2.図書館に関する科目(改正図書館法第5条第1項第1号)の基本的な考え方

1.これからの司書に求められる資質・能力

  •  「これからの図書館像」を実現し、社会の変化に対応して図書館を改革するには、専門的職員としての司書は、地域社会の課題やそれに対する行政施策・手法、地域の情報要求の内容、図書館サービスの内容と可能性を学び、情報技術や経営能力を身につけることが必要であり、特に、コスト意識や将来のビジョンを持つことが重要である。
  •  このため、今後大学における司書の養成においては、図書館に関する基本的な知識・技術を身に付けるとともに、地域社会の課題や情報要求を把握する能力、行政に関する知識、各種の情報技術、図書館を経営する能力など、これからの司書に求められる資質や能力を形成するうえで、その基礎となる教育を体系的に行なうことが必要である。また、新しい図書館に対する展望を持ち、現状を積極的に改革できる人材が司書資格を取得することが強く求められるため、養成段階から、新しい図書館の在り方を理解できるようにすることも重要である。
  •  一方、専門的職員の養成は、大学における教育だけでは不十分であるため、図書館に就職した後の研修や自己研鑽の在り方についても、別途検討する必要がある。

2.図書館に関する科目を定める必要性

  •  大学及び司書講習における司書の養成は、図書館において専門的職員としての職務を遂行するための基礎を培うものであり、これから図書館の業務に就く者にとっては、必要不可欠なものである。
  •  図書館法が昭和25年に施行された当時は、図書館に関する科目を開講する大学が極めて少なく、司書講習を受講して資格を取得する者がほとんどを占めていたことから、法律上も、司書講習での取得を主たる手段として位置づけていた。
  •  そして、図書館に関する科目については、図書館法施行規則第4条第2項に基づき、司書講習の科目の単位に相当するものとして文部科学大臣が認めることで運用されてきた。
  •  その後、大学において図書館に関する科目の開講が広がり、平成19年度には、4年制大学155校、短期大学(部)100校で開講されている(19年度の司書講習実施大学は13校)が、これまで図書館法改正の機会がなかったため、制度上の位置づけは、今日まで同じ状態が続いている。
  •  しかしながら、元来、司書講習は、現職者を対象として設定されたものであり、修得すべき科目・単位数については、昭和25年の制定以来、2度の改正を経てより充実したものとなってきているが、あくまでも司書講習のための構成となっており、必ずしも大学の教育課程において行うにふさわしいものとなっていないという指摘がある。そのため、大学関係者の中には、講習科目を大学の課程に適用することに対して、非常に強い抵抗感があるという指摘もある。これらを背景として、図書館関係団体や大学教員等から、「図書館に関する科目」の明確化についての強い要望がある。
  •  このような状況を踏まえ、本協力者会議では、平成18年4月以降、「図書館に関する科目」の明確化に向けて、その科目・内容等の具体的な検討を進めてきた。また、検討の参考とするため、大学及び図書館関係団体からのヒアリングや意見照会等も行った。
  •  また、平成20年6月には、18年12月の教育基本法の改正等を踏まえ、図書館法の改正法等が成立した。
  •  本報告を踏まえ、国においては関係規定等の改正など必要な措置を速やかに講じ、高度化・多様化する学習ニーズに応えられる専門的職員を養成できるよう、司書の養成内容を改善・充実することが必要である。

3.図書館に関する科目内容の基本的な考え方

(1)科目の位置付けについて

  •  図書館に関する科目は、図書館で勤務し専門的職員として図書館サービス等を行うための基礎的な知識・技術を修得するものであり、専門的な知識・技術を身に付けるための入口として位置付けることが適切である。そして、その後の図書館の業務経験や研修及びその他の学習機会等による学習等を経て更に知識・技術を深め、真に図書館の専門的職員となるものであり、そのための基盤を形成するものと考える。
  •  専門的職員としての職務を遂行するための基礎を培うためには、体系的な基礎理論を確実に学ぶことが必要であり、理論を中心に、基礎的な知識の修得を重視することが必要である。さらに、修得した理論を演習において実践的に活用することにより、理論が現実に結びつき、さらに深く理解できるように工夫する必要がある。
  •  また、大学は、司書資格取得を目指す人たちが、初めて図書館について学ぶ場所である。このため、学生に図書館に関心を持ってもらうとともに、図書館の社会的意義や必要性などの理解を図り、図書館について認識を深めることが重要である。
  •  近年、図書館への就職は非常に厳しい状況が続いている。その中で、司書養成科目を履修する学生の学習意欲を継続できるよう、全ての科目の教育内容において、実際の社会の状況や図書館の状況を反映させるなど、教育内容等に工夫を図る必要がある。
  •  また、司書資格取得者の活躍の場としては、各種の図書館、企業や民間団体等の資料関係業務や図書館関連業務などが多数存在しており、これらに関する情報の提供も重要である。
  •  さらに、司書資格取得者が図書館を利用する場合には良き利用者となることが予想され、図書館のボランティアや図書館活動の支援者としても貴重な存在となることができ、結果として、図書館の利用者教育や支援者の育成の場にもなっている。
  •  なお、一部の大学や大学院では、図書館に関するより専門的な知識・技術を身につけるための科目を開講しており、専門的な知識・技術の向上の観点から、より多様な内容の科目が開講されることが期待される。また、社会人のための様々な教育機会や各種の研修の機会の拡大を通じて、その科目内容や教育内容が広く普及することが期待される。今後、これらの科目のあり方について、関係者の間で検討が行われることが望まれる。

(2)これからの司書の養成内容に必要な新たな視点

  •  これからの図書館像を実現するためには、司書が、今日の社会において図書館に期待される役割を理解し、社会の変化や住民のニーズに対応して図書館を改革していくことが必要である。
  •  このため、司書の養成段階においては、従来の養成内容に加えて、新たに、以下の視点から内容を見直す必要があると考える。
    • 社会の変化や地域の状況など図書館を取り巻く環境や制度等に関する知識が必要である。
    • 図書館の存在意義を理解し、外部の人々にそれを的確に説明できる能力が必要である。
    • 生涯学習社会に対応し、人々の学習活動を支援するとともに、様々な質問や問い合わせに対応するための知識や技術が必要である。
    • 高度化・多様化する学習ニーズに応えられる情報サービスを実施するための知識・技術が必要である。
    • 社会教育施設としての運営の仕組みや行政組織の中での位置づけを理解して図書館を経営する能力が必要である。
    • 他の社会教育施設や学校との関係、関係行政機関、民間の関係団体との関係等を理解し、連携・協力を進めていく能力が必要である。
  •  また、情報化の進展に伴い、電子媒体の利用を進め、印刷媒体とインターネット等による電子媒体を組み合わせて利用できる図書館(ハイブリッド図書館)を目指すことが緊急の課題となっている。データベースやインターネット等の電子情報の利用に関する知識・技術の修得を、従来よりも重要視する必要がある。
  •  大学教育のための科目にふさわしく、各科目の基本となる理論的内容を明確にし、体系的に構成する必要がある。

(3)科目の設定と体系について

  •  協力者会議では、司書に必要と考えられる基礎的な知識・技術を学ぶために必要な教育内容について検討を行い、それを科目として整理した。その結果14科目となった。各科目において、基礎的な知識・技術を学ぶために必要な内容は、それぞれ2単位で開講することが適切であると考える。
  •  これらの科目は、1基礎科目、2図書館経営に関する科目、3図書館資料に関する科目、4図書館サービスに関する科目、5図書館特論の体系に分類を行い、原則として、各区分ごとに講義科目と演習科目を設定した。
  •  今回提案する図書館に関する科目のこれまでの司書養成科目との相違点を、体系に沿って示すと、下記のとおりである。
    • 1 基礎科目では、これまでの「生涯学習概論」「図書館概論」に加えて、「図書館情報技術演習」を新設した。
    • 2 図書館経営に関する科目では、これまでの「図書館経営論」に加えて、「図書館制度・行政論」を新設した。
    • 3 図書館サービスに関する科目では、これまでの「図書館サービス論」「情報サービス論」「児童サービス論」は同じであるが、「図書館サービス演習」を新設し、「レファレンスサービス演習」と「情報検索演習」を廃止し、両者を統合するものとして「情報サービス演習」を新設した。
    • 4 図書館資料論では、これまでの「図書館資料論」「資料組織論」「資料組織演習」は同じであるが、「専門資料論」を廃止した。
    • 5 このほか、各大学で内容を選択できる「図書館特論」を必修科目として新設した。

(4)図書館特論について

  •  司書に必要な基礎的な知識・技術は、必修科目に盛り込み、司書を目指す全ての人々が学習することが必要であるが、必修科目で学んだ内容をより深く学習し、理解を深める観点から、図書館特論の科目を提案した。本科目では、各大学の特色を活かした内容により構成し、例えば、現行の司書講習科目で選択科目として開設されている科目内容や、情報技術の利活用、資料組織及び情報サービスに関する専門的な演習、図書館に関する総合的な演習などをテーマに実施することが考えられる。

(5)実習について

  •  実習は、図書館業務の実践を通じて、図書館業務の実態を知り、学生自らが司書への適性を考えるための効果的な機会である。しかしながら、実習生の受け入れにふさわしい機能や体制が整備されていて、実際に受け入れ可能な図書館が十分にあるとは言えず、年間1万人に及ぶ資格取得者全員に実習を課すことは、事実上不可能と考えられる。このため、図書館実習を必修科目とすることは見送ったが、各大学の判断により、図書館特論で実施することは好ましいと考えられる。

(6)基礎的な知識や主題専門領域の学習について

  •  司書として活躍するためには、図書館に関する基礎的な知識・技術の習得はもちろんのこと、憲法や外国語、情報技術などの大学の教育課程における基礎的な知識を身につけることも必要である。
     また、図書館業務に関する知識の基礎となる、法学、社会学、経営学、心理学などの様々な分野の知識を、大学等で、又は図書館就職後に学習することが望ましい。
  •  高度化・多様化する住民の学習ニーズに応え、課題解決支援のためのサービスを提供するためには、人文、社会、科学技術、医学・生物学、地域社会などの主題専門分野についても学習することが必要である。こういった主題専門知識については、大学等で学習に努めるとともに図書館就職後も継続的に学習し、常に最新の情報を把握することが望まれる。

(7)単位数・授業時間数について

  •  本意見で示す協力者会議の試案では、計14科目28単位となる。現行の司書講習科目と比較すると、科目数は同数であるが、単位数は8単位分増加している。今後、この意見と試案の内容及び大学での実現可能性等について幅広く関係者から意見を聞き、司書講習科目との関係等も考慮して、引き続き検討を重ねる必要がある。
  •  なお、『日本の図書館情報学教育2005』(日本図書館協会)では、図書館に関する科目を開設し司書資格を出している大学等を対象に、開講科目等について調査した結果をまとめている。このうち、司書資格取得に必要な最低取得単位数等を調査した結果を参考として掲載した。
  •  授業時間数については、現行の大学設置基準では、講義及び演習については、1単位当たり、15時間から30時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもって構成することとされており、各大学が、その判断により、各科目の内容に応じて、単位数に見合った必要な時間数を確保し、適切な授業の運営に努めることになる。
  •  また、現行の司書講習よりも単位数を増加する場合は、大学の卒業単位として認定するなど、学生が受講しやすいよう配慮が望まれる。

-- 登録:平成21年以前 --