る状態で犯罪等を誘発するおそれもあり、無防備過ぎると思われる。
  以上のように、個人的な情報が世界に向けてオープンな状態であることを悪用する専門知識を持った者が常に存在し、その意味で一般利用者は常にインターネットの脅威にさらされている。そのような悪意のある専門知識を持った利用者の前で、一般利用者は全くの無防備状態にあり、まともに戦えるものではない。セキュリティ・ソフトを利用するなどして、悪意ある利用者を近づけないことが肝要である。

(2)   携帯電話に関する問題
  日本における「子どもとインターネット」の問題に関しては、パソコンとともに携帯電話が大きな問題となっている。「迷惑メール」問題のほか、いわゆる「出会い系サイト」の利用を通じて子どもが犯罪等の被害に遭うことが社会問題化していることは周知のとおりである。
  また、通信料金の問題もある。パソコンによる電子メールの送受信には料金はかからないが、携帯電話による電子メールの送受信の場合は料金(パケット料)がかかる仕組みになっている(なお、一部の事業者は無料で電子メールサービスを提供している。)。カメラ付き携帯電話の場合は、写真画像を携帯電話で送受信する場合はデータ量が多いため料金も高くなる。便利なので利用者は多いが、料金がかかっているという認識はあまりないのが一般的である。このような受信者が料金負担者であるシステムが「迷惑メール」問題につながっており、携帯電話事業者が技術的に配慮すべき余地があると思われる。

(3)   子どもや保護者の認識
  一般的に、子どもは、判断力がないというよりも、インターネット上に潜在する「危険」に対する認識が薄いと思われる。例えば、携帯電話接続のインターネット利用に関し、通信料を支払うことができなくなり、極端な場合には児童買春等の被害に巻き込まれるような例もある。
  また、保護者もインターネットの基本的な仕組みやそこに潜在する「危険」などについての認識は薄いと思われる。このため、子どもが「危険」に遭遇することを防止したり、遭遇した場合の対処方法などについて子どもに適切な助言を与えることができないという状況である。

(4)   家庭や地域での取組の遅れ
インターネット上に潜在する「危険」に対する認識が薄いことなどから、「子どもとインターネット」の問題に対する社会的関心は決して高くなく、家庭や地域での取組は遅れている。つまり、「子どもを違法・有害情報から守るには、家庭や地域で何をなすべきか」あるいは「インターネットを子どもにとって『良いメディア』にするには、家庭や地域で何をなすべきか」といった議論や実践(情報提供、ネットワークの構築等を含む。)が少ない。

(5)   フィルタリング・ソフトに関する問題
  フィルタリング・ソフトは、ポルノなど特定の内容の情報への接続を受信者が選択的に阻止できるもので、財団法人インターネット協会などの関係団体や企業などが無償又は有償で提供している。
  提供している企業はそれぞれが独自の取組を行っていて連携が取られていないため、ソフトにより規制精度は異なっている。
  また、フィルタリングを行うためには各種情報を収集した上で、それらを格付け(レイティング)し、子どもにとって有害な又は不適切な情報をリスト化(ブラックリスト)する必要があるが、インターネット上では様々なサイトが日々新たに開設されては閉鎖されるという状況にあることから、日々変化するインターネット上の情報を収集することはボランティアでは困難で、非常にコストがかかるという問題がある。

(6)   学校におけるインターネット上の子どもの安全
  日本の学校では、インターネットを通じて情報発信する際には、子どもの顔や名前などプライバシーに関することを掲載しないようにチェックすることとされているが、実際には学校により温度差があり、試行錯誤の段階である。
  他方、例えば、保育所の様子をインターネットを通じて保護者に対してライブ中継をするというサービスが行なわれている例があるが、第三者が見ることも可能であり、子どもの安全確保の点では、問題があると思われる。
  なお、日本ではインターネット上で子どもが作文や絵画などを掲載する場合、子どもの安全確保のために個人情報を掲載しないということと、子ども本人や保護者が著作権を主張することとは、相容れない問題であり、今後の検討課題の一つである。

2   「子どもとインターネット」のより良い関係のために

  「子どもとインターネット」の問題は複雑である。したがって、インターネット上に潜在する危険から子どもを守り、インターネットを子どもにとって良いメディアにするためには、幅広い取組を社会全体で進めていくことが重要となる。
  その意味では、社会を構成する一人一人がそれぞれの分野においてこの問題に取り組んでいくことが必要となるが、今回の調査研究は、家庭や地域での取組を進めるためにどのようなことが必要なのかという視点に立って、米国での取組を中心にして実施した。
  この観点から、協力者会議では日本における「子どもとインターネット」に関する様々な状況を踏まえた上で、米国でのNPO等の取組を参考にしながら議論を重ねたが、その結果、次のようなことが家庭や地域での取組の推進に寄与するものと思われる。

1   家庭に対する様々な情報提供

2   幅広い啓発広報による社会的意識の向上

3   メディア・リテラシー又は情報リテラシーを養う教育の推進

4   子どもの安全・プライバシーの保護

5   フィルタリング・システムの普及

6   図書館・図書館司書の役割

7   家庭、学校、産業界、行政、NPO等の連携



  インターネット上に潜在する危険から子どもを守るために、子どもや保護者に対する情報提供が必要である。

  家庭や地域での取組を推進する観点から、まず、インターネット上には子どもにとっての危険が潜在することやその対処方法などについて、家庭や地域に様々な情報を提供していくことが必要であると考えられる。

(1)   インターネットに潜在する危険やその対応策などに関する情報提供
  インターネット上では子どもにとって様々な危険が潜在していることを保護者等に知らせるとともに、それらの危険に対し、具体的にどのように対処すべきかということについて情報を提供することが必要である。
  GetNetWiseは、ウェブ上で「インターネットにどのような危険が潜んでいるか」、「それにどのように対処したらよいか」、「どのような心がけが必要か」などということについて情報提供をしている(25~26ページ参照)。
  「インターネットに潜む危険」については、危険な人物に接触してしまうこと、個人情報が漏れること、性、暴力等に関する不適切な情報に接することなどに関して説明をしている。また、これらの危険について、インターネットの使い方(例えば、ウェブサイトの閲覧、ウェブサイトの公開、チャット、電子メール等)により分類して説明している。対処方法などについては、「子ども」、「10代(teens)」、「家庭用」に分けて留意事項を説明するとともに、年齢ごとに、どのような危険にさらされやすいか、それに対し保護者はどのように対処すべきかが説明されている。
  米国図書館協会(ALA)は、ウェブ上で、子どもに適切なサイトを選択する際のガイドラインや保護者が知っておくべきこと、インターネット上の子どもの安全を確保するためのルールなどの情報を提供している(61~62ページ参照)。また、図書館ではインターネットを情報アクセスのツールとして活用しているが、子どもが不適切なサイトを閲覧している場合などには司書がアドバイスをするなど、ウェブ上以外での取組も行っている。
  なお、各図書館ではそれぞれ固有の取組も行なっている。例えば、リバプール公立図書館では子ども向けサイトと保護者向けサイトを開設して、前者では検索ツール、図書の紹介や宿題をサポートするような情報を、後者ではインターネットの安全に関するガイドや保護者としての心構え、保護者への推奨サイトなどに関する情報を提供している(70~71ページ参照)。
  ERIC(Educational Resouces Information Center)では、既にある成果物を検索し、情報として役立つものを選び出し、それを必要とする利用者に情報提供している。例えば、「internet safety(インターネット上の安全)」で検索すると関連する研究や実践に関するデータを入手することができる。また、「filter」で検索すると推薦できるフィルタリング・ソフトのリストを入手することができる。さらに、教育者のために様々な授業案(lesson plans)情報を入手することができる(77~80ページ参照)。

(2)   推薦サイトのリスト(ホワイトリスト)に関する情報提供
  子どもにとって不適切あるいは有害なサイトのリスト(ブラックリスト)のみならず、推薦サイトのリスト(ホワイトリスト)に関する情報提供を行っていくことも、「子どもとインターネット」のより良い関係を構築することに寄与すると思われる。
  Net-Momは、司書の資格を持つ代表者が科学的・客観的視点と情報の案内役としての豊富な実務経験に基づき、膨大なウェブサイトの検証・分析・分類を行い、推薦サイトのリストを情報誌にまとめている(18ページ、20~21ページ参照)。そして、この中から特に推薦すべき100サイトを抽出しウェブ上で公開している。これらは子どもの個性やニーズに合うよう、11のカテゴリーに分類して紹介されている(19ページ参照)。インターネット時代の子どもの日常生活に焦点を合わせ、家庭における親子のコミュニケーションに重点を置いた紹介をし、また、「こうしなさい、ああしなさい」という代わりに「こういうのはどう、ああいうのはどう」という選択肢をできるだけ多く提案している。
  GetNetWiseは、子どもにとって適切なサイトのリンク集を提供している。GetNetWiseの支援団体であるAmerica OnlineDisney OnlineMicrosoft等が提供している子ども向けサイトのリンク集のほか、様々なリンク集を提供している(27ページ参照)。
  米国図書館協会では、子どもに適切なサイトを選択する際のガイドラインをウェブ上で提供するとともに、推薦サイトも提供している。また、各図書館でもそれぞれ推薦サイトのリストを提供している。さらに、図書館を訪れた子どもや保護者に対して、司書が子どもに有用なサイトの紹介や「子どもとインターネット」に関する推薦図書などの情報提供も行なっている(61~63ページ参照)。
  なお、ICRA(Internet Content Rating Association)がラベリング・システムを無償提供しているが(47~50ページ参照)、このデータベース自体はブラックリストのデータベースとなっている。このようにラベリング・システムを無償提供をしているのは現にICRAだけであることから、例えば、教育現場、図書館、NPO等の民間団体などが連携して様々な推薦サイトに関する情報をICRAのサーバーに提供することにより、ブラックリストのデータベースをホワイトリストのそれへと発展させていくことも一つのアイディアであると思われる。

(3)   様々なツールに関する情報提供
  インターネットにおける子どもの安全を守るための様々なツールを紹介することも効果的であると思われる。
  GetNetWiseはウェブ上で様々なツールを紹介しており、ツールの種類(子ども用ブラウザ、個人情報等を発信させないソフト、暴力的な情報を受信しないソフト、性的な情報を受信しないソフト、使用時間を制限するソフト等)、ツールの対象(電子メール、チャット、ウェブ・ページ等)、使用機種の条件(ウィンドウズの各バージョンやマックなど)により、それぞれの家庭で必要なツールを検索し入手できるようになっている(26ページ参照)。

(4)   Q&Aサービスの提供
  保護者などのインターネットに関する知識は決して十分であるとはいえないことから、Q&Aサービスの提供は効果的であると思われる。
  Net-Momでは、インターネットの利用方法や技術的なトラブル、家庭での問題などについて、大きなテーマをあらかじめ用意して質問に答えるサービスを提供している(19ページ参照)。
  Kids' Space Foundationでは、子どもの電子メールをモニターしている保護者から相談を受けた場合には保護者に直接返事を送り、子どもからの問合せには子ども本人とその保護者に返事を送っている(35ページ参照)。
  これらのほか、米国図書館協会や各図書館などでもQ&Aサービスを提供している(それぞれ61ページ、68ページ参照)。
  ERICが提供しているAskERICというサービスでは、豊富なデータベースを基に、2日以内にメールで回答するシステムを採っている。また、バーチャル・レファレンス・デスク(Virtual Reference Desk)では、利用者の質問に答えられる最もふさわしいレファレンス・デスクを検索し、両者を引き合わせるなどのプロジェクトも実施している(78~79ページ参照)。

(5)   連絡機関、相談機関等に関する情報提供
  インターネット上のトラブルやインターネットを介した犯罪等の被害については、利用者はどこに連絡あるいは相談すべきか分からない場合が多いと思われるので、これらに関する情報を提供していくことも必要である。
  GetNetWiseは、インターネット上ではどのようなトラブルがあるかを説明した上で、その関連法規を紹介し、地元警察、連邦警察、相談や苦情を受け付けている政府機関やNPOなどへの連絡方法について情報提供している(27ページ参照)。
  なお、連絡・相談機関に関する情報提供ではないが、Kids' Space Foundationでは、子どもを標的にした大人の誘惑や犯罪につながるおそれのある嫌がらせ行為などを認知した場合には、政府機関や当該行為を取り扱うNPOに通報するシステムを採っている(35ページ参照)。

(6)   子どもの安全に配慮した教育的なサイトの運営
  インターネット上に潜在する子どもにとっての危険だけに目を向けるのではなく、インターネットの有用性を活用し、「子どもとインターネット」のより良い関係を構築するという観点からは、インターネット上の子どもの安全を確保しつつ、教育的に利用することも求められる。
  Kids' Space Foundationでは、バナー広告なしで安全性の高い教育サイト作りに取り組んでおり、子どもたちに体験と学びの場を提供しながら、国際交流と異文化理解のためのプロジェクトを実施している(33~34ページ参照)。「インターネットの教育的利用」という明確な目的の下にあらゆるセクションが構成されており、「自発的学習」と「コラボレーション」を核にした教育理念に則して、「創造性の育成」や「国際理解」のための各種プログラムが組まれている。
  また、Kids' Space Foundationでは子どものプライバシーと安全を守るため、ペンパルボックス(文通相手募集コーナー)で保護者の承認を義務付けたり、同サイトに掲載する前にすべてのメール内容を吟味し、うっかり個人情報が含まれていないかどうか、不適切な表現がないかどうかなどをチェックしている。それらが含まれており、書き直す必要がある場合にはその理由も合わせて子ども本人とその保護者に連絡している(36ページ参照)。

(7)   インターネット上以外(オフライン)での情報提供等
  子どもや保護者に対する情報提供等は、インターネット上にとどまらず、それ以外でも幅広く行っていくことが必要である。
  Net-Mom代表者は、家族向けのものとして全米1位の人気を誇るインターネット情報誌を6年間にわたり執筆している。また、これまで個人的に150万にも上るサイトを検証しており、子ども向けサイトに詳しいことから、様々なメディア企業のコンサルタントなども歴任している。加えて、業界団体の役員等も務めている(18~19ページ参照)。メディアのコンサルタントや業界団体の役員を務めることで、家庭のナマの声を送り手側に伝えるメッセンジャー的役割を果たしており、一般家庭の代弁者として企業の製品開発や政府の政策決定にも大きな影響力を持っている。
  Donna Rice Hughes氏は、インターネット上の子どもの危険の現状や子どもの安全性の確保について、数多くの全国的なあるいは国際的なインタビューを行うなど、インターネットを子どもにとって安全にするための全国的な運動に先駆的な役割を果たし、その結果、メディアや政治家と協働するようになった(39~40ページ参照)。彼女は、インターネットは利便性の高い、重要なツールであるとの前提に立ち、これを守るという観点からも、「インターネット上の子どもの安全」の問題に取り組んでいる。
  図書館では、来館者がインターネットを利用する場合、それをモニターしたり、個人のプライバシーを侵害するようなことはしない。しかし、他の利用者が気分を害するようなサイトを見ている場合や子どもが不適切なものを見ている場合には司書がアドバイスをする(61~62ページ参照)。そのほかにも、図書館では様々な取組を行なっており、例えば、リバプール公立図書館では、地域の中学生にウェブページの作成方法などを教えるプロジェクトやシニア向けにマウスの使い方などから始めてインターネットの利用方法まで幅広く指導している(69~70ページ参照)。



  「子どもとインターネット」の可能性と危険性に対する社会的意識を高めるために、全国的なキャンペーンなど幅広く啓発広報を行なうことが必要である。

  日本では、子どもが「出会い系サイト」などインターネットを利用した犯罪等の被害に遭う事犯が多発しているが、そもそも保護者など子どもを取り巻く大人がインターネット上の子どもの危険性や対応策について認識が不足していると思われる。したがって、全国的なキャンペーンなど幅広く啓発広報を行っていくことが必要である。これに関し、米国では次のような取組がみられる。

  Kids' Space Foundationは、インターネットの危険性は「コンテンツ」ではなく、「コンタクト」にあると考えている。コンテンツで子どもが死ぬことはないが、コンタクトでは誘拐、暴力、殺人等に発展する可能性があるからというのが理由である。そのため、インターネットを介したコンタクトの危険性について、保護者や教育者をさらに教育する必要があるとしている(35~36ページ参照)。
  Donna Rice Hughes氏は、全国的なキャンペーンの必要性を説きつつ、その効果的な実施の困難性も指摘している。実施に際しては、インターネット上に潜在する子どもにとっての危険が存在すること、インターネット上には子どもを狙う性的搾取者が存在していること、この性的搾取者は子どものふりをしてアプローチしてくることを保護者に認識させた上で、あわせて子どもを守るための対応策を教えることが重要であるとしている(42~43ページ参照)。
  ICRAはフィルタリング・システム等の普及を図っているNPOであるが、同時に公的な教育キャンペーン(public educational campaign)を通して、家庭や地域に対して、インターネットの使い方や危険性などリテラシー活動を全国的に行っている(52~53ページ参照)。
  米連邦取引委員会(FTC)は公正な市場競争の確保と消費者保護という観点から所要の規制等を行っているが、他方において学校や家庭における教育の必要性も強調している(86ページ参照)。

  しかし、社会的な啓発を行うことも含め、情報を如何に伝えていくかについては、米国調査の結果を見る限り、米国でも確立した方策があるわけではなく、まだ試行錯誤の段階で様々な方法を模索しているように思われる。



  情報の送受信に際し、的確に判断し対処することができる能力(メディア・リテラシー又は情報リテラシー)を身に付けることができるよう教育することが必要である。

  子どもにとって不適切あるいは有害な情報に関しては、情報発信者側に何らかの規制を加えることは必要である。しかし、このような不適切あるいは有害な情報の発信者は最先端の技術を持っており、発信される情報は無数にあることを考えると、情報発信者側に規制を加えることにより問題解決を図ることは、実効性の点から事実上困難な場合があると思われる。また、ホームページのほか、最近では電子メールやチャットにもフィルタリングをかけることができるような技術開発が進んでいるが、フィルタリングも決して万全なものではなく、有害・不適切な情報を完全に規制することは困難である。
  そこで、受信者であると同時に発信者でもある子どもが的確に判断し、対処することができる能力(メディア・リテラシー又は情報リテラシー)を身に付けることができるよう、教育していくことが必要である。

  米国図書館協会は、不適切あるいは有害な情報から子どもを守りたいのであれば、フィルタリングのような技術に依存するのではなく、このような情報から自らを守れるよう、インターネット上の情報の評価について子どもを教育することが大切であるとしている(63~65ページ参照)。
  リバプール公立図書館では、インターネットにおける子どもの安全を守るためには、子どもだけではなく保護者もまたメディア・リテラシーを身に付けることが肝要であるとして、今後はより多くの保護者が関心を持って参加できるようなプログラムを実施する必要があると考えている(72~73ページ参照)。

  日本においても、例えば、IT講習の前段階としてインターネット上の安全性の確保に関する講習を行ったり、幼少期に家庭教育の一環としてメディア・リテラシー又は情報リテラシーを養う教育を行なったり、保護者に対してインターネット上の危険やその対応策に関する情報提供をPTAも巻き込んで取り組んでいくことなどが考えられる。
  しかし、現実には、このような情報を批判的に読み解く力(メディア・リテラシー又は情報リテラシー)を身に付ける教育を行うための指導者が少ないことが問題である。
  なお、メディア・リテラシー又は情報リテラシーを養う教育は必要であるが、その一方で、例えば、書店やコンビニエンスストアなどに子どもにとって不適切あるいは有害な図書が子どもの手が届くところに置かれているなど、実際には子どもを取り巻く環境自体に問題があると思われることから、これについては社会全体の配慮が必要である。



  インターネットを介した「接触(コンタクト)」の危険から子どもを守るため、個人情報の取扱いには十分に注意する必要がある。

  インターネットを介した「接触(コンタクト)」により、子どもが誘拐、暴力、殺人等の被害に遭うおそれがある。

  既述のとおり、Kids' Space Foundationでは、インターネットの「コンテンツ」で子どもが死ぬことはないが、「コンタクト」により子どもが誘拐、暴力、殺人等に巻き込まれるおそれがあることから、インターネットの危険性は「コンテンツ」ではなく、「コンタクト」にあると考えている(35~36ページ参照)。
  そのため、インターネット上で子どものプライバシーと安全を守るため、例えば、ペンパルボックス(文通相手募集コーナー)では保護者の承認を義務付けたり、メールがサイトに掲載される前に内容をすべてチェックして子ども自身のメールアドレスや家族のことなど個人情報を削除したり、あるいは全体的に書き直す必要がある場合には理由を付して子ども本人と保護者に送り返すなど、様々な取組を行なっている(36ページ参照)。また、セイフティ・システムの開発や提案、子どもの安全を守るための政府機関等との協力なども行なっている(35ページ参照)。
  米連邦取引委員会(FTC)は、子どもとインターネットの問題に消費者保護という観点から関わっている。すなわち、商業的取引において個人情報が一方的に求められることは、取引の公正や対等性を阻害することとなることから、商業的取引の中にプライバシー情報が組み込まれていることを問題視している(83ページ参照)。このような観点から、COPPA(Children's Onlien Privacy Protection Act:児童オンライン・プライバシー保護法)が2000年から施行されている。この法律は、ある商業的ウェブサイトが13歳以下の子どもから個人情報を収集、使用又は公開をしようとする場合には、保護者の許可を義務付けるというものである(84ページ参照)。



  フィルタリング・システムの普及を図るため、一般の利用者が簡単に利用できるソフトを安価に提供することが必要である。また、高度な機能を持つソフトを開発することも大切である。

  日本でも様々なメーカーがフィルタリング・ソフトを提供しているが、ソフトにより規制精度が異なり、また保守料も含めると高額となるものが多い。例えば、教育現場では、高額なフィルタリング・ソフトが使用され、2年目以降保守料が支払えないために使われなくなっている。また、安いソフトは性能が落ちるのが現実である。

  ICRAでは、ラベリング・システムとフィルタリング・システムの普及を図っており、日本では財団法人インターネット協会の副理事長がICRAの理事として協働されて、SFSサーバーとラベリング・サーバーを無償で使用できるサービスを提供している(55ページ参照)。

  フィルタリング・システムの普及を図るためには、メーカーにおいても、一般の利用者が簡単に操作できるソフトを安価に提供することが必要である。
  なお、あるフィルタリング・メーカーはICRAに関して「法的な制約がないため、虚偽の申告や第三者機関の格付け後に内容を変更するケースが多いため、信頼できる規制精度を提供できていない」旨批判している。フィルタリングに関しては様々な考え方があるところであるが(20ページ、27~28ページ、41~42ページ、63~64ページ、71ページ参照)、ICRAも認めているとおり、フィルタリングは子どもにとって不適切あるいは有害なコンテンツに対する完全な解決策ではなく、解決策の一部に過ぎないのである(51ページ参照)。
  フィルタリング・ソフトの活用も含めて、子どもをインターネット上に潜在する危険から守るための対策を立てることが必要であると思われる。



  インターネット上の子どもにとって不適切あるいは有害な情報に対する方策を検討するに当たって、図書館や図書館司書は大きな役割を果たし得る。

  米国では、図書館は情報発信センターとして明確に位置付けられており、子どもとインターネットの問題に関しても「情報へのアクセスを保障する」という立場から関わっている。

  ALAが設立された目的は、人々の学識を高め、その情報アクセスを保障することである(58ページ参照)。公立図書館においては、富裕層・貧困層の別、都市圏・地方の別なく、利用者に対して同じ情報を提供しなければならないとALAは考えており、そのため、図書館は本の貸し出しをする場所であるとともに、英語を学習できる場所、読み書きを習う場所、市民権を得るための学習をする場所となっている(59~60ページ参照)。インターネットについては、図書館利用者への情報提供という面で大きな役割を果たすものとして、早期に導入を図ってきている(60~61ページ参照)。
  リバプール公立図書館でも、インターネットにおける子どもの安全を守ると同時に、「表現の自由」、「アクセスの自由」も大事にしていきたいと考えている(73ページ参照)。
  公立図書館等に対してフィルタリング・システムの導入を促進しようとする児童インターネット保護法(Children's Internet Protection Act)が制定されたときには、ALAは、フィルタリングが有益な情報までも遮断するおそれがあるとして、「情報へのアクセスを保障する」という立場から、この法律の廃止を求めて連邦政府に対して訴訟を提起した。連邦最高裁判所はALAの主張を全面的に支持し、この法律は施行されていない(61ページ参照)。なお、ALAは、子どもを有害情報から守るためには、フィルタリングという技術に頼るのではなく、自らを守ることができるように子どもを教育すべきだと考えている(63~64ページ参照)。

  また、米国では、インターネット上の不適切あるいは有害な情報に対する方策を検討していく上で、図書館司書の視点や知識が大きな役割を果たしている。

  ALAによれば、図書館司書は資格を取得するためにリサーチ・スキル(検索技術)や情報の質に関する判断に関して学ぶため(62ページ参照)、情報を仕分ける能力・技術が高く、その能力を活かした活動が多く成功しているということである。
  例えば、図書館司書の資格を持つNet-Momの代表者がシステム・技術担当者として長年勤めてきたリバプール公立図書館は、小さな町の一公立図書館であるにもかかわらず、全米図書館のトップ5入り(2000年)を果たすほど、インターネット分野で大きな成果を上げている(67ページ参照)。図書館における取組を推進していくためには、システムのサポート(具体的には、検索システム、データベース構築、Q&Aサービス等のサポート)ができる人材が不可欠なのである。
  図書館司書の役割について、リバプール公立図書館では、子どもを悪いものから良いものへと方向付けることであるとしている。インターネットに関しても図書館司書は同様の役割を果たすことができ、良い情報か悪い情報かを子ども自らが判断できる教育を行うことも図書館司書の重要な使命であると考えている(69ページ参照)。

  これらのことから、米国の図書館については概ね次のようなことが参考となると思われる。

1   地域のニーズや独自のポリシーに基づいた個性的な活動を行っていること。
2   ボランティアや友の会など、地域住民が一体となって図書館を支援していること。
3   地域の情報発信基地として、生活全般にわたる幅広い情報提供を行っていること。
4   図書館司書の使命感、社会的責任が強く、活動は情報の水先案内人としてのプロフェッショナリズムに支えられていること。



  「子どもとインターネット」のより良い関係を築くために、家庭、学校、産業界、行政、NPO等の関係者がそれぞれの立場で、あるいは相互に連携しながら取組を進めていくことが重要である。

  「子どもとインターネット」の問題は複雑であり、それがゆえに様々な方法により解決を図る努力をすることが必要である。家庭や地域での取組を推進するとは言っても、家庭や地域だけで進めることは現実には難しく、学校、図書館、NPO、産業界、行政、法執行機関等の関係者が連携しながら取り組んでいくことが肝要である。米国でも様々な形で連携が図られている(あるいは連携を図ることが必要であると考えている。)。

  Net-Momでは、代表者自身が図書館司書であり、またメディア企業のコンサルタントであり、「子どもとインターネット」の問題に取り組む非営利団体の役員などでもある。(18~19ページ参照)
  リバプール公立図書館は学校図書館との連携強化を課題とし(73ページ参照)、また、GetNetWiseも教育機関等他の団体やサイトなどとの連携強化を今後の課題としている(28ページ参照)。
  Kids' Space Foundationでは、子どもの安全を守るため、子どもを標的にした大人の誘惑や犯罪につながる嫌がらせ行為の捜査に協力したり、メールのやり取りの中でこのような行為が認められた場合には直ちに政府機関や関係団体に通報することとしている(35ページ参照)。
  ICRAはメディア企業と協力したコミュニティー・サイトの運営のほか、国際的な連携も推進していこうと考えている(54~55ページ参照)。
  ALAは政府機関や議会と密接な連携を取っており、同時に他のNPOやNGO、あるいはメディア企業とも良好な関係を持っている(64ページ参照)。

  米国では、米連邦取引委員会(FTC)の例からも分かるとおり、この問題に関して国を挙げて取り組んでいる。憲法の保障する表現の自由との関係でいくつかの法律に対して訴訟が提起されているが、連邦政府がインターネット上の子どもの安全を確保するために法的な規制に取り組んでおり、政府の役割は大きいと思われる。
  それと同時に、政府機関や教育機関などでは手が届かない分野があるので、この点においてNPOやNGOの役割は非常に重要である。今回調査したNPO等が何らかの形で他の団体等との連携を図っている(あるいは図ろうとしている)ことからも分かるとおり、行政、事業者、NPO等が連携・協力して対策を立て、それを実行していくことが必要である。