神奈川県立図書館の活動評価(神奈川県立図書館)

神奈川県立図書館の活動評価
神奈川県立図書館

1.神奈川県立図書館の概要

  ア 地域の概況

 神奈川県は、関東平野の南西部に位置し、北は首都東京に接し、東は東京湾に、南は相模湾に面し、西は山梨、静岡の両県に接しており、山あり、海あり、湖ありと豊かな自然と明確な四季を持ち、日本経済をリードしてきた産業の集積する活力ある県である。
 面積は、2004年10月1日現在で2,415.41キロ平方メートル、人口は、2005年9月1日現在で8,785,638人である。県民性は、明るく、何事も受け入れやすく、進取の気性に富んでいる。2004年6月1日現在の県内の事業所数は、284,619事業所、従業員数は、2,967,133人である。事業所数は全国第4位、従業員数も第4位である。平成12年国勢調査によると、就業者の産業3部門別割合は、第1次産業(農業・林業・漁業)が1パーセント、第2次産業(鉱業・建設業・製造業)が27.7パーセント、第3次産業(電気・ガス・運輸・卸売業・飲食店・サービス業等)が69.6パーセントであり、全国平均と比べると、第3次産業の割合が高い。

  イ 図書館の概要

 神奈川県立図書館(以下、「県立図書館」という。)は、1954年11月、横浜市西区紅葉ヶ丘に開館した。2004年度末現在の所蔵資料は、図書約71万冊、雑誌約7,200タイトル、視聴覚資料約11万点である。職員数(2005年5月現在)は、正規職員67名、臨任・非常勤職員37名である。社会科学・人文科学分野の図書資料や地域資料、視聴覚資料を収集・提供し、工学・自然科学分野を分担する川崎図書館(1959年1月開館)と協働しつつ、神奈川県内図書館のネットワークの中心として活動を続けている。2004年度の入館者数は約30万人、資料貸出数は約24万冊(点)、レファレンス・サービスの受付件数約18,000 件、図書館等への協力貸出約94,000件である。現在は高等学校図書館支援の強化に努め、大学図書館との連携を模索し、行政へのサービスの拡大に努めている。2005年4月には、県内公共図書館のOPAC 横断検索システムを稼働させた。

  ウ 図書館経営の方針、目標

 2005年度の運営方針は、「県民の学習課題・ニーズの高度化・多様化に応え、社会科学や人文科学の分野に特色を有する課題解決型のリサーチ・ライブラリーとして図書館サービスの充実・強化を図るとともに、県域における図書館施設の中核拠点として県立川崎図書館とともに市町村立図書館や大学図書館等との連携強化を図って県民の学習環境の総合的整備促進に貢献する」である。この運営方針のもとに、1所蔵資料の充実、2レファレンス・サービスの充実、3電子図書館機能の充実、4非来館型図書館サービスの充実、5ビジネス支援等の推進、6県民公開講座の開催等、7他図書館等との連携・協力の推進、8図書館経営に係る改革の推進、の8つを重点事業として掲げている。

2.評価活動実施の経緯及び目的

  ア 背景と経緯

 県立図書館が図書館活動の評価に取り組むようになったきっかけは、直接的には「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年7月18日文部科学省告示第132号)である。「1総則(3)図書館サービスの計画的実施及び自己評価」では、公立図書館は、指標を選定し、数値目標を設定し、その達成に向けてこれを計画的に行うよう努めることを求めている。それに応え、県立図書館では2002年度から活動評価の取り組みを始めた。2002年度は年度途中で評価への取り組みを始めたこともあり、評価のための組織は編成しなかった。当時、2004年に発行する創立50周年記念誌のために館内で検討グループが編成されており、その1つ「将来展望編グループ」が評価に当たることになった。2003年3月には、「神奈川県立図書館の活動評価 平成13年度」(「神奈川県立図書館50周年記念誌将来展望編グループ」編)を作成した。2003年度からは、館内を横断する組織である総合企画会議の下に活動評価検討部会を置き、本格的な取り組みを始め、2004年3月には、「神奈川県立図書館の活動評価 平成14年度」(「総合企画会議活動評価検討部会」編)をまとめた。2004年度には、引き続き活動評価検討部会が活動評価の作成に当たったが、従来からの自己評価に加えて県政モニター・ミニアンケートと来館者アンケートを実施し、アウトカムの測定を試みた。2003年度版の活動評価からは、発行「神奈川県立図書館」とした。2005年度には、年度当初に数値目標を定め、活動評価はそれに沿った内容に改めた。アウトカム測定のためには、利用者のよりきめ細かいニーズを探るためにグループ・インタビューを実施した。過去4回作成した活動評価は次の通りである。平成15年度版と平成16年度版の評価は、ホームページで公開している(注1)(注2)。
  『神奈川県立図書館の活動評価 平成13年度』
 (2003年3月 神奈川県立図書館50周年記念誌将来展望編グループ)
『神奈川県立図書館の活動評価 平成14年度』
 (2004年3月 神奈川県立図書館総合企画会議活動評価検討部会)
『神奈川県立図書館の活動評価 平成15年度』(2005年3月 神奈川県立図書館)
『神奈川県立図書館の活動評価 平成16年度』(2005年10月 神奈川県立図書館)

  イ 目的

 当該活動の目的は、「業務の改善」と「利用者(住民)への説明責任(Accountability)を果たすこと」である。県立図書館では、資料購入費の低迷もあり、入館者数や資料貸出数の減少がみられる。業務の改善のために活動評価を行い、それを反省材料として、当館の活性化に生かしていきたいと考えている。もう一つの目的は、利用者(住民)への説明責任を果たすことであるが、同時に県民へのPR効果も狙っている。評価のための指標選定の際にもそれを意識した。

3.評価の内容

 県立図書館のための標準的な手法がある訳ではないため、試行錯誤によって作り上げてきた。平成13年度版については、両館の比較も可能だということで、数ヶ月前に取り組みを始めた同じ神奈川県立の図書館である川崎図書館の活動評価も検討した。

  ア 平成13年度版から平成15年度版までの評価

 平成13年度版では、6つの目標(「社会・人文系の情報拠点にふさわしい資料群の構築」「資料・情報の提供サービスの充実」「ネットワークの拠点としての機能強化」「電子資料によるサービスの展開」「新たな資料・情報の作成と提供の推進」「県民の意見をふまえた図書館運営の実現」)の下に「図書受入冊数の推移」といった19の基本指標を設定した。平成14年度・15年度版については、目標を5つとし、基本指標も15に絞った。評価に当たっては、定量評価と定性評価を総合したものとし、結果はABCDの4段階で表した。定量評価は、原則として過去5ヵ年平均値との比較を基準としたが、一部の指標は他都道府県立図書館との比較も行った。定性評価は、動向や特徴を記述した。

  イ 平成16年度版の評価

 2004年度は年度当初に数値目標を定めた。そこで、平成16年度版の活動評価を実施するに当たって、数値目標に対応したものとした。目標と基本指標は次のとおりである。

目標1 付加価値の高い情報発信
 
基本指標: レファレンス・サービス総件数、集会活動の参加者数及び講座等開催回数、職員研究活動及び成果発信件数
付: 神奈川県関係文献情報及び伝記資料索引等の作成・提供
目標2 ネットワークのセンター的機能の強化
 
基本指標: 市町村立図書館職員等対象の研修参加人数
付: 高校・行政支援の実施状況
目標3 資料・情報の提供サービスの充実
 
基本指標: 入館者数及び文献複写枚数、資料貸出数(個人貸出数及び図書館等への図書貸出数)、ホームページへのアクセス数及びOPACアクセス数

 数値は対前年で比較し、数値比較と変化要因を分析し評価した。結果はABCDの4段階で表した。評価のみならず、評価から導き出された「改善点」を併せて示した。平成16年度版の評価は前年までのものと比べ、目標・指標・ページ数とも大幅に縮小した。長大な評価は作成に労力がかかり、そのわりに最後まで読む人が少ない。業務の時間を割いて作成するのであるから、できるだけ短時間で役に立つもの、県民へのPR 度の高いものを作るべきと考えている。

  ウ 2004年度実施の2つのアンケート調査

 2004年度、県立図書館は県政モニターへのアンケートと来館者調査の2つの満足度調査を実施した。この調査の詳しい内容については、「神奈川県立図書館の活動評価 平成15年度版」の一部としてホームページ上に公開している。

 (1)県政モニター・ミニアンケート「県立の図書館の利用について」

 費用のかかる「住民調査」に代わるものとして、無作為に抽出した県民の方々よりも、県政に関心を持ちかつアンケートに協力的である、といった事情を承知した上で実施したものである。2004年5月下旬から6月2日にかけて、郵送及び電子メールを利用して行ったが、満足度だけでなく期待した水準も尋ねそのギャップを測定した。測定尺度は5段階とし、図書館を利用しない理由を尋ねる質問を加えた。
 アンケートは、郵送、電子メール各200人ずつ、合計400人に対して行い、回収数は352、回収率は88パーセントであった。この調査の主眼は「何故、県立の図書館を利用しないのか」を問うことにあったが、利用したことがない理由として最も多かったのは、「自宅や勤務先(通学先)から遠い」(233人)であった。県立図書館が所在する横浜市内の居住者でさえ80パーセント近くの人が遠いと答えた。

 (2)来館者アンケート「神奈川県立図書館の利用について」

 2004年9月の平日・土曜日・祝日を含む3日間に実施した。配付数は585、回収数は465、回収率は79.5パーセントであった。質問は、県政モニター・ミニアンケートと比較するため、ほぼ同じ内容とした。その結果、静かで落ち着いた環境であること、市町村立の図書館にはあまりない専門的な資料があることや職員の応対には、概ね満足している。しかし、新しい資料が十分ではないこと、古い資料が多いこと、施設が古いことや立地には不満を持っていることがわかった。また、PR不足を指摘する声も多かった。インターネットでの蔵書検索についても、可能なことを知らない人が多かった。
 この調査のポイントは、利用者の期待度と満足度にあった。当館の資料や施設等に対する期待度と満足度を1(小さい)から5(大きい)の5段階で答えていただき、その平均値を各項目の得点とした。期待度が最も高いのは「図書」であるが、期待度3.84に対して、満足度は3.16と低かった。資料費が削減されているために新刊書が思うように収得できず、利用者の期待に添い得ていない状況がみてとれる。

 (3)総括

 利用しない理由として最も多かった「遠い」ことについて、県内各地に県立の図書館を建設することは不可能であること、また、設備が古いという指摘に対して、すぐに建替えをすることが難しいこと等から、既存の施設をより有効に活用する-非来館型の利用を増やす-手立てが必要となる。インターネットでの検索や市町村立の図書館経由の貸出しが可能であることをアピールし、県立の図書館の存在を一層知らしめる必要がある。

  エ グループ・インタビュー

 前年と同じ満足度調査を行っても同じような結果になることが予想されるため、2005年度は、利用者の意見を伺う方法としてグループ・インタビューを実施した。1回目は2005年11月に一般の者5名、2回目は12月に県職員、あるいは県職員あった当館利用者5名に参加していただき、それぞれ1時間30分のグループ・インタビューを行った。県職員である、あるいはあった当館利用者に対しては、行政支援に対する項目を加えた。その結果、アンケート調査では得られない具体的なご意見を多数いただいた。その一部を紹介する。
 県立図書館を使う理由について、「自分の名前のルーツを調べたくて利用している」「地元の図書館を通して、県立の本や他の図書館から借りた本を使っている」「調べているテーマが歴史なので、この図書館を使っている」といった意見が出た。良い点と悪い点については、「県立図書館が自身の図書館の資料を使って展示できるのはすばらしいが来ないとわからない。PR不足である」「立地があまり良くない。年配の人には使いづらいが、(横浜駅西口近くの)便利な所で受け取れるようになったことで、ある程度解消されている」「昨年あたりから、講座をかなりやっているが、一度参加させていただいて大変面白かった」といった意見があった。
 県立図書館への要望としては、「神奈川の強いアイデンティティ。神奈川学的なもの」「開架資料が少ない。なるべく書庫から出して一般の人が見えるところに出して欲しい」「レファレンス自体知らない人が多い。アピールが少ない。市町村の図書館に県立のポスターを貼るなどして、アピールして欲しい」「本のタイトルの他に簡単なコメント、例えば巻頭の言葉を添える等工夫をし、PRする必要がある。『今月の県立図書館のオススメのコーナー』を作るのも良い」等があった。
 行政支援に関しては、「県の職員の人にもっとPRをして、仕事でも図書館を使えるとなれば、日常でももっと使うようになるのではないか」「博物館や美術館の企画展示などとタイアップして資料を利用できるようにしてはどうか」「図書館に足を運ばなくても、相談できるという体制があれば使いやすい。庁内LANでアクセスできるページに『所属からのページ』がある。図書館のページを作るのはどうか」といった意見があった。

  オ 数値目標の設定

 2005年6月、2005年度の数値目標を策定し、ホームページで公表した(注3)。項目は、「入館者数」「資料貸出数(個人及び図書館への貸出数)と複写枚数」「レファレンス総件数」「ホームページ及びOPACアクセス数」「集会活動・講座等開催回数」「職員研究活動、成果発信」である。指標は、当館の運営方針やPRしたい点等を考えて選定した。2005年度の評価については、この数値目標の達成度を評価する予定である。

  カ 当該事業の現況

 2005年度までは、総合企画会議の下にある活動評価検討部会により、評価を行ってきたが、2006年1月からは当該会議を廃止して新規に設置した「神奈川県立図書館評価会議」により行っている。座長は視聴覚部長、副座長は調査部地域資料課長、部会員は座長・副座長の他、管理部管理課員・調査部協力課員・調査部調査閲覧課員・資料部図書課員・視聴覚部員の全7人である。事務局は、調査部協力課に置かれている。評価のための予算措置は特にしていない。PRについては、活動評価は平成15年版から、数値目標は2005年度から、ホームページで公開している。またマスコミからの問合せにも丁寧に説明するよう努めている。他部署との連絡・調整であるが、自己評価・数値目標とも、県教育委員会等に報告、説明をしている。川崎図書館とは歩調を合わせ、これまでほぼ同じ時期に評価・数値目標を策定・公表してきた。両館の活動内容を、統一的に評価してはどうかとの意見もあるが、館の事業内容が異なるため現状のままとした。

4.おわりに

  ア 評価活動の効果や反応

 県立図書館の各部課で行っている業務について、横断的な視点で見ることができるようになった。例えば、貸出数についても来館者による直接貸出と、市町村立図書館経由の貸出数とを合計し、「資料貸出数(個人及び図書館への貸出数)」と考える。また、それぞれの担当部署で行っていた公開講座や講習会等を一体的に企画・実施する方向に進めている。評価や数値目標をホームページで公開しているが、新聞や県教育委員会の職員からは、図書館の努力に対し概ね好意的なコメントをいただいている。しかし、評価活動そのものに対する利用者からの直接的な反応は、今のところない。

  イ 今後の課題

 2005年度には数値目標を設定したが、2006年度はその達成度を初めて評価することになる。これまでは達成度を意識した評価基準を作成して来なかった。2005年9月の福岡県立図書館の調べによると、全国の都道府県立図書館で図書館サービスと図書館運営について評価基準を設定している館は、5館に過ぎない。その内容についても標準的なものがある訳ではなく、各館独自のものである。今後は国立国会図書館で策定している評価や基準等も参考にし、作り上げていくつもりである。県立図書館を評価することには難しさがある。貸出を主眼としない、課題解決型のリサーチ・ライブラリーであり、県域における図書館施設の中核拠点としての役割を担う当館は、市町村立図書館を前提とした指標をそのまま適用するわけにはいかない。また、当館がアピールしようとするレファレンス・サービスについては、質の評価が難しく、量的な評価も、統計の基準が館により異なっている。都道府県立図書館の大きな役割である協力事業については、協力貸出、協力レファレンス、市町村立図書館職員研修、図書館協会の運営等々、複数の業務を総合的に評価する必要があると思われる。今後、研究し、まとめあげたい。

(注1) 神奈川県立図書館の活動評価 平成15年度〔最終閲覧日2006年1月5日〕
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/riyou/hyouka/knrt_hyouka/knrt_hyouka.htm
(※神奈川県立図書館ホームページへリンク)
(注2) 神奈川県立図書館の活動評価 平成16年度〔最終閲覧日2006年1月5日〕
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/riyou/hyouka/knrt_hyouka/h16nenban/knrt_hyouka_h16.htm
(※神奈川県立図書館ホームページへリンク)
(注3) 図書館活動の数値目標(平成17年度)〔最終閲覧日2006年1月5日〕
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/riyou/hyouka/knrt_hyouka/suutimokuhyou.htm
(※神奈川県立図書館ホームページへリンク)


 

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